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はじめに:「精神保健福祉士業務指針 第3版」の公表にあたって
公益社団法人日本精神保健福祉士協会「精神保健福祉士業務指針」委員会(以下、本委員会)では、2014(平成26)年に「精神保健福祉士業務指針及び業務分類 第2版」(以下、第2版)を公表して以降、その普及啓発を進めるとともに第2版の検証を重ねてきた。その過程を経て新たにタイトルも改め「精神保健福祉士業務指針 第3版」(以下、第3版)を作成し、この度、理事会の承認を経て公表する運びとなった。
第2版から続く業務指針の意義とねらい、第3版の構成及び改訂のポイントは以下のとおりである。
◆業務指針の意義とねらい
1.精神保健福祉士の価値と理念を具体化する業務指針を示す
精神保健福祉士の業務とは、単に「行為的側面」だけで成り立つものではなく、規定され た仕事をこなすことでもない。この点は第2版から継承する本業務指針の基本的視点である。精神保健福祉士の業務とは、精神保健福祉士の価値と理念を具体的に表す行為であり、 多様な知識と技術を活用するものである。本業務指針では、日常的かつ具体的な業務展開において常に精神保健福祉士の価値・理念・視点を振り返り、必要な知識や技術を確認できる ような枠組みを示している。
2.「精神保健福祉士の業務」を定義し、業務における説明責任を果たす
本業務指針では「精神保健福祉士の業務」の定義を明示し、業務を構成する要素を整理している。精神保健福祉士の業務は実に多様であり、言葉で説明することが難しい。また、それぞれの現場における課題に対応して、精神保健福祉士の業務を説明する言葉は数限りない。しかし、我々が精神保健福祉士の名のもとに働いている以上、「私の業務」ではなく「精神保健福祉士の業務」を示すことが求められ、業務における共通認識・共通言語をもつ必要がある。本業務指針は、精神保健福祉士の行うことの説明責任を果たすための共通言語として活用されることを意図している。
3 .精神保健福祉士の包括的な視点・アプローチを表す業務指針を示す
精神保健福祉士は「人と環境の相互作用」の視点に立ち、「ミクロ−メゾ−マクロ」のレベルを包括的に捉えた実践を行う。本業務指針では、本協会の「精神保健福祉士の倫理綱領」が示す4つの責務(クライエントに対する責務、専門職としての責務、機関に対する責務、社会に対する責務)に沿って業務の分類・整理を行い、それぞれの業務の指針を示している。しかし、それは各業務が単独で成り立つことを意味するものではない。いずれの業務も他の業務とのつながり、「ミクロ−メゾ−マクロ」のレベルの連続性を踏まえて展開して おり、本業務指針は精神保健福祉士の包括的視点とアプローチを表す枠組みを示している。
◆第3版の構成
第3版は3部で構成される。第T部では精神保健福祉士の業務の定義や業務を構成する要素を示しており、業務指針を読む前提となる箇所である。第U部は本業務指針の本体となる箇所であり、精神保健福祉士の代表的な業務を取り上げ、それぞれの指針を示している。続く第V部は、精神保健福祉士が活躍する5つの分野を取り上げ、各分野で想定される特徴的な場面を例示し、その場面を第U部の業務指針に基づいて解釈し、業務を展開する道筋を示している。
◆第3版の主な改訂のポイント
1.本業務指針の基盤となる本協会の歴史的経緯を明示したこと
本協会における業務指針作成の意義は、国家資格化以前の「Y問題」の提起と日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会宣言(第18回札幌大会)(以下、札幌宣言)の理念を具体的に示すことにある。本業務指針もその歴史を継承したものであり、札幌宣言の理念を基盤とする点に変わりはない。第2版ではその点の記述が不足しているとの重要な指摘を受け、今回の改訂において改めて加筆した。
2.第U部で取り上げる精神保健福祉士の業務を精査したこと
第2版で取り上げた24の業務を精査し一部を統合するとともに、業務実態調査結果を踏まえて新たに「活動・交流場面の提供」「記録」「組織運営/組織経営」「コンサルテーション」「多職種連携/多機関連携」「調査研究」の業務を加筆した。
3.業務指針を活用した「分野別事例集」を示したこと
第2版では第U部(どの分野にも共通する業務指針)と第V部(分野ごとの業務指針)との2つの業務指針が整理されずに提示されており、分かりにくさや読み手が混乱するとの指摘を受けた。第3版では第U部を精神保健福祉士の業務指針として一本化し、第V部は業務指針を活用した分野別事例集と位置づけた。
また、第2版の「地域分野」「医療分野」「行政分野」に加えて、第3版では新たに「学校教育分野」「産業分野」を作成した。さらに「分野横断事例」を取り上げ、複数の分野(医療、行政、地域など)が連携して業務展開する事例から指針を示した。
