機関誌「精神保健福祉」

通巻85号 Vol.42 No.1(2011年3月25日発行)

・機関誌「精神保健福祉」通巻第85号を手にされた皆様へ(機関誌編集委員会委員長 川口 真知子/2011年3月19日)


目次

巻頭言  孤と孤を結ぶ/渡部 裕一

特 集 新たな災害支援に向けて

〔総説〕
災害支援と精神保健福祉士/佐藤三四郎 災害支援における精神保健福祉士の役割/福原 真紀

〔各論〕
災害後の支援を考える/岡部 正文
支援形態の多様性─普段から想定・準備するべきこと/平泉 武志 災害に備える─防災と連携/廣江  仁

〔実践報告〕
精神保健福祉士と防災対策/東 裕紀・寺西 里恵・喜多 昌恵・岩尾 貴・蔭西 操・河元 寛泰・岡安 努
東京精神保健福祉士協会災害ボランティア委員会の報告─発足15年の経過と今後の展望/吉野比呂子

〔現地報告〕
奄美諸島集中豪雨災害報告/笹川 純子

〔災害支援関連資料〕
佐藤三四郎

誌上スーパービジョン
PSWの見立ての甘さがAさんを困惑させ、病状悪化に至ったケースを振り返る──スーパーバイザー/柏木  昭

トピックス
チーム医療推進方策検討ワーキンググループについて(中間報告)/柏木 一恵
新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム/福井 淳夫

研究ノート
アルコール依存症回復施設利用者の特性と回復施設の意義─ 「リカバリハウスいちご」に関する研究/佐古恵利子

情報ファイル
クラブハウスモデルの発展へ向けて/加藤 大輔
「第38回日本精神科病院協会精神医学会」報告/舘林 卓
「日本アルコール関連問題ソーシャルワーカー協会 第25回全国研究大会」報告/笠井 亜美
「日本発達障害ネットワーク 第6回年次大会」報告/太田 和美

リレーエッセイ
「自然・人に育てられて」/西谷久美子

連載
実践現場からのつぶやきコーナー「P子の部屋」、協会の動き/坪松 真吾、書評/三井 克幸・伊藤 千尋

投稿規定、協会の行事予定、2011年開催精神保健福祉関連学会・研究会一覧、お詫びとご報告


巻頭言

孤と孤を結ぶ

機関誌編集委員会副委員長/医療法人社団原クリニック 渡部 裕一

 日々の報道に、つくづく萎えさせられると感じるのは私だけだろうか。子育てや介護を巡って、繰り返し報じられる虐待。生活費であった年金の支給が止まることを恐れ、親の遺体を放置し続けたという息子。自宅に引きこもり続けた末に凶行に及んだ息子とその対応に苦慮してきた家族。表層化する問題はそれぞれ違えども、根底に見え隠れする「孤立」というキーワード。現代の高気密・高断熱な「家庭」にあっては、生活音や温もりはもちろん、人々の悲痛な叫び声すら外には届かないのかと落胆する。

 阪神・淡路大震災で大きくクローズアップされた高齢者の孤独死は、現代では働き盛りの若者にとっても他人事でなくなってしまった。個が重宝された時代を経て、「無縁社会」「孤族の国」などと呼ばれる現代である。昔ながらの地縁や血縁に頼るだけではなく、人々が結びつき、支え合うための仕組みをいま地域は必要としている。

 私たちはこれまで、精神的な疾患や障がいをもつ人たちが地域社会から排他されぬよう、多種多様な結びつきを大切にしてきた。時に、同じ経験をもつ者同士のつながりを、そして時に、地域のさまざまな人たちとのつながりを。人知れず、地域に潜む「孤」を探り出し、人々の結びつきを作り出すために、どんな取り組みができるだろう。これまで培われてきた実践が少しでも活かせはしないものだろうか。精神保健福祉士として最も目を向けるべき地域の課題はそこにあると感じている。

 辟易とさせられる報道が多い昨今ではある。しかし、各地で震災を教訓とし、防災活動に真摯に取り組む人たち、そして全国に登場したタイガーマスクたちの意気に触れ、まだまだ捨てたもんじゃないとも思う。あらためて地域が抱え続ける課題に立ち向かう気持ちを新たにした1月17日である。


特集 新たな災害支援に向けて

 日本精神保健福祉士協会が災害支援に本格的に取り組むきっかけとなった阪神・淡路大震災から16年が経過した。この間にも新潟県中越大震災、岩手・宮城内陸地震などの震災や毎年のように各地で発生している水害など大きな災害が続いている。こうした災害に対して、現地の精神保健福祉士はもちろんのこと、協会としてもさまざまな活動を行ってきた。そして今般、これらの活動から得たことを多くの精神保健福祉士の実践に役立てられるように「災害支援ガイドライン」が取りまとめられた。

 災害支援に関しては、これまで災害直後の支援が注目されがちであった。しかしながら実際の被災地では、長期にわたってさまざまな課題と向き合いながら支援が継続されている。災害がどのように人々の生活に影響を与えていくのか、支援はどのように継続されていくのか等、長期的な視点から精神保健福祉士が担うべきことについて考える必要がある。

 また、これまで考えられてきた災害支援は、震災に関するものが中心であった。しかし水害および火山の噴火など地域性の強い災害、さらには口蹄疫や鳥インフルエンザの問題など自然災害とは違った形で広範囲に人々の生活を脅かす問題もあることを忘れてはならない。私たちは、災害そのものに対する理解をあらためてとらえ直す必要に迫られているといえるだろう。

 そして災害支援は、被災地だけの問題ではないこともあらためて強調したい。これまで大きな災害がなかった地域であったとしても、災害に対して意識を持ち、被災時の対応を検討しておく必要があることはもちろん、大規模な災害の場合には、被災していない地域からの支援が重要な役割を担うことを理解しておかなければならない。こうした防災的な側面と災害支援を通した他地域との協力・連携体制のあり方などは、すべての精神保健福祉士にとって重要な意味を持つものであると考える。

 今号では、災害支援への関心を深めてもらうために各地の実践を柱とした特集を企画した。今後の実践に役立つ情報も資料として掲載しているので、「災害支援ガイドライン」とともに活用していただきたい。

(編集委員:江間 由紀夫)


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