「精神医療審査会に携わる精神保健福祉士に対するグループインタビュー調査」報告書(2024年6月)

公益社団法人日本精神保健福祉士協会 発行
公益社団法人日本精神保健福祉士協会 精神医療・権利擁護委員会 編集

■報告書

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■はじめに(報告書本文より抜粋)

 精神医療審査会(以下、「審査会」という。)は、精神障害者の人権に配慮しつつその適正な医療及び保護を確保するために、精神科病院に入院している精神障害者の処遇等について専門的かつ独立的な機関として審査を行うために設置されたもの であり、1980年代の精神科病院の不祥事をきっかけに、1987(昭和62)年に制定された精神保健法において設置されることとなった。その後、2014(平成26)年4月1日に施行された改正精神保健福祉法において見直しがなされ、「精神障害者の保健又は福祉に関し学識経験を有する者(以下、「保健福祉委員」という。)が新たに定められたことを機に、保健福祉委員として審査会へ参画する精神保健福祉士が増えていった。

 しかしながら、精神医療審査会の形骸化を指摘する声も聞かれるようになり、公益社団法人日本精神保健福祉士協会(以下、「本協会」という。)では、2018(平成30)年2〜3月に法改正後の審査会の全国的な変化や精神保健福祉士の現状について、本協会都道府県支部を対象としたプレアンケートを実施した(公益社団法人日本精神保健福祉士協会,2018) 。調査より厚生労働省が定める「精神医療審査会運営マニュアル(以下、「マニュアル」という。)は存在するも、実際には各都道府県並びに政令指定都市が運営する審査会の業務内容や運営方法、合議体や委員数に格差があることが見て取れたとともに、精神保健福祉委員のための研修等の実施率はわずか32%であり、保健福祉委員の質の担保に課題がある状況も確認された。

 このような状況を踏まえ、2022(令和3)年2月には、審査会の実情や可能性の詳細を明らかにするとともに、審査会における精神保健福祉士の役割や意義を明らかにし、その資質の向上に役立てるための基礎資料とすることを目的に、全国精神医療審査会連絡協議会、および、全国精神保健福祉センターによる協力のもとで、全国の審査会に対する調査を実施した(公益社団法人日本精神保健福祉士協会,2022) 。本調査においても、自治体ごとでの合議体への負担、事前調査の有無、短期再請求への対応など、運営に大きな差があることが明らかになったが、審査会が権利擁護機能を発揮できるような工夫や取り組みがされている自治体があることも確認できた。

 そして、先般の2023(令和4)年精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下、「精神保健福祉法」という。)の一部改正では、障害者基本法(昭和45年法律第84号)の基本的な理念にのっとり、精神障害者の権利擁護を図るものであることを明確にするとともに、地域生活の支援の強化等により精神障害者の希望やニーズに応じた支援体制を整備するためのもの とされている。その改正には、医療保護入院の期間の法定化と更新の手続き、地域生活への移行を促進するための措置、措置入院時の入院必要性に係る審査など、審査会に関連する内容も多く、今後、審査会の開催回数を増やす等の対応が取られることが予測され、これまで以上に、保健福祉委員として精神保健福祉士へ審査会参画を求める声が増えると考えられる。過去2回の調査において、審査会について様々な課題が確認されていることから、本法改正のタイミングで、審査会における精神保健福祉士の専門性や役割を、審査会委員として携わっている精神保健福祉士の視点から明らかにすることを目的とした調査の実施が必要と考えられる。

 こうしたことから、保健福祉委員である精神保健福祉士に対するフォーカスグループインタビュー調査を実施することとした。本調査結果をもとに、現状の審査会における精神保健福祉士の課題を整理するとともに、精神保健福祉士が審査会に参画する意義や役割を明らかにし、専門性を発揮するための仕組みづくりについて考えるための基礎資料としたいと考える。

■調査方法

調査要件・選定方法

 本研究は、審査会に保健福祉委員として携わっている精神保健福祉士を対象とし、調査協力を得た15名を調査対象者とした。
 対象者の選定要件は、@調査時点において精神医療 審査会に保健福祉委員(予備委員を除く)として携わっている者であること、A精神保健福祉士の資格を所持して働いていること、B本協会道府県支部より推薦されている者であることを要件とし、精神医療・権利擁護委員会の委員の所属する本協会のブロックのうち、調査への協力が得られた3ブロック(北海道・東北ブロック、近畿ブロック、四国ブロック)を対象とし、都道府県支部より推薦を得た者を調査協力者とした。なお、実施にあたり、事前にブロック会議にて、支部長に対して調査についての説明を行うとともに、審査会委員の選定基準等についてのヒアリングを行った。

調査時期・方法

 2023(令和5)年12月14日〜12月23日、所属ブロックを混合した4つのフォーカスグループを作成し、オンライン(WEB会議システムのZoomを使用)を用いた半構造化インタビューを実施した(1グループあたり3〜4名)。インタビュアー(調査担当者)は、精神医療・権利擁護委員会の委員(1グループあたり2名)が、インタビューガイドにもとづき行った。調査協力者に対しては、インタビューとあわせて、調査前に事前調査票(WEBフォームに入力)にてプロフィールを確認した。 インタビュー中の音声・内容は、調査担当者により筆記するとともに、協力者からの承諾を得たうえで、Zoomのシステム上のレコーディング機能を使用し録音した。 各フォーカスグループにおけるインタビューの所要時間は121〜150分、平均133.8分(SD±13.0)であった。

■2022・2023年度精神医療・権利擁護委員会

担当副会長尾形多佳士さっぽろ香雪病院/北海道
担当部長岡本秀行川口市保健所/埼玉県
担当理事的場律子福永病院/山口県
委員長大塚直子井之頭病院/東京都
委員阿部祐太さくらPORTクリニック/岩手県
 岡安 努やたの生活支援センター/石川県
 北岡祐子医療法人尚生会(創)シー・エー・シー/兵庫県
 熊取谷晶京都府中丹東保健所/京都府
 黒下良一第一病院/徳島県
 三溝園子昭和大学附属烏山病院/東京都
 橘 武蔵旭川圭泉会病院/北海道
 種田綾乃神奈川県立保健福祉大学/神奈川県
 羽野宏美田主丸中央病院/福岡県

(2024年3月末現在)


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