お知らせ

<2014/06/30>

【傍聴レポート】長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会(第3回)

日程:2014年6月17日(木)10:00~12:15  場所:2014年6月17日(木)10:00~12:15

【検討概要】

 第3回の検討会は、事務局による取りまとめ案「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策の今後の方向性」の内容について議論された。
最初に、ヒアリングとして分院としてあった病院を一旦共同住居に転用して、そこから地域に居住の場を展開した福島県あさかホスピタル理事長の佐久間啓氏の説明があり、その後取りまとめ案等の資料説明が事務局からあった。その後、意見交換が行われた。

○あさかホスピタル理事長佐久間啓氏
 当院では2002年に分院であった病院(102床)を閉鎖して共同住居として設立したNPO法人による運営を始めた。同時にデイナイトケアの開設、訪問看護ステーションに3人異動。2004年に退院支援室を設置、2006年からは共同住居の入居者の地域分散を始める。2007年には元病院の共同住居を解体して、跡地にグループホームとケアホームを4棟建てた。さらに2011年にグループホームを4棟開所。常に生活の場を用意しながら地域移行を進めていった。NPO法人の運営にこの10数年で約2億円を病院から持ち出している。
 あさかホスピタル自体もこの10年で100床以上削減している。これまでの利用者は7割が地域生活を継続している。分院を共同住居にしたときの退院者96名は平均55歳、通算入院年数は25年であった。この人たちの8割が地域生活をしているが、現在の平均年齢が67・8歳となっている。しかし、介護施設には経済的問題もあり入れない。

 第3回検討会配布資料(厚生労働省/0618掲載)


