<2024/04/26>
メディア連携委員 木原 育子(東京都支部)
「取材の受け方・取材の進め方」をテーマにした6回目のセミナーを、2024年3月31日(日)夜、メディア連携委員会の企画・運営により、Zoomを利用したオンラインで開催しました。話題提供者は、一般社団法人精神障害当事者会「ポルケ」代表理事の山田悠平さんと、メディア連携委員で毎日新聞東京社会部記者の山田奈緒さんでした。
参加者は35人で、当事者、支援者、メディアのそれぞれの立場で意見を交わし合い、充実した学びの場になりました。
■取材を受ける側の難しさ
山田悠平さんからは、当事者として取材を受けた際の戸惑いや工夫、そして、なぜ当事者として取材を受け続けているかについて、話題提供がありました。戸惑いとしては、特に新聞媒体では締め切りがあり、短い時間で瞬時に具体的な言葉で答える難しさがあったり、取材を受けた謝礼が「唐揚げ」で複雑な気持ちになったりした経験が語られました。当事者として取材を受け続ける理由としては、障害者権利条約に通底する「私たちのことを私たち抜きで決めないで」という考え方を社会全体に浸透させ、精神医療に横たわる問題が「社会の問題」として再定義されるよう、世の中を変えていきたいという思いがあるとのこと。国連障害者権利委員会の日本に対する総括所見でも、強制入院や身体拘束、虐待の問題などが指摘されており、こういった精神医療の問題点をどのような形で社会に示していくか、当事者側も問われている、と考えているそうです。もっと多くの当事者が取材を受けてほしいという思いも伝えられました。
そんな中で、諸外国で作られたメディアガイドラインの知見をもとに、精神医療関係者とメディア関係者が協働し、事件報道のあり方やスティグマをどうやって解消していくかを考えるプロジェクトを立ち上げたことも説明されました。取材者側と被取材者側の対話の場が重要で、その策定が急がれるとの声をいただきました。
■取材を受けるときの留意点
山田奈緒さんは、現役記者としてどういう思いで取材を申し込んでいるかの視点を踏まえながら、メディア連携委員会で検討してきた「取材を受ける手引き」(仮称)のたたき台について、具体的な内容を説明しました。また、障害者の姉がいる家族としての立場でも、福祉や精神医療に感じる思いや課題を語りました。
具体的には、取材の申し込みを受けた際、メディア側がどういう目的で取材したいのかを確かめ、納得して協力を始めること、遠慮なくコミュニケーションを取って進めることの重要性を、支援者側に強調しました。また、メディア側から当事者への取材を求められた際、支援者としてどこまで許容するか、どう考えればいいか、記者としての経験も踏まえて伝えました。実名か仮名か、どこまで情報を出すか出さないか、SNSでの炎上対策など、具体例を示しながら話を進め、支援者の立場で参加されていた方の中には、メモを取ったり、大きくうなずきながら聞いたりする姿が見られました。
奈緒さんが繰り返し訴えたのは、取材する側もされる側も対等だということ、そして、社会をよくするために一緒に作り上げていくという視点が何より大切だということです。メディア連携委員会の目的である、メディアと専門職が接点をつくり、連携しながらアクションしていくという取り組みを体現しているような内容でした。
■「取材の受け方・進め方」の今後は…
質疑応答でも考えさせられる内容が多く、発展的な議論が展開されました。相談業務を担う支援者から、取材を受ける際、相談の具体的な内容をどこまで明かしてよいかという質問がありました。メディア側からは「個人が特定されなければいいのではないか」「事前にすりあわせることもできる」「マニュアル化せず、ケースバイケースで判断していくことが必要ではないか」との回答が出ましたが、支援者や当事者からは「マニュアルまでは必要ないが、思い至らない人がいる場合もまれにあり、ある程度のチェックポイントのような判断基準作りは必要ではないか」との意見が上がりました。メディア連携委員会として、心得をまとめた手引きを作成中ですが、「気をつけるべきチェックポイントも加えてほしい」との声もありました。
質疑応答の前に小部屋に分かれて行われた少人数での話し合いでも、活発な意見が飛び交いました。ある小部屋では、当事者の映像や写真に「ぼかし(モザイク)」を入れることの是非をテーマに話し合いました。支援者側から「身元が特定されることを防ぎたい」「本人が傷つくのではないか」と、守りを重視する声が出たのに対し、メディア側からは「ぼかしを入れると、ぼかしがなければ社会で共有できない存在なのだという、無意識の偏見を作り出すことに荷担しているような気持ちになる。できればぼかしは入れたくない」「ぼかしを入れなくて済む角度の写真を工夫して撮影している」という意見が出ました。
■セミナーを終えて
3時間近くにわたる話し合いを通じ、ネガティブな後ろ向きの議論ではなく、どうすればウィンウィンの関係でいられるか、どうすれば社会はよくなるか、それぞれが意見を交わすこのプロセスこそ、大切だと感じました。それぞれの立場を否定せず、歩み寄りの姿勢を見せていく過程はとても有意義な時間でした。終了時間になっても、すぐに退室する人は少なく、参加者それぞれが、これまでとこれからを考える時間になったように思います。
当事者の権利擁護や社会課題の解決のために、どう協働していくか。今後も、学び合いと対話を深めていく必要があります。今後のメディア連携のために考えるべき課題につながる声も数多くいただけた、貴重なセミナーになりました。
以上
<過去の開催レポート>