別紙2
社団法人日本精神保健福祉士協会
保険・診療報酬委員会
2010年度時点では、精神保健福祉士は訪問看護ステーションの配置規定がなく、仮に補助事業等により精神保健福祉士が配置されている場合でも、訪問看護ステーションにおける精神保健福祉士が行う活動に対する診療報酬上の評価はないのが実態である。しかし、地域生活の定着や精神疾患を有する患者の生活支援という観点を考えれば、精神保健福祉士が積極的に訪問看護ステーションの活動にかかわる意義は大きいと考えられる。
本調査はそのような活動の意義を確認すべく、精神科医療機関に所属する精神保健福祉士の精神科訪問看護・指導の活動実態を把握することを目的に実施した。
訪問看護を実施する精神科医療機関(以下、医療機関)のうち、社団法人日本精神保健福祉士協会(本協会)の構成員である精神保健福祉士が所属する医療機関に協力依頼を行った。
その結果99か所の医療機関から協力を得られた。また、そこに所属する看護師及び精神保健福祉士に調査に回答していただいた。
99か所の医療機関に所属する看護師及び精神保健福祉士に、2010年9月の1か月間の担当ケースを5ケース抽出していただき、そのケースに関する活動状況について回答をお願いした。結果として955ケースが提示された。また、分析上は、看護師及び精神保健福祉士の活動実態を把握することであるから、活動時間等の計測に際しては、抽出提供していただいたケースの平均値をとり分析をした。
1 事業所調査
2 ケース調査
調査結果を集計した。なお、精神保健福祉士が活動しているケース内容を確認するため、精神保健福祉士から抽出されたケースと看護師から抽出されたケースを分けてあげている。
1 性別
性別に特に偏りはなかった。また、精神保健福祉士と看護師が取り扱っているケースを比較しても有意な違いはなかった。
性別 | 合計 | |||
男性 | 女性 | |||
人数 | 精神保健福祉士 | 264 | 207 | 471 |
看護師 | 235 | 231 | 466 | |
合計 | 499 | 438 | 937 | |
% | 精神保健福祉士 | 56.1% | 43.9% | 100.0% |
看護師 | 50.4% | 49.6% | 100.0% | |
合計 | 53.3% | 46.7% | 100.0% |
2 年齢
50歳代以上の方が全体の約25%を占めた。また、精神保健福祉士と看護師が取り扱っているケースを比較しても有意な違いはなかった。
年代 | |||||
20歳代 | 30歳代 | 40歳代 | 50歳代 | ||
人数 | 精神保健福祉士 | 21 | 58 | 86 | 119 |
看護師 | 24 | 46 | 92 | 101 | |
合計 | 45 | 104 | 178 | 220 | |
% | 精神保健福祉士 | 5.1% | 14.1% | 20.9% | 28.9% |
看護師 | 5.9% | 11.3% | 22.7% | 24.9% | |
合計 | 5.5% | 12.7% | 21.8% | 26.9% |
3 主たる診断名
主たる診断名は73.6%が統合失調症であった。また、精神保健福祉士と看護師が取り扱っているケースを比較しても有意な違いはなかった。
主たる診断名 | 合計 | |||||
統合失調症 | 気分(感情)障害 | 精神作用物質使用 | ||||
職種 | 精神保健福祉士 | 度数 | 345 | 36 | 8 | 462 |
職種の% | 74.70% | 7.80% | 1.70% | 100.00% | ||
看護師 | 度数 | 326 | 49 | 6 | 450 | |
職種の% | 72.40% | 10.90% | 1.30% | 100.00% | ||
合計 | 度数 | 671 | 85 | 14 | 912 | |
職種の% | 73.60% | 9.30% | 1.50% | 100.00% |
4 属性まとめ
精神保健福祉士がかかわっているケースの性別、年齢、主たる診断名といった属性は看護師がかかわっているものと比べて、大きな違いはないといえる 。※1
1 訪問の目的【複数回答】
訪問看護を利用する利用目的については、全体の86.4%が「生活習慣・リズムの確立」のために利用しているとのことであった。次いで、「生活技術、家事能力、社会技能等獲得(60.8%)」が続いた。
