要望書・見解等

2024年度


標題 第4次犯罪被害者等基本計画見直しに向けた要望・意見
日付 2024年8月30日
発翰番号  JAMHSW発第24-224号
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子
提出先  警察庁 長官官房 犯罪被害者等施策推進課 御中
 
 平素より本協会事業に格別のご理解、ご協力を賜り、感謝申しあげます。
 第4次犯罪被害者等基本計画の見直しに関して、同計画の重点課題及び具体的施策に沿って、下記のとおり本協会の意見・要望を提出いたしますのでご高配のほどよろしくお願いいたします。

 
  1.重点課題 「第2 精神的・身体的被害の回復・防止への取組」について

(1)「PTSD対策専門研修」の内容の充実等
 PTSD対策専門研修では、様々なコースがあり大変有意義である。全体的に治療に関する講義が多い印象があるが、制度や支援組織といった被害者を支える制度やサービスに関する講義も盛り込むことについて検討いただきたい。とくに、「犯罪・性犯罪被害者コース」については、医療のみならず司法や支援機関における実際の支援がイメージできるような講義が含まれることが望ましいと考える。

(2)犯罪被害者等への適切な対応に資する医学教育の推進
 医学教育に限定せず、保健分野(看護師・保健師・助産師)及び福祉分野(社会福祉士・精神保健福祉士・介護福祉士)の専門職養成教育においても、養成カリキュラムを通じて、犯罪被害者等の精神的被害、生活再建に必要な支援について、知識と支援のあり方の理解を深めるための教育を推進する必要があると考える。

(3)犯罪被害者等に関する専門的な知識・技能を有する専門職の養成等
 公益社団法人日本社会福祉士会、公益社団法人日本精神保健福祉士協会等の職能団体に働き掛け、犯罪被害者等に関する専門職の養成に取り組む姿勢は評価できる。現任者においては被害者支援に従事している者が限られていることから、人材の裾野を広げる研修機会の提供に対して補助等を検討いただきたい。
また、現任者への研修等を充実させていくことと同時に、これから専門職につく者への犯罪被害者支援の知見の共有が急務と考える。社会福祉士と精神保健福祉士の養成課程においては「刑事司法と福祉」の科目が設定されているが、教育に含むべき事項については、いわゆる加害者支援と犯罪被害等支援がバランスよく盛り込まれることが望まれる。

(4)医療観察制度における加害者の処遇段階等に関する情報提供の適正な運用
 加害者の情報提供制度については、申出の手続において、「提供を希望する都度申出を要する」から「一度申出をすれば継続して情報提供を受けることができる」よう通達改正が行われたが、依然として、提供される内容は被害者等が求める内容とはなっておらず不十分であること、通達改正後もなお、申出のためには、原則として保護観察所に行くことが求められるなど、利用者に負担を強いる運用となっていることから、これらの改善を要望する。

(5)児童虐待の防止及び早期発見・早期対応のための体制整備等
ア.体制整備においてスクールソーシャルワーカー(以下、「SSW」)の更なる充実・活用が求められる。その前提に身分保障の問題があり、SSWの正規雇用化を進めることが必要と考える。
イ.「児童虐待の防止及び早期発見・早期対応のための体制整備等」や「学校内における連携及び相談体制の充実」に関連して、SSWの効果的な配置形態の促進も検討していただきたい。全国的には市町村配置も多くみられるが、いまだ都道府県の教育事務所のみの配置箇所もみられる。
 市町村の相談支援機能を一体化したこども家庭センターがスタートしたことを契機にSSWの市町村配置をより充実させ、こども家庭センターと連携した市町村の体制づくりと、拠点巡回型もしくは配置型によって予防型の校内相談体制の充実を促進していくことが必要と考える。
ウ.児童福祉法改正により創設された認定資格である「こども家庭ソーシャルワーカー」の資格取得を促進し、児童相談所及び市町村こども家庭センター等への配置を進めていくことが必要と考える。
エ.相談体制の整備において、行政をはじめとする体面による相談窓口の開設時間を、児童生徒が放課後等に相談しやすい時間帯に設定することを検討いただきたい。
オ.加害・被害の関係で、SSW及びスクールカウンセラーの充実とともに、教員の対応力の向上に資するため教員養成課程において、こどもの加害・被害への対応に関するカリキュラム等の設定が必要と考える。

  2.重点課題 「第3 刑事手続への関与拡充への取組」について

(1)地方公共団体における専門職の活用及び連携・協力の一層の充実・強化
 地方公共団体における犯罪被害者等のための総合的対応窓口については、福祉専門職が配置されていない部署に設置されていることが多い現状にある。そのため、庁内における犯罪被害者支援の周知、福祉専門職が配属されている部署との連携を強化し、人材の確保と活用を進める必要がある。その際には、地方公共団体の福祉専門職の人材難も考慮し、国からの地方財政措置等を行うべきであると考える。

