精神保健福祉士のための社会的入院解消に向けた働きかけガイドライン(ver.1)&精神保健福祉士のための相談支援ハンドブック(ver.1.3)
(合本版)

作成:公益社団法人日本精神保健福祉士協会 地域移行推進委員会・相談支援政策提言委員会


一括データ(PDF/10MB)
■分割データ(精神保健福祉士のための社会的入院解消に向けた働きかけガイドライン(PDF/6.5MB)/精神保健福祉士のための相談支援ハンドブック(PDF/4.5MB))

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精神保健福祉士のための社会的入院解消に向けた働きかけガイドライン内各種ツール/P.34〜43に該当(Microsoft Excel/0.3MB)


精神保健福祉士のための社会的入院解消に向けた働きかけガイドライン

はじめに

 60 才代前半の男性が入退院を繰り返し、通算30 年の入院になってしまいました。
 ある夏の暑い日に父親が亡くなったあと、1 週間ほどして彼と話していたところ、「退院したい」との思いを話してくれました。それまで彼はその言葉を出したことはなく、心の奥底にしまっていたようです。彼と主治医と私で自宅を見に行き、帰りに主治医の提案で、喫茶店で宇治金時を食べ、台から街の風景を見渡しました。その時の光景は十数年も経った今でも昨日の事のように思い出されます。
 現在のようにいろいろなサポート体制はありませんでしたが、父親が残してくれた家と彼の退院したい気持ちと様々な人とがつながっていき退院されました。その後、私は訪問したり外来で顔を合わせたりしましたし、関係者が彼の築50 年の家に集まりケア会議を行ったりしました。病院では見ることがなかった笑顔や、生活を楽しみ自分のペースで生活している彼を見続けることで、私は退院して良かったという感覚とその人らしい生活を送ることの意味を知る機会となりました。
 後に言葉を知りましたが、まさしく彼は「社会的入院」中であったのです。私は働きかけをしていたわけではなく、彼を取りまく環境の変化から、自発的に「退院したい」と奥底に秘めた気持ちを表わしてくれ、その実現のお手伝いを少しだけできたのだと思います。PSW としては未熟で右や左もわからない若造を相手にしてくれたことに感謝でいっぱいです。
 今もなお、彼のように「退院したい」気持ちを奥底に秘めている方が精神科病院にはいらっしゃると思います。いつから諦めてしまったのか、諦めないと日々を過ごしていられない気持ちは想像を絶します。
 今期の地域移行推進委員会では、社会的入院の解消に向けて、入院患者さんに退院についての情報を届けることが最優先課題であると確認していました。そのためには病院に勤務している精神保健福祉士から入院患者さんに情報をしっかり伝えてもらう必要があると考えました。病院に勤務する精神保健福祉士の現状は、新任者が入職しても、同じ職場内に退院支援の方法を教えてもらえる先輩が存在していなかったり、退院支援や地域援助事業者との連携業務に積極的に動くことができずにいる精神保健福祉士がいたり、働きかけの方法が分からないという精神保健福祉士がいることが分かりました。そこで、病院に勤務する精神保健福祉士に実践例や働きかけのヒントの情報、地域相談支援の情報を届けることで、より多くの入院患者さんに情報が届きやすくなるのではないかと考え、本ガイドラインの作成にいたりました。
 今なお、精神科病院には入院治療は必要ないが、さまざまな理由で退院できずに、退院を諦めている方々がいらっしゃいます。その方々のためにもぜひこのガイドラインを一読して頂き、ヒントや情報をご利用ください。私たち精神保健福祉士は、「必ずいつかは現状を変える、変えられる、実現できる、諦めない、全力で取り組む」を合言葉にして臨む者でありたいと思います。

