要望書・見解等

2013年度


標題 「生活保護法施行規則の一部を改正する省令(案)」の抜本修正を求める声明
日付 2014年3月13日
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 柏木 一惠

 厚生労働省は、本年2月27日、「生活保護法施行規則の一部を改正する省令(案)」(以下、「省令案」という。)の概要を発表し、3月28日を期限としてパブリックコメントを募集している。これは、昨年12月に成立した「生活保護法の一部を改正する法律」(以下、「改正生活保護法」という。)について、本年7月からの本格施行を前に行われる規則改正に関するものである。

 改正生活保護法については、申請手続の厳格化等によって、いわゆる「水際作戦」を合法化するとの批判や懸念が各方面からあがり、国会審議においては、これらの批判や懸念を解消する方向での法文修正、答弁、附帯決議などがなされたところである。しかしながら、省令案は、以下の諸点において、これらの法文修正等の意義を没却する看過し難い内容を含んでおり、生活保護申請時の窓口対応によって不幸な結果に至った数々の事案が過去発生していることに鑑みても、到底容認できない。

 第1に、改正生活保護法第24条第1項は、従来、口頭でも良いとされていた申請について申請書の提出を必須とするように読める内容であったため批判を招いた。そこで、申請行為と申請書の提出行為が別であることを明確にする法文修正が行われ、参議院厚生労働委員会附帯決議でも「申請行為は非要式行為であり、・・・口頭で申請することも認められるというこれまでの取扱い・・・に今後とも変更がないことについて、省令、通達等に明記の上、周知する」とされたのである。

 ところが、省令案は、「保護の開始の申請等は、申請書を・・・保護の実施機関に提出して行うものとする」として、修正前の法文とほぼ同内容の表現に戻されており、原則として口頭申請は認められないという誤解を招く内容となっている。

 また、省令案は、「ただし、身体上の障害があるために当該申請書に必要な事項を記載できない場合その他保護の実施機関が当該申請書を作成することができない特別の事情があると認める場合は、この限りではない」として、口頭申請が認められる場合が身体障害等の場合に限定されるように読める内容となっており、現行の運用指針(生活保護手帳別冊問答集問9−1「口頭による保護申請について」)よりも後退している。

 さらに、改正第24条第1項ただし書は、単に「当該申請書を作成することができない特別な事情があるときは」という表現であるのに、省令案は、「保護の実施機関が当該申請書を作成することができない特別の事情があると認める場合は」として、特別の事情の有無の判断権を実施機関に委ねる表現へと後退している。

 第2に、改正生活保護法第24条第2項は、従来、保護決定までの間に可能な範囲で行えばよいとされていた要否判定に必要な書類の提出について、申請書にすべて添付しなければならないように読める内容であったため批判を招いた。そこで、これまでの取扱いに変更がないことを明確にするためにただし書を設けるという法文修正が行われ、国会答弁を踏まえて前記附帯決議でも「要否判定に必要な資料の提出は可能な範囲で保護決定までの間に行うというこれまでの取扱いに今後とも変更がないことについて、省令、通達等に明記の上、周知する」とされた。しかし、省令案には、この点に関する記述が一切存在せず、国会答弁や附帯決議に反している。

 第3に、改正生活保護法では、扶養義務者に対する通知義務を定めた第24条第8項、扶養義務者に対して報告を求めることができるという第28条が新設されたが、扶養義務者に対する扶養の要求が強められ、事実上扶養できないことが保護の前提条件とされるのではないかとの批判を招いた。これに対し、厚生労働省の会議資料や国会答弁では、「福祉事務所が家庭裁判所を活用した費用徴収を行うこととなる蓋然性が高いと判断するなど、明らかに扶養が可能と思われるにもかかわらず扶養を履行していないと認められる極めて限定的な場合に限ることにし、その旨厚生労働省令で明記する予定である」と繰り返し説明されていた。ところが、省令案では、原則として通知や報告要求を行うが、「保護の実施機関が、当該扶養義務者に対して法第77条第1項の規定による費用の徴収を行う蓋然性が高くないと認めた場合」等に例外的に通知等を行わないものとしている。これは、原則と例外を完全に逆転させるものであって、背信的とさえ言える。

 以上のとおり、本省令案には、重大な問題が多々含まれており、生活保護を必要とする市民をいたずらに萎縮させ日本国憲法第25条で保障されている生存権を脅かしかねない。生活困窮者の支援に取り組む専門実務家団体として、当会は、本省令案の内容を到底容認できず、上記の国会答弁や附帯決議等を真摯に反映させた内容に抜本的に修正することを求めるものである。
 

【PDF版】 「生活保護法施行規則の一部を改正する省令(案)」の抜本修正を求める声明(163KB)

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標題 介護保険制度の見直しに係る要望書
日付 2014年1月9日
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 柏木 一惠
提出先 厚生労働省 老健局長 原 勝則 様


 時下、ますますご清祥のこととお慶び申しあげます。
 平素より、わが国の高齢者の生活支援に関する諸制度施策の発展充実にご尽力をいただいておりますことに、衷心より敬意を表します。
 さて、先般、社会保障審議会介護保険部会において「介護保険制度の見直しに関する意見」が取りまとめられ、貴局におかれましては2016年度の介護保険制度改正に向けた準備が進められていることと認識しております。特に、地域包括ケアシステムの構築に向けた地域支援事業の見直しに関しては、認知症高齢者や高齢精神障害者の支援にあたる専門職団体として重大な関心を寄せているところです。
 つきましては、次期介護保険制度の改正に向けて、下記の点につきまして、要望をさせていただきます。ぜひ、実現に向けてのご検討ご高配をお願いいたします。

 
  ≪要望事項≫
 地域包括支援センター(以下、「センター」という。)の人員体制を見直すにあたっては、機能強化の観点から精神保健福祉士も配置できる規定としてください。また、基幹となるセンターや機能強化型のセンターを法的に位置付ける際には精神保健福祉士を必置としてください。


≪理由≫
1.今後急増する認知症を含む高齢精神障害者等への対応には、精神保健医療福祉との連携支援が不可欠です。

 介護保険部会の意見は、センターに対する人員体制を業務量に応じて適切に配置することが必要であること、「在宅医療・介護連携の推進」、「認知症施策の推進」等を図る中で、それぞれのセンターの役割に応じた人員体制の強化等を図る必要があることを指摘しています。
 特に、増え続ける認知症施策の充実強化や精神科病院に入院中の高齢精神障害者の地域移行を推進していくに当たっては、精神科医療機関をはじめとする精神保健医療福祉との連携の強化が欠かせなくなります。
 このことは12月18日に公表された「良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針案」(社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課)において、関係行政機関等の中で市町村の役割に「障害福祉サービスや介護サービスの必要な提供体制を確保するとともに、地域包括支援センターで高齢者の相談に対応するなど、これらのサービスの利用に関する相談に対応する。」との記載があるようにセンターが重要な資源として求められていることが確認できます。

2.地域づくりのコーディネートにはソーシャルワークの専門性が求められます。

 今後は、市町村による新しい地域づくりの推進において、生活支援サービスを担う事業主体の支援体制の充実・強化のためにコーディネーターの配置が計画されているところです。コーディネート業務には、個別支援に関するアセスメントやニーズ把握などのミクロレベルから、地域診断に基づく公私の資源開拓や創設、連携や協働、地域の支援基盤の整備に関する計画、立案、モニタリングなどのマクロレベルの技術的支援が行えることなど、ソーシャルワークの専門性が求められることから、精神保健福祉士等ソーシャルワーカーが有効です。精神保健福祉士は精神障害者の地域移行に関して地域体制整備を担う経験などを有してきています。