(2)被害者支援連絡協議会及び被害者支援地域ネットワークにおける連携の推進
 地方公共団体において福祉専門職を活用及び連携・協力をするにあたり、被害者支援連絡協議会のメンバーとして、その職能団体の長に参加要請を出すなどすることで、福祉専門職全体への被害者支援の理解を浸透させていくことが望まれる。
 また、その組織の長が参加する会議体のみならず、現場の職員が架空事例等を用いた研修を定期的に行うことも必要である。そこには、支援コーディネートやケアマネジメントの知見を持った福祉専門職のスーパーバイザー(助言者)を置くことを、職能団体と連携して進めることが必要であると考える。

(3)検察庁の犯罪被害者等支援活動における福祉・心理関係の専門機関等との連携強化
 検察庁においては、再犯防止の観点から福祉専門職の雇用により被疑者のサポートを行っているが、被害者の相談は寄せられることが少ないと聞き及んでいる。しかしながら、実際には被害者はSOSを出せないだけで、被害後に多様な課題や問題を抱えていることがわかっている。今後、検察庁において、再犯防止のための福祉的対応に加え、被害者対応を専属で行う福祉専門職の配置を行うことが求められる。
また、検察庁で行う被害者等支援については支援期間が制約されるため、被害者支援センターなど継続的な支援につながる体制整備が必要になると考える。

(4)新たな具体的施策として「刑の執行段階及び保護観察段階における心情等聴取・伝達制度や、仮釈放等審理における意見等聴取制度における配慮」を加えていただきたい。
 法務省において、犯罪被害者等が各制度を安心して利用できるよう、犯罪被害者等の精神的状況等を適切に理解し、適切な支援を行うことができる専門性を有する者(精神保健福祉士や弁護士等)の同席等を促進することを提案する。

  3.重点課題 「第4 支援等のための体制整備への取組」について

(1)ワンストップ支援センターの体制強化
 都道府県におけるワンストップ支援センターが犯罪被害者等の支援に関して、当該地域の行政機関・教育機関・医療機関等及び社会福祉士・精神保健福祉士等関係団体とネットワークを強化し、切れ目のない支援を構築できるように体制を強化する必要がある。

(2)市町村における被害者相談体制の整備について
 身近な相談機関として、市町村における被害者等の相談窓口の整備は必須であるが、とりわけ性被害など被害の内容によっては地元の市町村での相談を躊躇うこともある。そのため、市町村に相談をしにくい状況を抱えた者に対する広域的な相談体制の整備について検討いただきたい。
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標題 旧優生保護法国賠訴訟の最高裁判決に対する声明
日付 2024年7月10日
発信者 日本ソーシャルワーカー連盟(JFSW)/公益社団法人日本社会福祉士会 会長 西島善久、公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子、公益社団法人日本医療ソーシャルワーカー協会 会長 野口百香、特定非営利活動法人日本ソーシャルワーカー協会 会長 保良昌徳
 
https://jfsw.org/2024/07/10/3597/

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標題 薬物依存をめぐる報道に、熟慮を求める要請書
日付 2024年6月13日
発翰番号  JAMHSW発第24-119号
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子
提出先  報道機関各位
 
 薬物依存からの回復を支援する民間施設「木津川ダルク」(京都府木津川市)の入所者3人が覚醒剤取締法違反(自己使用)の疑いで京都府警に逮捕されたことを、関西の主な新聞社と一部のテレビ局が、5月8日から9日にかけて、大きく報道しました。
 この報道を受け、依存症者をはじめとするメンタルヘルスの課題を抱えた人の支援や、そうした人々に対する差別・偏見の解消を目指して活動する精神保健福祉士の職能団体として以下の通り要請します。

1.薬物依存症の回復支援施設の役割を理解してください。
 一部の薬物の使用が、刑事処罰の対象になっていることの当否は、意見の分かれるところですが、少なくとも刑罰だけで薬物依存の問題を解決することはできません。
 依存症を病気ととらえて、回復を支援するしくみが必要です。実際に、医療機関での治療やリハビリテーションに加えて、特に薬物依存の分野では「ダルク」をはじめとする民間の回復支援施設が地域社会において大きな役割を担ってきました。そうした場では、説教したり責めたりするのではなく、「今日一日だけやらないで過ごす」ことの積み重ねを仲間同士で支え合います。その過程でスリップ(再使用)してしまう人が出ることは、しばしばあることです。もしスリップしてしまっても、そのことを正直に明かせる場であることが重要であり、正直に話すことができる環境こそが回復を助けます。
 ダルクなどの回復支援施設は、立地について周辺住民からの反対を受け、新設や維持が困難になることもあります。もし、今回のような報道によって、薬物依存に対して住民・市民の危険視のみが高まり、回復支援施設の運営が困難になるとすれば、薬物依存対策に大きなマイナスの影響を与えることになります。今回の報道の目的はそうしたところには無いはずだと思います。

