精神保健福祉士のキャリアラダーとワークシート(さくらセット)活用の手引き
ソーシャルワーカーが育つ意識、育てる機会・環境をつくる
(公社)日本精神保健福祉士協会は、精神保健福祉士があらゆる研鑽方法を活用し、自らの専門職としての資質を高め続けることができる、その仕組みづくりに取り組んでいます。
精神保健福祉士が力量を高めると、人が、そして地域が変わります。今、多くの人々が、精神疾患や精神障害を抱えることによって、生活を営む上でのさまざまな困難に直面しています。
私たちは、個人が直面しているメンタルヘルス課題の解決と、類似した課題を抱える人たちへの支援、発生を予防する地域づくりを使命としています。私たちは資質を高めていくことが必要ですが、実際にどうしたらよいのかという具体的な方法は、案外、見えにくいのではないでしょうか。
そこで、質の高い実践を展開していくために必要となる力量と、実践経験に伴ったレベルを整理しました(キャリアラダー)。自分の今の力量と今後高めていく力量を見通す手がかりとして上手に活用することで、時には停滞・行きつ戻りつしながらも、一歩ずつ資質を向上させていくことができます。
公益社団法人日本精神保健福祉士協会
(企画・編集:精神保健福祉士の資質向上推進委員会)
この手引きは、JSPS科学研究費「精神保健福祉士の資質向上を促進するキャリアラダー開発と支援策の評価に関する研究」(17K04223)、同「自己教育力に着目した精神保健福祉士の資質向上支援策の構築と効果検証」(20K02266)の助成を受けて作成しました。
実施者の声
Q1 実施のきっかけは何でしたか?
職場の上司からお声掛けをいただきました。
自分自身の業務を見つめ直し、精神保健福祉士として資質向上を目指したいと思ったこと、5年目の自分に、精神保健福祉士としてどれ位の力量が求められるのか、指標を知りたいと思ったことがきっかけです。
Q2 どのような点を工夫しましたか?
現在、自身が置かれている環境、業務内容、業務の進め方、その中での課題や優先度を整理することから始め、取り組む動機の優先度が高いものを選定できるように意識しました。
Q3 実施してみて良かったことは?
日々の業務で自身の課題を発見しても、その課題に対してどのように取り組むべきか、業務に追われて流してしまうことが多かったため、しっかり向き合う機会を与えてもらったことが良かったです。最初に目標を立てたことで、漠然と業務に向かうのではなく、日々意識することができました。
また、他者評価があることで、自己評価の妥当性を知ることができたり、達成方法について、経験に基づいた意見や助言が得られたため、取り組みの幅や可能性が広がりました(課題の中には、個人で取り組むのではなく、精神保健福祉士の集団で取り組んだほうが良いこと等の発見)。その過程が資質向上に繋がり、モチベーションを保つことができていたと感じています。
Q4 戸惑ったことは?どう対処しましたか?
実施・取り組んだことについて、〈具体的手段と手順〉に沿う形で自己評価を試みましたが、具体的な手段が複数ある場合、達成した内容と達成できなかった内容で評価が統一せず、最終的な自己評価(A〜D)の判定が難しく感じました。そのため、具体的手段について、よりシンプルにまとめることが必要なのかもしれない、と感じました。
Q5 今後に向けて
ピア(同年代)での取り組みも経験してみたいです。また新たな気づきがあるかもしれません。
さくらセットの特長
- 多様化されたキャリアに対応できるよう、選択方式を取り入れています。
- 振り返り担当者に情緒的な面でのサポートも受けながら、伴走的に取り組みます。
- ラダーの達成課題は、機関の特性や地域状況に応じて一部変更(アレンジ)できます。
振り返り担当者の声
Q1 振り返り担当者を引き受けたきっかけは?
モデル実施の声をかけられたことが直接のきっかけですが、職場内でもキャリアラダーをどのように導入するかを検討しており、ちょうど良い機会だと引き受けました。
Q2 工夫した点は?
お互い負担感が大きくならないよう、就業時間内で30分と時間を決めて行ったこと、具体的手段と手順や、評価の基準については、数値等を具体的に決めて明確に何が達成されたら良いかを話し合いました。
Q3 振り返り担当者を担ってみて、良かったことは?
個人的な目標を話し合いながらも、部署全体にも応用できそうな課題が明確になり、今後の精神保健福祉士の育成にもいかせそうなチェック項目作成につながりました。
Q4 戸惑ったことは?どう対処しましたか?