3.精神保健福祉士の活用は以下の点で有効です。

 精神保健福祉士は、精神保健医療福祉分野のソーシャルワーカーとして、生活支援の立場や視点に専門性を持ち、医療チームの中にあっては他職種と連携しながら、時に判断能力の困難を抱える方の自己決定や権利擁護支援に携わり、実績と研鑽を積み重ねてきました。
 また、精神保健福祉士の養成カリキュラムにおいては、精神保健福祉士に求められる役割(治療中の精神障害者に対する相談援助、地域移行の支援、地域生活の維持・継続の支援、関連分野における精神保健福祉の多様化する課題に対し、相談援助を行う役割)を十分に発揮できるよう教育をする観点から、精神科病院等の医療機関における実習を必須としていることからも、今後ますます期待される介護と医療との連携において、その役割を果たせる専門職であると言えます。
 この間「市町村認知症施策総合推進事業」における認知症地域支援推進員の対象職種や認知症初期集中支援チームの配置職種として精神保健福祉士が含まれていることに関しても、認知症施策の推進等に精神保健福祉士が寄与できる職種として評価されてのことと認識しております。
 なお、本協会の構成員においても、精神保健や精神障害者の福祉に関する専門性発揮の必要性から、100名を超える精神保健福祉士がセンターで勤務している実態がありますが、そのほとんどは社会福祉士の資格も有する者として従事しています。センターの配置職種に精神保健福祉士が加わることで、多様な機能が求められるセンターの充実強化を図ることが可能となると考えます。
  以上
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標題 改正精神保健福祉法の施行事項に関する意見・要望
日付 2013年11月25日
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 柏木 一惠
提出先 厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 部長 蒲原 基道 様
精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会  座長 樋口 輝彦 様


 平素より本協会事業にご理解、ご協力を賜り、深く感謝申しあげます。
 去る11月11日に開催された障害保健福祉関係主管課長会議において、精神・障害保健課から「改正精神保健福祉法の施行について」の資料説明がありました。本内容については第7回の指針等に関する検討会でも議題に挙がっており、時間的制約を伴う議論を有効に行うために、意見を資料として提出させていただく次第です。よろしくお願いいたします。

■提案(意見および要望)■

1.退院後生活環境相談員(新33条の4)

1)退院後生活環境相談員となる者の資格について
 退院後生活環境相談員は、原則として精神保健福祉士とするべきである。

2)配置・業務について
(1)1人の退院後生活環境相談員が担当する医療保護入院者数は原則として30人までを目安とし、「精神科救急入院料」及び「精神科救急・合併症入院料」を算定する病棟への入院の場合は、20人までを目安とすること。将来的にはいずれの病棟に入院している医療保護入院患者を退院後生活環境相談員が担当する目安を20人までとすることが望ましい。
(2)退院後生活環境相談員の業務を実効性のあるものとするために、精神保健福祉士の配置に関する診療報酬上の評価の新設が求められる。
(3)退院後生活環境相談員の業務については、本協会作成の「精神保健福祉士の業務指針」及び「『社会的入院者への働きかけ』実践ガイドライン」(現在作成中)を参考として、ガイドラインを作成すること。
(4)退院後生活環境相談員の業務に、医療保護入院者退院支援委員会の事務局(コーディネーターおよび記録等)機能を持たせることが望ましい。
(5)退院後生活環境相談員には、一定の研修を受講することを要件とするべきである。

2.地域援助事業者(新33条の5)

1)市町村の関与の必要性について
 地域援助事業者が相談支援を行うに当たっては、市町村が関与する規定を設けるべきである。
2)紹介の方法について
 地域援助事業者の紹介に関する書面交付は、退院後生活環境相談員がすべての医療保護入院者に対して口頭での説明を加えて行うことが望ましい。

3.医療保護入院者退院支援委員会(新33条の6)

1)対象者について
 名称を「医療保護入院者等退院支援委員会」として、当該委員会の対象者を以下の通りとすることが望ましい。
(1)入院後1年を経過するまでの医療保護入院者
(2)入院後1年以上経過しているすべての医療保護入院者(審査時期は入院後1年を経過する時と、その後1年を経過するごと)とし、「病院の管理者が必要と認める」は外すこと
(3)入院後1年以上経過しているすべての任意入院者(審査時期は入院後1年を経過する時と、その後2年を経過するごと=任意入院同意書の再提出時期)
  (3)について省令規定が困難な場合は通知とすること。

2)メンバー構成について
(1)医療保護入院者本人の参加を原則とするべきである。
(2)地域援助事業者の参加を必須とするべきである。
(3)保健所の精神保健福祉担当職員も可能な限り参加することとすることが望ましい。

4.書式や様式について(新33条の6)

1)定期病状報告書について
 定期病状報告書を定期病状等報告書に変え、「退院に向けた取組の状況」欄の記載は、退院後生活環境相談員の責務とするべきである。

2)医療保護入院者等退院支援委員会記録について
(1)出席者欄に、地域援助事業者と市町村や保健所のチェック欄を設定すること。
(2)「推定された入院期間」以下の記載事項の内容と順番を、以下のように変更することが望ましい。
 (1)本人の希望や家族の意向
 (2)入院中の退院に向けた取り組み状況
 (3)退院を難しくしていること(社会環境や支援体制も含め)もしくは課題
 (4)退院に向けて必要な支援(ソフト・ハード面)や改善課題(何があれば退院が可能となるのか)
 (5)入院継続の必要性と新たに設定される推定入院期間

■補完説明資料■

1.退院後生活環境相談員(新33条の4)
1)退院後生活環境相談員となる者の資格について

[意見]
退院後生活環境相談員は、原則として精神保健福祉士とするべきである。

[理由]
(1)退院後生活環境相談員の職務は、「医療保護入院者の退院後の生活環境に関し、医療保護入院者及びその家族等からの相談に応じ、及びこれらの者を指導する」ことにあり、医療保護入院者の早期退院に向けた環境調整(生活環境のアセスメント、本人の希望と家族の意向の調整、居住環境の調整、障害福祉サービス等の利用支援、経済的問題解決の支援等)が主たる役割となる。
精神保健福祉士は、長期入院や社会的入院の解消を図り精神障害者の社会復帰を促進するために国家資格化され、「地域相談支援の利用に関する相談その他の社会復帰に関する相談に応じ、助言、指導、日常生活への適応のために必要な訓練その他の援助を行うことを業とする」(精神保健福祉士法第2条)ことから、退院後生活環境相談員の業務は正に医療機関の精神保健福祉士が担うべき役割・機能である。
(2)今般の法改正では、「地域生活中心」の理念に基づき、新たな社会的入院を生まないための仕組みとして退院後生活環境相談員を創設したと理解している。このことに鑑みて、例えば病棟や外来、訪問部門等に配置されている看護師が本務の傍らで退院後生活環境相談員を兼務することには、相当な違和感を覚える。そのため、保健師、看護師、作業療法士を退院後生活環境相談員の対象とする場合においても、精神障害者に関する業務に従事した経験を有し、なおかつ退院支援部署等の専従であるものとすべきである。
(3)社会福祉士を対象資格とすることには反対である。
現在の診療報酬体系におけるソーシャルワーカーの位置づけは、一般医療は社会福祉士、精神科医療は精神保健福祉士と明確に区分される傾向にあり、精神科医療改革の根幹をなす退院後生活環境相談員は精神保健福祉士を対象とすべきである。
(4)退院後生活環境相談員は、専門的な知識・技術と専門職としての倫理綱領を有している国家資格者であることをもって最低限の質を担保することとなるため、資格を有さない者は対象から除外するべきである。