2.薬物依存症は回復できる病気です。回復を軽視した報道は看過できず、熟慮をお願いします。
 今回の事件は、自己使用です。回復支援施設のスタッフが違法薬物を売ったとか使用を勧めたといったことならともかく、施設利用者がスリップして自己使用したことに、どれほどのニュース性があるのか、その吟味は十分になされたでしょうか。
 また、犯罪報道において実名報道が原則だとしても、今、回復に取り組んでいる依存症の容疑者の実名を報道することにどれだけの意味があるでしょうか。事件によって、ことの軽重や社会的意味の有無は異なります。具体的なケースに応じて、柔軟な対応があってしかるべきと考えます。
 依存症者が何かに依存する理由は苦痛を避けるためであり、自分で生きづらさや苦しさの気分を直そうとする「自己治療仮説」という考え方は、依存症支援の専門家にはよく知られています。依存問題を抱える当事者は、何度も失敗しながら回復し、自分の人生を生きなおすプロセスをたどります。
 報道機関におかれましては、警察の動きのみに注視することなく、個々の事件が持つ社会的意味を吟味し、生きづらさを抱えた社会的弱者に対して報道が与える影響の大きさを十分に考慮して、取り扱いを見直していただくことを要請します。それとともに、各種の依存症と回復の実情について、深く掘り下げた取材報道を行ってください。もちろん、そうした取材や報道を行っている関係者がいることを私たちは知っています。
 誰もが安心して生きることのできる共生社会の実現に向けて、報道機関のみなさまと協働できることを期待しております。

 なお、本協会では、2020年10月に「精神障害と事件報道に関するメディアへの提案」を発出しております。既にお目通しくださった方もおられるかもしれませんが、改めてお読みいただけると幸いです。
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標題 「共同親権」の導入を柱とした民法等の改正案における「子どもの権利」に関する声明
日付 2024年5月10日
発翰番号  JAMHSW発第24-69号
発信者 公益社団法人日本社会福祉士会 会長 西島善久、公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子、特定非営利活動法人日本ソーシャルワーカー協会 会長 保良昌徳
 
 「共同親権」の導入を柱とする民法等の改正案が、4月19日の参院本会議で審議入りしました。親権をめぐる家族法制の見直しは77年ぶりのことであり、今国会での成立後は、2026(令和8)年までに施行されることとなります。

 現在、我が国は家族に係わる問題が複雑化・多様化しています。様々な対策も行われておりますが、家族間暴力や子どもへの虐待の問題は年々増え続けており、喫緊の課題となっています。このような現状の中、民法等改正案の「共同親権」に関して、グローバル化の進展の中、当事者である子ども自身の権利擁護のための議論が充分尽くされていないのではないかと懸念されています。

 「令和4年度 離婚に関する統計」人口動態統計特殊報告によると、有配偶離婚率は2003(平成15)年をピークに減少傾向が続いているものの、未成年の子がいる割合は6割となっています。離婚の種類別割合は協議離婚が全体の約9割を占めていますが、他方で、近年は離婚調停の不成立により、家庭裁判所の職権による審判離婚が増えている傾向にあり、離婚にまつわる問題が複雑化・多様化していることがうかがえます。

 また、警察庁の調べでは、2023(令和5)年の配偶者からの暴力等の相談件数は約9万件であり、配偶者暴力防止法施行後、最多の件数となっています。暴力事案等の被害者は7割以上が女性であり、加えて、児童虐待における心理的虐待のうち「面前DV」によるものが5万件を超え、こちらも過去最多の件数となっている状況があります。

 「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」では、子どもはまもられるだけの対象ではなく、ひとりの人間として様々な権利を認めること、成長の過程にある子どもが権利をもつ主体であることについて明記しています。「子どもの最善の利益」とは、親のどちらかが子どもに望むことではなく、子どもの最善の利益をどのように保障するかについて決定することであり、あらゆる場面において優先して考慮されるべき原則です。

 要綱案には家庭裁判所が「子どもの利益」を考慮するとされていますが、親権の決定過程からその後の生活保障に至るまで、当事者である子どもの権利がどのように保証され得るのか、子どもの自己決定権や、子どもの意見がどのように表明・反映されるのかということについて、改正案自体に対する子どもたちの意見反映も含め、具体的な議論を充分に尽くす必要があります。 

 わたしたちは、社会福祉士、精神保健福祉士などのソーシャルワーク専門職で組織された団体です。ソーシャルワーカーは、すべての人が人間としての尊厳を有しており、価値ある存在であり、平等であることを深く認識し、社会福祉に関する専門的知識および技術をもって、福祉に関する相談や関係者との連携・調整、その他の援助を行っています。

 今回の民法等の「共同親権」に関する改正案につきまして、「子どもの最善の利益」がまもられるよう慎重な議論を求めます。
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