<2016/11/28>
構成員の皆さまへ
公益社団法人日本精神保健福祉士協会 常任理事会
2016年7月26日未明、神奈川県相模原市緑区千木良にある障害者福祉施設で痛ましい大量殺人事件が発生しました。同日中に19人の死亡が確認され、27人が重軽傷を負ったこの事件は、戦後最大の悲惨な殺傷事件として社会的に大きな影響を与えました。被害に遭われたすべての方々にお見舞いを申しあげます。
本協会は、精神障害者の社会的復権と福祉のための専門的・社会的活動を進める専門職能団体として、この事件に関して見解と厚生労働省に向けた意見・要望という形で合計4回にわたり考え方を表明してきました。見解等の表明にあたっては構成員の皆さまからの意見集約とともに、関係各所からの情報収集に取り組み、各段階での意見交換や白熱した議論を展開し、理事会の総力を挙げて各々の文書を作成してきました。
未だ事件の原因は明らかになっていませんが、これら一つひとつの見解等の作成に到る背景とプロセスを構成員の皆さまにお示し情報共有することが重要と考え、このたび理事会のスタンスや作成意図、および今後の方向性を明らかにいたします。
【第1弾】障害者入所施設における殺傷事件に関する見解(2016年7月28日付)
事件の発生を受け、本協会としての見解を迅速かつ慎重に表明すべく柏木会長より理事に対して命が発せられると、理事間では瞬時にしてメーリングリストを活用した議論が展開されました。この時点では事件の詳細な事実関係は明らかではなかったにもかかわらず、マスコミ各社は「精神障害者が起こした犯行」であることを決めつけるような報道に終始し、世論がその影響を受けつつあることへの危機感を強く感じていました。
本協会としては、被害者やそのご家族への心からの追悼の念と事件そのものへの遺憾の意、そして被疑者の措置入院歴と事件との因果関係が判然としない状況下での偏狭な報道に対して、真実に基づく正確かつ慎重な情報発信を要望し、また間違った報道に惑わされることのないよう広く社会に警鐘を鳴らしました。このとき、わずか2日の間に理事間で交わされたメールは30通以上に上ります。結果として、7月28日に第1弾の見解を表明し、ホームページを通じて皆さまにお知らせするとともに、10を超える報道各社にもこれを送りました。
【第2弾】措置入院制度の見直しの動きに関する見解(2016年8月8日付)
安倍晋三首相は、7月26日の午前の自民党役員会で本事件について「多数の方がお亡くなりになり、重軽傷を負われた。心からご冥福、お見舞い申し上げる。真相解明をしていかないとならない。政府としても全力を挙げていきたい。」と述べました。この言葉を受けて、厚生労働省は「相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チーム」を立ち上げ、この中で「措置入院制度の見直し」に着手することが公言されました。
見解の第1弾を表明した後も活発な意見交換を展開していた理事会では、これを受けて第2弾の見解表明を決定しました。ここでは、被疑者を短期間の入院で退院させたことに対するバッシングが広がっている事実を注視して、事件と被疑者の措置入院歴との因果関係が不明な段階であること、および精神科医療が社会防衛装置として機能し得ないことに敢えて言及することにしました。加えて、現在の措置入院制度の運用における自治体間格差が大きい現状の指摘や、措置入院患者に対する正確な診断と適切な治療こそが精神科病院の本来の職務であることを強調し、精神科医療及び保健福祉に携わる全ての専門職や諸団体と一致団結して日本の精神科医療や福祉の発展に繋がる歩を共にしていくという宣言に至っています。
【第3弾】相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討に関する意見(2016年10月31日付)
厚生労働省が主管する「相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チーム」による検討会(第1回)が8月10日に開催されました。この検討会は非公開であるため、議事概要は後日公表される資料等からしか知ることができませんが、9月14日には「中間とりまとめ」により検討会のこれまでの協議内容や今後のおおよその方向性が公開されました。その後、10月13日には第6回目の検討会において関係10団体へのヒアリングの実施が決まり、本協会へは10月28日に厚生労働省精神・障害保健課より意見提出の依頼が入りました。
ヒアリングは10月31日の第8回検討会において行われるとのことで、急遽、協会を代表して田村副会長が出席する運びとなり、土日を挟むわずか3日間で、本協会としての意見書が理事会メーリングリストを活用して練り上げられました。ここでは、事件の再発防止策を措置入院制度の改正に求める発想に基づいた本検討会での議論のあり方に疑義を唱えるべく、「措置入院制度」に対する意見を強調しない内容とすることを確認しました。そして、精神科医療や措置入院制度および退院後の継続的な支援のあり方を、事件の再発防止策として論ずることへの反対を明言し、幅広い見地から事件を検証し再発防止策を検討すべきであると表明することにしました。
そのうえで、ノーマライゼーションやインクルーシブな社会の実現に向けた取り組みの推進、一定の教育を受けた福祉人材の確保と育成を可能とする福祉施設への保障、差別思想や優生思想に対峙できる共生思想の構築の必要性を訴えました。また、措置入院制度に関しては、措置解除の判断やその後の通院等の強制医療の提供に特化した議論に矮小化してはならず、これらは現在厚生労働省に設置されている「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」で一体的に議論すべき事項であり、本協会としてはそちらへ意見提出することを付け加え、第4弾の見解表明への含みを持たせることとしました。
【第4弾】措置入院制度の見直しに関する要望書(2016年11月9日付)
10月31日のヒアリングの際、「再発防止検討チーム」が最終報告を11月中にまとめる予定であることを確認したため、本協会では、厚生労働省に本年1月7日から設置されている「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」(以下「あり方検討会」という。)に対して、措置入院制度の見直しに関する協議をするよう要望することにしました。
「あり方検討会」では、これまで医療保護入院制度および新たな地域精神保健医療体制のあり方を検討課題としており、本協会からは柏木会長が構成員として出席しています。そこで、11月11日の第4回会合において、本協会は福祉専門職としての見地に立ち、精神障害者の強制入院制度に対して権利擁護の観点からの抜本的な見直しの必要性を提起しました。ここでは、精神医療が社会防衛機能を持ち得ないことを前提とした上で、見直すべき内容として、措置入院制度に関する診断基準、指定病院の施設基準と診療報酬、措置入院運用のガイドラインやクリニカルパス、措置入院者の退院促進や退院支援のための仕組み作り、措置入院にかかわる職員の研修の必要性などを訴えました。
本事件と措置入院制度の直接的な関係に対しては否定的な見方をしている本協会ですが、措置入院制度が見直そうとする厚生労働省の動きは止めようがなく、また実際にこの制度自体には多くの不備があるとの認識から、措置入院制度の改革には一刻も早く着手すべきであるという考えに立っています。「再発防止検討チーム」は、近日中に最終報告案を示すものと思われますが、その後は「あり方検討会」で、措置入院制度の改革に向けて、より具体的な検討が始まることを期待しています。
次回の「あり方検討会」は12月22日に予定されています。本協会としては、この議論への布石を打つ形での要望書を提出しましたが、そこに向けてより具体的な検討課題や提案を出せるように現在準備しているところです。
構成員の皆さまに置かれましても、このように本協会が表明している見解や意見等に注目していただきますとともに、周囲の関係各所への周知等を図ってくださいますようよろしくお願いいたします。
以上