2011年度から2015年度までの5か年における活動指針と実践計画として策定する。
中期計画は、精神保健福祉士による精神保健福祉援助(支援)が、精神障害者の社会的復権と国民の精神保健福祉の向上に寄与するための、本協会の活動を推進させる行動戦略である。 策定の背景としては、急激な社会制度の変化や国民の健康・障害に対する意識の変化を意識している。 本協会は、今後5年間、「中期(5か年)ビジョン」(以下「中期ビジョン」という。)と中期計画に基づいた活動及び事業の実践計画を展開することとする。 |
社団法人日本精神保健福祉士協会(以下「本協会」という。)は、前身の日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会が1982年に採択した札幌宣言の「精神障害者の社会的復権と福祉のための専門的・社会的活動を進める」ことを基本方針に据え、現在も定款の目的に引き継いでいる。
本協会は、継承している基本方針の実現を目指し、1980年代後半から1990年代までは国家資格の創設を、その後2004年までは社団法人への移行を活動目標の中心を据えてきた。また、社団法人への移行後は、特に事務局を中心とした組織機能の整備拡充や生涯研修制度の実施などに努めてきた。しかしながら、現在に至るまで、基本方針の実現に対しては十分な評価ができるような状況の改善には至っていない。
この間の急激な社会制度や国民の健康・障害に対する意識の変化を背景に、精神保健福祉に関する課題は複雑化・多様化を示しながら増大し、精神保健福祉の援助や支援が多岐にわたって求められている。そのため、改めて「精神障害者の社会的復権と国民の精神保健福祉の向上に寄与する」という本協会の目的を実現するために、活動を推進し実行するための中期ビジョンを策定することとした。中期ビジョンに掲げた到達目標に至るには戦略が求められ、戦術と具体的活動及び事業実施計画(プラン)を立てて展開するプロセスは必然である。
現在の精神保健福祉士登録者数は約4万8千人、中期計画終了時の2015年度には約6万人になると推計される。また、増大する国民の精神保健福祉課題に対して精神保健福祉施策における支援人材への要請も増え続けていくと考えられる。さらに、現在、障害者権利条約の批准を目指し、障害者制度の改革を図るためのさまざまな検討や議論が、障害のある当事者を中心に進められている。精神疾患や精神障害はどのライフステージにおいても生じ得るもので、さまざまなライフステージや領域において、相談や介入の支援がつながっていく体制が望まれる。国や自治体等における精神障害者に関する施策においては、地域移行や地域定着の支援、訪問型早期支援、雇用支援などが取り組まれている。
本協会は、今こそまさに、国民の精神的健康の保持増進のために、個々の構成員の具体的な支援に加えて、国の施策に対しても積極的に取り組む中で実践的な視点や知見から必要な提言を行っていくことが重要であり、社会的存在意義を問われている。スローガンには、精神障害のある人がどの地域においても良質の支援提供を受けられる体制を目指すために、専門性の高い精神保健福祉士の養成と全力で支援を提供することを掲げている。
なお、中期ビジョンの策定作業において、東日本大震災が発生したことから、被災地支援に関しても盛り込んでいる。
最後に、今回の提案では、中期ビジョンに伴い具体的に取り組むべき活動内容や達成時期に関する中期計画案を詰め切れないものとなっていることをお断りしておく。
“資質向上”“全力支援”の推進!
