お知らせ

<2014/05/16>

【傍聴レポート】長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会(第2回)

日程:2014年5月12日(月)17:00~20:00   場所:厚生労働省 専用第12会議室

【検討概要】

 第2回の検討会は、1)長期入院精神障害者等からの意見聴取結果の報告、2)退院意欲の喚起、本人意向に沿った支援等に関するヒアリングが行われた後、3)「長期入院精神障害者の地域移行に向けた課題と対策の方向性」について議論がなされた。

1)長期入院精神障害者等からの意見聴取結果の報告

 事務局より意見聴取の概要について説明があった。そのうえで、聞き取りを担当した田尾有樹子氏(社会福祉法人巣立ち会理事長)のヒアリングが行われた。

(1)入院中の精神障害者等に対する意見聴取
 意見聴取を担当したのは、社会福祉法人巣立ち会の地域体制整備コーディネーター(東京、対象はコーディネーターが関与している病院の入院患者及び退院者)、淡路障害者生活支援センター(兵庫、対象は医療法人淡路病院の入院患者及び退院者)、愛媛県の地域の事業所の精神保健福祉士、相談支援専門員等、行政機関の保健師等(公益社団法人正光会の2病院の入院患者及び退院者)で、1年以上の入院患者170名、退院患者40名に対して面談による聴き取りが行われた。
 対象者の基本情報としては、40~64歳、未婚、入院前は自宅居住者が多く、入院期間は5年未満が4割程度。本人への意見聴取において、病院に入院している最も重要な理由でのは「病気の状態」、「退院許可がおりていない」「住むところがない」の順で多かった。退院の希望では、「退院したい」が7割強。希望退院先は4割強が自宅。退院先が病院敷地内だと退院したいかの質問には6割が「退院したくない」。
 職員に対する意見聴取では、入院をしている最も重要な理由は、「病気の状態」が3割強。「住むところがない」14%。6割強が退院の可能性あり。一方で入院中に退院していいと伝えたのは47%。退院先ではグループホーム/ケアホームが6割強。
また退院者の聴き取りでは、退院のきっかけで最も重要な理由として4割強が「退院許可がおりたから」をあげていた。退院してよかったことで最重要項目は「自由がある」こと。地域で最も受けたい支援・サービスは、「いつでも相談できる場所」が5割。

(2)退院支援施設及び地域移行型ホーム等への調査
 対象施設は、退院支援施設2カ所(利用者10名、退所者9名)、地域移行型ホーム19か所(利用者77名、退所者81名)であった。聴き取り結果は省略。
 田尾氏のヒアリングでは、意見聴取対象者がコーディネート事業を受けている関係で、他の入院患者よりは情報があることを特徴としてあげているが、GAFでは対象者はほとんど入院レベルではないこと、ほとんど全員が退院を希望していること、病院敷地内には8割が退院したくない一方で、病院スタッフなどと会える場所に退院したいという人も7割近くいること。職員の聴取からは退院できると思っていながらも十分な患者とのコミュニケーションが図られていないこと、敷地内グループホームが安心して退院できる場所と考えていて、患者本人の希望とかい離していること、などが報告された。

2)退院意欲の喚起、本人意向に沿った支援等に関するヒアリング

(1)NPO法人大阪精神医療人権センター副代表山本深雪氏、吉池毅志氏
(2)ピアサポーター(匿名)、新潟県茨内地域生活支援センター施設長岡部正文氏
 ヒアリングに対する質疑では、平田構成員から聴取対象者のGAFについては平均値ではなく個別の分布を次回示してほしいこと、長野構成員(公益財団法人正光会)からは全数調査したが、GAFが50以上の人はいなかったことが出された。また、河崎構成員から聴き取りで何を抽出したかったのか事務局に質問があり、何かの予断をもっての調査ではなく、丁寧に聴いていこうということで行ったものであることが伝えられた。

3)「長期入院精神障害者の地域移行に向けた課題と対策の方向性

 冒頭事務局から2回の作業チームにおける「長期入院精神障害者の地域移行に向けた課題と構成員から提案のあった対応案」(資料5-2)の概要説明があったうえで、意見交換となった。

 検討会(第2回)資料(厚生労働省/0514掲載)


