機関誌「精神保健福祉」

通巻119号 Vol.50 No.4(2019年10月25日発行)


目次

[巻頭言]
事件報道を通して/増田 喜信

[特集] 発達障害とは何か;精神保健福祉士として考える

座談会
発達障害とそのかかわり;実践の現状と課題/後藤智行・柴田泰臣・丸岡圭祐・田村洋平、司会/三品竜浩、オブザーバー(カメラ・記録)/鈴木篤史

総論
・発達障害者支援の変遷と現状/市川 宏伸

各論 厚生労働省における発達障害者支援施策/加藤 永歳
・文部科学省の取り組み;合理的配慮と改訂された学習指導要領等を中心に/田中裕一
・発達障害×ダイアローグ/後藤智行

実践報告
・多様性が尊重される社会を創造する;適応と適合の視点から/伊井統章
・発達障害者支援センターにおける実践/阪口久喜子
・児童思春期精神科病棟における発達障害支援;子どもの主体性を育むこと/堀内 亮
・大学で発達障害を支援するということ/猿渡英代子
・発達障害とグループ(HAG)の可能性/神庭奈津美
・発達障がいの特徴がある方へのアウトリーチ支援/須田竜太
・産業分野における発達障害者支援活動/佐藤恵美
・発達障害者支援とリカバリー/下 茉莉

連載
つくる・つなぐ・ひらく
第7回/独立型精神保健福祉士事務所『相談室あめあがり』の挑戦」/太田隆康

託すことば、預かることば
第5回/「佐々木敏明(その1)」 渡辺由美子・鈴木篤史・大泉圭亮


第5回/「人に、自分に慈しみの感情を向けてみる」/川村有紀

わたし×精神保健福祉士
第6回/「生きる力をつける」/福岡 薫

実践の見える化
第6回/「考察と結論」/松本すみ子

メンタルヘルス見聞録
第5回/「シエラレオネ共和国のメンタルヘルスケアの変遷」/金田知子

情報クリップ
「『第5回精神障がいのある親とその子どもの支援に関する学習会』に参加して」/初谷千鶴子
「第8回日本精神保健福祉学会全国学術研究集会について」/小沼聖治
「宮城県精神保健福祉士協会の法人化について」/小野正生

BOOKガイド
島津屋賢子・木本達男

・読者の声
・協会の動き/坪松真吾
・協会の行事予定
・投稿要項
『精神保健福祉』総目次/通巻116〜119号


巻頭言

事件報道を通して

三方原病院 増田 喜信

 私はこれまで、私に無関係な事件で生活が窮屈になった経験はない。
 ただ、私たちのとても身近にいる方々は、これまで幾度となくこのような体験をし、周りの目を気にしながら生活することを余儀なくされてきた。
 新元号を迎え当協会にまず突き付けられたのは、精神障害者が起こした事件の報道により生活が脅かされた方に対しての寄り添い方であり、社会に対しての発信の仕方だった。
 得てしてこのようなことが起こると、障害者が起こした事件報道について問題視したがる。今回の川崎、大阪、京都の事件報道後、クライエントから発せられる不安や行き場のない怒りの声を聴き、報道のあり方に疑問を感じた構成員もいただろう。
 今回当協会でも、実際の声を報道機関などに届けお互いの理解を促進していくための働きかけが必要と感じ、「事件報道による日常生活への影響に係る情報提供窓口」を設置した。生活が脅かされる報道ではなく、共感や支援につながるような報道を可能としていくため、意見交換の場をつくっていく必要があると考えている。

 一方で、事件後にある障害者就労先の担当者が「手帳を持っているといっても、人ぞれぞれだね」と話をしてくれた。本人の日ごろの頑張りが、その職場内での障害の理解や一緒にいることへの安心感をつくってくれたのだろう。
 私たちは日ごろ、クライエントと市民が触れ合う機会に携わることが多くあるが、そこに偏見のない社会をつくるチャンスがあることまで意識できているだろうか。差別や偏見に対し、する側を責めてしまうきらいが私たちにはないか。差別や偏見は無知から生まれる。無知を既知に転換させるためのお互いにわかり合う場をつくっていくことが重要で、その役割の一端を私たちは担っている。このような実践が、精神障害者の社会的復権をかなえていくのだと私は信じている。

 最後に、事件に関係し被害に遭われた方および関係される方に対し衷心よりお悔み、お見舞い申し上げる。


特集にあたって

 発達障害者支援法が2005(平成17)年に成立した。法律が施行されて以降、「発達障害」に関する支援、活動などが注目され、施策や支援が増えたが、一方で診断が独り歩きすることや適応論的に語られること等の課題も山積している。

 この状況下で、私たちは「発達障害」をどのようにとらえ、かかわるのであろうか。精神保健福祉士は、精神障害がある方を人として生活者としてかかわることにその価値を有する専門職であると自負している。にもかかわらず、「発達障害」という障害名をあえて特集で取り上げることに矛盾を感じる読者もおられることと思う。障害名に着目することで「人としてかかわる」という視点が失われるのではないかとの指摘もあった。しかし「発達障害」を通してかかわりを考えるとき、私たちが大事にしてきた専門性が浮かび上がるように目の前に現れ、私たちに問いかける。「話を聴くこと」「批判的にではなく、人として尊重すること」「難しい人にしているのは私たち専門職」「(困りごとの)答は本人がもっている」、そのような言葉を「発達障害」にかかわる精神保健福祉士が語るのを聞くとき、自分たちは専門性に根差した実践に取り組むことができているのだろうか、人として尊重することができているのだろうかと振り返る。漫然と日々の業務にいそしむだけになっていないかと考える。それが今回、「発達障害」を特集企画として取り上げたいと考えた理由である。

 まず、座談会では現状や課題を、総論では発達障害者支援法の成り立ちと趣旨を取り上げる。さらに、行政側の施策とその課題を明らかにしたうえで、精神保健福祉士への期待を述べていただいた。

 「発達障害とダイアローグ」ではダイアローグの可能性を考える。そして、多様な実践をお伝えする。

 総じて、この特集号を通じ「発達障害」とそのかかわりとは何かを考えたい。そして、私たち精神保健福祉士は「発達障害」にかかわることで、自らのソーシャルワークをよりいっそう深く考えることができる、その思いを共有したい。

(渡辺由美子)


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