機関誌「精神保健福祉」

通巻130号 Vol.53 No.3(2022年7月25日発行)


目次

[巻頭言]味わい深い3H/洗  成子

[特集]
・精神保健福祉士に拡散する危機感への対応;私たちの持つ専門性と役割を可視化する

[総論]
・精神保健福祉士を取り巻く危機的状況への対応/柏木 一惠

[各論]
・「精神保健医療福祉の将来ビジョン」策定の背景と意義/尾形多佳士
・精神保健福祉士あるいは、ソーシャルワークをめぐる危機;教育機関に身を置く者として考える/中村 和彦

[座談会]
・精神保健福祉士を取り巻く危機を共有する/木本 達男・寺西 里恵・坂本智代枝・田村 洋平・三品 竜浩

[研究論文]
・精神障害者世帯の貧困問題に関する社会保障・社会福祉の課題;・障害年金受給世帯の貧困率測定分析結果に基づく考察/酒井伸太郎

[研究ノート]
・刑事弁護とソーシャルワークの協働に関する調査研究;都道府県精神保健福祉士協会の実態調査/三木 良子・羽毛田幸子・淺沼 太郎

[連載]
・BOOKガイド/小野 正生・羽毛田幸子
・託すことば、預かることば 第7回/「石川 到覚(その1)」/谷口 恵子・原 敬・木本 達男・鈴木 篤史・大泉 圭亮
・つくる・つなぐ・ひらく 第13回/動画のちからでフクシのみらいをデザインする/和泉  亮
・わたし×精神保健福祉士 第14回/わたし×精神保健福祉士×母子支援/橋本久美子
・声 第9回/楽しいことを模索するピアサポート/野間慎太郎
・メンタルヘルス見聞録 第10回/オーストラリアビクトリア州におけるコミュニティベースのメンタルヘルスと母子保健、ファミリーバイオレンスのサービスシステム/名城 健二
・協会の動き/坪松 真吾
・協会の行事予定
・投稿要項
・補足(通巻129号p171〜175につきまして)


巻頭言

味わい深い3H

愛誠病院 洗  成子

 事故の未然防止の標語として3Hというのがあるそうだ。いわく「初めて・変更・久しぶり」。本協会ならば「変える・鍛える・固める」という3Kの活動の柱がある。 なるほど、ある種の規範や基準などを唱えるときにコンパクトに3つくらいで合言葉のように示すというのは収まりがよい。そのようなノリでお話しすると、私には「魅力の3H」と位置づけているものがある。 「hope,humor,homemade」。この3つはいずれも心を温めてくれるので、これらを嫌う人はあまりいないだろう。

 「魅力の3H」の中で、humor(ユーモア)について少し考えてみた。これから語るのはあくまでも、私個人のユーモアのとらえ方なので、言語学的に間違っていてもご容赦願いたい。 遊び心を源とした「冗談」には周囲を笑わせる力だけでなく、「悪ふざけ」と称されるように時には他者を傷つける力が働くこともあるが、ユーモアには他者を傷つける要素がないと思う。うまく言えないがユーモアは、面白おかしく笑いを効率的に追いかけるということとは少し異なるのだろう。生真面目なタイプの人であっても真面目さの間にユーモアがのぞくことがあって、そうした一面にふれると自然と気持ちがほころび、「素敵な人だな」と感じ入ってしまう。自分にあまりユーモアのセンスがないからなおさらなのかもしれない。 ユーモアの根底には、違いを認める寛容さがあるのではないかと思う。自分の中にしっかりと価値や倫理等の自分らしさをもちつつ、しかし自分にとらわれすぎることなく相手のことも自分と同じくらい評価をしている、そういう土壌からユーモアは花開くのではないだろうか。 多様性を尊重する精神的なゆとりというものの中にユーモアが息づくのだとしたら、ユーモアを欠いた社会はさぞかし生きにくいことだろう、との結論に私の思念の散歩はたどり着く。 結局のところ、豊かな人間力というものに憧れる自分を発見することとなった。そうか、だから私は3Hに惹かれるのだ。

[特集]精神保健福祉士に拡散する危機感への対応;私たちの持つ専門性と役割を可視化する

特集にあたって

 近年、精神保健福祉士の職域は拡大しており、医療(病院・診療所など)、福祉(障害福祉サービス等事業所など)、保健(行政など)から、教育(各種学校など)、司法(更生保護施設、刑務所等矯正施設など)や産業・労働(ハローワーク、EAP企業、一般企業など)、そして、こども家庭領域など多岐にわたっている。それぞれの分野では、さらなる精神保健福祉士の拡充が求められている。

 また、超高齢化社会の到来による介護保険の整備や、障害者の地域生活支援の拡充といった福祉ニーズの拡大に伴い、福祉専門職人材の確保が急務であることはすでに多くの指摘がなされており、精神保健福祉士にとっても例外ではない。

 そのような背景もあり国は精神保健福祉士の養成課程の見直しを行い、カリキュラム内容は新しくなった。果たして、これでわれわれは社会の要請に応え、課題を解決することができるのだろうか。 現実的には、大学などの精神保健福祉士を志望する学生数は減少し、各現場における精神保健福祉士人材の確保は困難となっている。また、離職する精神保健福祉士も多い。精神保健福祉士資格の受験者数は減少傾向にあり、今後もさらに拡大する精神保健福祉領域の現場で必要となる精神保健福祉士自体が確保できなくなる状況も想定される。われわれ精神保健福祉士の持続可能性はもはや危機的な状況に陥っているとも考えられる。これは、困難な課題を抱え支援を必要とする人々に対して、量的にも質的にも必要な支援を届けられないことにつながっていくだろう。

 そこで、今号ではこの危機感にどのように対応するのか特集することにした。まず、総論で精神保健福祉士を取り巻く危機的な現状と課題とその対応について取りあげる。その後、各論で本協会の立場、教育機関の立場から精神保健福祉士の課題と展望を述べていただく。最後に、本編集委員会のメンバーで危機感をテーマに座談会を行い、問題提起と今後の取り組みについて考える機会とした。

 精神保健福祉士が地域社会やクライエントから、魅力あり求められる専門職として、在り続けるために、個々の精神保健福祉士が取り組めることを考える機会となれば幸いである。

木本 達男


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