[解説]精神障害者の社会的復権と国民の精神保健福祉の向上に寄与するために良質で等質かつ恒常的に支援を提供することを宣誓する。
高ストレスな社会において、全国どこの地域にあっても精神障害のある人々をはじめ広く国民が安心して精神保健の保持増進を図り生活できることが望まれている。そこで、精神保健に関する支援及び精神障害に対する福祉支援が求められている領域、さらには精神保健領域のソーシャルワークが貢献できる領域での良質で等質かつ恒常的な支援提供を果たすために、精神保健福祉士の質の向上に努めるとともに、配置拡充もしくは任用に関する法制度整備を実現する。 今後5か年の内に、各都道府県・各領域において高い専門性を有する精神保健福祉士の養成と配置の促進及び精神障害者の社会的復権等に関する各種事業展開を図り、地域の著しい格差を是正することを目標とする。 あらためて、精神保健福祉士は、障害者権利条約に照らし、精神障害のある人すべての人権及び基本的事由の完全かつ平等な享有を促進、保護及び確保すること、ならびに障害のある人の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とした諸活動における役割と責任を有していることを、ここに謳うものである。 |
中期ビジョンでは、本協会が重点的に取り組むべき課題として「“資質向上”“全力支援”の推進!」というスローガンを掲げた。障害者権利条約に照らし、改めて精神障害者の社会的復権を図ることを目指すための、道筋としての重点的取り組み目標である。
精神障害者の権利擁護と社会復帰を謳った精神保健法が成立してまもなく四半世紀、精神障害者が法制度上障害者の位置づけを得てからようやく20年弱、そして精神保健福祉士法が成立して12年余が経った。障害者計画や障害福祉計画も梃子になり精神障害のある人が街であたりまえに暮らす風景を見かけるようになり、またそのための支援もずいぶん増えてきた。しかし、まだまだ多くの長期入院者が存在し、閉鎖処遇を受けている任意入院者も、また多く存在している。自己決定が困難な状態にある場合も、自己決定支援を受けることがないままに、専門家をはじめ周囲のパターナリスティックな支援に甘んじている人の存在も少なくない。適切な相談支援や医療提供を受けられないことによる、疾患の重症化や自死、心中に至るなどの状況、被虐待、犯罪行為に陥ってしまうなどの不幸な状況も少なくない。
今後、さらに、本人中心の相談支援事業の充実強化が図られていくことが求められている。また、障害者の一層の権利擁護を図るべく差別禁止法や虐待防止法も整備される予定である。その推進を図る人材として、我々精神保健福祉士は、個人の尊厳を重んじ個々の幸福(ウェルビーイング)の実現のために、どこの地域であっても、質の高いソーシャルワークを提供しうるよう研鑽に努め、全力で、鋭意真摯に実践に取り組み、その成果を内外に示し、対象者及び国民からの評価を得ることが求められる。
.精神保健医療福祉の改革に資する具体的実践の組織的推進
.専門職としての精神保健福祉士の資質の向上
.精神保健福祉士が働く環境の整備改善及び資格に関する普及啓発
.災害支援体制の整備・強化
.組織基盤の強化
中期ビジョンは、定款に掲げられた本協会の活動方針に基づいている。ビジョンの基本的な骨格となる「達成課題項目」は、タスクゴール[達成目標]である精神障害者の社会的復権の実現(T)と、そのために精神保健福祉士としての専門的・社会的活動を推進していくためのプロセスゴール[過程目標](U〜Y)で構成される。
以下、達成課題として掲げる大項目と具体的行動目標[中項目]の概要を示す。
<具体的行動目標[中項目]> 1.精神障害者の社会的復権を図るための喫緊の課題である社会的入院の解消に対する組織的な取り組み 2.権利擁護に関する法制度活用等による具体的支援 3.質的・量的な実践データの蓄積と分析 |
精神保健福祉士は、社会的入院の解消と精神障害者の社会復帰・社会参加の促進を使命とする国家資格として創設された。しかしながら、その使命が十分に果たされたとはいえない状況が現在まで続いている。