精神保健福祉士の持つケースと看護師の持つケースを比較すると「生活習慣・リズムの確立」「生活技術、家事能力、社会技能等獲得」「対人関係改善」に関しては有意な差はないものの、「社会資源活用支援」に関しては、比率の差の検定の結果、有意な差があることが示された。つまり、精神保健福祉士は看護師と比べて、「社会資源活用支援」が必要と判断されるケースの場合、活用される割合が高いということができる。
生活習慣・リズムの確立 | 生活技術、家事能力、社会技能等獲得 | 対人関係改善 | 社会資源活用支援 | ||
人数 | 精神保健福祉士 | 414 | 290 | 295 | 280 |
看護師 | 401 | 281 | 281 | 220 | |
全体 | 815 | 571 | 576 | 500 | |
% | 精神保健福祉士 | 86.80% | 60.80% | 61.80% | 58.70% |
看護師 | 86.10% | 60.30% | 60.30% | 47.20% | |
全体 | 86.40% | 60.60% | 61.10% | 53.00% |
4 訪問看護による目的に沿った変化
それぞれの訪問看護を実施することによって、訪問看護を実施する上での目的が達成されたかどうかを聞いた。以下の表は、訪問看護を実施する対象が「改善された」「やや改善された」を合わせた表である。「生活習慣・リズムの確定」「社会資源活用」の改善効果が約7割、「生活技術、家事能力、社会技能等獲得」「対人関係改善」の改善効果が約6割という結果であった。
また、精神保健福祉士と看護師のケースを比較すると「生活技術、家事能力、社会技能等獲得」について、精神保健福祉士の方が「改善した」と回答する割合が高かった。
5 活動時間 ※2
精神保健福祉士及び看護師が訪問看護で自宅を訪問する際にどの程度時間をかけているかを分析したのが、以下である。
訪問時にかける時間は両者ともおおむね50分程度との結果であった。時間として多く費やしていたのは、「8 精神症状の安定」である。全体の15.1%から20.8%を費やしている。
次いで多いのが、「1 日常生活の支援」である。18%前後の時間が費やされている。他に、「5 日中活動」「13 エンパワメント、傾聴」に関する支援に費やされた時間が全体の10%を超えていた。ここまでの活動で、全体の6割程度の時間を費やしていることになる。
次に精神保健福祉士の活動と看護師の活動の違いをみてみる。精神保健福祉士の方が有意に多くの活動時間を割いているのは「金銭管理の支援」「住環境」に関する支援であった。一方、看護師の方が有意に多くの活動時間を割いているのは「精神症状の対処」「からだの健康」に関する支援であった。また、訪問時以外の支援活動に関しても精神保健福祉士が有意に多くの活動時間を割いていた。
また、訪問時以外の活動に関しては、精神保健福祉士が59.3分、看護師が44.3分の時間を割いていた。両者を比較すると、精神保健福祉士の方が有意に訪問時以外の活動を行っている。
つづいて、それぞれの標準偏差を見てみる。全体を見ると精神保健福祉士が35.5分であり、看護師は24.5分の標準偏差であった。精神保健福祉士は看護師と比べて、有意※3に標準偏差が大きいことから、個々人により費やす時間が看護師と比べて違うことがいえる。この傾向は、「8 精神症状の対処」「10 からだの健康」「XI 仕事・教育」をのぞいて全ての項目で同様の傾向を示した。すなわち、精神保健福祉士の活動時間は看護師と比べ、ばらつきが大きいということができる。
平均時間(分) | 割合 | |||
精神保健福祉士 | 看護師 | 精神保健福祉士 | 看護師 | |
訪問時間平均 | 51.9 | 49.1 | 100.00% | 100.00% |
1 日常生活の支援 | 9.5 | 8.5 | 18.30% | 17.40% |
2 金銭管理の支援 | 3.7 | 2.1 | 7.10% | 4.30% |
3 対人関係支援 | 4.3 | 3.9 | 8.20% | 7.90% |
4 社会生活支援 | 2.1 | 1.5 | 4.10% | 3.10% |
5 日中活動 | 7.7 | 7 | 14.90% | 14.30% |
6 住環境 | 1.5 | 0.5 | 2.80% | 1.00% |
7 家族関係調整 | 3.4 | 2.6 | 6.60% | 5.20% |
8 精神症状の対処 | 7.8 | 10.2 | 15.10% | 20.80% |
9 危機介入 | 1.9 | 1.8 | 3.70% | 3.70% |
