機関誌「精神保健福祉」

通巻104号 Vol.46 No.4(2015年12月25日発行)


目次

巻頭言  来し方行く末/渡辺由美子

特集  司法と精神保健福祉の連携と支援のあり方

〔総説〕
刑事司法と福祉の連携による犯罪行為者への対応−これまでの展開と今後に向けての課題/水藤 昌彦
司法におけるソーシャルワークへの期待/今福 章二

〔各論〕
医療観察(法)制度におけるソーシャルワーカーの現状と課題/三澤 孝夫
「生き場をなくした人たち」の支援−地域生活定着促進事業を通して/赤平  守

〔実践報告〕
第三種少年院を出る少年たちとフォレンジック・ソーシャルワーク/今井 真美
刑務所における精神保健福祉士の取組み/高橋恵里香・吉田 香里
入口支援にかかわる弁護士活動と精神保健福祉士の連携を目指して/関原  育
依存症拠点医療機関事業を通じた司法機関との連携システムの構築/鶴 幸一郎

〔座談会〕
司法と精神保健福祉の連携の深まりとこれからの課題 /
荒川久美子・大岡 由佳・大屋 未輝・喜多  彩・関口 暁雄・山田真紀子
司会:鶴 幸一郎 オブザーバー:柏木 一惠・寺西 里恵・向井 克仁

〔資料〕
司法福祉に関する資料 トピックス 新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン=木太 直人 刑の一部執行猶予制度について=倉橋 桃子

情報ファイル
・「リカバリー全国フォーラム2015」報告=中越 章乃
・日本社会福祉学会第63回秋季大会=原 敬
・第8回全国精神保健福祉家族大会.みんなねっと福岡大会.=伊藤 千尋
・第37回日本アルコール関連問題学会について=須尭 麗子
・日本デイケア学会第20回年次大会大阪大会に参加して=小田 良光
・「第58回日本病院・地域精神医学会総会」について=田中 啓

リレーエッセイ/無題=高橋 直弘

連載/実践現場からのつぶやきコーナー「P子の部屋」
・協会の動き/坪松 真吾
・この1冊/三井 克幸・丹野 孝雄
投稿規定
・協会の行事予定
・想いをつなぐ〜災害とソーシャルワーク(13)
・2016年開催 精神保健福祉関連学会・研究会一覧

『精神保健福祉』総目次/通巻101〜104号


巻頭言

来し方行く末

市川市福祉部障害者支援課 渡辺由美子

 先日の理事会での承認で本協会の構成員数が1万人を超えた。1つの区切りとしてとても感慨深い。法人化したころは3千人に満たなかったことを考えると大きな変化である。
 そのような時期に巻頭言という機会をいただいたことに感謝し、協会との出会いを振り返り今後につなげたい。

 私が協会に入会したのは四半世紀ほど前のことになる。当時、時折だが理事会の書記を頼まれることがあった。緊張しながら手書きで書記をした会議室の様子が今もはっきりと脳裏に浮かぶ。当時の理事会は、名札もなく、挙手もなく、一気に始まった。理事の方々は会議の間中激しく意見を戦わせていた。書記は大変だったが、情熱を持って語る様子に衝撃を受けた。

 そして、その場に、高熱を押して出席し、名もない書記にまで気を配る理事のA氏に深い感銘を受けた。その後、A氏の勤務先に行った際には、部屋の奥から「Y問題」に関する資料をごっそりと抱えて来て私に手渡し、「これくらい勉強しておけ」とつぶやいた。当時、何も知らないことを恥じたが、一方でこのようになれたらという思いを抱く道標となるような出来事であった。今もその資料は手元に残っている。

 専門職としての成長は人との出会いによるところも大きいと思う。私にとっては、この協会と協会にかかわる多くの人との出会いはとても大きな出来事だった。そのころ出会った方々は、とても立派だったが、当時のその方々の年齢は今の自分よりずっと若かったようだ。改めて先達のすごさを思う。

 その後、多くの方々の尽力でPSWは資格化され、本協会は大きくなった。理事として組織のあり方や今後の方向性を希求し続けるが、一方で若いころ私が感じたような人との出会いが多くの人々にあるようにという思いを持ち続けている。人との出会いとつながりが自分たちの未来をつくる。2万人に向けて、つながりを大事にしていきたい。

 この巻頭言の執筆にあたり、その記載をご快諾くださったA氏に心より感謝いたします。

 

特集 司法と精神保健福祉の連携と支援のあり方

 過去の歴史において、精神障害者等の方々は、「法の下の平等」ではなく、「法による社会防衛」の対象とされてきた。このことは、1940(昭和15)年改正刑法仮案として提案され、戦後においても改正刑法草案として引き継がれてきた。ライシャワー事件や新宿バス放火事件等、ことあるごとに保安処分の議論が巻き起こり、この議論の過程の中で2001(平成13)年に附属池田小事件が発生し、医療観察法制定に至っている。2013(平成25)年には、薬物使用をはじめとした、3年以下の懲役・禁錮の判決を受けた受刑者に対して、刑の一部に執行猶予期間を設け、保護観察をつけた上で、福祉施設等での社会貢献活動に従事させることが法整備された。他方、知的障害者や認知症高齢者の累犯事案が、刑務所収容や更生処遇の限界性を浮上させ、地域生活定着支援事業から、全国に地域生活定着支援センターが設置される状況となっている。また、教育・学術レベルでも、更生保護や司法福祉論が体系化され、福祉資格取得の必須科目に盛り込まれている。

 一方、実践においては、検察庁や保護観察所等に社会福祉の専門家が配置され、医療観察法では、社会復帰調整官の約90%に精神保健福祉士資格を持つ専門職が採用されている。また、全国各地で、弁護士等の司法の専門家と社会福祉の専門家との間で、勉強会や研修会が開催されるなど連携の動きがみられる。

 このように、急速に司法と福祉分野の連携が深まる中、新たな課題も見え隠れする。本特集では、「司法と精神保健福祉の連携・支援」に焦点を当てた。専門家として目的や視点の違いからくる連携の困難さや、支援過程において、ソーシャルワークの原則である自己決定の尊重、権利擁護、生活者支援等はどのように扱われているのかなど、法制度のみならず、司法と福祉の連携・支援のあり方や各実践現場での現状や課題を報告する特集とした。今後、司法と福祉分野がよりよい連携・支援を進めていく上での一助となれば幸いである。

(編集委員:向井 克仁)


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