課題別研修/ソーシャルワーク研修2019〜知識や技術を高めよう〜

2019年5月11-12日、ビジョンセンター田町(東京都)を会場に標記研修を開催しました。ここでは、修了者からの報告記事を掲載します。

テーマ1 精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築における私たち(精神保健福祉士)の役割
〜医療と福祉―退院後生活環境相談員と地域援助事業者が連携した退院支援研修〜

     
増田委員による演習1 三溝委員・中村委員による演習2 代表者による修了証書授与

・ 精神保健福祉士として仕事をしていくために。

医療法人社団澤記念会 神経科浜松病院 (静岡県)/経験年数約1年半 山口 裕大

 障害福祉サービスの生活介護やグループホームに勤めていた私が精神科病院に転職し約1年半になります。転職前は知的障がい者の方と主に関わってきましたが、精神科病院でも統合失調症、うつ病、認知症の方など様々な方と関わりを持たせて頂いています。医師、作業療法士、看護師等の多職種、当事者の方やご家族の方と関わりながら仕事をしていく中で試行錯誤をする日々が続いており、自分の力不足を感じない日はありせん。当事者の方の支援に関するカンファや会議等についても自信が持てない中でソーシャルワーク研修2019にて退院後生活環境相談員や退院支援委員会等について学べる事を知り、この研修に参加する事を決めました。

 退院支援委員会や退院後生活環境相談員において求められる事などの講義がまずあり、退院支援員会は参加する事が目的ではなくその場で当事者の方が意思表示できる雰囲気や環境の保証が大切であり、職員同士でその意義や必要性を絶えず話し合う事が重要と説明がありました。当事者の方との関わりを振り返る中で、どうしても当事者の方の立場は弱くなってしまうと感じる事が多く、ご家族との関係も良好でない方も多い中で当事者の方は自分の気持ち等を発信しにくいのでは?という視点を常に持つ事が大事ではないかと考えました。日々の業務にとらわれて何を大切にして大事にしなければならないかという視点がどこか置いてきぼりされていないかという違和感や疑問を感じていた私にとって大事にしなければならない視点を再確認する事ができました。

 研修ではグループワークもあり、医療保護入院者退院支援委員会のロールプレイを当事者役や家族役等を決めて行いました。他病院で勤務する精神保健福祉士の方の医療保護入院者退院支援委員会の進め方をみて、とても勉強になりましたし、振り返りの中で「この会議ですべてが決まってしまうと思うと不安になった。」という当事者役の方の感想がとても印象に残りました。演習事例に沿って退院後生活環境相談員として、当事者の方が入院し関わる時にどのような事を意識するか?どのような姿勢を大切にするか?等をグループ内で意見を出し合った事もそれぞれの考えを知る事ができ、特に普段の業務であまり関わりのない他県の方と意見交換できたのは貴重な経験だと感じています。

 精神保健福祉士として仕事をしていくため大切な事を研修ではたくさん学べますが、実践ですぐにできるかと問われると中々うまくいきません。研修で学んだ事を少しでも日々の業務に取り入れて実践できように今後も試行錯誤していきながら仕事に取り組んで行きたいです。

テーマ2 実践を見える化する方法を学ぼう〜クライエントの全人的理解をめざして〜

     
山口委員によるGW GW発表の様子 代表者による修了証書授与

・ 研究手法を学ぶことの意義

医療法人五風会 さっぽろ香雪病院(北海道)/経験年数11年 佐賀 良太

 2019年の愛知での全国大会で、学会発表することを決め取り組んでいた最中、本研修の案内が届きました。自身の実践の成果や、その根拠をまとめるにはどのような手段、手法があるのか悩んでいたためすぐに申し込みをさせていただきました。日々の支援を可視化すること、数値化することが、価値に基づいた実践の根拠を他職種や同じ仲間に示せる機会と知りながらも、研究の経験不足や自信のなさから行動に起こすことは出来ていませんでした。研修の中では、研究へ興味を持っているPSWは45%、一方で発表する経験がないPSWは90%と非常に少ないことを知り、PSWの専門性を発信していかなければならないと感じました。

