精神保健福祉士のための退院後生活環境相談員実践ガイドライン(ver.1.1)


【2016年6月Ver.1時点】

はじめに

公益社団法人日本精神保健福祉士協会 退院促進委員会委員長 澤野文彦 

 ある長期入院となっている方との会話で、衝撃を受けました。どんな生活をしたいといった趣旨の質問をした時に、「テレビ見ながらご飯が食べたいな」と話されました。私たちが何気に普通にしていることが、この方にとっては「日常」ではないことに気づかされました。「その生活をしようよ、その生活いいよね、病院出る手伝いを私もするけど、病院以外の人にも手伝ってもらえるからやってみない?」と提案しました。知っているつもりだった彼のことを、改めて病棟のチームで「その人となり」を共有し、彼とも話をしたところ、個別給付の地域移行支援を導入できました。様々な支援を受けながら、約1年かけ退院していきました。

 もちろん反省です。独語や空笑、妄想があるなかで、退院を彼も病院も半ばあきらめていました。本人の思いを聴いているつもりだけで、勝手にあきらめていたのですから。「どんな生活をしたいか」という趣旨の話をゆっくり聞く時間、そしてアンテナを高くしてどんな思いを持っているかを受けとめる力が必要と感じました。まず話をゆっくり聞く、思いを聴く時間を取ることが必要と胸に刻みました。

 地域移行を導入してからは、目標ができ、多少病状があってもそれに振り回されることなく現実感が出て、徐々に自信につながっていったようです。現在までの2年間、大きく崩れることなく、地域社会の中で支援を受けながら彼なりの生活をしています。

 まだまだ精神科病院の中にはたくさんこのような方々が入院しています。

 2014年4月の精神保健福祉法改正においてニューロングステイの予防及び社会的・長期的入院者の退院に向けた役割を担う退院後生活環境相談員が創設されました。当初から現場の声として、どのように動いたらいいかわからないという意見が多く聞かれました。それを受け、退院促進委員会では、退院後生活環境相談員を中心的に担う精神保健福祉士の実際の動きと大切にしたい視点を示した、「入院期間3ヶ月を想定した退院までの流れ」やそれに対応するガイドラインの作成に取り組みました。そしてここにガイドラインとして皆様に配布できることとなりました。

 本ガイドラインは、医療保護入院者への入院時のかかわりから、入院中、退院へ、そして退院後に本人の思いや支援を関係機関につなぐ取り組みを時系列に表記したものです。その時々の退院後生活環境相談員の業務及び精神保健福祉士の視点を大切にするとともに、「動き方、やり方」のノウハウを確認する指標としてほしいものです。また、標準(最低限)としたツールを使用していただきながら、業務の可視化をはかるとともに、退院後生活環境相談員の実践やかかわりを多職種チームで確認、活用していただければ幸いです。

 特に病院勤務の精神保健福祉士の現任者の確認のツール、新人教育等に活用できればと考えています。ぜひご一読いただければ幸いです。


【2019年3月Ver.1.1改訂時点追記】

一部改訂にあたって

公益社団法人日本精神保健福祉士協会 精神医療・権利擁護委員会委員長  岩尾 貴 

 2014年4月に改正精神保健福祉法が施行され、5年が経ちました。退院後生活環境相談員の約7割は、精神保健福祉士が担っており、医療保護入院者の相談、地域援助事業者との連携、医療保護入院者退院支援委員会の開催等、退院支援の中心的な役割を担っています。しかし、退院後生活環境相談員の選任にあたっては、精神保健福祉士であれば、研修受講等の要件はなく、個人及び医療機関ごとで差が見られ、質の担保が図られているとは言えないのではないかという声が聞かれます。

 精神医療・権利擁護委員会では、精神科医療における早期退院、地域移行・長期入院の解消に向けた方策を検討する中で、精神保健福祉士が、退院後生活環境相談員の業務を担う上で、必要な知識と視点を確認する機会を身近な地域で得られるようにすることが課題と考え、本ガイドラインを活用した研修プログラムとテキストを開発しました。研修等を通して、院内での連携や地域の支援者と連携した退院支援をガイドラインに加筆する必要があると考え、今回の一部改訂に至りました。