【意見概要】

(近森)この案はよくできている。たまたま私のところの近森第二病院(精神科)は104床(急性期60床、療養病棟44床)を削減して、昨年10月から60床のみとして総合病院に編入した。アウトカムが出たので紹介したい。現在は15対1の看護職員配置の急性期治療病棟として4月からの診療報酬改定で医師配置加算を算定。これにより、病床削減前の収入7,800万円が昨年の減床で6千万円に減ったのが、4月から入院単価は1日2万1千円が2万5千円にアップして、毎月600万円の赤字が月1千万円の黒字に転換した。単価が低く数を入れないと経営できない状況を、本来医師がやるべき姿を発揮できるようになったことは全国にアピールしてほしい。
 問題は2点あった。(1)急性期、回復期医療は当たり前で、地域医療連携がうまくいっていない状況は「俺の患者さん」意識が邪魔している。私から直接医師に話をして説得しながら病床削減を進めた。今後の方向性を明確にアピールすべき。一般医療では10年、20年前に起こっていた行動変容を。(2)精神療養病棟44床の入院患者さんは、26名が精神科、3名が療養病床に転院、ほかに施設2名、自宅11名であった。かなり努力をしても6割は転院せざるを得なかった。長期入院の20万人を地域に戻すことはとても無理。病床転換型施設を考えるべき。そして施設から地域に帰す努力をすべき。
(良田)精神科医療の方向性を明確化することはとても大事。病床転換で住まいにすることには反対。選択の余地がない状況に追いやってしまう。一度住んでしまうと本人がそこで落ち着いてしまうこともある。まずは地域に出ていろんなことを体験することが重要。空きベッドの利用より、今までにない地域移行の取組を強化していくべきであり、国として取り組むこと。今後長期入院を作らないためにどうするか。地域医療、アウトリーチサービスで入院によらない医療を。家族に今までのように丸投げになることがないようにしてほしい。家族の相談を精神保健福祉センターや保健所でとなっているが、実際には十分機能していない。
(伊澤)検討会のタイトルからすると2の「患者本人に対する支援の具体的方策の方向性 」をどれだけ充実させるかだが、病院の事業移行の検討会のようになっている。2の部分は「検討する」という表現が多い。しっかりと言い切る表現にしてほしい。
<ア-1 退院に向けた意欲の喚起 (1)病院スタッフからの働きかけの促進 (1)病院スタッフの地域移行に関する理解の促進>の医師、看護師等への研修については必須化するとしてほしい。
同じく<(2)外部の支援者等との関わりの確保 (1) ピアサポート等の更なる活用>ではピアサポートの活動の永続性の保障が弱いので、強化する視点を入れるべき。
<ア-2 本人の意向に沿った移行支援(本人の状況に応じた移行先への「つなぎ」機能の強化) (1)地域移行後の生活準備に向けた支援>の「地域生活を体験する機会の確保が促進されるよう病院、地域移行支援事業者による支援の在り方を検討する。」ことについては、本人の意思確認を入れる必要がある。
(吉川)<ア-1 退院に向けた意欲の喚起 (1)病院スタッフからの働きかけの促進 (1)病院スタッフの地域移行に関する理解の促進>の研修については、病院スタッフに対する地域医療を支えるための医療も入れてほしい。また、都道府県が行う研修は病院スタッフも参加できるように働きかけを。
<ア-2 本人の意向に沿った移行支援(本人の状況に応じた移行先への「つなぎ」機能の強化) (1)地域移行後の生活準備に向けた支援>について。病院の地域移行を見ていると、病院スタッフが一緒に行動することが重要。一緒に外に出ることで地域社会や社会資源の理解につながる。実際には診療報酬の縛りで看護師が病棟から外出して活動しにくい状況があり、改善が必要。
<(2)地域生活を支えるサービスの確保(1) 医療サービス>では、「地域定着に効果的な外来医療やデイケア等の在り方について、検討する。」となっているが十分に検討できていないので、モデル事業等として予算化をしてほしい。
(倉橋)新たに関係行政機関が位置づけられたことは評価できる。推進体制の構築、人材育成は、実現できるために地域の実情に合わせて人材、予算等のことを明示してほしい。
(田川)入院中に自立支援医療の申請ができない。退院先が分かっていれば申請できるようにしてほしい。
退院して介護保険施設に変わると自己負担が高くなるので出たくないという人もいる。
生活保護で入院している人に対しては、地域に戻ることに自治体が消極的になっている。
コメディカルが自由に動くことができれば、医師の頭が固くても連携はできる。
(平田)<1.総論 (1)精神障害者の地域移行及び入院医療のこれまで及び現状>に長期入院者20万人のうち毎年5万人が退院しても、また5万人が増えるので減らないことを加えてほしい。
<1.総論(3)将来像実現のための病院の構造改革>の「将来的に不必要となる病床を削減し」の前に、「新たな長期在院を防ぐためにも」を追加するべき。また、長期在院者となる前に地域移行・地域定着支援を行わないと手遅れになる。
(広田)地域での住宅確保のためにルームシェアを流行らせてほしい。
(伊澤)<イ 地域生活の支援(1)居住の場の確保(1) 障害福祉サービス >の報酬については、加算ではなく基準報酬を引き上げるべき。また、グループホームの消防法の適用が地域によって格差がある。柔軟な運用ができるようにするべき。地域でグループホームを開設するときに地元自治会への説明がハードルになっている。大阪では説明を不要としているがそのような取り組みが必要。居住支援協議会については、まだなじみがないので解説を入れてほしい。
(河崎)病院の構造改革には財政的な方策が併せて必要とあるが、地域生活の支援にも財政的な措置のことを入れてほしい。
