連載:新たな更新制度
第9回(最終回) 座談会〜開始初年度を終えて、皆さんに伝えたい思い〜
新たな更新制度(以下、新制度)の目的や仕組み、内容をご案内するため、本紙No.79(2022年5月)から本連載を開始し、2023年10月に新制度による更新研修の開催に至りました。これまでの経過や新制度に託した思いなどを構成員の皆さまへお伝えするために、連載最終回として新制度の構築を担ってきた認定制度推進委員会のメンバーによる座談会を行いました。
認定制度推進委員会 委員長:岡田隆志/公立大学法人福井県立大学(福井県)
委員:富岡賢吾(研修企画運営委員長兼)/医療法人光陽会 伊都の丘病院(福岡県)
担当理事:島内美月/八幡浜医師会立双岩病院(愛媛県)
開始初年度を終えて
富岡 2023年度は、10月の1回目を皮切りに追加開催も含めて更新研修を計8回開催し、新制度をスタートすることができました。
岡田 改めて振り返ると、新制度の具体的な構築は2018年度の「精神保健福祉士の資質向上検討委員会」や「研修センター会議」から始まったことを思い出します。
富岡 足かけ6年、長きに渡った検討でしたね。
島内 これまでも5年程で更新研修のプログラム等が見直されてきましたけど、今回は認定精神保健福祉士の定義や役割、更新制度の在り方といった根幹まで検討できたように思います。
岡田 認定精神保健福祉士の能力を評価していく認定(能力認定)に舵を切るかどうかについても熱く議論しましたね。
富岡 国家資格としては更新制ではないけれど、専門職団体の責務として構成員が生涯研鑽し続けられる仕組みが必要であると2008年度に開始されたのが生涯研修制度。議論を通してその原点に立ち返り、研鑽し続けることの認定としました。
新制度に込めた思い
●誰のための精神保健福祉士か
島内 能力認定だと誰が何をどのように認定するかの課題もあり、本委員会では、目の前のクライエントに評価されることが私たちの目指すべき姿なのではないかと確認しました。「どんな風に研鑽を積み上げたらいいのか」悩んでいる声に応えることや、より質の担保を目指すことを中心に据えて、新制度を構築してきました。研鑽方法・内容の基準を示すことで、認定精神保健福祉士は専門職として研鑽し続けていることをクライエントや社会に対して保証できるようにしようと考えましたよね。
岡田 未だ途上にある精神障害者の社会的復権やメンタルヘルス課題を有する方への支援に対し、私たちが専門性を発揮して貢献できているかという危機感は常に持っているけれど、それを力に変えて「専門職として、ご相談をお受けします」と自信をもって言える精神保健福祉士の仲間を増やしたいし、新制度で後押しできたら嬉しいです。
●「研鑽ってどう積めばいいの?」に応えたい
島内 一方で、その人の置かれた状況によって研鑽を阻む様々な要因があることや、精神保健福祉士としての将来像を描くことが難しくなっている現状も「精神保健福祉士のキャリアラダー」開発時に明らかになっていましたよね。
岡田 自己研鑽と簡単に言うけど、何を目標にして、どのような研鑽に取り組んでいけばよいのかわからないという人もいると思う。そのような自身の研鑽ニーズを立ち止まって見つめ直すことができるキャリアラダーやさくらセット※を、更新研修に今回取り入れたことは大きな変化のひとつでしたね。認定精神保健福祉士の皆さんには、更新研修での体験を通して、日常的な研鑽ツールとして広く活用してもらえたらと思います。
島内 「見つめ直す」といえば、基幹研修は定期的に実践を振り返り、視点・価値・倫理を点検する場なんですけど、新しい知識や技術が得られる場だと期待して受講すると、違うと思うかもしれません。基幹研修Tは受け身で受講できるけど、U、V、更新と進むにつれ、受け身から研修の意図を理解して一緒に作る研修になっています。更新研修では、さくらセットやスーパービジョン(以下、SV)等を深めることができるので、基幹研修以外の場でも、精神保健福祉士の根幹を見つめ直す機会やその輪が拡がっていったらよいですよね。
富岡 基幹研修を含む生涯研修制度は、都道府県精神保健福祉士協会・支部の理解や協力を得て全国的に展開し継承してきた歴史があります。引き続き都道府県協会・支部の皆さんとの連携を大事にしていきたいですね。2023年度の更新研修の受講勧奨でも大変ご協力いただきました。
●スーパービジョンってハードルが高い?
