機関誌「精神保健福祉」

通巻101号 Vol.46 No.1(2015年3月25日発行)


目次

巻頭言 調律考〜唸りの痛み/「わずかな異なり」からの修練〜/洗  成子

特集 改正精神保健福祉法を現場から検証する ─法改正をチャンスに転換するために

〔総説〕
精神保健福祉法の歴史的変遷と今回の法改正の要点について/門屋 充郎
精神保健福祉法改正と協会の動き/木太 直人

〔各論〕
精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針の策定について ─地域移行を推し進めるために必要な精神保健福祉士のかかわり/宮部真弥子
保護者制度廃止と医療保護入院手続きについて/良田かおり
医療保護入院の見直しと早期退院促進における精神保健福祉士の役割/澤野 文彦
医療保護入院の見直しと早期退院促進について─福祉事業者の視点から/金川 洋輔
精神医療審査会制度と期待される精神保健福祉士/四方田 清

〔実践報告〕
改正精神保健福祉法とPSWの実際と課題─急性期の場合/池戸 悦子
医療保護入院の見直しと早期退院支援─「退院支援委員会」を利用する/川口真知子
時代の流れを味方に、幅広いつながりを意識して/浅野 雅彦
改正精神保健福祉法により何が変わったか─行政の立場から/有野 哲章
医療観察法に残された保護者制度 /大下 哲史

誌上スーパービジョン
情緒障害児短期治療施設における精神保健福祉士の実践を考える─ A君の叫びの言動から、自らの支援と自施設の閉鎖性を問い直した事例を通じて
─スーパーバイザー/柏木  昭

トピックス
地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律(医療介護総合推進法)/木太 直人
「子供の貧困対策に関する大綱」について/岩永 靖

情報ファイル
日本産業精神保健学会 精神保健福祉士部会第1回専門技術研修会のご報告/佐藤 恵美
2014年度全国社会福祉教育セミナー/坂本智代枝
日本福祉教育・ボランティア学習 学会 第20回とうきょう大会/松本すみ子
第6回 ACT全国研修福岡大会/遠嶋 哲吏
第30回中四国精神保健福祉士大会鳥取大会/森廣 晃一
日本社会福祉学会 第62回秋季大会について/岩崎 香
SST普及協会 第19回学術集会 in仙台/大竹 伸治

リレーエッセイ/振り返りの中で考えたこと/山村  哲
連載/実践現場からのつぶやきコーナー「P子の部屋」・協会の動き/坪松 真吾・この1冊/鶴 幸一郎・嵐 朋子
・投稿規定
・協会の行事予定/想いをつなぐ〜災害とソーシャルワーク(11)
・ 2015年開催 精神保健福祉関連学会・研究会一覧


巻頭言

調律考〜唸りの痛み/「わずかな異なり」からの修練〜

日本精神保健福祉士協会常任理事/愛誠病院 洗  成子

 久しぶりに楽器をケースから取り出すと温度や湿度の影響でたいていは音程が狂っている。曲を奏でる前にはまず、調律から気持ちも姿勢も整える必要がある。 静寂の中楽器を構え、最初の一音としてE音を鳴らしてみる。この時無意識下に心が思う E音があるが、微妙にずれたE♭との間のような響きで楽器が応えると心は思わず「あ、痛」と反応する。なぜ痛みを感じるのか。たぶん自分の中の本質(価値)をかき消されるからだろう。
 人生には正しい音ばかりが並んでいるわけではない。EとE♭との間の調和を乱す「ずれたE」も実はEとして間違った存在ではなく、ある意味自分の内側の集中を助け、修練の機会を与えてくれる。もしも誰かとアンサンブルをするならばEとずれたEは1つの音であるかのようにも聞こえるが、振動数がわずかに異なる2つの波は干渉して唸りとなる。
 ちなみに現代の主流の調律である平均律は自然な倍音による調律ではなく、人工的に5度を狭くし1オクターブを12音に均等に割り振った調律法である(純正な5度C→G→D…の積み重ねでは13音目のC音は元の音より高くなり実は音階のサークルは綺麗に閉じないという神様のいたずらにより、古来いろいろな調律法があった)。 だから厳密に聴くと5度はわずかに唸り3度は広めで濁りを含んだ響きがする。しかしながら、現代のように緊張の高い世の中では「緊張感のある音」と感じ取られ受容されている。バッハ以降の多様な調性や頻繁な転調など複雑化する音楽の世界で、平均律はどのような調でも演奏できるよう狂いの解消を優先し、音が「純正」であることを捨てた調律なのである。
 さて、オーケストラでは指揮者が舞台に登場する直前に、個性豊かなたくさんの楽器が互いのピッチを揃えるためにA音で最終調律をする。そうしてようやく、広いホールでたくさんの聴衆に隅々まで音楽を届けるのである。私たちが個性豊かな仕事をしていても、互いがPSWたらんとするために必要なのは、さながら「Y」での調律ということだろうかと埒(らち) もない思いに耽ってみた。

特集 改正精神保健福祉法を現場から検証する.法改正をチャンスに転換するために

 改正法施行から1年を迎えるころ、この特集がみなさんの手元に届くはずである。その時、現場の精神保健福祉士は、法改正後をどのように経験しているだろうか。
 2014(平成26)年4月、改正精神保健福祉法が施行された。精神障害者の地域生活への移行を促進するため、良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針を策定すること、保護者制度の廃止、医療保護入院における入院手続き等の見直しなどが改正の柱となっている。とりわけ、私たち精神保健福祉士が大きな影響を受けたのが、医療保護入院の見直しである。病院の精神保健福祉士や相談支援事業所の相談支援専門員にとっては、社会的入院を解消するための専門職としての役割が法的に位置づけられたといえる。
 一方で、保護者制度は廃止されたものの、医療保護入院の家族等の同意は残ることとなり、医療保護入院の同意手続きをめぐって一時的に現場は混乱した。また、病院の精神保健福祉士にとっては、退院後生活環境相談員としての業務が増え苦慮しているとの声もある。さらに、相談支援専門員はサービス等利用計画の作成に追われている現状もあり、病院からの退院支援委員会への出席要請はそれほど多くないという。また、厚生労働省の検討会で、病棟の一部を退院患者の居住施設に転換する構想が提示され、当事者、家族、関係者らが各地で反対集会を開くなど大きな波紋を呼んだ。
 本特集では、こうした現状を踏まえつつ、私たち精神保健福祉士が、改正精神保健福祉法下で、社会的入院の解消と精神障害者の社会的復帰の実現に向けてどのように取り組んでいくのかに焦点を当てる。はじめに、わが国の精神保健医療福祉の歴史的変遷のなかで、今回の法改正がどのような意味を持つのかについて論じる。次に精神保健福祉士の視点から、法改正のポイントを整理する。最後に、法改正をチャンスととらえ、現場で実践する人たちの声を届ける。これからの日本の精神医療保健福祉を、本当の意味での転換期とするためのヒントを探る機会としたい。

(編集委員:原  敬)


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