地域移行推進委員会 委員長 澤野 文彦


もくじ

1.はじめに
2.「地域移行支援・地域定着支援」とは?
 1)地域移行支援・地域定着支援の歴史の理解
 2)平成23 年度までの地域移行支援事業(旧退院促進支援事業)
 3)平成24 年度からの地域移行支援・地域定着支援の個別給付化について
3.実践から知る働きかけの「ヒント」
 1)市町村からの働きかけ実践例
 2)病院グループ活動を活用した働きかけの実践例
 コラム★AさんとBさんのこと
 コラム★「本人の考え方を代弁する」への地域におけるPSWの役割
4.病院精神保健福祉士(PSW)はどのように動くか
 1)地域移行支援・地域定着支援の進め方
 コラム★会いに出向き、声をかけ、思いを聴きましょう
 2)病院精神保健福祉士(PSW)の歩み方
 コラム★改正精神保健福祉法における病院PSWの役割「これからの病院PSWって!?」
 コラム★改正法施行を前に今思うこと
3)個別支援ガイドライン
4)各種ツール(クリティカルパス、各種様式など)
5)地域相談支援の周知・啓発用資料例(参考)
  和歌山県ポスター、埼玉県幸手保健所リーフレット、新潟県作成病院看護師向け説明
5.おわりに
6.資料(精神保健福祉法一部改正内容に関連して)

地域移行推進委員会委員名簿(所属は2014年3月31日現在のもの)

役割 氏名 所属 支部
担当部長 宮部 真弥子 谷野呉山病院脳と心の健康総合センター 富山県
委員長 澤野 文彦 沼津中央病院 静岡県
委員 佐原 和紀 地域生活支援センター翔 山形県
委員 中村 翠 埼玉森林病院 埼玉県
委員 洗 成子 愛誠病院 東京都
委員 岡部 正文 茨内地域生活支援センター 新潟県
委員 山岸 里映 新潟県精神保健福祉センター 新潟県
委員 冨田 宏美 地域活動支援センター皆神ハウス 長野県
委員 冨澤 真美 佐藤病院 長野県
委員 鈴木 伸二 サポートセンターなかせ 静岡県
委員 杉原 亜由子 茨木保健所 大阪府
助言者 大塚 淳子 日本精神保健福祉士協会 東京都

精神保健福祉士のための相談支援ハンドブック

はじめに

 私たち相談支援政策提言委員会は、ここに本人中心の地域生活支援を実践するすべてのPSWのための「相談支援ハンドブック」を作成いたしました。私たちがソーシャルワー力ーとして担ってきた「相談」が「相談支援事業」として制度化された今、名称独占資格である精神保健福祉士が業務独占任用資格である相談支援専門員資格を得て、制度における相談支援を包含した相談支援業務を行なうことの意義は大きいと考えています。障害のある国民が障害福祉サービスを利用するには必ず相談支援を受けることになったこと、相談支援専門員が地域相談支援というサービスを行なえるようになったこと、それが、社会的入院の解消に役立つ地域移行支援等であることからも、精神障害者の社会的復権を願い生活支援を行なっているPSWとしては、欠くことのできない業務として相談支援事業が重要となったと言えます。

 我が国の障害福祉施策は障害者総合支援法によって、障害種別を分けずに本人主体、他の者との平等、地域生活支援、社会モデルなどを基本とする地域生活支援施策となり、ノーマライゼーション社会に向けた本格的な社会変革が始まりました。PSWは「相談」を担う専門職として長年の実践から積み上げてきた大切な理念や視点、方法と技術などをもっています。いよいよ相談支援の専門職として社会的実践の先導者としての役割を果たすべき時代を迎えたと考えています。また今こそ相談支援の専門職として相談支援事業に関心を向けていただきたいと切に願います。

 精神保健福祉士は「精神障害者の社会的復権と福祉のための専門的・社会的活動」を行う職業として自覚し続けてきました。精神障害者として、差別を受けること、自由でなくなること、自らの決定よりも支援者などの決定が優先されて従うこと等々、理不尽な状況から解放することが私たちの大きな支援課題です。広義では多様な生活支援を担うことがソーシャルワー力ーの業務ですから、個人の問題解決だけではなく個人と相互関係にある多様な環境・状況に対して働きかける社会的活動も私たちの業務です。

