報告

2008年度課題別研修/第1回地域生活移行支援を受講して

2009年1月24日(土)、25日(日)、TFT東京ファッションタウンビル(東京都江東区)にて、「第1回地域生活移行支援」を開催し、87人の方が修了されました。ここでは、修了者の中から本協会構成員(精神保健福祉士)、精神障害者地域移行支援特別対策事業の担当者、事業実施に携わる地域体制整備コーディネーターの立場で、3人からの報告記事を掲載します。

       
会場の様子 講義1を話す田村講師 10班に分かれて行った演習 各班の報告を行った全体会

・ 構成員の立場から/病院PSWの役割って?

医療法人社団恵宣会竹原病院 尾川 蘭

 今病院PSWとして地域移行支援事業に関わるようになってからも、私の勤務する病院では事業の対象者が出ないまま、月日が過ぎていきました。事業に関わる中で、通常の退院支援との違いは何だろうと始めは考えていました。しかし事業が進むにつれ、病院独自での支援の限界もあるため、事業を使うことにより、多くの関係者で支えることの意義を感じるようになりました。そして、病院PSWとして何ができるのか模索しているところにこの研修があると知り、参加させていただきました。

 講義は、改めて社会的入院について考えるところからはじまり、事業のポイント、そして実践を踏まえた支援の展開方法など、地域で対象者をどう支えていくか考えさせられるような内容のものでした。演習では、どうアプローチしていくか、どんなコーディネートが必要かなどの検討を行いました。始めは緊張してしまいましたが、同じような悩み、想いを持つ方々と意見交換するうちに、時間が足りないぐらい盛り上がりました。

 特に2日目の演習が印象的でした。模擬事例を用い、各々のグループにいる受講者の地域だと設定し、課題の検討を行いました。私のグループでは、私が勤務している病院がある地域に設定して頂きました。他参加者からは、様々な意見が出され、自分には考えつかないようなアプローチもあるのだと気づかされました。その中には、今後の実践の参考となるような意見を多くいただきました。病院PSWが自立支援協議会の参加者として位置づけられていない現状を報告し、参加してみてはどうかとアドバイスをいただいたので、早速自立支援協議会に参加できるよう交渉しているところです。

 今回地域生活移行支援がテーマでしたが、研修を通してPSWとしてのあり方、関わりについて改めて考えさせられるような内容が多くあり、自分を振り返るきっかけにもなりました。講義後の懇親会で、他受講者とお互いの想いを語り合えた体験も、私にとって大きな収穫となりました。今回の研修を通し、全国に仲間ができたことを嬉しく思っています。

 講義の中での「あきらめず仲間を探していくことが大事」という言葉を胸に、研修に参加したことを活かしながら、一歩ずつ前進していきたいと思います。


・ 地域体制整備コーディネーターの立場から/「資格」と「本質」をつなぐ研修を

社会福祉法人やおき福祉会 紀南障害者地域生活支援センター 柳瀬 俊夫

 平成16年度から退院促進支援事業を始めた和歌山県の派遣により、本研修に参加させていただきました。私たちの和歌山県、特に、やおき福祉会のある圏域は県南部に位置し、広大な医療圏・福祉圏となっています。このような土地で生活する、精神障害がある方は「距離」が大きな不利となり、受診や資源利用に影響を与えています。

 私たちは、こうした地域の特性と付き合いながら、退院促進支援事業に取り組み、地域生活全般のサポートを行っています。今回の研修には、和歌山として次年度から開始する「地域移行支援事業」のプレ研修として参加いたしました。

 本研修のテーマは、「送り出す病院と迎え入れる機関の連携・地域体制整備とは」であり、たまたま、私たちの地域で予定していた、「平成20年度退院促進強化事業」での企画テーマと合致していました。私たちは、病院から地域への安心感、送り手、迎え手に必要なものと題したフォーラムでしたが、地域移行支援をすすめるためには、具体的なサポートが必要であり、退院を目的とした地域移行ではなく、退院後の充実した生活支援による安心感が求められるとの考え方でした。そしてこうした課題は、今回の研修を通して、私たちの地域のみならず全国の課題であるという認識を持つことができました。