2)配置・業務について

[意見]
(1)1人の退院後生活環境相談員が担当する医療保護入院者数は原則として30人までを目安とし、「精神科救急入院料」及び「精神科救急・合併症入院料」を算定する病棟への入院の場合は、20人までを目安とすること。将来的にはいずれの病棟に入院している医療保護入院患者を退院後生活環境相談員が担当する目安を20人までとすることが望ましい。
(2)退院後生活環境相談員の業務を実効性のあるものとするために、精神保健福祉士の配置に関する診療報酬上の評価の新設が求められる。
(3)退院後生活環境相談員の業務については、本協会作成の「精神保健福祉士の業務指針」及び「『社会的入院者への働きかけ』実践ガイドライン」(現在作成中)を参考として、ガイドラインを作成すること。
(4)退院後生活環境相談員の業務に、医療保護入院者退院支援委員会の事務局(コーディネーターおよび記録等)機能を持たせることが望ましい。
(5)退院後生活環境相談員には、一定の研修を受講することを要件とするべきである。

[理由]
(1)現状における、医療保護入院者数、医療機関に従事する精神保健福祉士数、及びそれらの病院による格差を勘案して、法施行の時点では、1人の退院後生活環境相談員が担当する医療保護入院者は30人を上限とすることが妥当と考える。また、将来的には精神病床が漸減していくことから、手厚い配置が可能となる。


○2011年6月30日現在の医療保護入院者数133,096人[630調査]
○2011年6月30日現在1年以上の医療保護入院患者数84,599人[630調査]
○2012年度の医療保護入院届出数(現行法第33条の第1項入院)156,006件(1月につき13,000件)[衛生行政報告例]
○医療機関に従事する精神保健福祉士数(常勤換算)
 2012年10月1日現在 8090.7人(精神科病院5784.7人)[病院報告]
 ※精神科デイ・ケア等の外来部門に従事する者が含まれている。
○医療保護入院者に対する配置数別退院後生活環境相談員の必要数
 〈担当数〉  〈退院後生活環境相談員数(月平均の1人あたり新規入院担当数)〉
  50対1 →  2,662人(新規入院5人)
  30対1 →  4,436人(新規入院3人)
  20対1 →  6,655人(新規入院2人)


(2)退院後生活環境相談員の配置基準を30対1とした場合、「精神科救急入院料」「精神科救急・合併症入院料」を算定する病棟では、医療保護入院者の割合が高いものの、施設 基準に2人以上の精神保健福祉士の配置規定があるため、当該病棟配置の精神保健福祉士が退院後生活環境相談員を担うことで特に支障はないと考える。それ以外の病棟では、50床に対して1人以上の精神保健福祉士を配置しないと、退院後生活環境相談員としての業務を円滑に遂行することが困難となる。このため、精神保健福祉士の配置に係る診療報酬上の評価を新設することが求められる。

(3)日本精神保健福祉士協会は現在「精神保健福祉士業務指針」の改訂作業(第2版)を行って おり、精神保健福祉士の個別支援業務を以下の通り分類する予定としている。
<個別支援>
・所属機関のサービス利用に関する支援援助
・所属機関外のサービス利用に関する支援/情報提供
・受診/受療に関する支援
・受療上の問題調整
・所属機関のサービス利用中の問題調整
・退院/退所支援
・経済的問題解決の支援
・居住支援
・就労(社会参加)に関する支援
・雇用における問題解決の支援
・教育問題調整
・家族関係の問題調整
・対人関係/社会関係の問題調整
・生活基盤の形成支援
・心理情緒的支援
・疾病/障害の理解に関する支援
・権利行使の支援
また、「『社会的入院者への働きかけ』ガイドライン」(現在策定中)も参考としていただきたい。

(4)現在も既に退院支援に携わるスタッフがいるが、退院後生活環境相談員の業務の明確化と医療保護入院者退院支援委員会の開催や運営に関するコーディネーター役の明確化により、責任の所在や業務および役割分担の不明瞭化を防ぐことが可能となる。あわせて、退院後生活環境相談員が業務を遂行するうえで資質向上への意欲喚起にもつながると考える。

(5)医療保護入院者の早期退院支援の取り組みを、一定の水準を保ちながら全国でくまなく展開するために、また制度の形骸化を防ぐためにも、実務レベルでの退院後生活環境相談員の質の担保が欠かせない。このため、退院後生活環境相談員として選任候補者には、研修の受講を要件化することが必要と考える。
 具体的な研修の実施にあたっては、国が実施主体となり、都道府県単位で、難しい場合には地方厚生局単位での毎年の開催とするべきである。施行の初年度に全員を対象にした研修が困難となる場合は、法施行時の現任者には3年以内の受講といった経過措置を設けることが望ましい。また、退院後生活環境相談員に加え地域援助事業者となる相談支援専門員及び介護支援専門員も参加可能とし、チームによる支援や連携に関する演習等の実施により具体的な連携の在り方を研修できる形が望ましいと考える。

2.地域援助事業者(新33条の5)

1)市町村の関与の必要性について

[意見]
地域援助事業者が相談支援を行うに当たっては、市町村が関与する規定を設けるべきである。

[理由]
 医療機関から相談支援事業者を紹介する場合、障害福祉サービス等を既に利用していたなどにより入院前住所地の指定特定・一般相談支援事業者とつながりがあれば紹介や連携をしやすいが、入院前に障害福祉サービス等の利用がなく、医療機関からの紹介や連携により医療保護入院者等への今後の支援を相談するような場合は、「一般的な相談支援」もしくは、「基本相談支援」「計画相談支援等のための初期相談」に該当することとなる。これらは、相談支援体系に個別給付ではなく含まれるものであり、委託費があるのは市町村からの一般相談支援のみとなる。一般相談支援の対象には入院中の障害者も含まれるが、医療機関へ出向き相談支援に当たることが委託業務に包含されている旨の明記された要綱が必要であると同時に、市町村を通した紹介の形が事業者の支援介入を円滑にすることとなる。委託費がなくとも個別給付事業の初期相談としての基本相談に動く場合も市町村の関与があることにより円滑になる。
 また、介護支援専門員は、介護保険サービスを必要とする要介護者等を対象としてサービス利用の連絡調整等を行うことが職務であり、相談支援事業者のような一般相談支援の機能を持たない。現状では、介護認定を受けていない場合の医療保護入院患者の退院に向けた支援相談等のために病院に出向くことが可能な介護支援専門員は地域包括支援センターのスタッフに限定される可能性が高くなる。
 以上のことから、市町村の関与規定が必要と考える。具体的には医療機関が地域援助事業者を紹介する場合は必ず該当する市町村に紹介先として考えている事業者を伝える、もしくは適切な紹介先がわからない場合に紹介先を斡旋してもらうなどが必要と考える。

2)紹介の方法について

[意見]
地域援助事業者の紹介に関する書面交付は、退院後生活環境相談員がすべての医療保護入院者に対して口頭での説明を加えて行うことが望ましい。

[理由]
 改正法第33条の5では、「医療保護入院者又はその家族等から求めがあつた場合その他‥(中略)‥必要があると認められる場合には、地域援助事業者を紹介するよう努めなければならない。」と規定している。医療保護入院者又はその家族等が地域援助事業者の支援を求めるためには、当該制度に関する情報がもれなくすべての医療保護入院者等に提供されている必要がある。また、精神障害者の特性に鑑みて、情報提供は書面だけではなく、退院後生活環境相談員が入院後できる限り早い時期及び必要に応じて何度でも口頭で説明する機会を設けるべきである。

3.医療保護入院者退院支援委員会(新33条の6)

1)対象者について

[意見]
名称を「医療保護入院者等退院支援委員会」として、当該委員会の対象者を以下の通りとすることが望ましい。
(1)入院後1年を経過するまでの医療保護入院者
(2)入院後1年以上経過しているすべての医療保護入院者(審査時期は入院後1年を経過する時と、その後1年を経過するごと)とし、「病院の管理者が必要と認める」は外すこと
(3)入院後1年以上経過しているすべての任意入院者(審査時期は入院後1年を経過する時と、その後2年を経過するごと=任意入院同意書の再提出時期)