 文献研究、量的研究、質的研究については、恥ずかしながら説明の中で使われる言葉の理解から始めなくてはいけない状態でしたが、噛み砕いて説明していただき理解が深まりました。例えば、研究発表を考えるにあたり、その目的や意義を明確にするためには先行研究を調べる必要性があると教えていただきました。基本的な考え方なのかもしれませんが、その調べ方をインターネットに頼ることしか知らなかった私には、「学術データベース」があることや詳細な使い方についても指導を頂き、すぐに試せる知識として参考になりました。また、研究により新たな知見を発見する為には、「福祉だけに捉われない事」、「PSWの視点ばかりに捉われない事」が必要との言葉が印象に残っています。

 「研究は難しいもの」、とこれまで考えていましたが、「自分たちの実践をより良くするもの」で、その実践はクライエントの支援に繋がるものと気づかされました。「何を研究しよう」からスタートするのではなく、自分が取り組んできたこと、かかわったことに、疑問をもつことや振り返りの機会をもつことが、研究のスタートなのだと思いました。それをどのような研究方法で分析すれば良いのか迷った場合には、「研究者を頼っていい」という言葉はとても心強く感じました。

 今回の研修を通し、これまでの「研究」への壁は3分の1程度に低くなり、研究を身近に感じることが出来ました。しかし、まだまだ経験や知識は不足していると実感しています。今後は、研究の出来る現場のPSWとして成長していけるよう研鑚を積んでいきたいと思います。

 研修を企画して下さった講師の皆様、事務局の皆様、ありがとうございました。

テーマ3 ソーシャルワーカーのための災害支援研修

     
長谷講師による講義2 演習発表の様子 代表者による修了証書授与

・ 災害支援研修を通じて精神保健福祉士が学ぶこと

さっぽろ香雪病院(北海道)/経験年数3年 黒田 健介

 2018年9月6日「北海道胆振東部地震」があり、災害に対しての備えが身についていなかったため、「何もできなかった」という気持ちが強く残りました。また、私自身、月に1.2回程度、ボランティアで被災地支援活動を行っている中で、精神保健福祉士としてどのような支援ができるのだろうかと考えたことが本研修受講のきっかけとなり、「ソーシャルワーカーのための災害支援研修」に参加させていただきました。

 午前の講義の中では、被災地支援における最低限の知識を獲得するため、災害対策基本法や災害救助法など、制度に関わる講義をしていただきました。最低限知っておかなければならない制度も多く、今後更に学んでいかなければならないと痛感した講義でした。

 午後の講義では東日本大震災、北海道胆振東部地震での体験談や被災から学んだ教訓についての報告がありました。実際に被災した場合、こういう活動をしたいと思っていても、思うような活動ができない現実を知りました。北海道胆振東部地震発生時、電気が使えない状況の中、自身がどのような役割で動いてよいのかわからず、勤務先の病院の必要物資を調達することしかできませんでした。事前にこのような講義や制度を把握していれば、自身の役割が明確に把握できたのではないかと感じています。また、他機関、他職種との連携や被災者へのかかわりなど精神保健福祉士の専門性を生かした支援も行えるのではないかと感じました。

 その後、少人数のグループに分かれ、家庭、職場で災害が起こった場合を想定したグループワークを行いました。全国の精神保健福祉士が集まっており、各地の現状や課題についての話を聞くことができました。グループワークでの取り組みとして、災害時の連絡方法や持ち出し物品等について、話し合いを進めていく中で、様々な意見が飛び交いました。参加者の中には、災害時を想定してどのような行動を起こすか決められていた方もおり、非常に参考になりました。また、「災害が発生したことを想定して考えること」が、災害時の行動につながることを感じました。災害時の取り組みは、一人では力不足であることを認識し、今回の講義で得た知識を職場内、同じ地域の精神保健福祉士に伝達することで、災害時にスムーズな連携や調整、役割が明確化できると考えます。