10 からだの健康 | 2.7 | 4.1 | 5.20% | 8.30% |
11 仕事・教育 | 0.6 | 0.6 | 1.20% | 1.30% |
12 家族支援 | 1.1 | 1.1 | 2.10% | 2.30% |
13 エンパワメント、傾聴 | 5.6 | 5.1 | 10.70% | 10.50% |
訪問時以外の業務 | 59.3 | 44.8 | - | - |
精神保健福祉士が関与しているケースは金銭管理や住環境整備といった支援が、看護師が訪問する場合よりも多くの時間を割いていることが明らかになった。その一方、看護師は精神症状の安定やからだの健康のための支援に時間が割かれているといえる。
今回の調査では、当初の調査目的であった精神保健福祉士が訪問することで得られる具体的な効果まで見出すことができなかった。今後は精神保健福祉士が訪問することによる具体的な効果を見出せるような調査を行いたい。
※1 ただし、今回の調査では疾患の重症度まで十分に追うことができていないので、重症度の違いがあることは否定できない。
※2 以下の内容をそれぞれのケースごとに合算し平均値及び標準偏差を計算した。
1 日常生活の支援 | 「食生活・栄養の取り方・調理に関する支援」「更衣・洗顔・入浴・着替え・排泄などの清潔の支援」「選択・清掃・害虫駆除などの支援」「買い物に関する支援」「生活器具の使い方・修理・準備に関する支援」「安全確保(火器・防火・防犯等)に関する支援」 |
2 金銭管理の支援 | 「生活費の使い方に関する支援」「生活保護費や障害年金の受取り等に関する支援」 |
3 対人関係支援 | 「近隣の人間関係への援助」「知人・友人関係への援助」「異性関係への援助」「医療・福祉スタッフとの関係性への援助」 |
4 社会生活支援 | 「交通機関の利用や移動に関する支援」「電話・郵便・インターネットなどの通信利用の支援」「銀行・郵便局・公的機関の利用・手続きの支援」 |
5 日中活動 | 「日中の過ごし方や生活リズムに関する支援」「趣味・余暇活動(散歩や音楽等)に関する支援」「日中活動の場への参加・継続の支援」 |
6 住環境 | 「住む場所を確保することに関する支援」「引っ越しに関する支援」「住環境を保つための支援(修繕・大家交渉等)」 |
7 家族関係調整 | 「家族との付き合い方に関する本人への支援」「本人との付き合い方に関する家族への支援(本人同席)」 |
8 精神症状の対処 | 「精神症状を安定させるための援助」「薬を飲むことに関する援助」「通院に関する援助」「副作用の対処」 |
9 危機介入 | 「自傷他害に対する働きかけ」「症状悪化・心理的混乱に関する支援」「入院関連対応」「家族などの支援者に対する働きかけ」 |
10 からだの健康 | 「からだの病気・症状に関する支援」「からだの病気・症状に関する病院(一般科)利用の支援」 |
11 仕事・教育 | 「一般就労に関する支援」「保護的就労に関する支援」「教育・修学に関する支援」 |
12 家族支援 | 「本人との付き合い方に関する支援」「家族自身の困難への援助」 |
13 エンパワメント、傾聴 | 「漠然とした不安や相談の傾聴」「肯定的フィードバック」 |
訪問時以外の業務 | 「アセスメント実施」「支援計画作成」「ケア会議のコーディネート」「ケア会議への出席」「社会資源やサービス利用調整(医療機関内、医療機関連絡、同行支援)」「対象者への相談支援(電話・面接)」「家族関係調整(電話・面接)」「インフォーマルな資源(近隣等)との連絡調整」 |
※3 各項目について等分散性の検定を行った。
平均時間に対する標準偏差(分) | ||
精神保健福祉士 | 看護師 | |
全体 | 35.5 | 24.5 |
1 日常生活の支援 | 13.5 | 10.1 |
2 金銭管理の支援 | 8.6 | 3.9 |
3 対人関係支援 | 7.5 | 5.9 |
4 社会生活支援 | 5.4 | 4.4 |
5 日中活動 | 9.5 | 7.7 |
6 住環境 | 5.8 | 2.6 |
7 家族関係調整 | 6.4 | 4.7 |
8 精神症状の対処 | 8.8 | 11.1 |
9 危機介入 | 14.2 | 4.3 |
10 からだの健康 | 5 | 7.7 |
11 仕事・教育 | 2.4 | 3.5 |
12 家族支援 | 4.2 | 3.6 |
13 エンパワメント、傾聴 | 9.1 | 8.2 |
訪問時以外の業務 | 91.2 | 82.8 |