報告

財団法人社会福祉振興・試験センター平成24年度人材養成・研修助成事業
課題別研修/精神保健福祉士による災害支援活動に関する研修を受講して

2012年度に「課題別研修/精神保健福祉士による災害支援活動に関する研修」を全国で5会場開催しました。佐賀会場(第1回)、愛知会場(第2回)、北海道会場(第3回)、和歌山会場(第4回)、高知会場(第5回)の各回について、修了者の方から報告記事をお寄せ頂きましたので、ご報告します。


■高知会場

2013年1月20日(日)、高知商工会館において、第5回の研修を開催し、26名の方が修了されました。

       
会場の様子 ガイドラインの説明をする島津屋委員 演習の様子 代表者1名による修了証書授与

・ 精神保健福祉士による災害支援活動に関する研修(高知会場)に参加して

細木ユニティ病院(高知県)/経験年数5年 岡 知子

 私は昨年、宮城県石巻市に日本医療社会福祉協会を通じて災害ボランティアに参加させていただいていました。そういった経過もあり、災害支援については高い関心を持っています。今回の災害報告の一つに、こころのケアチームで現地に入られた方の発表がありました。現地で抱えた葛藤を今でも向き合っている状況のようで、活動終了後のアフターケアの重要性をとても感じました。私自身、災害ボランティア活動へもう1度行きたいと思っていたため、講師の方が話されていた、支援者自身へのセルフケア・アフターケアが不十分であると、現地での活動経験が自信喪失になったり、トラウマとして残ったりすることがあるというお話しがとても印象的でした。

 また午前の講義では、精神保健福祉士が行う災害支援活動は現地で行う活動と現地から離れた場所で支援する活動がある等、項目別のお話しがありました。なかでも日常的に出来ることとして、目の前の対象者の方に対して「最低限の持ち物チェックをする」など、災害を意識付けできるような話題提供を行うことによってできる、災害活動があると教えてもらいました。現地で行う活動がすべてではないと改めて気付かされ、特別なことと意識し過ぎず、自分にもできることから取り組んでいきたいと思いました。

 午後の演習は「震災に見舞われた際、周りの状況はどうなっているのか、自分は何をするのか?」ということを時間経過に沿って検討していく内容でした。なかでも、被災直後に特化して検討した際に、グループの皆さんは「家の中は家具や物でぐちゃぐちゃ」と答えたにも関わらず、「周りに声をかけて、子どもたちと逃げる」と答える人が多かったです。高知県は確実に南海大地震が来るため、すでに住宅環境を整え防災に努めておられる方も多いです。それでも自分自身が危険に冒されて、助けられる側になっている可能性があるにも関わらず“自分は大丈夫”という前提で物事を考えていらっしゃる方が多いことが印象的でした。私自身も「自分は大丈夫」と過信して物事を捉えていたことに気付けたことが、とても大きな収穫でした。

 今回の研修を通じて、非日常時に備えるためには、より具体的に自分に置き換えて考えることがとても重要だと感じました。非日常時に身の安全あってこそ、支援者として職場や家庭での役割を全うできるのだと思います。すべては、いのちあってこそ。いのちを守るためにできることから、取り組んでいきたいと思います。

 最後になりましたが、ご多忙な中、貴重なお話しをしてくださった講師の皆様と、研修を企画していただいた委員会の皆様に心よりお礼申し上げます。


■和歌山会場

12月9日(日)、プラザホープ(和歌山県勤労福祉会館)において、第4回の研修を開催し、23名の方が修了されました。

       
実践報告をする大原委員 ガイドラインの説明をする大澤委員 演習の様子 代表者1名による修了証書授与

・ 課題別研修/精神保健福祉士による災害支援活動に関する研修」(和歌山会場)を受講して

宮本病院(和歌山県) 栗本 愛

 研修の報告の前に、まずは2011年3月11日の東日本大震災で被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。今も復旧・復興のために活動されているご多忙な中、課題別研修へ参加した私たちに被災地の現状をお伝えいただき感謝申し上げます。

 研修は実践報告、当協会の活動とガイドラインについて、講義、演習というプログラムで構成されていました。プログラムの中でも特に被災地現地体験で語られた当日の惨状は想像を絶するものでした。メディアで情報を得ているつもりではありましたが、実際の被災地に居られた方の言葉は、死と隣り合わせになった状況や一瞬にして奪い去られた日常を鮮明に伝えていました。私はメディアの情報から自分は精神保健福祉士として被災地に何ができるのかと考えてきましたが、それ以前に自分も被災する可能性があること、被災時には一人の人間として「生きる」ということが大前提になっていることを気付かせてもらえました。自分が生きていなければ支援に入ることができません。生きるため日頃から防災・備災に関心を持って学ぶことが必要と感じました。