[理由]
 医療保護入院者だけでなく、長期の任意入院者も対象とすることで、「既に1年を超える入院をしている重度かつ慢性以外の長期在院者については、退院支援や生活支援等を通じて地域移行を推進する」とした良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針案中間まとめの内容を後押しすることとなる。
 2010年6月の入院者の2011年6月1日残留患者数を見ると、総数4,159人で、うち認知症が1,384人、統合失調症が1,946人と両者で総数の80%を占めている。さらに医療保護入院者を見ると、認知症が866人、統合失調症が865人で医療保護入院者の1年残留患者総数1,991人中両者で86.9%を占めている。2011年6月30日現在の1年以上医療保護入院患者数は84,599人となっているが、これは1年を超えて残留した患者の累年長期化の数とみられる。この長期化の理由つまり1年を超える医療保護入院患者の退院困難要因にもさまざまあることが種々の調査で推測されるが、病院の管理者が明確な判断基準のないまま退院支援委員会の開催の必要性を判断してしまうことで、退院の可能性やその支援方法の見極め、資源開発などにつながる機会を逸することになる。 

2)メンバー構成について

[意見]
(1)医療保護入院者本人の参加を原則とするべきである。
(2)地域援助事業者の参加を必須とするべきである。
(3)保健所の精神保健福祉担当職員も可能な限り参加することとすることが望ましい。

[理由]
(1)委員会は、改めて退院や地域社会での生活に関する本人の希望や意向を確認する必要がある。
(2)地域援助事業者は、入院前住所地の事業者とし、本人が退院を諦めないよう、また、家族が安心できるよう、地域生活支援の視点を持ち障害福祉サービス等の支援制度に精通している立場の者として参加する必要がある。また、事業者が参加するために市町村の関与と、事業者参加の財源の担保が必要である。
さらに、地域援助事業者は、退院支援や地域移行等に必要な資源が不足する等の課題を把握した際には、地域の課題として協議会につなげる取り組みが必要であり、基幹型相談支援センターもしくは協議会に参加している事業者または協議会のコーディネート機能を有する事業所が望ましい。
(3)保健所は、委員会が形骸化しないための外部監査機能として参加すべきである。参加の際のコメント記載欄を設けることと、保健所への委員会記録の提出を義務付けることで、保健所の参加が難しい場合でも実地指導の資料とするなど最低限のチェック機能を果たせるようにするべきである。

4.書式や様式について(新33条の6)

1)定期病状報告書について

[意見]
 定期病状報告書を定期病状等報告書に変え、「退院に向けた取り組み状況」の欄の記載は、退院後生活環境相談員の責務とするべきである。

[理由]
 裏面の記載上の留意事項にあるような内容の記載は、実際にその業務を担った者が適任である。

2)医療保護入院者等退院支援委員会記録について

[意見]
(1)出席者欄に、地域援助事業者と市町村や保健所のチェック欄を設定すること。
(2)「推定された入院期間」以下の記載事項の内容と順番を、以下のように変更することが望ましい。
 (1)本人の希望や家族の意向
 (2)入院中の退院に向けた取り組み状況
 (3)退院を難しくしていること(社会環境や支援体制も含め)もしくは課題
 (4)退院に向けて必要な支援(ソフト・ハード面)や改善課題(何があれば退院が可能となるのか)
 (5)入院継続の必要性と新たに設定される推定入院期間

[理由]
(1)退院支援委員会が、個別事例の長期化を防ぐ検討を行う機能となっていることに鑑みれば、退院後生活環境相談員が入院早期から地域援助事業者との連携や、医療保護入院者のアセスメントを行い、委員会には地域援助者に必ず出てもらうよう当事者の同意や依頼をとりつけ、出席に向けて調整していくことが重要となる。
その意味で委員会記録に地域援助者の出席欄をつくることは、常にその方向を指向することにつながることになる。
(2)書式の記載欄は、事後報告のためだけでなく、項目や枠組みが関わる人の思考の枠組みや検討のプロセス、入院継続の判断の材料の持ち方に影響し、何よりも本人の希望や意向を中心に据えているかという支援の方向性の確認に通じることであり、記載事項の内容と順番を変更することが望ましいと考える。

以上

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標題 生活保護法の一部を改正する法律案に反対するソーシャルワーカー2団体及びソーシャルワーカー養成2団体声明
日付 2013年10月29日
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 柏木 一惠
公益社団法人日本医療社会福祉協会 会長 佐原 まち子
社団法人日本社会福祉士養成校協会 会長 長谷川 匡俊
一般社団法人日本精神保健福祉士養成校協会 会長 石川 到覚


 政府は10月15日、本年6月に通常国会で廃案となった生活保護法の一部を改正する法律、生活困窮者支援法を再度閣議決定し、同日開会の臨時国会に提出し直し、成立を目指している。すでに6月に自公民などの与野党の合意による修正を経て衆議院を通過した経緯から、今国会では十分な審議ないまま成立することが想定される。

 私たちソーシャルワーカー2団体及びソーシャルワーカー養成2団体は、社会福祉を基礎とする専門職団体の立場から、以下の理由により改めて「生活保護法の一部を改正する法律案」についてその廃案を求めるものである。


1.保護開始における申請書類の提出義務を法に規定することは申請権の侵害につながる。

 改正案では、これまで生活保護法施行規則(省令)で定めてきた保護の申請手続きを法律本体で規定している。さらに、申請書の記載事項に、新たに「要保護者の資産及び収入の状況」を加え、必要な書類の提出についても「求めることができる」規定から義務規定に変わっている。

 報道等によると、厚生労働省は「申請手続きの現在の運用は変更しない」と説明しているが、現行施行規則にはない事項の追加と書類提出の義務づけをしたうえで、法律本体に申請手続きを厳密化して規定することは、「水際作戦」が現に行われている自治体の恣意的な運用を助長することを危惧するものである。

 また、申請手続きの厳密化は、無差別平等の原理を謳う生活保護法の理念に反し、保護を必要とする人を窓口段階で排除することにつながりかねない。ただでさえ捕捉率が極めて低い我が国の現状と照らして、生活保護制度をさらに「入りにくい制度」とすることは、憲法が保障する国民の生存権を著しく脅かすものである。

2.現状にそぐわない扶養義務の強化は公的責任の後退に他ならない。

 改正案には、福祉事務所による@扶養義務を履行していないと認められる扶養義務者に対する書面通知、A調査の一貫としての扶養義務者等に対する報告請求、B要保護者または被保護者であった者の扶養義務者に関する銀行、信託会社、雇主等に対する報告請求、の3点が新たに規定されている。

 少子高齢化の進展や社会構造の変化に伴い、家族形態や機能も変化し、いまや3人に1人が単独世帯となり、非正規雇用が全体の3分の1を占め相対的貧困率も上昇している現状は、扶養義務が事実上機能しなくなっていることを示している。

 このような現状において社会保障の根幹をなす法制度に扶養義務が殊更持ち出されることは、家族の機能不全や崩壊に拍車をかけるばかりではなく、生活保護の受給抑制をもたらし、現行制度ですら起きていた孤独死、餓死、自死などの悲惨なケースの増加を招く危険性がある。このことは、すなわち国民を守るべき国がその責任を放棄することに他ならない。
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標題 「精神障害者雇用トータルサポーター」に係るお願い
日付 2013年8月9日
発翰
番号
JAPSW発第13-159号
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 柏木 一惠
提出先 厚生労働省 職業安定局 高齢・障害者雇用対策部 障害者雇用対策課長 山田 雅彦 様


