独立行政法人福祉医療機構「長寿・子育て・障害者基金」助成事業

報告

2009年度第2回生活保護と精神障害支援を受講して

2009年10月5日(月)、6日(火)、沖縄コンベンションセンター(沖縄県宜野湾市)にて、「第2回生活保護と精神障害者支援」を開催しました。ここでは、修了者の中から精神保健福祉士、行政機関職員の立場で、お二人からの報告記事を掲載します。

       
比嘉県協副会長による開講挨拶 講義中の会場の様子 演習 修了証書の授与

・ 生活者と生活保護制度の架け橋に、私はなりたい

地方独立行政法人 那覇市立病院(沖縄県)/経験年数1.5年 嘉手納泉也

 晴天の秋空の下、2009(平成21)年10月5日(月)、6日(火)の両日に、本協会主催の課題別研修「第2回生活保護と精神障害者支援」が沖縄県宜野湾市のコンベンションセンターで開催されました。地元の開催で、かつ参加費が無料。前日から気持ちが高ぶり、仕事は休暇をとって参加しました。  

 私は医療ソーシャルワーカーとして一般急性期病院でクライエントに関わっています。退院援助が業務の大半を占める中、入院の継続や生活基盤を作るための生活保護の説明や申請援助、担当課との連絡調整も実践しています。予想通り、今回の大きな収穫は、日本の生活保護行政の現状を把握できたこと、6の講義と事例検討会の中で、生活保護法の理念から社会資源の活用まで多岐にわたる知識と技術を得たことです。

 大別すると以下の六点になります。

  1. 長谷川俊雄 氏(愛知県立大学准教授)の「生活保護法の理念とソーシャルワーク」では、生活保護の申請に「受理」の概念はなく、「開始」か「却下」しかないので生活困窮者であれば、福祉事務所は申請を拒む事はできないこと、と強調しており、大きな衝撃を受けました。
  2. 「自立支援プログラムについて」田盛広三 氏(沖縄県北部福祉保健所生活保護班長)より、社会的入院患者の退院促進事業が沖縄県では2004年から開始され、5年間で21人が退院した報告があり、行政と精神保健福祉士の連携強化の必要性を痛感しました。
  3. 名城健二 氏(沖縄大学准教授)の「精神障害者長期入院の要因〜社会的入院〜」。社会的入院そのものが人権侵害、というキーワードが心に残り、改めて精神保健福祉士の役割を見つめ直し、原点に立ち返ることを考えさせられました。
  4. 「地域生活移行支援のすすめ方」比嘉智子 氏(うるま市地域生活支援センターあいあい)は、日本の生活保護費が2兆6,033億円、うち医療扶助は13,123億円と50.4%(2007年)を占め、精神科入院はうち3,214億円(24.5%)という現状を示した上で、地域移行支援は本人を中心に地域に社会資源を開発する過程である、というソーシャルワーカーの視点と実践力に感銘を受けました。
  5. 「生活保護制度の仕組みを学ぶ」で、大城光子 氏(那覇市保護課福祉相談医療対策室長)は、「必要な人から資質調査と受給開始をしたいが、不況・失業等の社会状況から窓口に申請者が殺到して対応できない実状がある」と話され、生の声で行政の苦しさを感じました。
  6. 安村勤 氏(名護市地域生活支援センターWAVE所長)の「社会資源の創出法と活用法」では、「患者である前に、生活者であることを忘れずに」「地域の人々の力を発掘する」。私の課題です。

 以上、精神保健福祉士として、生活保護制度の利用者に「尊敬」と「励まし」をもって関わり、その人らしい生活ができるよう援助する勇気と意欲、明日への原動力をもらいました。


・ 生活保護は入口広く、出口も広く

那覇市役所健康福祉部保護課 退院促進支援(沖縄県)/経験年数5.5年 梶並 飛鳥

 第1日目・2日目の講義を通じて生活保護制度の理念や現状、精神障害者支援について体系的に学び、情報の整理、今後の課題を考えることができました。

 「これだから行政は」。

 この言葉は以前、私が民間病院に勤めていた際、生活保護ケースワーカーが現場を知らず融通の利かない対応をしていると感じた際、発していた言葉でした。しかし、それは自らの生活保護法に対する知識不足、また、意見と主張の矛先を間違えている故の言動であると今回の研修で気づきました。

 長谷川俊雄講師も話されていたように生活保護制度の運用と援助活動に疑問や憤りを感じ、それらの矛先を生活保護ワーカーや福祉事務所に向けるだけではなんの問題の解決にもなりません。現状に疑問を感じた際、精神保健福祉士という福祉の専門職として必要なことは、非難ではなく生活保護制度を理解した上で現状を変えるべく伝えるべき機関、相手に対し建設的に意見を伝えていく力を身につけていくことであると今回の研修から学びました。また、精神保健福祉士も精神障害者支援に関する制度や資源や法を熟知し、生活保護ケースワーカー等の他機関、他職種へ説明する能力を日々研鑽していく必要があると改めて考えました。

 私自身は現在、精神保健福祉士として市役所の保護課にて退院促進支援事業を担当しています。日々の業務で感じていることは長期入院の方も未治療の方も生活保護ケースワーカーと精神保健福祉士が連携し、お互いの専門知識を生かし合うことで長期入院が解消され地域生活を送り始めている多くの方がいる事実です。また、未治療の方に関しては自宅訪問を行う生活保護のケースワーカーの報告により精神保健福祉士が介入し、早期に医療機関に繋げることで病状悪化をふさぐことができ、新たな長期入院者を作りだすリスクが減っている現状です。

 最後となりますが題名にある「生活保護は入口広く、出口も広く」は今回講義くださった那覇市役所保護課の大城光子講師の言葉です。この言葉は本来の生活保護制度の姿かと思います。

 生活保護制度は生活に困窮している方に対して入口広く、また生活保護制度を卒業した方の人生の選択肢に対しても広くなくてはならないと思います。

 そのような生活保護制度、また精神障害者支援であるために生活保護ケースワーカーと精神保健福祉士は連携し切磋琢磨していくことが必要であると今回の研修で学ぶことができました。ありがとうございました。

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