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<2007/03/08>

【報告】権利擁護に関するシンポジウム−成年後見制度と自己決定支援−

 

○当日プログラムなど


権利擁護委員 伊藤亜希子

雨ニモマケズ、多くの参加者 

 京都駅で新幹線を降りた瞬間「東京よりも寒〜い!」と、マフラーを巻き直し、日本精神保健福祉士協会権利擁護委員会の岩崎さん、金成さん、中川さんと共に、つかの間の観光で泉涌寺悲田院を参詣を楽しんだ後、京都リサーチパークへ。曇りのち雨のあいにくの天候にも関わらず、会場には開始時間前から多くの方々が来場され、権利擁護についての関心の高さが伺えました。

精神保健福祉士の視点に配慮した実践的な講義

  井上計雄弁護士は、精神保健福祉士の視点として重要な自己決定を切り口に、成年後見制度の理念や概要、具体例について分かりやすくお話してくださいました。制度の理念については、まずノーマライゼーションがあり、その上で自己決定が尊重され、結果、現有能力の活用が図られるという上山泰氏(著書に『成年後見制度と身上配慮』)の説を紹介し、関係性を説明されました。井上弁護士曰く「残存能力という言葉は好きではない、現有能力と言う方がいいでしょう?」と。コーディネーターの岩崎香さんは、「それ、使わせて頂きます!」とすかさず井上弁護士に了解を取られていました。 

 また、憲法第13条の個人の尊厳に触れ、自己決定権の尊重は自己責任を導き、それは失敗する権利(失敗する自由)をも尊重するものであり、ひいては自己決定のための能力の開発と社会経験につながると話されました。筆者自身が病院というの現場で、つい保護的に先回りしがちになってしまう行動を振り返り、はっとする思いがしました。推薦図書の紹介もいくつかありましたが、一番のお奨めは『相談事例からみた成年後見の実務と手続』(井上計雄弁護士編、新日本法規出版)とのことです。是非読んでみたい!と思わせる斬新で実践的な井上弁護士の講演が、後段のシンポジウムに絶妙にシフトしていきました。

活発な実践報告に会場が共感

  ドリームファクトリー代表の渡口泰子さんは親亡き後の問題から成年後見制度の必要性を検証し、日常の金銭管理における問題点と解決策について、身近な問題として具体的に話題を提供して下さいました。また、ご自身がドリームファクトリーを発足させた経緯についてもお話しされ、優しい語り口調からも秘めた熱意が溢れ出るような印象を受けました。

 岩倉病院の保田美幸さんは、病院での代理行為の難しさ切り口に、成年後見制度の活用について、身寄りのない患者様への支援事例や、転院しても患者様の利益を守るための実践等についてお話しされました。精神保健福祉士が、成年後見制度の導入に関わる際、単に紹介や繋ぎにとどまらない丁寧な関わり方が大変参考になりました。特に、市長申し立て活用の事例では、本人の病状や意思能力の変化の中で、「本人申し立てが出来たのでは・・・」とお話しされたときは、精神保健福祉士の支援のベクトルは常に多様であるべきなのだということに気づかされました。

 特定非営利法人あさがおの所長尾崎史さんは、法人後見を行っているあさがおの実践から、いくつかのリメイクされた事例を挙げ、法人後見活動の現状を報告して下さいました。全ての人にとって生活の基盤となる経済活動を支える重要性と、日常の関わりからベストな方法を利用者と一緒に見出してゆく前向きな姿勢に感嘆しました。また、特に病院に所属している精神保健福祉士には、組織の利益とのジレンマが起こる場合があり、本人の権利と利益を第一に考えたくても、組織の利益に負けてしまうことがあるというお話には、深く頷く参加者もいました。そして、尾崎さんもその一人であったこと、そういう自分をよく知っていからこそ、あさがおでは、自分を真ん中において利用者に寄り添って仕事をすることが出来る充足感があるとも話されました。「色んな機関の精神保健福祉士さんと一緒に、後見の中身作りに貢献してゆきましょう!」という呼び掛けにホッと安心感を覚えたのは筆者だけではなかったはずです。

 鈴木慈光病院の金成透さんは、前三者の発表の流れを受け、現場で表面化した権利侵害は氷山の一角であり、実際にはどこにでも存在する悪なのだと話されました。また、そのような経緯をふまえて、機関内でやむを得ず発生する金銭管理等の代理行為をより安全にするため、日本精神保健福祉士協会の権利擁護委員会が苦肉の策として『日常的な金銭・貴重品管理に関するマニュアル』の発行に至ったと話されました。また、安全管理は文化の土壌であるというクリニカル・ガバナンスの発想を紹介し、精神保健福祉士にとって"権利擁護感覚"がいかに大切であるかを強調しつつ、シンポジウムで明らかになった現場の実情と課題、そして展望をまとめて下さいました。

おわりに

 アンケートの感想にも「講演とシンポジウムのバランスが良かった。実務レベルの話が多く、具体的で良かった。」とあった通り、全体の流れにストーリーがあり、レベルの高い内容であったと思います。講演者やシンポジストの熱い思いに触発された参加者が次々に手を挙げ、実践的な質疑応答がなされたのもその表れだと思います。また、一方では、「私の地域は地権事業の利用もない地域で、権利擁護に関する意識が低いと感じる。」、「組織化、ネットワーク化ができないものかと思います。地域格差が大きいのでは。」という意見にもみられるように、精神保健福祉士が利用者と一緒に制度利用を進めたくても、地域によって意識や行政の対応にばらつきがあり、円滑に進められず困っているという声もあり、今後の課題のひとつであると感じました。


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