機関誌「精神保健福祉」

通巻111号 Vol.48 No.3(2017年10月25日発行)


目次

巻頭言 巧拙交々/洗 成子

特集 知識と技術を高めよう 実習指導者フォローアップ誌上研修

講義1 精神保健福祉援助実習の現状と今後の課題/齊藤 晋治
講義2 私のオリエンテーションおよび実習計画書の活用法/岡本 秀行
講義3 実習記録を用いた実習指導/富島 喜揮
講義4 あなたの実習評価をみつめてみましょう/齊藤 晋治
感想 参加者の声

◇研究論文
精神障害者家族に対するソーシャルワーク 統合失調症の子をもつ母親の語りに着目して/伊藤 千尋

◇連載
つくる・つなぐ・ひらく 第1回/社会にはたらきかける精神保健福祉士─夢とこころを育む取り組み/鈴木 篤史

・協会の動き/坪松 真吾
・協会の行事予定
・2017年開催精神保健福祉関連学会・研究会一覧
・投稿要項
●『精神保健福祉』総目次/通巻109〜111号


巻頭言

巧拙交々

愛誠病院 洗 成子

 子どものころから逆上がりはできないし、モタモタと皆の背中を見て走るし、球技ではボールを逸らしてばかりという筋金入りの運動音痴を自覚している。

 それでも若いころは、運動嫌いにもかかわらず身体は柔軟なのが救いだったのに、今ではガチガチの木偶の坊と化してしまった。なので、私にとってスポーツは参加するものではなく観て楽しむものなのである。本来スポーツはプレイするにしろ観戦するにしろ、スポーツマンシップにのっとって正々堂々と勝敗を競うことに醍醐味を見出すものであろうが、最近ふと思ったことがある。例えばテニスで、相手が返せないような球を返したほうが失点するというルールにしたら、見える世界、ゲームの雰囲気というのはまったく違うものになるのではないだろうか。私は気楽に参加できるが、私と対する相手は私に合わせてずいぶんと苦戦することになりそうだ。もちろん、そのようなルールがゲームとして面白いのかは謎である。平和ですら「勝ち取る」という表現をすることがあるように、戦いの末、欲しいものを得るという思考は、きっと生き物の本能として私たちのなかに息づいているから「ゲーム」というものに心沸き立つ楽しみを感じるのだ。

 テニスという頭脳ゲームでは身体技能を最大に発揮しつつ相手の心理の裏をかいて失点を誘うわけだが、相手がボールを返せるということを基本ルールにすると勝ち負けではない、相手の立場を思いやることへと思考の方向が変わることになるだろう。そういう道を究めた世界には従来のスポーツマンシップとは異なる価値観が構築されそうだ。

 ここまで夢想していたら、自分の生きている日常にこそ,この世界観は重要であることに気づかされた。2人以上の人間が互いに意見を交わすとき、その対話の臨み方はいろいろだ。目的があって何かを決める必要があるときは深刻に議論し合うことになる。討議はある意味戦いのようなものである。そこには対立的な要素がある。では、徹底的に相手の立場になって相手を思いやって話を交わすという機会をどれくらい日常のなかに取り込めているだろうか。クライエントとの間で「傾聴」を意識することはあってもそれ以外の日常の場ではどうだろう。対話の名手として磨きをかけることは重要な命題かもしれない。


知識と技術を高めよう 実習指導者フォローアップ誌上研修

 2010(平成22)年から始まった精神保健福祉士実習指導者講習会は、実施から7年が経過した。実習指導者講習会は標準的な実習指導ができることを目的にそのプログラムが開発された。しかし時間的制約、集団での講義形式という限界もあり、実習指導者講習会のみで実習指導を行うことに不安を抱えているという指導者のニーズから今回の実習指導者フォローアップ研修を企画することとした。

 実習指導者フォローアップ研修は、より各論的な内容とするため、できるだけ講師が実際に用いたプログラムなどを用い、その内容の吟味と有効性、さらには修正点等のポイントに焦点を当て実施した。講義は4つに分けた。講義1は精神保健福祉援助実習の状況と今後の課題として全体像をつかむ講義とした。実習指導者講習会受講者のアンケートなどを用いつつ、今回の研修会の目的とゴールを示した。講義2では多くの実習指導者講習会修了者が悩んでいた実習計画書の活用方法について具体的な例を用いながら、実習指導計画のポイントを整理しつつ、後半の演習では実習指導計画の立案を行った。講義3では実習指導者講習会であまりふれることができなかった実習記録を用いた実習指導に焦点を当て、実習記録をどのようにスーパービジョンとして活用するか、そのコメント方法についての整理を行った。講義4では実習評価について、指導者自身のソーシャルワーク課題を明確にしつつ、実習の評価の意味について考えるきっかけとした。

 今回は実習指導者フォローアップ研修を協会主催として企画した。本研修実施後、実習前と実習後という実習を挟む形で研修を行うことが理想であると感じた。今後各支部・都道府県協会が中心となり主催することが望まれる。今回の研修企画特集号は、例示の意味も含まれている。いくつかの都道府県では先進的な試みもされており、そうした例も取り入れながら、実習指導者フォローアップ研修が広まることを期待している。

(齊藤 晋治)


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