私たち精神保健福祉士が取り組むべき課題は、社会的入院の解消であり、新たな社会的入院を生まないための地域生活支援の推進である。これらの課題を達成するためには、医療機関、地域の生活支援機関、行政等の精神保健福祉士が各地で協働のうえ、精神障害者のニーズを中心に据えた地域支援ネットワークを構築し、具体的な実践事例を積み重ねていくことが必要である。
そのため本協会は、調査等を通じて社会的入院の実態を把握し、国に対して社会的入院解消のための具体的な政策提言を行うとともに、各地の構成員による自治体の精神障害者地域移行計画策定への積極的な関与を全国的に展開していく。
また、障害者差別禁止法や障害者虐待防止法の制定も視野に入れ、地域生活支援における利用者の自己決定支援や権利擁護などを担う人材となるべく、必要な取り組みを行うとともに、成年後見法制度の課題に関する実態把握に努め、認定成年後見人の適正な後見活動を組織的に支援する体制整備を進めていく。
さらに、これらの組織的な活動を推進していくうえで、精神保健福祉士の質的・量的な実践データの蓄積と分析が欠かせないため、ツールの開発など実践者と研究者との協働により協会としての知的財産を蓄積する仕組みを構築する。
<具体的行動目標[中項目]> 1.自己研鑽の意義の自覚 2.生涯研修制度の充実強化 3.日本精神保健福祉士学会の充実 4.資格制度のあり方の追求 5.資格に伴う現状の課題の解決 6.ソーシャルワーク・アイデンティティの継承 |
対人支援専門職である精神保健福祉士一人ひとりは、個としての人間性の研磨に加え、絶えず変革する社会状況も認識しながら、新たに開発される諸支援の技法等に関する研鑽も含めた資質向上を図る必要があり、本協会は専門職能団体として資質向上のための機会の提供及び精神保健福祉士が参加しやすい環境整備を継続的に図る。また、実践現場をもつ精神保健福祉士への研鑽機会の提供を併せて図ること等を通して、専門職が職能団体に結集することの意義を喚起する。
身近な場での研修機会の提供、関係団体等との連携による研修機会の拡充、養成教育との連動性をもった研鑽体制の整備拡充を行うとともに、スーパービジョン体制の構築についても検討を行い、本協会の生涯研修制度の充実を図る。また、この5か年における生涯研修制度の利用率及び基幹研修修了者数等に係る具体的な数値目標を掲げる。
関連団体による「認定制度」創設実施の動向も見据え、本協会の生涯研修制度基本要綱の改正により、新たに「認定精神保健福祉士」を創設する方向について、早急に結論を得て必要な手立てを講じる。
本協会の内部組織となる学会の名称を「日本精神保健福祉士学会」に変更したことから、今後は、わが国の精神保健領域のソーシャルワークを担う精神保健福祉士の実践の理論化及び倫理綱領・業務指針に照らした実践の検証などに重きを置いた学術刊行物や学術集会のあり方を検討し運営に取り組む。
精神保健福祉士法が改正され、2012年4月からは精神障害者の地域生活支援を担う役割が明確になるとともに、新たなカリキュラム等に基づく精神保健福祉士の養成が始まる。本協会は今後の資格取得者の質の向上の担保に主体的に関与し、精神保健福祉士の機能・役割の周知を積極的に図り、実践現場における配置促進要望に活かす。また、医療・介護・福祉等に関する多領域における国民の需要及び関心が高まりをみせる中、ジェネラリスト・ソーシャルワーカーとして広く担うことができる領域と精神保健福祉士固有の専門性が活用されるべき領域を明確にし、内外に分かりやすく説明していく。
社会福祉士とのダブルライセンス所持者の増加、障害福祉サービス等の総合化、各領域における配置規定等の両資格併記の増加といった今日的状況等も踏まえながら、ソーシャルワーカーの資格制度のあり方に関して、この5年間で本協会としての見解を示すこととする。
また、本協会は研鑽システムの構築とは別に、精神保健福祉士が実践を展開していくにあたってのミニマムスタンダードを確立しなければならない。そのため、実践レベルにおける倫理綱領や業務指針の浸透を図るとともに、職場環境等に左右されず最低限の支援を提供し得るための評価指標やツールの開発に取り組む。
