機関誌「精神保健福祉」

通巻102号 Vol.46 No.2(2015年6月25日発行)


目次

巻頭言 50年の軌跡、その先にあるべき姿/廣江  仁

特集 精神障害のある人の地域生活支援と「相談支援」─ソーシャルワークとしての「相談支援」を考える

〔序説〕
相談支援事業の概要/菅原小夜子
〔総説〕
ソーシャルワークとしての「相談支援」/門屋 充郎
「相談支援」の可能性.精神保健福祉士である相談支援専門員への期待/岩上 洋一

〔各論〕
改めてクライエント中心の「相談支援」を考えてみよう/行實志都子
相談支援体制(システム)をどのようにつくっていくか/吉野  智

〔実践報告〕
「サービス等利用計画(計画相談支援)」と「個別支援計画(障害福祉サービス)」との有機的な連携実践/吉澤 浩一
自立支援協議会を活用し構築されたネットワーク/竹中 正文・三井 克幸
地域相談(地域移行・地域定着支援)の実践/中野 千世
地域移行・地域定着における相談支援事業所との連携/岸田 寿一
医療観察法における相談支援事業所との連携─多機関による社会復帰への協働と連携について/三品 竜浩

〔座談会〕
相談支援の課題と連携を考える /今村まゆら・上野 千恵・毛塚 和英・坂田 晴弘・寺西 里恵 司会・坂本智代枝

誌上スーパービジョン
所属機関では支援ができないと思い込んだかかわりを振り返る
─スーパーバイザー/柏木  昭

トピックス
障害者総合支援法の見直しについて=宮部真弥子
介護保険制度改正=木下 淳史

情報ファイル
3都県精神保健福祉士協会合同災害支援研修「災害支援と精神保健福祉士パート2―福島のあの時と今」=鴻巣泰治
第10回権利擁護・虐待防止セミナー=瀧 誠
ご本人・ご家族が安心して地域で暮らせるための支援を〜「みんなねっとフォーラム2014」に参加して〜=大野美子
心理教育・家族教室ネットワーク第18回研究集会について=木本達男
「精神科臨床における多職種チームの活かし方フォーラム」に参加して=中島健一
災害とソーシャルワーク3.11東日本大震災の経験を踏まえて=鶴 幸一郎

リレーエッセイ/今伝えたいこと/駒野 敬行

連載/実践現場からのつぶやきコーナー「P子の部屋」
・協会の動き/坪松 真吾
・この1冊/笠井 亜美・山本 操里
・投稿規定
・協会の行事予定/想いをつなぐ〜災害とソーシャルワーク(12)
・ 2015年開催 精神保健福祉関連学会・研究会一覧


巻頭言

50年の軌跡、その先にあるべき姿

養和会 F&Y境港 廣江  仁

 わが国において、PSW協会は全国組織として50年の歴史を重ねてきた。齢五十を迎えようとしている私の人生とほぼ同じ年月、さまざまな社会情勢の変化、Y問題と協会内部の揺れ、国家資格化、法人化などの変遷を経て、構成員は88名から1万人に達しようとしている。協会50年史によると、私がPSWとして働き始めた1989(平成元)年は本協会の歩みにおける充実期の始まりとなっている。そして、躍動期と合わせた26年をPSWとして過ごしてきたことになる。確かに創始期や再生期に諸先輩が築いた土台の上で、伸び伸びとやらせていただいた。さて、躍動期の後は、どんな時期がくるのだろうか。安定期、停滞期…、はたまた激動期がくるやもしれない。

 一方協会の歴史と併せて、精神障害者の権利の歴史をみると、一体この50年でどれほどの変化があっただろう。法律や制度は近年目まぐるしく変わり、かかわる専門職種や人数も多くなっている。しかし、社会の側にそれに見合った変化は起きているだろうか。

 孔子の教えからくる『温故知新』という言葉があるが、新しい知識や技術を習得する前に、きちんとわが国の過去を理解しておかなければ、わが国の現在そして未来に活かすことはできない。次にくるのが困難期や氷河期にならないよう、そして、協会の活動が活発になればなるほど、「精神障害者の社会的復権」という使命に近づいているようでなければならない。

 また異常気象の影響による自然災害、地震、噴火活動による災害などが、わが国を襲っている。阪神・淡路大震災をはじめ、過去に未曾有の大震災被害を体験したわが国。その経験は、必ずや今後に活かされなければならない。東日本大震災においては、過去と現在が混在しており、過去は学びつつ今何が起きているのか注視していく必要がある。

 孔子が唱えた目指すべき人物像を『君子』というが、われわれPSWが目指すべき『君子』とはどのようなものだろうか。倫理綱領、協会の経てきた歴史、そして精神障害者を包括した社会、大きな災害への備え……、それらの歴史と現状をしっかり見据え、一人ひとりが目指すべきソーシャルワーカー像を問い続けなければならない。

 『…四十にして惑い続け、五十にして天命をいまだ知らず…』な私である。せめて、『歳寒くして、然る後に松柏の凋むに後るることを知る(寒い冬にこそ、他の植物がしおれても、松や柏は緑を保っていることがわかる)』のように、困難な時に真価が発揮できるよう精進していきたい。

特集 精神障害のある人の地域生活支援と「相談支援」─ソーシャルワークとしての「相談支援」を考える

 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(以下、障害者総合支援法)に規定される相談支援事業は、地域ケアマネジメントの核であり、医療と福祉の連携や、障害を持つ方々にとってのより良い地域づくりを目的としている。精神保健福祉士は、精神医療と地域福祉の現場の中で、少しずつその職域を広げてきたが、依然として長期入院の根本的な解決に至ってはいない。精神医療福祉に携わってきたわれわれ精神保健福祉士にも、長期入院に対する一定の責任があるだろう。また、従来、制度に頼らない資源開発や地域づくりを得意としたわれわれ精神保健福祉士は、現在、障害者総合支援法を活用して積極的に地域づくりに関与できているだろうかという疑問も残る。

 社会的長期入院の解決は時代の要請であり、障害を持つ方々が健やかに暮らせる地域づくりは長期入院に頼らない精神保健福祉の目標でもあろう。そのような目標を立てると、障害者総合支援法の活用や相談支援事業は、精神保健福祉が抱えている構造的な課題の1つであり、社会的長期入院に対する極めて現実的なアプローチでもある。

 医療や地域の関係機関が、相談支援事業を通してお互いの役割を理解しながら有機的な連携を深め、障害を持つ方々が暮らしやすい地域をつくっていくことは、これらの問題の解決の糸口となると思われる。そしてそのために、これからの日本社会や精神保健福祉がどのように進んでいくのか、どのように進んでいったらよいかのビジョンを持ち、そのビジョンに向かってアクションをしていく必要がある。

 本特集では精神保健福祉士の理念や価値を維持するために、精神保健福祉士として「相談支援」に携わっている方々や、医療の現場で地域移行支援に取り組む精神保健福祉士が、その実践の中でエールを受け取れるように意図した。

(編集委員:三井 克幸)


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