業務指針は実際に活用されることに意味がある。ぜひ精神保健福祉士の皆様にご覧いただき、実践、教育においてご活用いただきたいと思う。そのなかでみえてくる本業務指針の課題や改善点を提示していただき、今後の業務指針の発展に多くの精神保健福祉士の方が参画してくださることを願っている。
2020年6月
公益社団法人日本精神保健福祉士協会
「精神保健福祉士業務指針」委員会
はじめに:「精神保健福祉士業務指針 第3版」公表にあたって
第T部 精神保健福祉士の基盤と業務指針の意義
1 精神保健福祉士をめぐる社会状況
1 精神保健医療福祉をめぐる状況
2 精神保健福祉士の業務をめぐる動向
3 精神保健福祉士の業務指針作成の経緯
2 精神保健福祉士の実践
1 ソーシャルワーカーの原理
2 精神保健福祉士の価値と理念
3 精神保健福祉士の視点
4 精神保健福祉士の対象
3 業務指針の位置づけ
1 業務指針のターゲット
2 業務指針の目的
4 精神保健福祉士の業務
1 精神保健福祉士の業の定義と業務特性
2 精神保健福祉士の業務に関する分類基準
3 精神保健福祉士の業務を構成する要素
5 用語の整理
1 本業務指針における用語の整理
2 本業務指針における略称・通称の使用
第U部 精神保健福祉士の業務と業務指針
第U部のねらいと活用上の留意点
第V部 精神保健福祉士業務指針:分野別事例集
第V部のねらいと活用上の留意点
業務指針:医療分野・事例集
事例1:家族からの受診相談
事例2:精神科における外来相談
事例3:精神科における入院時支援
事例4:精神科救急病棟における退院調整
事例5:社会的な長期入院者の地域移行支援
事例6:精神科デイケアを通じた支援
事例7:単身生活者へのアウトリーチ支援
事例8:危機介入による支援
事例9:チームアプローチによる支援
事例10:医療観察法入院者への退院支援
事例11:行動制限にかかわる対応
事例12:若年性認知症を発症した方への支援
事例13:精神保健福祉の普及啓発の取り組み
事例14:病院運営への参画
業務指針:地域分野・事例集
事例1:地域生活における相談支援
事例2:地域移行を目指す社会的入院者への支援
事例3:グループホームにおける支援
事例4:働くことへの支援
事例5:アウトリーチ・訪問による支援
事例6:ピアサポーターとの協働
事例7:医療機関との連携による危機的状況への支援
事例8:雇用義務化に伴う企業への支援
事例9:事業の運営管理
事例10:地域とのつながりを創る
業務指針:行政分野・事例集
事例1:ひきこもり相談における家族への支援
事例2:住民からの苦情を受けた危機介入
事例3:警察官通報の受理にかかる対応
事例4:ケアマネジャーからのケース相談
事例5 :相談支援専門員に対する研修の企画・開催
事例6:地域における協議会の機能強化に向けた取り組み
事例7:障害福祉計画策定における当事者のニーズ調査
事例8:若者の自殺予防への取り組み
事例9:災害対策を通じた「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築
事例10:精神科病院における実地指導の適正化への取り組み
業務指針:学校教育分野・事例集
事例1:経済的問題を抱える家族への支援
事例2:障害を抱える子どもと家庭への支援
事例3:虐待を受けている子どもへの支援
事例4:外国籍の子が抱える問題への支援
事例5:親がメンタルヘルスの課題を抱える子どもへの支援
事例6:アカデミック・ハラスメントの状況にある学生への支援
事例7:合理的配慮が必要な学生への支援
事例8:教職員向けの研修・校内体制の整備
事例9:複合的な課題をもつ家族への支援
業務指針:産業分野・事例集
事例1:受療・休職・復帰支援
事例2:ストレスケア病棟における支援
事例3:リワーク支援
事例4:ストレスチェック後の職場環境改善
事例5 :高ストレス状態にある労働者への対応
事例6:職場のパワーハラスメントへの対応
事例7:緊急事態におけるストレスマネジメント
事例8:セルフケア・ラインケア研修の企画・実施
事例9:障害のある労働者への支援
事例10:キャリア支援
事例11:中小企業における従業員支援の体制づくり
業務指針:分野横断・事例集
事例1:措置入院者の退院支援 208
事例2:アルコール依存症の会社員への支援
精神保健福祉士の倫理綱領
参考文献一覧
おわりに
Topics@ 行動制限最小化委員会
TopicsA 精神障害にも対応した地域包括ケアシステム
TopicsB 「断らない相談支援」に資する精神保健福祉士の役割
TopicsC 精神障害者の雇用義務化
TopicsD 行政職の精神保健福祉士配置
TopicsE EAP(Employee Assistance Program):従業員支援プログラム
TopicsF 労働者の心の健康の保持増進のための指針
TopicsG 地方公共団体による精神障害者の退院後支援に関するガイドライン
TopicsH 連携について