 最後に、今回の研修においてご多忙の中、貴重な体験を話して下さった講師の皆様、受講者の皆様、事務局の皆様に感謝申し上げます。

テーマ4 精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築における私たち(精神保健福祉士)の役割
〜互いに理想を語り、仲間とつながり、地域移行をしっかり進めよう〜

     
門屋講師による講義1 全体の様子 代表者による修了証書授与

・ 参加した感想

南国病院(高知県)/経験年数19年目 山本 真里

 私は、前日のテーマ1から引き続き受講しましたが、学び→笑う→考え→笑う→元気になり、具体的に先ずはこれをしてみようと決意し→また笑うという最高の二日間でした。

 私の所属病院がある市では、地域移行の実績がなく、その課題を解決すべく、この研修の前々日に、事例を携えて自立支援協議会へ行ってきたばかりでした。

 私は、19年病院勤務ですが、異動で相談支援専門員として数年働いていた事がありました。家庭の事情で5年前に今の病院に移りました。所属病院は一般病棟のみですが、かつて療養病棟があった名残から1年以上の入院者が6割を超えていました。(今も3割弱はいらっしゃいますが…。)地域援助事業者にも相談を行いましたがマンパワーを理由に地域移行を引き受けてくれるところはなく、私のなけなしの地域で働いていた経験を活用し、病棟多職種チームを中心に退院支援を進めてきました。10年以上任意入院で過ごしている人や40年の引き籠り生活から入院を機に独居になってしまった人…退院に向け一歩進むごとに、新たに課題を出してくる色んな“誰か”を納得させることに必死だったように思います。本人の『退院したい』という希望が、私も含めチームの唯一の救いであり、その希望にすがるように取り組んでいました。病院だけで行うと、やはりとても時間がかかり、「うちの市でも地域移行を使いたい。」という切実な思いから、自立支援協議会という場にやっとこぎつけました。しかし、正直なところ、次の一手をどうすればいいのか?どうやって手を繋いでいけばいいのか?一歩進んだはずなのに気持ちは重かったです。

 書き出しにもどりますが、この研修を受け、よく笑い、私の重い気持ちがすっかり“楽しみ”に変わりました。

 研修で、自分たちの核となる話を聞き、魂に火をつけ、医療・地域・行政のそれぞれの立場からの実践報告を聞き、具体的な自分の動きを強くイメージし、次のグループワークで、日々の自分の実践を思いながら、協働者である地域や行政と相互に意見を交換していく。自分が強化されていくことを感じられるグループワークでした。また、他のグループで話し合われたことをお散歩タイム?で、見ることができ、グループによりクローズアップされる話題も違うため、「こんな風に考えればいいのか」「こんなことを求められているのか」と、新たに持ち帰られる視点も多かったです。

 このグループワークの手法を用いて、本人を交え、家族、地域援助事業者、病院、行政が何を強みにしているのか、周りにどんなことを期待しているのかを笑いながら、それぞれが“楽しみ”に一歩踏み出せる場を設ける予定です。

 本当に、価値のある時間を過ごせたと思います。ありがとうございました。

テーマ5 働くことを支える〜産業精神保健分野のPSW養成講座 PartU 〜

     
真船講師による講義1 シンポジウムの様子 代表者による修了証書授与

・ 参加した感想

株式会社ブルージュ(埼玉県)/経験年数(相談援助10年PSW1年)今村 美佳子

 

 私の仕事は、キャリアコンサルタントとして多様な求職者や労働者の支援を行うことです。主に一般求職者を対象としていますが、「一般」とは何かを考えさせられる毎日です。障害や難病をお持ちの方、大病を克服された又は現在進行中の方、低所得者、シングルマザー、DV被害者、精神的に不安定な方など多種多様な求職者対して職業訓練や就職サポートを行っています。10年前にキャリアコンサルタントとして仕事をはじめ、その仕事を続けていく中で必要性を感じ社会福祉士、精神保健福祉士の国家資格を取得しました。さらに知識や技術の向上をし続けることの必要性を感じています。