 私たちPSWは相談から始まり、相談支援の連鎖としての多様な援助関係の展開を基本としてきました。私たちは、実践軸を「クライ工ントと対等な関係の確立」という「かかわり」においてきたのです。これは支援者と支援を受ける者との主体的「協働過程」を歩むことです。どのような場所、立場で働こうと基本に本人中心、自己決定の尊重を据えて、“障害者"となった人々の、その人の生活=人生を支援することが責務です。

 私たちは、(1)自己支援力(セルフケアの力)、(2)家族支援力、(3)地域支援力(制度を含む)、(4)専門職支援力の4つのストレングスに注目し、疾病・障害があってもリカバリーできることを可能とする相談支援を提案します。それは「支援を受けながらも本人たちが主体的に判断して利用する相談支援」となり、主体的判断=自己決定への支援も含んでいます。精神保健福祉士であり相談支援専門員となった者は、当事者の言葉を借りるならば次のようなことが支援の内容となるでしょう。(1)彼らの人生に希望を与えること、(2)彼らに効果のある治療と支援を提供すること、(3)彼らの苦しみの意昧を見出すことを助けること、(4)個人の持つ力を支援すること、(5)対等なパートナーとなること、(6)彼らの権利を守ること、(7)彼らを家族や地域につなげることなどです。これらが求められ、それを満たす相談支援を実践することになります。

 病院で働こうと、障害福祉サービス事業所で働こうと、相談支援事業所で働こうと、この相談支援ハンドブックに関心を寄せられ、地域で暮らすことをあたりまえにするための実践に活用していただくことを願います。

相談支援政策提言委員会 助言者 門屋 充郎


もくじ

1.はじめに
2.「相談支援」とは?
 1)精神保健福祉士にとっての「相談」「相談援助」「相談支援」
 2)「相談支援」と「自立支援協議会」「基幹相談支援センター」
 コラム★サービス等利用計画におけるサービス“等”とは?
 コラム★ピアの力
3.計画相談支援の流れとポイント
 1)計画相談支援の流れ
 2)「サービス等利用計画」のあり方
 コラム★「サービス担当者会議」の重要性
 コラム★「セルフ作成」について
4.計画相談支援と障害福祉サービス等との関係
 ・「サービス等利用計画」と「個別支援計画」
 コラム★障害福祉サービス事業者が最初の相談窓口になった場合は?
 コラム★障害福祉サービスが既に支給決定されている場合は?
5.相談支援と精神保健福祉のこれから
6.おわりに
付録 「相談支援」をもっと深く理解するために!!

相談支援政策提言委員会委員名簿(所属は2014年3月31日現在のもの)

役割 氏名 所属 支部
担当部長  中川 浩二 和歌山県障害福祉課 和歌山県支部
委員長 岩上 洋一 特定非営利活動法人じりつ 埼玉県支部
委員 青戸 忍 特定医療法人養和会 養和病院 鳥取県支部
委員 有野 哲章 埼玉県幸手保健所 埼玉県支部
委員 今村 まゆら かまた生活支援センター 東京都支部
委員 遠藤 紫乃 特定非営利活動法人ほっとハート 千葉県支部
委員 金川 洋輔
(HB作成チーム)
地域生活支援センターサポートセンターきぬた 東京都支部
委員 菅原 小夜子 特定非営利活動法人こころ 静岡県支部
委員 中野 千世 地域活動支援センター櫻 和歌山県支部
委員 吉澤 浩一
(HB作成チーム)
相談支援センターくらふと 東京都支部
委員 吉野 智
(HB作成チーム)
中核地域生活支援センター海匝ネットワーク 千葉県支部
助言者 門屋 充郎 特定非営利活動法人十勝障がい者支援センター 北海道支部
協力 相川 章子 学校法人聖学院大学 人間福祉学部 埼玉県支部

※HB=ハンドブック


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