 平素より本協会事業に格別のご理解、ご協力を賜り、深く感謝申しあげます。
 貴省におかれましては、精神障害者の社会参加と生活支援の充実をめざして、今般改正された障害者の雇用の促進等に関する法律(以下、「障害者雇用促進法」という。)に基づき雇用施策の具体化に取り組まれているところと認識しております。
 つきましては、平成26年度予算案の編成にあたり、次の事項につきましてご尽力ご高配を賜りますよう、強く要望いたします。

【要望事項】
1.精神障害者雇用トータルサポーターの人員増を求めます。
 各ハローワークに配置する「精神障害者雇用トータルサポーター」の人員を増強するとともに、常勤雇用化もしくは最低でも週3日を勤務条件として、安定した雇用の確保を図ってください。

2.精神障害者の就労支援に従事する人材の確保について、以下の措置を求めます。
1)長期的な視野に立った、専門的人材の育成と専門職の積極的な活用および配置(研修等の体制構築と予算措置)
2)障害者就業・生活支援センターにおける就業支援担当者等の適正な人員の確保(障害者総合支援法に準じた人員に関する基準の設定)
3)「精神障害者雇用トータルサポーター」に関する機関内での普及啓発および労働環境の改善

【理由】
 今般、精神保健福祉法も一部改正され、今後ますます精神障害者の地域移行および地域定着支援の充実が図られ、精神障害者の雇用も含む社会参加の推進につながるものと考えております。

 この間、障害者総合支援法における就労支援および障害者雇用促進法における精神障害者への雇用施策の充実により、特に精神障害者の新規求職件数および就職件数は大きく伸びています。特に、平成23年度からハローワークに配置されている「精神障害者雇用トータルサポーター」(以下、「トータルサポーター」という。)による支援効果は大きく、同年度にトータルサポーターの支援を終了し、就職等次のステップへ移行した者の割合が77.5%という実績を残したことから、平成25年度においても予算増が図られました。障害者雇用促進法の改正により、今後、精神障害者も雇用義務の算定対象に位置付けられることとなり、トータルサポーターをはじめとする就労や雇用の支援を担う専門的人材の重要性は高まります。

 しかし、トータルサポーターは、有期雇用契約の非常勤で勤務日数も週1〜2日が多く、総合的継続的支援には遠い現状があります。また、法定福利も適用されず、公用車の使用制限や通信手段の制約があることや、ハローワーク等の他の職員への周知が十分でないが故の活用度の低さも相まって、トータルサポーターが求められる

 役割を十分に果たせる労働環境にはないと言えます。
また、福祉就労から雇用への流れにおいて就職後の職場定着支援が重要となる中、障害者就業・生活支援センターの就業支援担当者等のマンパワーも需要に対して不足しています。

 これら就労や雇用に係る専門的人材については、量的整備だけでなく質的整備も含め、厚生労働省の障害者雇用等に関する3研究会、更には、今般の障害者雇用促進法の改正案に関する国会審議でも俎上に上った課題となっています。以上の観点から、本要望につきましてご高配をお願い申しあげます。
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標題 障害のある人の暮らしの権利保障のために、改めて訴える〜健康で文化的な最低生活を保障する生活保護制度の構築を!〜
日付 2013年7月22日
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 柏木 一惠


 第183回国会に提出された生活保護法の一部を改正する法案(以下、「生活保護法改正案」)は、審査未了のまま廃案となった。しかしながら、参議院議員選挙が与党の圧勝という結果となったことから、秋に召集予定の臨時国会で、再提出予定の生活保護法改正法案は十分に審議されることなく成立することが懸念される。今後の動向を注視し、生活保護制度がセーフティネットとして有効に機能するためのソーシャルアクションの展開と、保護受給者のスティグマ(社会的烙印)の解消を目指し、あらためて現段階における見解を表明する。


1.スティグマを解消するべく国民への普及啓発を!

 深刻化する日本の貧困は、戦後最大級といわれる210万人が生活保護を利用する状況となっている。昨年来からの事実や法的理解に欠ける不正受給報道による一連の生活保護バッシングはこの状況を背景としている。この動きの大きな問題は、国民の生活保護制度への不信感を植え付けただけでなく、生活保護を受給することが恥であり、税金の無駄遣いをしているかのようなイメージを強化したことにある。今なお生活保護が権利ではなく、恥ずべきものであるというスティグマが報道も一般社会も支配していたことに愕然とせざるをえない。

 また国も社会保障費の増大を受け、貧困問題の原因を矮小化し、生活保護制度をスケープゴートにして改正に乗り出したと言えよう。政府は社会保障審議会生活保護基準部会の報告書の一部を取り上げ、生活扶助基準の引き下げを織り込んだ予算案を閣議決定した。さらに、予算成立後の2013年5月17日には、申請抑制につながる危惧の強い生活保護法改正案を閣議決定した。

 国とともに地方の動きも剣呑である。2013年3月27日、兵庫県小野市は、生活保護費や児童扶養手当をパチンコなどのギャンブルで浪費することを禁止し、市民に情報提供を求める「市福祉給付制度適正化条例」(以下、「条例」)案を市議会本会議で可決成立させ、4月1日から施行している。本条例は生活保護受給者の生活実態を市民に監視・通報させようとするものであり、本協会は、条例の内容に反対する立場から、条例の撤回と廃案に向けて特定非営利活動法人神戸の冬を支える会が提出する要望書に賛同した。当該条例制定は、基本的人権の尊重を謳うこの国のあり様に大きな不安を抱かせるものである。
憲法第25条は誰もが健康で文化的な生活を送る権利を明記している。しかるに今、この国ではすべての国民がこの権利を行使し、最低限度の生活を享受できているとは言い難い状況にある。国には、生きにくい世の中に病気や失業や生活の不安と隣り合わせて生きている人にこそ、生存権を保障する義務がある。生活保護はまさに生存権保障の最後の砦であり、権利であることを我々ソーシャルワーカーは声を大にして、国や行政や報道関係者や一般市民に訴えていく必要がある。スティグマの解消に向けて有効な運動を展開することはソーシャルワーカーの責務である。

2.社会権規約に照らした生活保護制度の構築を!

 奇しくも政府が生活保護法改正案を閣議決定した2013年5月17日に、国連の社会権規約委員会は日本の第3回定期報告に関する最終見解を採択している。その中で委員会は、日本に対して公的な福祉的給付の申請手続きを簡素にするため、及び申請者が尊厳を持って取り扱われることを確保するための措置を講じることを要求し、公的な福祉的給付に付随したスティグマをなくす観点から国民を教育することを勧告している。

 生活扶助基準の引き下げは、委員会が指摘する「社会保障に対する権利に関連してとられた後退的な措置(※)」を意味し、締約国である我が国は社会権規約に違反する疑いがある。また、今回廃案となった生活保護法改正案は、生活保護の申請手続きの簡素化や申請者の尊厳の確保といった委員会の要求に逆行した申請しにくい制度とし、申請に伴う扶養照会の厳密化が申請者の尊厳を著しく傷つける内容となっている。

 社会保障を基本的人権の一つとして位置付けている国際人権A規約(社会権規約)に照らし、国は改正案の再検討をするべきである。(第9条「この規約の締約国は、社会保険その他の社会保障についてのすべての者の権利を認める。」)。

3.引き下げによる悪影響や申請抑制の防止に、精神保健福祉士を始めとするソーシャルワーカーは全力で支援を!