 さて、研修の中身に触れると、2日間の構成が非常にバランスのとれたもので、講義と演習が一体的であったことは参加者全員の理解度を高め、それぞれの地域活動への道筋を示唆したように思います。各講師陣もバランスよく、理念、技術、実践がうまくくみ合わさっていました。特に、岩上氏の話は、非常に共感できるもので、現施策(退院促進支援事業―地域移行支援特別対策事業)の精神科病院側のイメージに対応できる話であったように思います。また、施策(自立支援協議会等)に、のっていくことを戦略化しており、これについても、参加者の動機付けとしてよかったと思います。2日とも、講義の後に演習が行われました。10人前後のグループ討議により、仮定の地域移行支援対象者を事例として、どう地域生活への移行をすすめていくか意見を出し合いました。事例からみる本人のニーズ把握に至るプロセスでは、仮定や空想のレベルまで駆使し、班ごとに、それぞれ特徴のある議論がされたようでした。私たちの班は事例から脱線し、アクションや資源に関するものへと発展し、楽しみながら終えることができました。

 最後に、地域生活移行支援に必要な視点は、講演でも少し触れられていましたが、支援者(PSW)の「心構え」であろうし、名のとおり、「ソーシャルワーク」を実践することだろうと思います。今後、資格者がペーパードライバーに陥らぬよう、「資格」と「本質」をつなぐ研修も導入していただければ大変うれしく思います。また、組織に制限のある行政等にあっては、職場機能の開発を目的としたソーシャルワーク論があってもいいのではないでしょうか。何れにしても今回の研修は自らへの戒めも含めて非常に良かったと思っています。ありがとうござました。


・ 都道府県の精神障害者地域移行支援特別対策事業担当者の立場から/精神障がい者の地域生活移行を進めるために感じたこと〜社会的入院を改めて考えたことから〜

福島県県中保健福祉事務所 角田 厚子

 研修では、はじめに田村常任理事の講義で、精神障がい者の社会的入院の歴史認識の必要性が説かれました。 

 社会的入院とは、条件が整えば退院できる、と言われていますが、定義により人数は異なります。社会的入院の原因を歴史からみると、背景には、明治の精神病者を在宅で家族が見ていた私宅監置があります。大正になり公的責任における病院設立をめざしましたが、治療より収容が優先し、社会復帰という発想には至りませんでした。第2次世界大戦後に公衆衛生の向上をめざしても、病院で対応しました。その後、ライシャワー駐日大使刺殺事件、宇都宮病院事件と続きます。精神保健法制定には社会復帰が明記されましたが、これまでの経過の中に政策の公的責任を感じ、また、行政で働く者として、精神障がい者の社会的入院の公的責任を感じた次第です。

 私は、病気が治っても病院にいるのは、目に見えない病気のために社会が受け入れがたい、患者自身が希望しない、また、精神科病院が入院中の患者を出そうとする考えや努力が少ない等の理由があるように思っていました。しかし、精神科特例という制度により病院のスタッフが少なくて良いとしたのも行政です。スタッフが少ないということは、患者の病状が安定したあとの退院への意欲、希望もそいでしまいます。

 これからの地域生活移行支援に大切な力は、「院内から送り出す力」「地域から病院へ迎えに行く力」「地域で安定するための力」です。そして、精神保健医療福祉の改革ビジョン(グランドデザイン)として「入院医療中心から地域生活中心へ」という精神保健福祉施策の基本的方策の実現です。

 病気が治ったら退院する、というあたりまえのことがあたりまえに出来るようにしたいと考えておりますが、このあたりまえのことを関係者が協働で実施していく時、地域体制整備コーディネーターの役割が重要になってくると考えます。

 このコーディネーターには、地域移行推進員を支援するとともに、全体を見て、実施体制づくりとネットワークをつくることが求められています。精神障がい者のひとりひとりの希望により添い、障害者の自己実現に向けて、関係者が力を出し合っていく事が大切なのではないでしょうか。

 私は、保健所保健師として、精神科医療機関、市町村保健師・福祉職員、事業所等と手を組み、障がい者も健康な人も共に生きる地域をめざしたいと思います。


△前のページ戻る