機関誌「精神保健福祉」

通巻125号 Vol.52 No.2(2021年4月25日発行)


目次

[巻頭言]コロナが人を、社会をどう変えたか/廣江  仁

[特集]分断を越えて;災害支援の経験から学ぶ

[総論]
・災害支援における社会福祉実践の専門性;分断を越える、あるいは前にして立ちすくむ/大島 隆代
・災害支援と精神保健福祉士/森谷 就慶

[各論]
・災害時に備え、都道府県協会・各支部が平常時にすべきことを考える/菅野 正彦
・非被災地の災害派遣福祉チーム(DWAT)による災害支援活動/長坂 勝利
・令和元年台風第15号におけるDPAT先遣隊の活動報告/濱谷  翼
・平成30年7月西日本豪雨災害支援活動と岡山県協会の災害支援体制整備について/河合  宏
・コロナ禍の災害支援活動について;令和2年7月豪雨災害の経験から/木ノ下高雄

[実践報告]
・長期社会的入院から生還する契機となった東日本大震災;約40年に及ぶ精神科病院入院から精神医療国家賠償請求訴訟へ/古屋 龍太
・個のニーズから地域(コミュニティ)を拓く/須藤 康宏
・平成28年熊本地震とその後の取り組み/園田  烈
・西日本豪雨災害における広島県精神保健福祉士協会の取り組み/向井 克仁
・組織強化・災害支援体制整備委員会からの報告/中川 浩二
・東日本大震災復興支援委員会の軌跡;支援者支援は“縁”を生み育む/菅野 直樹

[研究論文]
・精神障害者ケアの脱家族化に取り組む精神保健福祉士の実践過程;世帯分離支援を行った4名へのインタビュー調査の分析から/塩満  卓

[連載]
・BOOKガイド/池田 裕道・三品 竜浩
つくる・つなぐ・ひらく 第9回/精神保健福祉士と個の専門職集団における災害支援ネットワーク構築を目指して;栃木県内の実践から 松本 佑司
わたし×精神保健福祉士 第10回/「『いい実践』ができる、『いいソーシャルワーカー』になりたくて」 仁科 雄介
メンタルヘルス見聞録 第7回/「2019年の韓国の精神保健福祉の視察と2020年のコロナ禍の現状」 佐賀 良太・朴 明敏


巻頭言

コロナが人を、社会をどう変えたか

社会福祉法人養和会 廣江 仁

 新年度が始まり、新たな気持ちで仕事に取り組む時期になった。何もなくても桜舞う季節になると毎年何か浮足立ったフワフワした気持ちになるのが常であったが、コロナ禍では浮ついた気分にもなれない。ウイルスがこれ程までに世界を変えてしまうとは想像もできなかった。世界中で多くの死をもたらし、経済の停滞、失業、貧困、医療体制の崩壊、DVや虐待の増加などの二次的・三次的被害をも引き起こしている。そして人のこころにも…。感染者や医療従事者への誹謗中傷、風評被害。この国には偏見や差別の芽が息を潜めていて、何かあれば吹き出すのだと実感せざるを得なかった。そしてそれは、長年精神障害者に向けられてきたものと重なってみえる。われわれがかかわってきた方たちが、精神障害があることを隠そうとするのは、まさに自粛警察から逃れるためではなかったか。

 移動の制限によって、自由に人と出会うことすらままならなくなり、誰かと会ったとしても、お互いの間には、マスクやフェイスシールド、アクリル板がある。遠方の人とは会うことすらかなわない。このように、人と人が直接顔を合わせるコミュニケーションが極端に減ったことが今後の社会や人間関係にどんな影響を及ぼすのだろうか。そして、それは人と環境の交互作用にアプローチするソーシャルワークにおいても何らかの変化を余儀なくされるのではないだろうか。そもそもコロナ以前の社会はどんな社会だったのか、コロナによって変化したものは何で、変化しなかったものは何なのか、そしてそれらが人に与えた影響は何かについて、今後分析・評価することが必要となるはずである。そしてそれは、さまざまな人たちと協働し、社会全体およびそれぞれの地域で行われるべきであろう。社会を見つめなおし、この国家的危機が去った後に何ができるか、そして何をすべきか考えていく。その先に、地域共生社会におけるわれわれの役割がみえてくるのではないだろうか。

[特集]分断を越えて;災害支援の経験から学ぶ

特集にあたって

 2000年代に入ってから、災害支援にかかわる特集を本誌は3度取り上げている。特集「自然災害と精神保健福祉士」(2005年通巻64号)では阪神・淡路大震災発生からの10年を振り返り、その後発生した新潟県中越大震災、有珠山噴火などの支援活動について紹介している。東日本大震災の直前の特集「新たな災害支援に向けて」(2011年通巻85号)では、災害が市民生活に及ぼす長期的な影響と精神保健福祉士の社会的役割、協力や連携のあり方についてまとめている。さらに特集「東日本大震災から3年―精神保健福祉士は何ができたか、そしてこれから何をなすべきか」(2014年通巻97号)では、協会が組織として行った支援活動、被災地に移住した支援者の実践などを紹介、東日本大震災での支援活動を包括的に報告した。

 これまでの特集では、精神保健福祉士の強みを生かし、普段の地域精神保健福祉ネットワークが機能したことで、支援が適切に振り分けられた実践が報告された一方、外部支援者が自身の思いを押し付けてしまうことで、被災者や現地で疲弊する支援者を再び傷つけかねない危うさがあることも浮き彫りとしている。さまざまな災害の発生とともに、支援のあり方を探求してきた軌跡をこれまでの特集をひもとくことでたどることができる。

 現在猛威を振るう新型コロナウイルスは、これまで災害による被害を受けた地域にもさまざまな影響を与えている。コミュニティづくりの一環としてこれまで行われてきた被災地のサロン活動も、感染予防に努めながら継続する困難さに直面している。被災地を容赦なく襲う新たな危機を前に、私たちもいかにそれらをしなやかに乗り切れるかが問われている。その本質は地域の新たな課題に向き合うソーシャルワークそのものともいえるかもしれない。

 東日本大震災から10年、再び災害支援を取り上げる。今号もさまざまな困難に立ち向かう同士の実践が溢れている。私たちはそこからどのような新たな英知を見出せるであろうか。

担当者 渡部 裕一、細谷 友子、原  敬


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