 この研修には、EAPについて学びたく参加しましたが内容は異なっていたようです。研修を通して気づいたり考えたりしたことは、産業界では一般の労働者でメンタル不調になり休職したり働けなくなったりする人々、障害者や主婦の方など今まで仕事をしなかった人々、病気(病気による長期休業者を含む)の人々とうまくやっていく必要があり、またその対応方法はまだまだ不十分であるということです。今後の生産人口の減少に伴い就業してもらえる人には就業してもらいたいわけですが、受け入れる側の方策が伴っておらずそこへ向けた支援をどうすればよいのか困っている、その支援についても今後の課題なのだと。特別な支援が必要な人々を分けず、一般労働者と同じ枠組みで業務を行う際の一般労働者の理解や協力をどのように得ていくかについても難しいと感じています。

 産業界における多様な困難さについて模索する場として研修会に参加することは有意義だと思いました。そのほかにも検討できる場所があるとよいと思いますし、可能な限り積極的に参加していきたいと思いました。

テーマ6 実習指導者フォローアップ研修〜実習指導の質を高めよう〜

     
田中講師による講義1 小沼講師による講義3 代表者による修了証書授与

・ 実習指導者フォローアップ研修に参加して

医療法人資生会八事病院/経験年数10年 小林 正裕

 今回の研修は、実習指導をしていて、実習の内容や学生への接し方、評価の方法、学生の記録の書き方に関する促し方等、色々と悩むこともあり、思い切って参加をさせていただきました。

 田中先生の講義では、実習指導の中で「経験を学びに変える仕掛け」や「何を感じてほしいか、何を考えてほしいかを考え、そのための実習プログラムを構築する」という実習指導者側にも、気を付けることがあるということを教わりました。

 その後のワークの中でも、自分がどのような精神保健福祉士を育てたいかという問いに、すんなり言葉が出てこないこともあり、自分が、何を意図して学んでほしいのかが、しっかりと考えられていないことに気づかされました。

 山田先生の実習スーパービジョンの講義では、実習スーパービジョンと通常のスーパービジョンとの違いや、演習の中で、学生が反応に対してどのように声をかけたり、配慮をするかを個人で考え、隣の方と共有する時間をいただきました。実習スーパービジョンには「教育的機能」「管理的機能」「指示的機能」があり、使い分けることや、スーパービジョンの内容の違いもあることを踏まえて、教わりました。

 岡本先生の講義の中では、実習オリエンテーションや実習指導計画について学びました。

 養成校の実習評価と連動したプログラムとすることについて、私の実習施設ではこの項目をどう教えたらよいか悩むこともありましたが、評価の内容を事前に確認し、実習指導計画を作成することで、養成校の期待する実習内容が作成できるということ、そして養成校との実習評価の摺合せが重要であると知りました。

 小沼先生の実習指導評価の講義では、何を基準に評価を考えるのを学びました。根拠を明確にし、個人的感情に巻き込まれず、また評価した内容について、言語化してフィードバックできると評価の内容が学生にも伝わりやすいと知りました。また評価をグループ内で共有することで、評価の基準について他の方が何を基準にしているかを知ることができました。

 研修を通して、これまでの実習指導の振り返りをすると共に、自分の至らない点に気づきました。これからの実習指導を行う際には、これまで以上に養成校と連携をとり、学生と実習に対しての希望や思いを共有し、学生にとって実りのある実習をしていただくことを意識していきたいと思います。そして実習を1つのきっかけとして精神保健福祉士の仲間が増えることを期待して、頑張りたいと思います。学びの多い研修を開催いただきありがとうございました。


※ご報告いただいた方のご所属名と経験年数は、研修受講時の情報で掲載しています。