第59回公益社団法人日本精神保健福祉士協会全国大会・第23回日本精神保健福祉士学会学術集会

ご挨拶Greeting

田村会長写真

開催のごあいさつ

公益社団法人日本精神保健福祉士協会 
会長 田村 綾子

 第59回公益社団法人日本精神保健福祉士協会全国大会・第23回日本精神保健福祉士学会学術集会の開催にあたり、主催者を代表してご挨拶申しあげます。
 今年は、日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会の創立から60周年の節目の全国大会です。「ひらく-あたらしい時代の精神保健福祉-」という大会テーマには、正にここから日本の精神保健医療福祉の新時代を迎えようとする、精神保健福祉士としての勢いが込められています。精神保健福祉士の登録者数は10万人を超え、資格創設当初に目標とされた数の10倍以上となりました。しかし、当時の想定を超えて期待される役割は拡大し、力量発揮がますます求められています。精神障害者の社会的復権とすべての人のこころの健康を追求する専門職として、ぜひ兵庫県姫路市に参集し、旧交を温め、未知の出会いに接し、さまざまな知見に刺激されて、一人ひとりが実践を省み専門性を高める機会としましょう。

 成長を欲する者は、まず根を確かにおろさなくてはならない。上にのびる事のみ欲するな。まず下に食い入ることに努めよ。

   

 これは、和辻哲郎(現在の姫路市である神東郡砥堀村出身)の言葉です。
  私たちにとっての「根」とは、精神保健福祉士の専門性であると思います。なかでも専門性の中核を成す自らの人権意識については、常に省察することが求められます。改正精神保健福祉法が全面施行され、精神科病院からの退院促進と長期入院の解消や地域生活支援の充実、加えて、非自発的入院の縮減と不適切な隔離・身体的拘束の廃止や患者虐待の根絶に向けた新たな取り組みが始まっています。おりしも、本年7月には旧優生保護法下での優生手術の違憲性の判断がくだされました。障害のある人の尊厳の回復と尊重に向け、私たちの意識や行動の変容もいっそう求められます。

 本協会60年の歴史において兵庫県での全国大会開催は4回目ですが、運営委員は直近となる37年前をほぼ未経験ななか、チラシ一枚、封筒の意匠ひとつにも熱意をもって準備を行ってきました。愛媛大会で培われた社会的復権の樹を太く成長させ、豊かに実らせるためにも、本大会は自身の「根」を再確認する恰好の機会となることでしょう。大会テーマの「ひらく」には、閉塞感の打開や慣習からの脱却に向けて、謙虚で率直な省察を行い、新たな知識を柔軟に吸収しようとする貪欲さが暗喩されています。4年に及んだコロナ禍の制約からの解放を実感し、他方で、この社会にある「鎖」からの解放を求める人びと、とりわけ精神疾患や障害のゆえに不当に苦しめられている方たちのために、私たちのミッションを捉え直しましょう。
 誰もが自分らしく「コノ邦ニ生キル幸セ」を実感できる未来をひらく機会の一つとすべく、一人でも多くの方とお会いできますよう、兵庫大会関係者一同にてお待ちしております。

北岡全国大会・学術集会長写真

歓迎のごあいさつ

 

第59回全国大会・第23回学術集会 
全国大会・学術集会長 北岡 祐子

 はじめに、2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震でお亡くなりになられた方々へ謹んで哀悼の意を表します。被災された皆さまには心よりお見舞い申しあげるとともに、皆さまの安全と被災地の一日も早い復旧・復興をお祈り申しあげます。

 さて、第59回公益社団法人日本精神保健福祉士協会全国大会・第23回日本精神保健福祉士学会学術集会を兵庫県で開催するにあたり歓迎のご挨拶を申しあげます。
 2023年度に開催された愛媛大会では、コロナ禍を越え4年ぶりの完全対面開催となりました。全国から大勢の仲間が参集し、旧交を温め新しい出会いを喜び、各地での多分野における実践・研究発表に励まされました。また「社会的復権の実現」を掲げた大会テーマのもと、精神保健福祉士としての役割や責任を再検証し、社会的復権・権利擁護の実現に向け、更なる発展への機会を作っていただきました。