(長野)<ウ 関係行政機関の役割>のところに地域包括支援センターのことを入れておくことが必要。
(吉川)医療計画、介護保険事業計画とリンクさせることは重要だが、医療計画では訪問看護ステーションの整備が言われているが、実際には精神科訪問看護を半分しかやっていない状況がある。
(野沢)<3.病院の構造改革の方向性>の内容について賛成。< (1)病床が適正化され削減されるまでの間、地域移行支援機能を強化する方策(2)ハード面での方策 >には、集約して不要となった病床は削減することを原則としてほしい。また、「減床した病院があったとしても、別の病院が増床すれば、全体として病床数が減少しないこととなる。そのため、これらの取組の効果を低減させないための方策について検討する。」という書きぶりが消極的。病床があれば、また他の人を入れる方向になってしまうので。
退院の意思を持たない人へのアプローチをどうするかは、非常にデリケートな問題。
(平田)長期在院を未然に防ぐために、(1)急性重症患者を短期的に治療するために、対象を救急病棟に限定すべき。(2)在院期間1年にならない患者の地域移行・地域定着を進める。 の2点を入れるべき。
(広田)今日にも医療介護総合推進法が通るようだが、消費税を財源とする都道府県の基金904億円を使って病床転換できるようになっているが?
→(事務局)対象事業例を示している。
(広田)このようなことは予め資料として示しておくべき
→(蒲原部長)基金の904億円は医療提供体制全般にかかるもの。精神に特化するものではない。現在の法令上で行うことができるものを例示しているだけ。
(田辺)方向性として病床のあり方を変えていくのはいいが、
(1)退院支援委員会の開催は1年以上の人に義務付けられていない。1年以上の人にも積極的に行っていく方向を示してほしい。(2)病床削減、ニューロングステイを出さないということもその通り。しかし、転換して住居となると、一旦できてしまうと長期的な場として回転していくのではないか。センター長の緊急アンケートでも一般的には住宅としてふさわしくないとする意見が多かった。
(千葉)平田構成員が言った救急病棟に限定することは現実的ではない。
病院の構造改革となっているが、構造転換なのではないか。社会的入院は社会の問題によって起きている入院と認識している。病院側が改革できる部分は少ない。社会の改革が必要だが、しかし財源が少ない。今できることをするべき。グループホームでも金がかかりすぎる。今あるものを使うことを考えていくべき。そこに理念をきちんと落とし込んで。
(伊藤)参考資料を提出した。活用イメージとして2つの病棟を集約する場合と、病棟と地域への再配分する場合。
基準病床数の問題は、削減した病床を他の病院に利用されないように工夫を。
<活用の場合に必要な条件>では、本人の選択の自由を担保することが重要。
医療関係者の自主的な改善を期待する立場として、ピアレビューなども取り入れていくべき。
モデル事業として具体的に事務局から例示してほしい。
(伊豫)すでに生活の場となっている病棟はもう病棟ではない。それを看板の架け替えというのならば、そのねじれを容認することになり矛盾する。地域に移行するための準備施設として位置付けるべき。
動機付けのうち内発的動機付けは、体験を通してモチベーションをあげていくこと。変化に対する不安が強いので、段階的にチャレンジしていけるような仕組みが必要。
ITを用いた再発予防システムも必要。
(伊澤)地域資源が不足していることは認めざるを得ない。取りまとめ案では、前段は「検討する」が多いが、後段は歯切れがよい。病床転換型居住施設は万策尽きた方策ではないことを確認したい。いまの検討会の流れを強く危惧する。
(佐久間理事長)今問題になっているのは、65歳以上の人たちの行き場がないこと。サービス付き高齢者住宅をやろうとしても本人の経済力に見合った家賃等に設定できず成り立たない。
(長野)地域移行を強化することの詰めをもっとするべき。服薬・食事の訓練は病棟スタッフが退院できない理由によくあげること。こういう病棟を作ってしまうと、地域移行率が高いほど報酬が高くなる仕組みを作らないと危ない。
(田辺)患者の訓練ではなく、スタッフにたくさん退院させたらというインセンティブを。長期入院によるインスティチューショナリズムは医療の課題である。
居住系施設は認めないべき。条件付きの容認しか意見がでていないが、長期入院によって自由な意思を表明できない状況に置かれている。
(佐藤)いま残っている人は医療よりも生活のサポートが必要な人。生活の場が現実にないことが問題。
(良田)長期入院している人の顔が見えない中で議論している。厚労省の調査でも病院の敷地内は嫌だとはっきり言っている。地域移行は本気でやられているのか。そうではないと思う。1件も地域移行支援を行っていない病院があるということは、病院職員の意識の問題。精神科医療を地域医療へ大転換するべき。

[次回検討会] 7月1日(火)18:00~20:00 


【所感】

 病床を住居等に転換することに関しては、反対を主張する立場と、条件付きで容認する立場で、論点がどうもずれているという印象を受けた。それだけ精神科病院もそこに従事する職員も信用されていないということであろうか。
 しかしながら、仮に退院をしたいと意思を表明できたとしても、低所得の高齢長期入院者には行き場がない問題は本当に深刻だ。魔法の杖を持たない我々がしなければいけないことは何なのか。どうすれば残された時間の中でこれらの人びとが「ふつうの生活」を取り戻すことができるのであろうか。私たちに突き付けられた課題はあまりにも重い。 

(文責:常務理事 木太直人)


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