 被災地での支援活動の報告では、非被災地からこころのケアチームとして現地に入り、被災された方々にチームの普及のため、健康相談からアプローチしたことや現地で心がけてことについてお話していただきました。物資も人手も足りない状況で外部からやってきた支援者が現地に迷惑をかけてしまう可能性も指摘され、現地の支援者の話に耳を傾け、迷惑をかけないようにするという大切な視点も教えていただきました。現地に赴くにあたり「自分は精神保健福祉士として何かしなければ!」という強い高揚感を抱いてしまう可能性がありますが、あくまで現地の方と一緒に考え、行動するということを忘れないように高揚感・万能感をコントロールしていかなければいけないと思いました。

 また災害時に精神保健福祉士として行う活動は必ずしも被災地で業務として活動したり、非被災地から現地に赴くということだけではありませんでした。被災地から避難してきた方への支援、被災地へと赴く仲間の支援、被災地以外でも支援が必要とされていました。これまで災害支援は現地に入って活動することだと考えていたのですが、実際の活動報告の中で被災地、非被災地で支援が多様に展開されていました。

 私は課題別研修への参加で自分自身の災害時支援活動に対する視点の偏りに気付かせてもらい、多様な災害活動支援を知ることができました。今後、一日も早い被災地の復興を願うと共に、この未曽有の大震災を風化させないために被災地の現状をきちんと知り、今できることから取り組んでいきたいと気持ちを新たにすることができました。


■北海道会場

11月11日(日)、北農健保会館(北海道札幌市)において、第3回目の研修を開催し、20名の方が修了されました。

       
実践報告をする及川委員 実践報告をする小栗委員 演習の様子 代表者1名による修了証書授与

・ 精神保健福祉士の災害に対する意識について考えたこと

社会福祉法人せらぴ 就労支援センターOm-net(おむ・ねっと) (北海道)/ 経験年数20年 志 博明

 前回の北海道での災害支援活動に関する研修の後に東日本大震災があり、改めて災害時の備えを痛感しての参加でした。北海道精神保健福祉士協会では、災害支援ガイドラインの作成が大詰めとなり、理事会で緊急連絡網を整備し、安否関確認の連絡テストの実施などを行ってきました。しかし、災害支援に対する会員の意識にはバラつきがあり、今回の研修の参加人数が少なかったことなど、会員の意識を高めていく必要性を感じての参加でした。

 被災現地体験では、出張先で被災され、今だから話せることがあると、被災者という側面と専門職としての側面を持ち、精神保健福祉士として活動された、臨場感のある貴重なお話を聴かせて頂きました。ボランティアという意識はなく困っている人がいるから当然と活動されたという報告の中で、自分が同じ立場ならば、精神保健福祉士として被災地での活動を行うだろうか、家族の安心を優先するのか、生活の基盤である町内会の一員として活動するのか、所属機関の精神保健福祉士として活動するのか、一つしかない体で、どう選択するか、本当に判断が難しいと感じました。非日常の中で専門性を発揮できるかどうかというのが、自分自身が精神保健福祉士として試される状況だということを理解しました

 被災地支援の報告では、現地で継続的な支援を行うということの難しさを感じると同時に、その期間でも支援を必要としているという現地の状況がまさしく非日常であり、短期間の支援活動の限界、引き継ぎや、情報収集自体が被災した方の負担になってしまうことなど考えさせられました。私たちにできることは、日常の業務から精神保健福祉士として、基本に忠実に、バイスティックの原則を意識することや、アセスメントを丁寧にすること、クライエントの側に立った視点をもつこと、クライエント自身の回復する力を信じること、適切な記録を書く技術など、基本に忠実にキャリアを重ねることが重要と感じました。

 被災地外に避難してきた被災者への支援では、埼玉県に避難してきた双葉町への支援について支援の方法を柔軟に変更し、役場の職員を支援する視点や、日常から地域の医療や福祉の関係機関との連携がとれているからこそ、災害時にコーディネートをすることができると、日常からの関係が重要ということを再確認しました。

 演習では、災害が起こった時に、医療機関ではコーディネートが行う人が上手くできるかで、現場が混乱するかどうかに影響するであろうということや、自立支援法の事業所では、日常から他の事業所との関係があり、安否確認や協力して活動できる関係があることが大切だとうことを確認することができました。災害が起こり避難するまでは、訓練などを行っているが、避難したあとにどうするかを時系列でシュミレーションしていくと、考えていなかったことがあることに気づかされました。今回の研修を職場や地域で生かし、災害時に備えて行きます。


