平成23年度　精神保健医療福祉委員会　事例集
なかなか、退院したいという想い（本音）を聴けなかったが、かかわりによって聴くことができ退院できた事例

社団法人　日本精神保健福祉士協会　精神保健医療福祉委員会（編）

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■はじめに

　2011年度に当委員会に与えられた役割は、精神保健福祉及び精神科医療現場における権利行使の支援や権利侵害の事例の収集及び改善に向けたソーシャルワーク実践の集約、社会的入院者への聴き取り調査等を委員の職場及び周辺の現地調査等で集約分析することでした。とても幅の広いテーマなので、委員会では精神障害者の社会的入院の解消を図っていくことが精神障害者の社会的復権と権利の擁護及び本協会の存在意義につながると認識し、昨年度より社会的入院の解消にポイントを置いた活動をすることとしました。おりしも障害者自立支援法の改正が2012年4月に迫り、精神障害者の地域移行・定着支援事業が一部個別給付化される見込みであったため、平成23年度は法改正に向けて参考となる事例の集約をすることを中心テーマとしました。

　委員会では、2003年から国のモデル事業となった精神障害者退院促進支援事業がスタートしてからこれまでの間に、新たな資源開発や地域体制整備の手法等すばらしい取り組みが実践・研究されてきたけれども、「もっとも重要なことは、社会的入院をしているご本人一人ひとりの想いを聴くという当たり前のことを構成員に広めていくことではないか」と捉え、そのことを構成員一人ひとりが取り組んで行くことが社会的入院の解消につながっていくと整理しました。そこで、『なかなか、退院したいという想い（本音）を聴けなかったが、かかわりによって聴くことができ、退院できた事例』を中心に集約し本協会に報告することにしました。

　以下、2012年度は試行的に委員の職場及び周辺の現地調査を通じてご本人の同意が得られた事例を集約し考察を加えました。
　事例から見えてきたことは、大きく3点挙げられます。一つ目は、社会的入院により、いつの日か退院そのものを諦めていたり、退院に大きな不安を感じていたり、安心して本音を語る相手もいない中で退院したい気持ちを胸にしまいこんでいる入院患者さんがいるという事実。二つ目は、それらの患者さんが支援者の地道なかかわりの中で少しずつ本音を語り始めていったことと、その想いを支援者がしっかりと受け止め、正面から向き合い寄り添って患者さんの信頼を得ていったこと。三つ目に、支援者がサービスを当てはめただけの地域移行・定着支援ではなく、見学や体験を通じてご本人さんが自分で決め納得するまで寄り添う徹底した本人中心の個別支援と、病院と地域の協働作業・役割分担ということでありました。

　どの事例も簡単には退院できていません。精神保健福祉士が徹底してご本人中心に寄り添い、じっくり信頼関係を築きご本人のその時々の夢や不安等の想いに寄り添って、ご本人が体験しながら自己決定していく姿を周囲と協働しながら丁寧に支援しています。どの事例も地域移行支援を業務としている精神保健福祉士の実践のヒントに役立つと思います。報告書の中では伝えきれない部分もありますが、委員会で事例の擦り合わせを行った時は、文面に表わしきれない多くの感動のドラマが報告されました。

　本事例集は、2012年度に研修センターが実施する「精神障害者の地域移行支援に関する研修会」で活用する予定です。私も委員会の事例から多くを学ばせて頂きました。全国でご活躍の構成員の事例を集約していくことができたなら、そして、ご本人のご了解を得て、社会的入院をしている患者さんの地域移行を実現するために活用させていただくことができたならば、社会的入院の解消にまた一歩近づけるのではないでしょうか。

　巻末には委員会の事例をもとに、地域移行支援に関する実践を振り返るシートを添付しました。振り返るべき項目は多岐にわたりますが、委員会でポイントとして整理されたことをベースに比較的短時間にチェックできるように工夫しました。皆さまからご活用いただき、修正すべき点がありましたら遠慮なくご意見いただきたいと思います。そのようなやりとりをさせていただく中で、質の高い支援を各地で平等に提供していくことを委員会としても目指していきたいと思います。

　本事例集の作成にご協力いただきましたご本人さま、ご家族さま、委員の皆さま、構成員さま、担当部長さまにこの場をお借りして感謝申し上げます。

精神保健医療福祉委員会　委員長　岡部正文

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