<具体的行動目標[中項目]> 1.専門性を発揮して安心して働ける環境の整備・改善 2.配置促進と雇用形態の改善促進 3.精神保健福祉士の社会的認知の向上 |
精神保健福祉士の業務が正当な評価と業務対価の向上を図るため、「精神保健福祉士業務指針」の更なる洗練と普及に取り組むとともに、関係法規への明文化等により精神保健福祉士の職能が求められる業務内容の可視化を目指す。
そのために、まず構成員及び現任精神保健福祉士に対する雇用・労働環境の実態把握に努めると同時に、国家資格である精神保健福祉士の業務及び労働環境の把握・管理という目的から、国の主管課に対して実態把握調査の実施要望を行う。
また、所属機関内での社会福祉職としての位置づけの確立を図り、専門職としての業務を遂行できる業務スペース、業務物品の提供が担保されうる環境確保に取り組み、職場内における精神保健福祉士の業務管理手順を整えることを目指す。
医療機関における配置規定等の拡充、障害福祉サービス事業所等への配置の明確化、認知症高齢者等の地域包括ケアや司法・教育領域での位置づけなどを獲得することにより、精神保健福祉士の配置と正規雇用の促進を図る。
広報媒体を積極的に活用し、精神保健福祉士資格の社会的認知度の向上を目指した広報活動の強化を図るとともに、精神障害や精神障害者の理解の促進に資するべく、精神保健福祉全般の普及啓発に通じる社会貢献活動を企画し取り組む。
精神保健福祉士の資格や活動等を紹介するDVDの作成・配布、精神保健福祉士を題材とした映画・テレビドラマ等の制作に関するメディア媒体への働きかけに取り組む。
また、小学校・中学校などの義務教育における福祉教育のカリキュラムの中に、精神障害者を支援する職種として精神保健福祉士について取り扱われるよう文部科学省等への働きかけを行う。
<具体的行動目標[中項目]> 1.災害支援に関する体制の整備 2.東日本大震災被災地及び被災者への継続的な支援活動の実施 |
2009年度に本協会が策定した「災害支援ガイドライン」について、本協会のウェブサイトや都道府県支部を通じた普及啓発を図るとともに、災害時における本協会及び都道府県支部、都道府県精神保健福祉士協会協会等(以下「都道府県協会」という。)における支援体制に関する課題を整理し、整備を推進する。研修等の開催により、災害支援に関する人材育成を図る。
また、都道府県支部長及び災害支援に関する都道府県支部の担当者等の会合の場を設け、体制整備の進捗状況や課題の確認及び人材育成のあり方に関する検討を進める。
2011年3月11日に発生した、東日本大震災により被災した地域における精神保健福祉活動の支援及び被災した構成員に対する支援などを、被災県や市町村の要請及び関係諸機関・団体との連携のもとに継続的に行い、復興を支援する。また、大震災により、職業や住居などをはじめ生活基盤の喪失被害を被った方々への生活再建の支援や自死予防支援など、具体的な支援活動に関しても協会事業の中で行っていく。
<具体的行動目標[中項目]> 1.公益法人改正への対応 ※2013年11月30日期限 2.2015年度までに構成員数1万2千人を達成 3.都道府県協会との関係整理の推進 4.都道府県支部体制の定着化 5.収益事業の見直し |
公益法人制度改革を踏まえ、公益社団法人への移行を目指し、組織の基盤強化を推進する。また、公益社団法人への移行のプロセスを通して、改めて本協会の公益性、共益性と事業のあり方について検討し、全構成員が本協会の社会的位置付けや意義を共有し、構成員としての自覚のもとに活動する体制を整えていく。
この5か年における構成員総数の数値目標(1万2千人)を掲げ、一般社団法人日本精神保健福祉士養成校協会との協働による学生会員制度の創設の検討、都道府県協会との連携強化(契約に基づく入会相互勧奨制度の創設)、構成員による入会勧奨強化、構成員の資質担保のための生涯研修制度運用への全組織的取組みなどにより、現任精神保健福祉士の組織率向上を図る。
また、法人組織を志向する都道府県協会への支援や一部事業委託等を通じて、本協会と都道府県協会との関係性の整理に努めるとともに、支部の全都道府県への設置を図り、都道府県支部を通じた全国的な事業展開を模索する。