2013年度は「精神障害者の地域生活移行支援に関する研修」を、静岡県会場、兵庫県会場、北海道会場、宮城県会場、高知県会場の5地域で開催します。ここでは、各会場が終了するごとに修了者からの報告記事を掲載していきます。
<宮城県会場> | |||
講義1の会場の様子 | 講義3を話す鈴木講師 | 演習の発表 | 代表者による修了証書授与 |
隠岐広域連合 隠岐病院(島根県)/経験年数3年 金阪 幸之
私は、現在島根県の隠岐の島という人口2万人弱の離島でワーカーをしています。隠岐の島には、精神科病棟がある医療機関が当院の一つしかなく、病床数は22床ととても小さいです。今回当院で初めて地域移行支援事業を使うこととなり研修に参加させてもらいました。
研修の中では、「思いを引き出す方法」「コミュニケーション方法」など患者を理解する講義がありました。長期入院、退院困難者の退院支援を進めていくには、その方の抱えている問題、不安をいかに聞き出しプランに反映できるかが患者との信頼関係につながりスムーズな退院調整になると感じました。その中で、患者役、ワーカー役などに分かれロールプレイを行ないました。日頃客観的に自分の支援を見つめ直す時間がなく初心に戻れる良い機会になりました。その他に、現場で活躍されているピアサポーターの方の講義もあり、ピアの特徴、メリット、日々の葛藤など生の声を聞くことができました。自分達ワーカーでは気がつかない部分、ピアサポーターだからこそより添える部分などピアサポーターの可能性、必要性を知りました。隠岐の島はまだピアサポーターの認知度が低く浸透していないのが実情で、今後新しい社会資源として活用していけるよう市町村、地域などに働きかけていきたいです。
また、来年度より精神保健福祉法の改正で長期入院者の退院促進を謳っています。その中で、地域移行支援事業が一つの社会資源として、今まで以上に活用される機会が増え、より関係機関と密に連携を取っていかなければならないと思います。隠岐の島でも家族が島外に出て人口が減少し、また昔に比べ家族や近所付き合いが薄くなっています。それに加えて島内に社会資源が少なく地域、関係機関、院内多職種との連携が重要となってくると考えられます。研修の中でも「多職種との連携」について何度も出てきており、保健所、役場、施設などの役割を理解し顔が見える関係、いつでも相談できる関係を構築し島全体で支えていくことが必要であり、患者が暮らしやすい島を作っていければと思います。
研修で多くのワーカーと交流し、皆さんの熱い思い、信念などが聞けてとても刺激になり、それと同時に全国に多くの仲間がいて同じ悩みを持ち日々業務を行なっていると知り「一人ではない」と再確認できました。今回の研修を計画していただいた委員の皆様、本当にありがとうございました。
<北海道会場> | |||
開講挨拶をする澤野委員長 | 講義1の様子 | 演習の発表 | 代表者による修了証書授与 |
札幌太田病院(北海道)/今井 佐千子
退院後の感想として、「退院してよかった」「自由な生活ができてよい」等が聞かれる一方、特に長期入院していた方からは「こんなに大変なら退院しなきゃよかった」「入院していた方がよかった」との言葉も聞かれます。両者とも、その多くが時間や支援を要しながらも地域で生きていくスキルを身につけ逞しく生活していく姿を目にして、患者さんの力を認識すると共に、いつも元気をもらっています。しかし、後者の言葉はやはり気にかかり、「本心では退院したくなかったのではないか」「もっと本人の立場に沿った支援ができたのでは」と自分の関わりを振り返ることも増えています。
8月31日、9月1日に行われた「精神障害者の地域生活移行支援に関する研修(北海道会場)」では新たな知識の他、日頃の関わりや自分のスタンスなどを見つめるきっかけを得ることができました。
当院は精神科単科の病院です。古くから精神障害者の社会復帰に取り組んでおり、現在もグループホームを含めた住居支援、リハビリ(デイケア併設)、就労継続支援、訪問サービス(訪問看護・介護事業所)等で地域生活への移行支援を行なっています。
このような包括的な支援体制が確立している中、「地域移行支援事業」の存在は知っていても、やはり退院後のサービスを組む際には法人内のサービスに頼る割合が高いことも現状であり、退院支援の方法や視点について、迷いや葛藤を抱えながら支援を行なっていました。しかし、この研修を通して『地域移行支援の個別給付化』=『退院支援も障害福祉サービスの一つ』ということや、「地域定着支援」の具体的な内容について学び、知識不足に加えて、これらのサービスが実際に退院支援をする上で選択肢に入っていなかったことに気づかされました。
全体の研修を通して、「地域移行支援事業」「地域定着支援」等に関する新しい知識の他、普段はなかなか触れることのできない事例や実践についても知ることができ、具体的なイメージが生まれ、自分の中に取り込むことができました。また、演習ではロールプレイなどを通して、「退院支援が患者さんのペースではなく業務優先になっていなかったか」「患者さんの言葉、またはその裏にある表現されない想いをしっかり聞くことができていたか」等、普段の関わりを振り返り、じっくり向き合うことができたように思います。
「退院支援とはなにか」迷いながらの実践ですが、今回の研修で得た知識や自分自身の原点を忘れずに、より柔軟な対応ができるよう今後も取り組んでいきたいと思います。このような機会を与えて頂きまして、ありがとうございました。
