機関誌「精神保健福祉」

通巻109号 Vol.48 No.1(2017年3月25日発行)


目次

巻頭言 「変える」「鍛える」「固める」を自分のものに/齊藤 晋治

特集 特集 変えるChange 鍛えるTrain 固めるStrengthen─中期ビジョン2020を地元に 職場に 自分のものに

〔変える(政策提言)〕
座談会:相模原障害者施設殺傷事件を考える―精神保健福祉士の実践を通して
 大屋 未輝・岡本 秀行・岡安  努・菊池江美子・柴田久仁子・関口 暁雄
 司会/尾形多佳士
 オブザーバー/田村 綾子
いのちの尊厳の軽視と精神障害者支援―相模原障害者施設殺傷事件が問いかけてくるもの/田村 綾子
座談会を振り返って

〔鍛える(人材育成)〕
誌上スーパービジョンの振り返り―クライエント主体とかかわり論に基づく狙い目/柏木  昭
精神保健福祉士の資質向上に向けた継続教育/松本すみ子
精神保健福祉士の組織内ソーシャルワーク教育―浅香山病院医療福祉相談室における実践/古市 尚志

〔固める(組織強化)〕
災害支援ガイドラインVer. 2の有効活用に向けて ―あなたの備災はすすんでいますか/廣江  仁・松田聡一郎・島津屋賢子
「精神保健福祉士業務指針」の意義と実践的活用に向けて/岩本  操
意思決定を支援する成年後見制度利用の視点/長谷川千種

特別寄稿
福島県精神科病院入院患者地域移行マッチング事業の取組みについて/前山 憲一

◇研究ノート
ひきこもり家族教室におけるメタ認知トレーニングの応用可能性の検討 ―パイロットプログラム参加家族による自由記述の質的分析/狩野 俊介・細野 正人

・協会の動き/坪松 真吾
・この1冊/白澤 政和・三品 竜浩
・2017年開催 精神保健福祉関連学会・研究会一覧
・協会の行事予定
・投稿規定


巻頭言

「変える」「鍛える」「固める」を自分のものに

健康科学大学 齊藤 晋治

 私は幼いころから大の野球好きだ。小学生の頃は高校野球を一日中テレビで見ていたほどである。そして甲子園で活躍した選手がプロ野球選手となり成長していく姿を追いかけることが喜びだった。そんな追いかけた選手の一人が清原和博だ。同世代であり、誕生日が同じというだけで親近感が湧いた。彼の甲子園での活躍には胸を躍らされ、勇気を与えられた。「甲子園は清原のためにあるのか」アナウンサーの絶叫を今も鮮明に覚えている。プロ野球に入っても1年目からの大活躍であった。引退した時は自分たちの時代が終わったのだとさえ思った。

 そんな彼が覚せい剤取締法違反で逮捕され、現在は薬物依存症と闘っている。甲子園球場に飾られた彼のバットは撤去され、テレビ中継で彼の名前が呼ばれることもない。彼が行ったことを肯定するわけではない。しかし、同じ時代を生き、共に成長した世代として、そして精神保健福祉士として彼の再出発をどのように支えるのか気になってしかたがない。

 彼が社会的復権を果たす日はいつだろうか。かつて胸を躍らされ、勇気を与えられた者として、私が彼に勇気を与えられることはないのだろうか。もちろん彼だけではない。多くのクライエントが同じような生きづらさを抱えている。生きてきた証を消されることは、この上ないつらさであり、孤独であろう。そのつらさ、孤独に対し、精神保健福祉士がクライエントの生きた証に寄り添い、共に歩んでいくことは、クライエントとのかかわりそのものである。クライエントの生きざまに触れることで、かかわりの温度も変わるはずだ。いつか彼にも届くように、自分自身を鍛え、変える力を蓄えよう。春はすぐそこにある。


変えるChange 鍛える Train 固める Strengthen─中期ビジョン2020を地元に職場に 自分のものに

 広報のあり方検討委員会が時限的に立ち上がり、2016(平成28)年度の機関誌編集委員会は活動を休止している。そこで今号の機関誌は理事会よりお届けするため、誌面の構成がいつもの「総説・各論・実践報告」とは異なっていることをまずはお伝えしなければならない。

 日本精神保健福祉士協会では2016年度から2020(平成32)年度にかけて、新たな中期ビジョンを掲げ、「政策提言(変える)」「人材育成(鍛える)」「組織強化(固める)」を3本柱として活動を展開させ、間もなく1年が経とうとしているところである。

 この「中期ビジョン2020」を軸に、再編あるいは新たに立ち上げた委員会や分野別プロジェクトはそれぞれの活動計画に沿って実態把握や課題抽出、分析等々を積み上げ、協会の頭脳集団として位置づいていることをご存知の方ばかりではないかもしれない。これら協会の取組みのすべてを誌面にて紹介することは無理であるが、協会執行部が今何を重点課題と考え、どのように力を注いでいるのか、「協会の今」について、その具体の一部をお示しすることで読者の皆様自身の足元についても確認いただく機会となることを願い、本特集を企画した。

 「中期ビジョン2020」は協会執行部だけが目標とするものではなく、各都道府県支部や構成員一個人にも相通じる、われわれがソーシャルワーカーであり続けるための命題である。権利擁護の視点と立場を貫く実践者としてクライアントの傍らに立ち、社会を変革するという明確な動機と目的を持ち、知恵と力と資源を結集してソーシャルワーク実践を展開していくこと、これは協会として銘肝すべきにとどまらず、すべての精神保健福祉士に課せられた使命なのである。われわれ精神保健福祉士がミクロ、メゾ、マクロの実践に臨むとき、通奏低音のように「変える、鍛える、固める」の3要素の存在を実感するのではないだろうか。協会が掲げているビジョンを引き寄せ、自らの役割へと置き換えていただけたらと思う。

※「中期ビジョン2020」掲載URL //www.jamhsw.or.jp/backnumber/oshirase/2016/vision2020.pdf

(第3副会長 洗 成子)


△前のページへもどる