■愛知会場

10月21日(日)、AP名古屋(愛知県名古屋市)において、第2回目の研修を開催し、14名の方が修了されました。

       
実践報告をする氏家委員 会場の様子 演習の様子 代表者1名による修了証書授与

・ 災害支援活動に関する研修から日常業務を振り返って

医療法人回精会 北津島病院(愛知県)/経験年数6年 伊藤 加奈

 2011年3月11日に発生した東日本大震災をうけ、近く発生するだろうと言われている東南海・南海地震を想定し、この地域でも大規模災害発生時の体制づくりが急がれています。しかし、想定される災害規模が大きく、仮想される状況も捉えきれないほどであり、マニュアルを作成しようにも何から手をつければいいのか会議でも頭を抱える日々が続いていました。そのような中、今回の研修開催を知り、何か示唆を与えていただければと思い参加させていただきました。

 実践報告、講義ともに共通していたことは、「平常時にできていることは、非常時でもできる。日常できていない支援や連携が非常時だけできるわけではない。個人も組織も普段からの関係性が重要」ということでした。このことを講師の方々が繰り返し伝えられるなか、今回の研修以外で、実際に被災地にボランティア活動に出向かれた方のお話を伺ったときも、やはり日頃の協同が非常時にも役立っていたという話を何度も耳にしたことを思い出しました。それまで、大規模災害発生時に有用な資源を作ることにばかり囚われ、その一方で、予想される災害の規模の大きさに戸惑い何も形になっていないことに焦りを募らせていましたが、行政、教育、福祉、医療、企業などの関係者が集まり、災害時にどう対応できるか考えを巡らせていることが、地域にとって一つの社会資源構築の足がかりになっているのではないかと気付かされました。

 午後の演習では、さまざまな場面での地震発生を想定しグループワークを行いました。所属機関も精神科病院や大学病院、作業所などさまざまでしたが、家庭や職場で地震が発生した際に考えられる問題や対応策について活発に意見交換ができました。実際に細かく状況設定をして話し合うことで、具体的な課題を抽出でき、それぞれの職場などの災害対策に繋がる有意義な場となりました。

 今回の研修に参加させていただき、通常の業務で構築される関係機関、関係者との繋がりが、非常時においても一資源となり得ることを再確認することができ、私自身日頃の業務を振り返る機会にもなりました。また、同じ職場のワーカーと参加したことで、職場での非常時の対応について話合う契機ともなりました。今後、平常の関係機関との連携をより大きな視点で捉え、また、今回の研修内容を職種を越えて伝えていけたらと思います。最後になりましたが、お忙しい中貴重な経験をお話くださった講師の皆様、研修を企画していただきました委員会の皆様に感謝申し上げます。


■佐賀会場

9月9日(日)、サンメッセ鳥栖(佐賀県鳥栖市)において、第1回目の研修を開催し、21名の方が修了されました。

       
ガイドラインの説明をする古里委員 演習の様子 全体会発表 代表者1名による修了証書授与

・ 精神保健福祉士による災害支援活動に関する研修から学んだこと

社会福祉法人青生会 就労サポートセンター菊陽苑(熊本県)/経験年数6年 田原春 豊之

 東日本大震災から1年半となる9月9日、佐賀県で行われた「精神保健福祉士による災害支援に関する研修」に参加しました。私が勤務している職場のある九州北部でも阿蘇地方を中心に今年7月11日から7月14日にかけて集中豪雨により、河川の氾濫や土砂崩れなどの甚大な被害に見舞われ、自然の驚異とこれまで経験したことのないような事態がいつ起こるのかは予測できない怖さを実感しました。今回の研修を知ったのも丁度この時期で、災害支援活動の中で精神保健福祉士がどのように関わり活動しているのかを知り、今後の業務に生かしていければと思ったことがきっかけです。

 午前の講義の中では、被災地で実際に被災した方の体験談や被災地にボランティアとして活動した方、被災地外で支援活動をした方の報告がありました。実際に活動する中では、予想もできない事態があることや、実際にこういう活動をしたいと思って参加しても思うような活動ができない現実を知りました。そして、そのような中で他機関、他職種との連携や関係調整など精神保健福祉士の専門性を生かした支援が必要とされていることを実感することができました。

 午後の演習では、実際に家庭、職場で地震が起こったことを想定してのグループワークを行いました。災害が起こった時には自分はどう行動するだろうかということを考えました。実際に災害が起こった時はパニックになり、まず家庭のこと、身の回りのことなどを考えるだろう。その一方で事業所の支援員としてどれほど動けるだろうか、どういう役割を果たしていくべきか?などいろいろと考えさせられました。同じグループの中にはさまざまな立場の方がおり、その中で一つの答えは出ませんでしたが実際起ったことを想定し考える機会を得たことが一番の収穫だと感じました。

 また、日本精神保健福祉士協会の作成した災害支援ガイドラインについての説明がありました。ガイドラインの説明を聞き、職場の中でも非常時に備えてガイドラインの作成、訓練が必要だと感じました。今後、職場の中でも再度業務を確認し、作成していけたらと思います。最後に、今回の研修においてご多忙な中、貴重な経験を話して下さった講師の皆様、佐賀県精神保健福祉士協会の会員の皆様に感謝申し上げます。


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