 精神保健福祉士が現場で出会う多くの精神障害者は、所得保障制度の未整備から社会参加に多大な制約を受けており、その中で文字通りセーフティネットとして生活保護制度が機能している。生活保護法改正に先んじて、本年8月からの基準引き下げにより多くの受給者の生活に影響がでることは必至であるが、精神障害者に対しては、その暮らしを守り、生活破綻が生じないように、しっかりした現場実践を展開する必要がある。精神障害者が健康で文化的な最低限度の生活の維持ができているかどうかを確認し、また、不当な受理却下が起こらないように、必要に応じて申請に付き添うなどのきめ細やかな支援を行う必要がある。制度課題や問題点の指摘及び改善要求などのソーシャルアクションと併せて、目の前のクライエントへの生活支援の役割を果たすことは権利擁護に携わる専門職としての精神保健福祉士である我々の使命である。

 2013年6月14日に政府が閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)には、財政健全化への取組方針として「社会保障支出についても聖域とはせず、見直しに取り組む」ことが盛り込まれている。生活保護制度においては、既に老齢加算や母子加算が廃止されており、生存権訴訟も起きている(母子加算はその後復活)。また、精神障害を事由とする障害年金の等級変更が全国的に散見され、今後の社会保障制度の見直しにおいて生活保護制度の障害者加算の見直しが懸念される。そのような事態は断固阻止しなければならない。精神障害者一人ひとりの暮らしへの影響が深刻化することのないよう、私たちは真摯な日常の実践とともに英知を結集した運動を展開することが求められている。


(※)社会権規約委員会は、2007年11月23日に一般的意見第19「社会保障に対する権利(第9条)」を採択している。以下、抜粋。
V 締約国の義務
A.一般的な法的義務
42.社会保障に対する権利に関連してとられた後退的な措置は、規約に基づいて禁じられているとの強い推定が働く。いかなる意図的な後退的措置がとられる場合にも、締約国は、それがすべての選択肢を最大限慎重に検討した後に導入されたものであること、及び締約国の利用可能な最大限の資源の完全な利用に照らして、規約に規定された権利全体との関連によってそれが正当化されること、を証明する責任を負う。委員会は、(a)行為を正当化する理由があるか否か、(b)選択肢が包括的に検討されたか否か、(c)提案されている措置及び選択肢を検討する際に、影響を受ける集団の真の意味での参加があったか否か、(d)措置が直接的又は間接的に差別的であったか否か、(e)措置が、社会保障に対する権利の実現に持続的な影響力を及ぼすか、既得の社会保障権に不合理な影響を及ぼすか、もしくは個人又は集団が社会保障の最低限不可欠なレベルへのアクセスを奪われているか否か、(f)国家レベルで措置の独立した再検討がなされているか、を注視することになる。
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標題 2014年度診療報酬改定に関する要望について
日付 2013年6月26日
発翰
番号
1)JAPSW発第13-108号の1
2)JAPSW発第13-108号の2
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 柏木 一惠
提出先 1)厚生労働省 保険局 医療課長 宇都宮 啓 様
2)厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 精神・障害保健課長 重藤 和弘 様


 平素より本協会事業に格別のご理解、ご協力を賜り、深く感謝申しあげます。
 さて、貴省におかれましては、2012年6月に取りまとめられた「精神科医療の機能分化と質の向上等に関する検討会」報告書において、現在の長期在院者の地域移行を推進するため、「できる限り、退院、地域移行が進むような取組を重点的に行う」こととされています。また、国が精神疾患を加えて5疾病5事業に関する計画策定を行うと定めた都道府県医療計画が2013年度より策定されているなど、一般医療の水準を目指した人員の充実とそれに応じた評価の充実、精神保健医療福祉の改革に向けた重点施策の策定が進められていると認識しております。
 さらに、今般、6月12日に成立した精神保健福祉法の一部を改正する法律では、医療保護入院患者を支援する退院後生活環境相談員が選任されることや地域援助事業者との連携などにより、入院患者の地域移行の一層の推進と精神障害者の人権への配慮の促進等の施策が講じられることになるとともに、良質な精神科医療の提供体制に関する指針も策定され告示されることとなっております。
 本協会としましては、精神障害者の地域生活への移行の強化および地域生活の定着のためには、精神科医療機関内外に渡るネットワークの構築によるチーム医療の推進、およびその体制整備が極めて重要であり、それらに対する診療報酬上の適正な評価が必要であると認識しているところです。
 つきましては、以上の観点から、下記のとおり要望いたしますので、ご高配のほど何卒よろしくお願いいたします。

1.1年以上在院患者の地域移行を評価する精神科地域移行実施加算2の新設をしてください。また、その際の施設基準として50床に精神保健福祉士1名以上の配置を追加してください(別紙参照)。
[理由]
 精神病床における長期在院患者の地域移行は、「入院医療中心から地域生活中心へ」の基本理念の下、精神保健医療福祉の積年の課題となっており、2012年6月28日公表の「精神科医療の機能分化と質の向上等に関する検討会」報告書においても、現在の長期在院者の地域移行を推進するため、「できる限り、退院、地域移行が進むような取組を重点的に行う」こととされています。また、精神保健医療福祉の改革ビジョン(2004年9月)において、精神保健医療福祉体系の再編の達成目標の1つに「各都道府県の退院率(1年以上群)を29%以上とすることが掲げられていますが、2010年度6月30日調査(精神・障害保健課調べ)によると1年以上在院者の退院率は24%となっています。今後、目標値を達成する観点から、1年以上の在院患者の地域移行についても評価する必要があると考えます。
 2008年度の診療報酬改定により、新たに精神科地域移行実施加算が設けられ、精神病棟における入院期間が5年を超える患者の地域移行の促進が図られてきました。2011年医療社会調査によれば360病院が申請して取組しております。しかしながら、精神科病院等によっては算定要件を満たすことが難しい医療機関が多いこと、入院期間が1年を超える患者についても病状以外の社会的要因により地域移行が難しい者も多く存在することから、現行の精神科地域移行実施加算(A230-2)を「精神科地域移行実施加算(T)」として、新たに、入院期間が1年を超える患者を対象とした「精神科地域移行実施加算(U)」を新設して、入院期間1年を超える入院患者のうち、退院した患者の数が1年間で10%以上減少の実績がある場合に算定できることを要望するものです。
 なお、精神科地域移行実施加算を(T)と(U)とする場合には、入院期間が5年以上の者については重複とならないように、患者構成等の各医療機関事情によりいずれかの選択性とする他、精神科地域移行実施加算(U)の評価においては5年以上の者に支援困難度係数を乗ずるなどのご検討をお願いいたします。
また、「精神科地域移行実施加算(U)」の施設基準としては、(T)の基準に加えて、精神保健福祉士の配置規定がない精神病棟(精神病棟入院基本料の算定病棟、特定機能病院入院基本料の算定病棟、精神療養病棟)について、50床に1名以上の割合で精神保健福祉士の配置を規定することで、今般の精神保健福祉法改正内容にもあります退院後生活環境相談員の選任を可能とするとともに、長期入院患者の地域移行が促進されるものと考えます。

2.1年未満在院患者の退院率(残存率)を評価する精神病棟入院基本料初期加算2を新設してください。その際の施設基準として50床に精神保健福祉士1名以上の配置を規定してください(別紙参照)。
[理由]
 2012年6月28日に公表された「精神科医療の機能分化と質の向上等に関する検討会」報告書において、精神病床における新たな入院患者への対応として、「新たな長期在院者を作らないことを明確にするため、『重度かつ慢性』を除き、精神科の入院患者は1年で退院させ、入院外治療に移行させる仕組みを作る」こととされています。また、精神保健医療福祉の改革ビジョン(平成16年9月)において、精神保健医療福祉体系の再編の達成目標の1つに「各都道府県の平均残存率(1年未満群)を24%以下とすることが掲げられていますが、2010年度6月30日調査(精神・障害保健課調べ)によると1年未満在院者の残存率は28.6%となっています。今後、目標値を達成する観点から、1年未満の在院患者の退院促進を評価する必要があると考えます。

