お知らせ

<2024/03/07>

【ご報告】第5回メディア連携セミナー「依存症と報道」 開催レポート(2024年2月18日開催)

メディア連携委員 足立 孝子(長崎県支部)

 「報道が潰すこともあれば、救うこともある」という、講師の松本俊彦さん(精神科医、国立精神・神経医療研究センター)の第一声からセミナーが始まりました。

 2016年に多くの著名人が薬物問題で逮捕され、様々なメディアがおもしろおかしく報道したことに問題意識をもったとのことです。そこで、2017年には荻上チキ氏らと一緒に『薬物報道ガイドライン』を作成しました。同時に松本さんは、薬物依存症の患者さんが安心できる場(とくに外来診療で)をつくることを心掛けます。患者さんらが心を開き、本音を語ってくれるにつれて、報道や世間からのバッシングによって、当事者がとても傷ついていることを知ったそうです。

 日本人の多くは、薬物依存症者に対して厳罰化を望んでおり、社会的制裁を加えてもいいと思っています。このような偏見はどのようにして生じるのでしょうか−−。大きな要因として、松本さんは「教育」のあり方を挙げました。一度、薬物に依存すると二度と元には戻らないと強調するような教育では、たしかに、偏見が助長されてもおかしくないと感じました。また、アカデミア(研究者)の加担や、アメリカで大麻の単純所持者全員に恩赦が行われた事実が日本では大きく伝えられないことを例にあげ、報道のバイアス(偏り)についても指摘されました。不起訴が確実であろう事案についても、実名や顔が報道されてしまうのは、いかがなものかという投げかけもありました。

 これらの報道がもたらしたデジタルタトゥー(ネット上に残る記載)は、なかなか消すことができず、多くの当事者が長い間、苦しむことになります。

 ただし、冒頭の第一声のように、報道によって依存症者の回復の可能性を広げることもできるとお話しされていました。

 私たち精神保健福祉士も、バイアスに惑わされることなく真実を見極めること、また、専門家として、正しいことを発信していく力を持ち合わせることが大切であると思いました。

 次に、もうひとりの講師である心理専門家の岩野卓さんからは、偏見がどのようにおこるのか、内集団と外集団などについて説明をしていただきました。そして、偏見は無意識であると言われたことが印象に残っています。つまり、「ダメ」だけじゃ無理、ということです。自分事に引き寄せて考えること、自分と同じストーリーであると理解すること、苦悩を乗り越えようとしているという人間性をみていくことが大事であるということです。

 自分にも偏見があることを前提に、依存症当事者とかかわることが大事であると気づかされた講演でした。

以上


<過去の開催レポート>


△前のページへもどる