運用手順など慣れるまではどう進めていいか戸惑いがありました。クリアした課題は次のステップに進むか、あらためて新しい目標を設定するのかを話し合い、課題については終了としました。
Q5 今後の後進育成に向けて
今回キャリアラダーに参加させてもらって、精神保健福祉士の業務について、ステップがかなり具体的に設定されていて、取り組みやすさを感じました。実用化した際には利用させていただきたいと思います。
※モデル実施協力者に体験談をまとめていただきました。
さくらセットのご意見や感想をお寄せください。
また、部署や地域で利用しやすいように様式等を一部変更した場合は、ぜひ協会事務局までご一報ください。
より良い情報を集めて皆様にお届けしたいと考えています。
公益社団法人日本精神保健福祉士協会
〒160-0015 東京都新宿区大京町23番地3 四谷オーキッドビル7F TEL. 03-5366-3152 FAX. 03-5366-2993
URL:https://www.jamhsw.or.jp/ E-mail:kensyu△jamhsw.or.jp(△を@へ変更して使う)
1.資質向上支援を目的に開発した道具(ツール)が「さくらセット」
1) 精神保健福祉士のキャリアラダー
実践に必要な力量を項目別・レベル(段階)別に表した体系図です。
2) ワークシート
フェイスシート:将来の目標や具体的な達成課題、実施手順等を記入する進行管理表です。
振り返りシート:実施者と振り返り担当者で共有し、定期的な振り返りに活用します。
2.さくらセット活用の流れ
◆さくらセットは、(公社)日本精神保健福祉士協会ウェブサイトからダウンロードできます。
◆ワークシート作成と振り返りの流れは、別添「ワークシート作成要領」で解説しています。
フェイスシート作成時
※数字の順番に活用する
1)【個人】「所属機関(施設)の役割」「なりたい自分(個人の目標)」を記入し、目標を見定める。
2)【個人】「目標にするステップ」と「具体的な達成課題」を具体化する。
3)【個人】「具体的な達成課題」を選んだ理由・動機、重要度を書き残す。
4)【ペア】目標達成の手段と手順を記入し、振り返り担当者と共有する。
振り返りシート
5)【個人】取り組んだこと、実施者本人が考えたことを記入する。
6)【ペア】振り返り担当者と面談。その後、振り返り担当者から伝えられたことを記入する。
3.「さくらセット」 活用のQ& A
Q1 振り返り担当者は、誰がなると良いですか?
A1 直属の上司・先輩だけでなく同期や、例えば普段から連携している他部署や他機関の方など、同じ精神保健福祉士であればどんな関係性でも実施できます。一人配置の職場でも取り組めます。
Q2 通常業務だけで手一杯な中、ワークシートの記入で過重負担にならないか心配です。
A2 項目はリストから選択できたり、すべてのマスを埋めなくても良いなど、記入量は調整できます。1時間程度で記入可能です。負担をかけずに精神保健福祉士としての自分の振り返りに利用できます。
Q3 自分の職場では取り組む機会が少ない項目があります。どうしたら良いですか?
A3 実施者はそのように感じたことをまず、振り返り担当者と共有しましょう。振り返り担当者は、実施者の成長のために取り組んだ方が良い研鑽方法を一緒に考えます。
Q4 振り返りのための面談には、どれくらいの時間をかけるのが良いでしょうか?
A4 30分から1時間が目安です。事前にワークシートを振り返り担当者に見てもらうなどの工夫で振り返り担当者も準備ができるため、効率的に面談ができ、負担の軽減につながります。
Q5 さくらセットは、人事考課と連動しているのでしょうか?
A5 さくらセットは人事考課を目的に作成されたものではありませんが、精神保健福祉士としての資質向上を重視している所属であれば、人事考課の補完的なツールとして活用できます。
Q6 振り返り担当者として、どのような点を工夫すると、より効果的に活用できるでしょうか?
A6 体験者(モデル実施)から、次のような工夫点があげられました。
- 実践のエピソードを交えて、実施者ができていた部分を中心にフィードバックする。
- 達成課題の優先度が高いものから順に振り返りを行う。
- 実施者が複数の場合はグループで行うことで、相互作用を活用する。
このような方法で実施者の様々な気づきに耳を傾けながら、振り返りを行うと有効です。
Q7 取り組み続けるには、モチベーションが維持できるか心配です。
A7 振り返り時期を決めておくことで、忘れずに振り返り面談を行うことができます。振り返り担当者と協力して進められることが強みです。出来ているかどうかのみに目を向けるのではなく、自身の課題や取り組みを振り返ること自体に効果があることを体験してください。
2020.9.9発行
2023.12.19 URL、メールアドレス修正