3.精神科継続外来支援・指導料における療養生活環境整備支援加算を単独で評価できるよう療養生活環境整備支援料(仮称)として新設してください。
[理由]
 「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本理念の下、地域精神保健医療体制の再編が急がれています。2009年9月24日公表の「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」報告書においては、「精神疾患患者の地域生活を支援するための地域医療体制の整備・確保を図ることが最も重要であり、このため、各々の精神科医療機関等が、地域医療体制の中で責任を持って患者の診療に当たることはもとより、在宅・外来医療を含め、患者の地域生活を支える機能を充実することにより、患者の身近な地域を単位として、医療提供体制を確保すべきである。」としています。
 2010年度の診療報酬改定において、「精神科継続外来支援・指導料」(I002-2)が新設され、併せて精神科を担当する医師の指示の下、保健師、看護師、作業療法士又は精神保健福祉士(以下「保健師等」という。)が、患者又はその家族等の患者の看護や相談に当たる者に対して、療養生活環境を整備するための支援を行った場合には、加算を算定できることとなりました。
 しかしながら、他の精神科専門療法と同一日に行う精神科継続外来支援・指導に係る費用は、他の精神科専門療法の所定点数に含まれることから、実際には多くの医療機関が当該支援を行っているものの、算定件数は低位に留まっています。全国の地域精神保健医療体制の底上げを図る観点から、当該加算を単独の精神科療養生活環境整備支援料として評価できるようにする必要があると考えます。その際には、医師の包括的指示のもとに計画的な支援を行う仕組みとすることが望ましいと考えます。

4.精神科訪問看護基本療養費における精神保健福祉士単独による指定訪問看護の評価を規定してください。
[理由]
 「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本理念の下、地域精神保健医療体制の再編が急がれています。2009年9月24日公表の「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」報告書においては、精神疾患患者の地域生活を支援するための地域医療体制の整備・確保を図ることが最も重要であり、「精神科病院が、重症の者も含めて訪問看護等の在宅医療を提供する機能を充実させることを促すとともに、診療所による在宅医療・救急医療への参画、訪問看護ステーションにおける精神科訪問看護の普及の促進を図る。」こととしています。
 2012年度の診療報酬改定において訪問看護療養費に精神科訪問看護基本療養費が新設され、訪問看護ステーションの保健師又は看護師が、精神保健福祉士と同時に指定訪問看護を行った場合に、複数名精神科訪問看護加算を算定できることとなりました。精神科専門療法である精神科訪問看護・指導料においては、保健師、看護師、作業療法士と同様に精神保健福祉士が、単独での訪問による看護及び社会復帰指導を行った場合も算定が可能となっていることとの整合性を図るため、訪問看護療養費においても、精神保健福祉士が単独で指定訪問看護を行った場合の評価をする必要があると考えます。

5.「介護支援連携指導料」は、精神療養病棟及び認知症治療病棟においても算定可能とするとともに、算定の対象職種として精神保健福祉士を明記してください。
[理由]
 介護支援連携指導料(B005-1-2)は、退院後に介護サービスを必要とする患者を対象として、入院中から医療機関と居宅介護事業所等の介護支援専門員との連携を評価するものです。精神科病院等では、認知症も含め65歳以上の入院患者が5割近くになっている現状から、高齢精神障害者の地域移行の推進も重要な政策課題となっており、介護サービス等の活用が欠かない状況にあります。しかしながら、実際に精神科病院等の精神保健福祉士が入院中から介護支援専門員等と共同で退院調整支援を行っているにもかかわらず、精神療養病棟及び認知症治療病棟には介護支援連携指導料は入院料に含まれ別に算定できないこととなっています。当該病棟でも介護支援連携指導料の算定が可能となることで、高齢の精神疾患患者の地域移行がより円滑に進むものと考えます。
 また、上述のとおり、精神科病院等においては、実際に精神保健福祉士が介護支援連携指導を行っていることからも、算定対象職種として精神保健福祉士を明記していただくことが必要です。

 以下は、今般の精神保健福祉法改正事項に鑑み、要望するものです。

6.「精神科生活環境アセスメント料」(仮称)を設けてください。
 [理由]
 精神科医療機関の外来初診および入院時に際して、受診患者に関する医学的な診断のみならず、当該患者に係る経済的状況、居住環境の状況、家族関係、近隣との関係、職場や学校などにおける関係など、生活環境全般にわたる状況を把握し、適切なアセスメントに基づいて、診療計画及び地域生活支援計画を作成することで、当該患者の地域移行や地域定着に資する医療的支援の提供が可能となります。
 このため、「精神科生活環境アセスメント料(仮称)」を新設し、初診時に精神保健福祉士等が医師の指示に基づき、一定時間以上の面接により当該患者の生活環境に関するアセスメントを行った場合に算定を可能とすることが必要であると考えます。
 また、本要望は改正精神保健福祉法における退院後生活環境相談員のアセスメントに関する評価にも有効と考えます。

7.「精神科地域移行支援連携指導料(仮称)」を新設してください。
[理由]
 精神障害者の地域移行を推進するためには、入院中から患者の心身の状況や地域生活に必要な社会資源等に関するアセスメントを行い、障害者自立支援法に定める相談支援事業所の相談支援専門員等と連携し、退院後のケアプラン作成につなげることが重要です。
 2010年12月に障害者自立支援法が改正され、2012年度からは新たに地域相談支援事業(地域移行支援及び地域定着支援)が法定事業となったことを受け、精神科地域移行支援連携指導料(仮称)を新設し、医師又は医師の指示を受けた看護師、精神保健福祉士、作業療法士、その他の適切な医療関係職種が、地域相談支援事業に係る相談支援専門員や地域移行推進員等と共同して、患者及びその家族に対し、導入が望ましいと考えられる障害福祉サービス等や、当該地域において提供可能な障害福祉サービス等の情報提供した場合に、算定を可能とすることが必要であると考えます。
 本要望は、特に医療保護入院患者の推定入院期間終了前に病院内で行う院内多職種および地域援助事業者とのケア会議の運営を円滑にすることに資するものであり、クリティカルパスなどの活用を推進するものです。

8.「精神科在宅時医学総合管理料(仮称)」を新設してください。
 [理由]
 2011年度より国庫補助の新規事業として「精神障害者アウトリーチ推進事業」が、受療中断者、自らの意志では受診が困難な精神障害者、長期入院等の後退院した者、入退院を繰り返す精神障害者等を対象として、保健、医療及び福祉・生活の包括的な支援を行うことにより、新たな入院及び再入院を防ぎ、地域生活が維持できるような体制を地域において構築することを目的として実施されることとなりました。
 このように精神科におけるアウトリーチサービスの充実が政策課題となっている中、「精神科在宅時医学総合管理料(仮称)」を新設し、通院が困難な患者等を対象として、訪問診療を含む多職種(医師、看護師、精神保健福祉士、作業療法士、臨床心理技術者等)による緊急時対応も含め、訪問を中心とした支援体制を組んでいる「精神科在宅療養支援診療所」及び「精神科在宅療養支援病院」において、月1回の算定を可能とすることが必要であると考えます。
 また、「精神科在宅時医学総合管理料(仮称)」の施設基準として、当該保健医療機関内に精神保健福祉士等の保健医療サービス及び福祉サービスとの連携調整を担当する者の配置を規定してください。

9.「精神科地域定着連携指導料(仮称)」を新設してください。
[理由]
 精神障害者の地域定着支援の推進の観点から、「精神科地域定着連携指導料(仮称)」を新設して、入院加療外の患者に関するサービス利用計画等の支援計画の作成及び見直し等のために、障害者総合支援法に定める相談支援事業所、障害福祉サービス事業所、保健所、市町村の障害福祉担当課等の関係者、当該患者及びその家族等によるケア会議の開催に際して、当該患者の診療を行っている医療機関の立場から精神保健福祉士等が参加して、当該患者の医療や生活環境等に関する情報提供等のコンサルテーションを実施した場合に算定可能とすることが必要であると考えます。また、現在検討されている医療保護入院や措置入院の患者の退院に向けたケア会議等の実施の促進にもつながるものと考えます。