 退院後生活環境相談員の役割は、権利擁護の視点を持ち、新たな長期入院の防止と社会的・長期入院者の退院支援です。この役割は、精神保健福祉士が担っている使命(ミッション)と同じであり、この制度を退院支援、地域生活支援に活かしていくことは、私たち精神保健福祉士の重要な実践課題です。本ガイドラインを活用し、権利擁護、退院支援の取組を進めていただければ幸いです。


一括ダウンロード用データ(A4判・52頁/PDF1.45MB)


精神保健福祉士のための退院後生活環境相談員実践ガイドライン(ver.1.1)
目次

T はじめに
一部改訂にあたって
ガイドラインの使用方法

U ソーシャルワーク業務を遂行するために
1.退院後生活環境相談員としてかかわる前に大切にしたい視点
2.精神保健福祉士の基盤と業務指針

V 入院の経過に対する退院後生活環境相談員及び精神保健福祉士の業務内容
入院期間を3ヶ月と想定した退院までの流れ
1.改正精神保健福祉法に伴う医療保護入院手続き業務
2.入院時における業務
3.入院から7日以内における業務
4.面接とアセスメント
5.退院に向けての取り組み
6.退院時における業務
7.医療保護入院者退院支援委員会開催にかかる業務
8.定期病状報告書作成にかかる業務

W パブリックツール及びお助けツール
入院診療計画書
医療保護入院者退院支援委員会の開催のお知らせ
医療保護入院者退院支援委員会審議記録
医療保護入院者退院支援委員会の結果のお知らせ
医療保護入院者の定期病状報告書
退院後生活環境相談員の紹介文書(本人用)
退院後生活環境相談員の紹介文書(家族用)
入院時インテークシート
アセスメントシート
社会資源チェックシート
退院前訪問指導チェックリスト
気持ち・希望等」聴き取りシート
退院後スケジュール確認表
クライシスプラン
相談支援ポスター

X おわりに
【参考資料】精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律の施行について
【参考文献】
【編集・執筆者一覧】
【一部改訂編集・執筆者一覧】


公益社団法人日本精神保健福祉士協会 権利擁護部 精神医療・権利擁護委員会(ver.1.1時担当)

役職 氏名 所属機関
部長(常任理事) 尾形 多佳士 さっぽろ香雪病院(北海道支部)
委員長 岩尾  貴 朋友会(石川県支部)
副委員長 山本 めぐみ 浅香山病院(大阪府支部)
委員 岡安  努 やたの生活支援センター(石川県支部)
委員 木本 達男 岡山市こころの健康センター(岡山県支部)
委員 三溝 園子 昭和大学附属烏山病院(東京都支部)
委員 鈴木 圭子 神奈川県精神保健福祉センター(神奈川県支部)
委員 中野 千世 地域活動支援センター櫻(和歌山県支部)
委員 中村  穣 南アルプス市障害者相談支援センター(山梨県支部)
委員 増田 喜信 三方原病院(静岡県支部)
委員  行實 志都子 神奈川県立保健福祉大学(神奈川県支部)

(2019年3月現在)


【参考】公益社団法人日本精神保健福祉士協会 精神保健福祉部 退院促進委員会(ver.1時担当)

役職 氏名 所属機関
部長(常任理事) 中川 浩二 和歌山県精神保健福祉センター(和歌山県支部)
委員長 澤野 文彦 沼津中央病院(静岡県支部)
委員 中村  翠 埼玉森林病院(埼玉県支部)
委員 宮村 厚多 順天堂越谷病院(埼玉県支部)
委員 名雪 和美 国保旭中央病院(千葉県支部)
委員 浜守 大樹 谷野呉山病院(富山県支部)
委員 木村 由美 山梨県庁(山梨県支部)
委員 中村 倫也 県立こころの医療センター(静岡県支部)
委員 増田 喜信 三方原病院(静岡県支部)
委員 田中 博也 国保野上厚生総合病院(和歌山県支部)
委員  的場 律子 福永病院(山口県支部)

(2016年6月30日現在)


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