「精神保健福祉士のヤングケアラーについての意識調査」報告書

2024年5月


はじめに

 本調査の背景には、ヤングケアラーへの支援において精神保健福祉士の関与が求められつつあることがある。ヤングケアラーは、家族の世話をすることを通じて人間的に成長するなど良い影響を受ける一方で、適切な支援を得られず年齢に見合わない重い世話の負担を負う場合には、健康不良や教育機会の喪失、孤立等の影響を受けることがあり、支援の必要な子どもの一群と考えられる。

 このヤングケアラーは、家庭内でのデリケートな問題であるなどの理由から表面化しづらい構造にある(厚生労働省・文部科学省2021)。ヤングケアラーに関しては、世話をしている家族がいる子どもの約7割が家族の世話について相談したことが「ない」と答えると共に、相談しない理由として「人に相談するようなことではない」や「相談しても状況が変わると思えない」が多く挙げられており(三菱UFJリサーチ&コンサルティング2021、日本総合研究所2022)、自ら声をあげ必要な支援を得ることの難しい状況に置かれていることが指摘されている。このヤングケアラーの表面化しづらい状況に対し、ヤングケアラーとその家族の周囲にいる人々がヤングケアラーに気づき、支援の必要性を把握し、適切な支援につなぐことができる体制を整備することが課題となっている。

 このヤングケアラーの支援の必要性と課題に対する、精神保健福祉士による取り組みが期待されている。ヤングケアラーの支援について、国は令和4年度より早期発見・対応の促進、支援施策の促進、社会的認知の促進の3つの柱からなるヤングケアラーへの支援施策により対応をする方針を示しており、ヤングケアラーとその家族に関わる人々の協力が要請されている。要保護児童対策地域協議会を対象とした調査は、ヤングケアラーがケアする対象が母親の場合には精神疾患の状態にある者が多く、ケアする対象が父親の場合には依存症の状態にある者が多いことをそれぞれ報告している(三菱UFJリサーチ&コンサルティング2019)。ヤングケアラーの背景として、家族のメンタルヘルス上の問題が関与している例が少なくないと予測される。精神疾患や依存症のある人とその家族のウェルビーイングを促進することを使命とする精神保健福祉士が重要な役割を果たしうると考えられる。

 一方、精神保健福祉士のヤングケアラーの支援への取り組みは、十分とは言えない状況がある。精神保健福祉士の「ヤングケアラー」の概念の認識状況については、医療機関に所属する精神保健福祉士を対象とした調査において「言葉を知っており、業務を通して意識して対応している」と回答した者の割合は18.8%にとどまり(トーマツ2022)、医療ソーシャルワーカーを含む他の専門職に比べ低い状況にある。一方、同調査において「ヤングケアラー」の定義を見た上で、直近の1年間に担当ケースにおいてヤングケアラーと思われる子どもが「いた」と答えた者の割合は31.3%で、「言葉を知っており、業務を通して意識して対応している」と回答した者の割合を大きく上回っており、精神保健福祉士のヤングケアラーへの認識が高まり、取組みが促進されることによって、精神保健福祉士によるヤングケアラーと思われる子どもが発見され必要な支援につながる可能性が高まることが期待される。

 上記の精神保健福祉士に関する調査は、医療機関に所属している精神保健福祉士のみを対象としているが、日本精神保健福祉士協会(以下、本協会)の構成員の精神保健福祉士は医療機関のみならず、行政、障害福祉、教育、産業などさまざまな領域で活動している。そこで、本調査では、本協会に所属する構成員のヤングケアラーとその家庭に関する認識や取組み状況、その支援するヤングケアラーの状況を把握することを通じて、精神保健福祉士がヤングケアラーとその家族の支援に取り組むことを促進する支援基盤の整備のあり方と、本協会の構成員を対象としたヤングケアラーとその家族への支援に関する研修のあり方を検討することを目的とする。


■報告書

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<報告書目次>

■2022・2023年度子ども・若者・家族支援委員会

委員長山本由紀国際医療福祉大学
委員天野庸子さいたま市教育委員会
 上野陽弘こどもの心のケアハウス嵐山学園
 大靖史日本医科大学付属病院
 加藤雅江杏林大学
 西隈亜紀NPO法人東京フレンズ
 森田久美子立正大学
 吉田真由美福岡市立児童心理治療施設
 四ツ谷創史青森県中央児童相談所
担当理事岡本秀行川口市保健所
 行實志都子神奈川県立保健福祉大学

(2024年3月31日現在)


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