 兵庫県では、愛媛大会での思いを引き継ぎ、更なる発展を推し進めるべく、「ひらく-あたらしい時代の精神保健福祉-」という言葉をテーマに込めました。我々精神保健福祉士は、精神保健福祉の世界に明るい光を取り入れ、風通しをよくすることで、精神保健福祉を「開く」ことをめざします。また、目まぐるしく変化する社会情勢や医療福祉制度に対応し、絶え間ない学びと自己研鑽によって、自らを「拓く」ことはクライエントに対する専門職の責務でもあります。さらに、誰もが安心して暮らせる市民生活を実現するために、個人へのアプローチのみならず、実際に行動することにより、社会全体に対して「啓く」取り組みを実践すべきであると考えます。国家資格として精神保健福祉士が生まれ25年、日本精神保健福祉士協会は設立から60周年という節目を迎えます。引き続き、社会から我々精神保健福祉士に対する期待は増し、同時にメンタルヘルスに関連した幅広い課題に対応する力量が求められています。しかしながら、精神障害者の社会的復権、権利擁護の徹底は、未だその実現に至っておりません。我々は、当事者、家族、医療従事者、他分野の職種、行政、市民らとともに、一丸となってこれらの課題に真摯に取り組む必要があります。

 この全国大会を開催することで、精神保健福祉の諸課題へ仲間とともに粘り強く取り組み、信頼される専門職として日本社会、日本で生きるすべての人への貢献に寄与したいと考えています。
 実は兵庫県での全国大会は1966年、1974年、1987年に続き、37年ぶりの開催となります。2024年は改正精神保健福祉法全面施行の年でもあります。兵庫県下で発生した精神科病院における入院患者虐待事件では、兵庫県精神保健福祉士協会は、日本精神保健福祉士協会をはじめ、県下の関係団体と協働して権利擁護のソーシャルアクションを行いました。この事件と行政や各団体からの取り組みを契機とし、改正精神保健福祉法に権利擁護に関する事業や虐待防止対策が盛り込まれました。
 そして能登半島地震とともに思うことは、29年前の阪神・淡路大震災です。その時、被災者支援とともに「心のケア」への取り組みが全国に先駆けて行われました。その時に受けた多くの支援をお返しすべく、全国大会において兵庫県から改めて発信していくことが使命であると考えております。

 プログラム1日目はプレ企画として兵庫県から発信する災害対策及び支援、そして権利擁護、ピアサポート活動などを用意しています。大会テーマを表す基調講演では、日本障害者協議会代表を務め精神保健福祉士でもある藤井克徳さんにご講演いただきます。2022年8月、国連障害者権利委員会の会合において、日本における障害者権利条約の実施状況についての審査(建設的対話)が行われ、藤井さんはその場に立ち会われました。そのことも含め今後の開かれた精神保健福祉の展望をお話しいただく予定です。記念企画では、基調講演を受け専門家として更に社会へ向け新たに「ひらく」視点を皆さまと共有できるシンポジウムを予定しております。2日目の市民公開講座では神戸市出身の作家でありエッセイストの岸田奈美さんをお招きいたします。NHKドラマにもなった『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』をはじめ、知的障害のある弟や車椅子ユーザーの母親、認知症のある祖母の家族の日常を発信しています。「誰もが安心して暮らせる社会」とは何か?笑いあり涙ありのエネルギッシュなメッセージを届けてくださる予定です。

 兵庫県は瀬戸内海から日本海までつながり、五国と呼ばれる各地域の特色があります。各地域の海の幸、山の幸に加え、日本酒では酒米の王と呼ばれる「山田錦」発祥の地でも有名です。そして大会会場となる姫路市では、日本で最初の世界遺産に認定された優雅な姫路城が皆さまを出迎えます。
 この兵庫大会ではお互いの心を開いて交流し学び合い、日本の未来のため、あたらしい時代の精神保健福祉をともに拓く機会と決意の場にできることを願っております。そして世界遺産と五国の豊穣をお楽しみいただけましたら幸いです。全国の構成員の皆さま、ぜひ兵庫県にお越しください。お会いできることを楽しみに、ご参加を心からお待ちしております。