機関誌「精神保健福祉」

通巻118号 Vol.50 No.3(2019年7月25日発行)


目次

[巻頭言]
令和のこどもの日に思うこと/加藤 雅江

[誌上研修] ソーシャルワークアセスメントスキルを学ぶ;クライエントの全人的理解をめざして
講義1・演習1 ソーシャルワークアセスメントプロセスとはなにか/田中 和彦
講義2 ソーシャルワークアセスメントのスキル/田中 和彦
演習2 仮説検証プロセスを体験しよう/富岡 賢吾

[連載]
つくる・つなぐ・ひらく 第6回/「新しい時代の多様性と循環型福祉への期待;ひきこもりの中高年が社会を変える」 /河合  純
託すことば、預かることば 第4回/「寺谷 隆子」/インタビュアー・渡部 裕一・三品 竜浩・坂本智代枝・大泉 圭亮・柏木  昭(助言者)
わたし×精神保健福祉士 第5回/「目の前にいる人の思いに応えたい」/遠藤 紫乃
実践の見える化 第5回/「データの収集と分析」 /坂本智代枝
BOOKガイド/原   敬・三品 竜浩
メンタルヘルス見聞録 第4回/「ソーシャルワーク教育の動向;全米ソーシャルワーク教育連盟2018年度全国大会に参加して」/高山 亨太
情報クリップ/「第4回条件反射制御法四国研修会」中川 美彦、「精従懇シンポジウム『精神保健従事者として身体拘束を考える』に参加して〜『より良い医療・治療』をめざして〜」 /山口 雅弘

・協会の動き/坪松 真吾
・協会の行事予定
・2019年度開催精神保健福祉関連学会・研究会一覧
・投稿要項


巻頭言

令和のこどもの日に思うこと

杏林大学医学部付属病院 加藤 雅江

 平成から令和になったばかりのこどもの日に総務省統計局が子どもの数を発表した。15歳未満の子どもの数は1,533万人。子どもの数は38年連続で減少しており、過去最少となった。日本の人口における子どもの割合も45年連続して減少している。

 それなのに、日々悲惨な虐待事件の報道が絶えない。子どもが巻き込まれる事件や事故に目を覆い、耳を塞ぐようなこともたびたびである。仕事の場面でも、月間100件を超える子ども虐待への対応がある。何とも言えない思いが湧いてくる。何ができるのだろうか、と無力であることを思う。でも、なかったことにはできないし、見なかったこと、聞かなかったことにもできない。

 子どもが保育園を卒園するとき、卒園アルバムの作成に向けて、アンケート用紙が回ってきた。質問の中に「好きなお友達の名前」を記入する欄があった。おかしな質問だなぁと思いつつも子どもに質問してみた。子どもから返ってきた答えは「お友達に好きとか嫌いとかあるの?」だった。そうだよね。そもそも子どもにない概念をあえて植え付ける必要はないよね。お友達はみんな好きだよね。子どもの言葉には魂があるなぁと思った。

 結局、子どもと話して「みんな好き」と書いた。少しだけ勇気を出して保育園に「違和感」を伝えた。

 子どもは大人が思っているより柔軟だし、力もある(と、信じている)。あえて誇示する必要がないから私たち大人はその力に気がつかない。でも、ふとしたきっかけでそんな力にふれると、驚くとともに、価値観に縛られた自分にがっかりしたりする。その力を引き出してあげるのが大人の役目なんだと思う。その時、その場で子どもが必要だと思うことを大人が提供し、失敗だって安全にできるように担保する。子どもが子どもらしく育つ場を保証する。それが大人にできることかなと思う。

 社会全体で、地域と共に子どもを大切に育てること。令和の時代が子どもたちにとって暖かな、幸せな時代になることを願ってやまない。


誌上研修/ソーシャルワークアセスメントスキルを学ぶ;クライエントの全人的理解をめざして

 PSWがクライエントとかかわるときに、私たちがPSWとして「クライエントのことを理解する」というのはどのようなことだろうか。アセスメントは大切だ、と言われながら、私たちはそれを明確に説明できていただろうか。そのような想いからこの研修を企画した。この研修の基となるのは、大谷京子・田中和彦『失敗ポイントから学ぶPSWのソーシャルワークアセスメントスキル』(2018年、中央法規出版)である。ここにまとめたソーシャルワークアセスメントスキルを1日の研修プログラムとして再構成し今回の研修となった。

 [講義1]ではソーシャルワークアセスメントを的確につかむために、ソーシャルワークアセスメントの整理、若手PSWの調査から得られたアセスメントの失敗ポイントを講義した。[講義2]では、エキスパートPSWの調査から明らかになったアセスメントスキルについて講義した。その後の演習では、研修企画運営委員がクライエントを演じ、事例の概要を説明したのちに、参加者がクライエントを理解するために多くの質問をし、得られた情報を全体で共有しながら各グループでクライエントを理解するための仮説を作り、検証、共有するという作業に取り組んだ。一連の取り組みで、クライエントを理解することの難しさと、その理解はPSWの主導的な理解にとどまらず、クライエントとその理解を共有することの大切さを認識した時間となったであろう。

 福祉サービスや診療報酬制度のなかで、私たちは実践のなかである程度の「成果」を求められるようになってきた。それは大切なことであるが、その「成果」に追われるがあまり、ひょっとしたら私たちはクライエントと協働的に取り組むこと、クライエントが主体者であることへの意識が薄くなってしまっていないだろうか。クライエントがその人らしく生きていくための道のりに、クライエントとともに私たちPSWがどうかかわるか、その際に「ソーシャルワークアセスメント」は生きてくると考えている。

(日本福祉大学 田中 和彦)


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