10.「精神科在宅患者家族支援加算(仮称)」を新設してください。
[理由]
 精神障害者の地域定着支援の推進の観点から、特に長期の入院期間を経て退院した患者の病状増悪を防ぎ、同居家族とともに安定した生活の維持を目指すに際して、家族支援に関する評価を求めるものです。医師の指示により精神保健福祉士等が入院以外の患者家族の疾患理解や対応理解を深め、福祉的支援の資源紹介やリンケージなどを行い、家族関係の安定を図ること等を目的に、家族面接を行った場合には「通院・在宅精神療法」の加算として評価することが必要であると考えます。

以上

・ 別紙1:要望項目に関する参考資料(PDF/930KB)
・ 別紙2:次回診療報酬改定にむけて 地域移行実施加算U 初期加算Uの要望根拠について(PDF/2MB/会員ページ)
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標題 東京地方裁判所判決への政府控訴の取り下げを求める!
〜成年被後見人の選挙権を認める公職選挙法改正後も控訴を続ける政府に抗議する〜
日付 2013年6月12日
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 柏木 一惠


 2013年5月27日、成年被後見人は選挙権を有しないとする公職選挙法第11条1項1号の規定を削除する改正案が成立し、成年被後見人の選挙権が回復した。

 本協会は本年3月28日付けの抗議声明において、政府が東京地方裁判所の成年被後見人の選挙権を認めないことを違憲とする判決(以下「違憲判決」)に対して控訴したことに対する抗議と、公職選挙法の改正を強く求めてきたところである。
 この違憲判決を受け、国会においては他に例を見ないほどのスピードでの公職選挙法の改正が行われた。民主主義の根幹をなす選挙権の回復であるこの度の法改正は、成年被後見人が選挙権を行使し、社会に対して自身の思いを届けることができるようになった歴史的意義のあることと率直に評価し、これを歓迎するものである。

 しかしながら、政府は全会一致での法改正であったにも関わらず東京高等裁判所への控訴を取り下げない方針を示している。本協会はこのことに対して強く抗議し、直ちに控訴を取り下げることを改めて求めるものである。

以上

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標題 生活保護法の一部を改正する法律案に関する見解
日付 2013年5月24日
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 柏木 一惠

5月17日、政府は生活保護法の一部改正する法律案(以下、「改正案」という。)を閣議決定した。本協会は、社会福祉を基礎とする専門職団体の立場から以下の2点の理由において改正案に反対を表明する。

1.保護開始における申請書類の提出義務を法に規定することは申請権の侵害につながる。
 改正案では、これまで生活保護法施行規則(省令)で定めてきた保護の申請手続きを法律本体で規定している。さらに、申請書の記載事項に、新たに「要保護者の資産及び収入の状況」を加え、必要な書類の提出についても「求めることができる」規定から義務規定に変わっている。
 報道等によると、厚生労働省は「申請手続きの現在の運用は変更しない」と説明しているが、現行施行規則にはない事項の追加と書類提出の義務づけをしたうえで、法律本体に申請手続きを厳密化して規定することは、「水際作戦」が現に行われている自治体の恣意的な運用を助長することを危惧するものである。
 また、申請手続きの厳密化は、無差別平等の原理を謳う生活保護法の理念に反し、保護を必要とする人を窓口段階で排除することにつながりかねない。ただでさえ捕捉率が極めて低い我が国の現状と照らして、生活保護制度をさらに「入りにくい制度」とすることは、憲法が保障する国民の生存権を著しく脅かすものである。

2.現状にそぐわない扶養義務の強化は公的責任の後退に他ならない。
 改正案には、福祉事務所による@扶養義務を履行していないと認められる扶養義務者に対する書面通知、A調査の一貫としての扶養義務者等に対する報告請求、B要保護者または被保護者であった者の扶養義務者に関する銀行、信託会社、雇主等に対する報告請求、の3点が新たに規定されている。
 少子高齢化の進展や社会構造の変化に伴い、家族形態や機能も変化し、いまや3人に1人が単独世帯となり、非正規雇用が全体の3分の1を占め相対的貧困率も上昇している現状は、扶養義務が事実上機能しなくなっていることを示している。
 このような現状において社会保障の根幹をなす法制度に扶養義務が殊更持ち出されることは、家族の機能不全や崩壊に拍車をかけるばかりではなく、生活保護の受給抑制をもたらし、現行制度ですら起きていた孤独死、餓死、自死などの悲惨なケースの増加を招く危険性がある。このことは、すなわち国民を守るべき国がその責任を放棄することに他ならない。

以上

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標題 精神保健及び精神障害者の福祉に関する法律の一部を改正する法律案への見解
日付 2013年5月22日
発信者 公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 柏木 一惠

 本年4月19日、精神保健及び精神障害者の福祉に関する法律の一部を改正する法律案(以下、本法案)が閣議決定され、国会に上程された。本協会は、精神障害者の権利擁護と社会的復権を推進する立場から、法改正に向けて2012年10月29日付で「新たな入院制度に関する本協会の見解」を公表し、本年1月23日には厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課課長宛てに、「精神保健福祉法改正に関する要望書」を提出してきた。

 本協会および当事者・関係者団体が長年悲願し強く要望してきた「保護者」制度の全廃については、「保護者」規定を法文から削除したものの、医療保護入院制度の手続き要件において3親等以内の家族等のいずれかの者の同意を要件として残すとなった。これは、従前に見直しが必要な一課題として認識されていた家族内葛藤や負担軽減にならないばかりか、臨床現場に大きな混乱を招く懸念があり、入院治療を必要とする人の医療アクセス権も脅かしかねない。また、医療保護入院における権利擁護の仕組みとして検討プロセスで切望された代弁者制度の導入は法案に規定されることなく見送られている。本法案におけるこれらの点は、非自発的入院をさせられる方の権利擁護の観点から看過できないものであり、大変遺憾である。

 一方、精神科病院の管理者に、精神保健福祉士等の退院後生活環境相談員の選任、地域援助事業者との連携に関する努力、退院および地域移行支援のための体制整備等の措置が義務づけられている。また、精神医療審査会に関しても各合議体に精神障害者の保健又は福祉に関し学識経験を有する者を委員とする規定となっている。これは、本協会が要望してきた内容に沿うものであり、精神医療の良質な提供体制に関する指針を定めることとあわせて、医療保護入院者の早期退院を推進する観点から、現時点で一定の評価ができる内容となっている。これらの改正点には、多岐にわたり我々精神保健福祉士の関与が規定されており、今後、精神保健福祉士がその役割を遂行するためには、診療報酬や介護報酬、障害者総合支援法におけるマンパワー増強などの財政措置と、求められている資質向上に応える一層の研鑽が必要となる。

 本協会は、法施行3年後の見直しにおいて家族等の同意要件の撤廃と代弁者制度の確立を求めるものである。さらに、度重なる改正にもかかわらず、いまだ収容主義の歴史を踏襲し、精神障害者の入院治療において保護的側面を残存している精神保健福祉法の抜本的改正を継続して求めていく。
 また、本改正に対応するために、診療報酬改定の要望を既に行っているところであるが、今後は精神保健福祉士が携わることになる課題等についても具体的な提案や対応をしていく予定である。それらについては、法案審議や成立状況を見据えながら近く構成員諸氏にお示ししたい。構成員各位には、国会審議を含め今後の動向に注視していただき、各々の現場での実践課題に照らした協議を展開し、積極的な意見をお寄せいただきたい。

以上

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