岡田 さっきSVの話が少し出たけど、新制度ではSVを研鑽の柱として単位にも位置付けられましたね。ハードルが高いと思った人がいるかもしれないけど、実はさくらセットや実習SV、SV関連の研修受講や動画視聴といった、内省や支え合いの機会を単位として幅広く取り入れています。SVが大事なのはわかっているけど、いざやるのは難しそう、腰が上がらない…といった意識を、みんなでマインドチェンジしていくことが新制度の大きなテーマのひとつだと思っています。
島内 これを機にSVを身近に感じてもらったり、普段からSVの要素に触れていたんだなと実感できるとよいですね。2023年度から各ブロックでGSV(グループスーパービジョン)がモデル的に動き出していますし、こちらの展開も楽しみです。
●社会的活動を単位化した意味
富岡 あと、社会的活動の単位化は、他団体では採用されていない本協会ならではの試みです。精神保健福祉士としての私、生活者としての私といった立場性に捉われず、ソーシャルな視点をもって地域や社会に積極的にかかわっていく姿勢を込めたことが、皆さんに伝わってほしいと思います。
岡田 研鑽の単位設定にあたっては、生活環境や様々な事情で研修受講などいわゆるメジャーな研鑽機会を取り入れづらい人達でも、研鑽を続けていかれるようにすることを念頭に置いて検討を重ねましたね。つまり、職場内の勉強会や事例検討会であっても研鑽には変わらないし、社会的活動は何かソーシャルアクションをすることでなくても、ソーシャルな視点でどう捉えたかという自身の考え方ひとつで研鑽として取り入れていける。
●「私の研鑽データ」を使うとどうなるの?
島内 研鑽が3類型に整理されたことで、自己研鑽の手掛かりになったり、モチベーションの向上にも繋がればと思っています。単位登録で、研鑽の記録や振り返り(省察)が習慣化されて自身の生活の一部に馴染んでいけたら、皆さんの研鑽の一助になるんじゃないかと。これも新制度のテーマの一つといえます。
富岡 構成員マイページの「私の研鑽データ」から単位登録できるので、認定精神保健福祉士に限らず全構成員が使える。使い方はその人次第だけど、些細な事でも自身と向き合って200字レポートを書いていけたら自然と力がついてくるはず。自分が頑張っていることの励みや記録にもなりますね。
岡田 そして試しに研鑽計画を立ててみたり、他の人とさくらセットに取り組んでみると、自身の研鑽の歩みが可視化され、また今後の研鑽や次の研鑽計画に活かすことができますね。「私の研鑽データ」はそのサポートができるシステムになっているので、ぜひ皆さんに触ってもらい良さを知ってもらいたいです。
新制度が目指す先
●5年に1度、見つめ直す機会に
岡田 認定精神保健福祉士の取得・更新は、時間もお金もタダではないので、インセンティブというか得られるものは何かっていうことを問われるのも理解できますし、そこを議論していくことも今後の課題のひとつです。一方で、認定精神保健福祉士は目指していきたい自身の将来像の中間点。今の自身の有り様、この先にありたい社会や自身の姿を、5年に1度見つめ直したり、仲間を通して俯瞰する機会と更新研修を捉えてもらえると、それはすごく重要な時間になると思うんです。認定精神保健福祉士が制度として位置付いていることの意義や役割、社会的価値を同時に伝え続けていく必要があると思って、本委員会の委員長を務めてきました。
富岡 更新研修でいうと、さくらセットやSV等の理解が深まることはもちろん、仲間と支え合い分かち合うことで今後の活力になったという声が、受講に後ろ向きだった人達からも多く聞かれました。研修企画運営委員会の立場としては、そういった声や新制度に対する我々の思いを届け、義務感ではない形で多くの人達に新制度を活用してもらえるよう取り組んでいきたいと考えています。
●研鑽や人材育成の輪が拡がることを願って
島内 私は変わらず、皆さんにとって身近でモチベーションを失わずに続けていける研鑽の仕組みや制度を考え続けていきたいです。精神保健医療福祉の将来ビジョン(以下、将来ビジョン)達成に向けた中期計画でも生涯研修制度の受講率向上を掲げていますし。将来ビジョンをどう達成するかや、新制度と将来ビジョンの繋がりについても皆さんと一緒に考えることができれば嬉しいです。
岡田 今回は更新制度の改正までだったけど、「私の研鑽データ」やさくらセットは誰でも活用できるので、基幹研修Tの段階から説明を加えたり活用してもらえるよう、早く何か形にして届けたいですね。
島内 更新研修でさくらセットを体験すると、すごくエンパワメントされていくことを実感し、この体験を持ち帰って職場の後輩とどう一緒にやろうかなど、色々前向きな話が出てきますよね。これが更新研修の醍醐味、他研修と一線を画す部分で、受講者の皆さんが受講者で終わらず、今度はその普及や人材育成について具体的に考えていかれるような機運が高まる研修だと思っています。
認定精神保健福祉士の皆さんにはぜひ伝道師となっていただき、地域の人材育成にご協力いただければと思います。
岡田 最後に、本連載や新制度にあたってご協力いただいた皆さんに、この場を借りて感謝申しあげます。
(2024年3月24日、オンラインにて座談会実施)
(研修センターだより「Start Line No.91」(2024年5月15日発行)より抜粋)