<兵庫県会場> | |||
会場の様子 | 講義1を話す吉野講師 | 演習の様子 | 代表者による修了証書授与 |
有馬高原病院(兵庫県)/森 理史
「長く入院していると外に出たとき大変なことがいっぱいではないかと思うし、入院しているほうが困らないし楽だという気持ちがある。どうやったら退院できるかわからない。でもこれだけは知っておいてほしい。初めからずっと入院していたいと思っていたわけじゃない。入院したころは一刻も早く退院したかった。だからいつかは退院したい。」
これは、研修に臨む前にある患者の方から聞いた言葉です。この言葉と研修を通じて、精神科医療と地域社会の歴史から、入院が医療のみならず生活を担ってきたこと、そして長期間にわたる入院が本来はその人のものであるはずの地域生活を徐々に奪っていったこと、その結果の社会的入院は人権侵害であることだということを改めて思い知らされました。
今回の研修において最も印象に残ったことは、入院が長期化すると生活を変えてゆく能力が停滞し、退院して生活するという発想がなくなり、地域生活への不安や恐怖が増し、退院への意欲が減り、さらに長期化する負の循環となってゆくということです。クライエントの地域移行を実現し地域生活を支援してゆくため、PSW自身がまずは人の権利を守る立場に立っていることを理解し、そのうえでクライエントの複雑な気持ちに寄り添いながら、地域移行の仕組みや制度をクライエントやその家族、関係者に分かりやすく説明しつつ実践してゆくことが求められているのだと思います。
また、なかなか退院に結びつかない、停滞しているケースでは、どこに問題があるのかを捉え、クライエントの思いや本音を引きだす関わり方を工夫し、退院へのステップへ向けてゆく個別支援と、地域生活を支える仕組みや制度を知り活用することが大切だと教わりました。その一つの方法としての地域移行支援事業・地域定着支援事業の活用は(もちろんすべてのケースに必ず必要なものではありませんが)、個別支援の方法としてだけではなく、地域生活の連続性を保つ方法として、医療機関と地域、行政、さらにはピアサポーターといった当事者パワーを結びつけるところにメリットがあると思います。
グループワークでは地域移行について課題だと考えていることを自分の言葉として発信してゆくことが大切だと学びました。特に各地で活躍されている先輩方と意見を交わしあうことで自分では気づかなかった視点や考え方に触れることができ、とても勉強になりました。
さらにPSWは今後の医療を含めた制度施策そのものの変化に敏感でなければならないと教わりました。目の前にあることだけでなく、今後のPSWとしての役割を見通すことも自分の課題だと思います。
最後に、このたびの研修の機会を与えてくださった講師の方々、スタッフの方々、そして共に参加された受講生の方々に感謝したいと思います。
<静岡県会場> | |||
会場の様子 | 講義2を話す田村講師 | 全体発表演習の様子 | 代表者による修了証書授与 |
日本平病院(静岡県)/経験年数6年 三浦 貴史
2007年から精神保健福祉士として初年度は精神科デイケア、2008年度からは相談室のワーカーとして入院および外来患者さんを担当しています。
初任者の頃と比べると少しずつ周りも見え始め、立場的にも何となく上の立場になり、後輩の指導やワーカーとしての業務以外の内容も病院から求められながら日々実践している中で、今回の研修に参加させて頂きました。
今までもさまざまな研修に参加させて頂き、毎回つくづく思うことは、とにかく講師の方含め、皆さんの心が非常に熱く、そのモチベーションやアンテナ、行動力の高さに驚かされています。私も後輩の指導をする立場になり、自分なりの「ソーシャルワークってこういうものでしょ」「かかわるってこういうことでしょ」などと何となくわかった気でいる 自分がいました。
しかし、今回の研修で患者さんの思いを引き出すためのかかわりの必要性や、退院支援に向けクライエントの思いを大切にしながら圧倒的な行動力で日頃の業務を行っている内容を改めて聞かせて頂き、特に金川さんが講義の中で、ご本人の望む地域への退院を当たり前のようにすすめている実践は、私自身の日頃の実践(入院患者さんとのかかわり方や退院支援のあり方)のお粗末さを痛感し、正直こころが半分以上折れました。
思い浮かべただけで、現在進行形である複数のケースの退院への進め方を改めて考え直さなければならないと即座に浮かび、それぞれの方達の思いを引き出し、大切にしていくためのかかわり方(質)も変える必要性があると思いました。それと同時に、その反面今まですすめてきたことを変更していく労力を考えると、気が遠くなる思いにも打ちひしがれています。また、後輩に対して「Aさんの退院することだけを考えるのではなく、その後のことまでも考えなくてはいけないよ」と分かった気で後輩を指導していた自分をとても恥ずかしく思い、自分自身の実践を改めて見直す機会になったと思います。
今回の課題別研修では、入院制度の見直しや地域移行支援・地域移行定着支援の具体的な活用の仕方なども 学べましたが、やはり根本的に社会的入院は人権侵害であることや、それをすすめることができないということは、我々自体が人権侵害を犯しているのだという意識を持つ必要性を改めて痛感させられ、日々の実践に対しても常に高い意識が必要であることを再確認できたと思います。本当にありがとうございました。