【意見概要】

(澤田)(ヒアリングのピアサポーター氏に)ご自分のリカバリーに仲間がどう作用したか?自分の入院体験では、入院中に心が癒されることはなかった。むしろ心をズタズタにされたが、仲間がいたことがよかった。
 →入院中は患者同士がストレスとなった部分もある。しかし、外の情報は仲間から得た。それまでは、病院か自宅かの選択肢しかなかったが、仲間の情報でグループホームとかの選択肢が増えた。
(伊澤)(山本氏に)(1)療養環境サポーター事業の解説をお願いしたい。(2)ヒアリング資料の4ページとも関連するが、福祉サービスのトライアルの機会があることが重要と考えているがどう考えるか。
 →(1)大阪府の社会的入院が人権侵害であるという精神医療審議会答申、精神医療オンブズマン制度の流れで事業が行われていることの説明。(2)そのとおり。
(近森)作業チームの検討内容が細かい話になっていることに違和感がある。精神病床は満床にしないとペイしない。この精神科病院の経営的構造をなんとかしないといけない。山本さんの話の通り患者さんの退院意欲の喚起ではなく「退院支援意識の喚起」が重要。検討会に出てきている医者は皆まじめに取り組んでいるが、ここにいない経営者にとってはここの議論は絵空事。退院支援意識の喚起、これをどうするかを根本的に考えるべき。
(千葉)国が、支援側が意欲を持てる報酬の保障をすることが必要。敷地内、敷地外の話について。「病院の敷地内」という考えは抽象的な言葉だと思う。病院の隣の民家を病院が購入すると病院の敷地となる。そこを別の会社やNPO法人に買わせると敷地外のグループホームとして運営できる。敷地の中・外は定義が曖昧。自分の病院では隣に老人保健施設がある。どこが病院の敷地なのかそうでないのか。どういうことがいけないのか具体的に話し合う必要がある。ダメなもののスタイルは何なのか。
(近森)援護寮を考えるといい。援護寮自体はいい施設だったが、敷地内に作って1階のデイケアに毎日通わせてということだと金儲けのためになってしまう。
(山本深雪氏)入院患者が退院したいと言っているのは「自由がある」ということ。誰に電話をしているかチェックされない自由、何時までに帰らなければならないということがない自由、自分で選べる自由。「コンビニで夕飯を何にしようかと思ったら、たくさん選べてびっくりした」と。どうしても病院の中では選べる範囲が狭くなる。外には選べる自由があったという話。援護寮が敷地内の場合は、食事は病院と一緒のもの、外出時間も一緒。管理された時間の中では、ふと飼いならされているという感覚をもってしまう。
(田尾)30数年前に精神科病院で仕事を始めてずっと退院支援を続けてきたが、全国的な数字は変わっていない。国などがこれまでの施策の間違いについてきちんと責任を取る時期。なんでもいいからとにかくベッドを減らすべき。
(澤田)(ピアサポーターに)退院先は病院の近くがいいというのはどういうことで?
→10年、20年の長期入院者のイメージできる範囲は病院の近くのスーパーであったり、信用金庫であったりということ。
(広田)全国的には地域に精神障害者の施設を作ろうとすると反対される。業界の精神医療から国民の精神医療に。
(伊藤)病床数がずっと変わらないという問題は深刻。条件設定をしつつもいろいろなトライをしてみなければ、また10年何も変わらない。多くの病院が建て替えの時期を迎えているが、病床数は変えない可能性がある。次のステップを病院に示すべき。あらゆる可能性を支援していくべき。
(佐藤)財源が限られている中で診療報酬を上げるためにはベッドを減らさなければならない。
(河崎)ベッドの適正化が必要なことは間違いない。
(中島)(1)今回初めて診療報酬で急性期治療病棟の16対1医師配置を認めた。患者は自由がほしいと思っていることは間違いない。それに我々は応えていない。全国の精神科病院の院長を集めて人権に関する講習会をやるべき。
(2)山本深雪さんの資料にある大阪府精神保健福祉審議会の「入院中の精神障害者の権利に関する宣言」はその通りだが、それが保障されている精神障害者がどれだけいるのか。
(近森)一般医療の方向性は、今回7対1入院基本料に制限をかけた。重症度、看護必要度に加え在宅復帰率が条件となった。重症患者を早く治して早く帰さないといけない。精神科も急性期の機能を上げて、療養ではなく回復期病棟にして、在宅に戻るための準備をすべき。
(長野)院内スタッフの意識改革について。今回の意見聴取では(法人内の)2病院の意識が反映された結果となっている印象がある。(1)病院管理者、経営者の研修を義務化すべき。(2)医師の研修も義務化が必要。自分の都合のいい研修を優先してしまうので。研修は団体委託ではなく、国が法定の研修を行う必要がある。(3)保健所等の役割は重要であるが、人員を厚くしないと無理。10年間限定で保健所機能を強化するなど対応が必要。
(吉池毅志氏)在院日数が2,000日以上と長期化している病院の実態調査が今までされていないことは問題。
(山本)治療の必要がないのに抱えこんでいることは人権問題。指定医と審査会機能を機動的に充実させるべき。
(伊豫)生活の場になっていて医療必要度が低いことと、生活の場になっているにもかかわらず行動制限がされている。それはもはや病棟ではない。医療従事者が医療と生活の場を分けていかなければならない。すでに病棟ではない組織を明確化していくべき。
(岩上)いくらいいことをやっていても、いまのシステムではそれをずっと続けていかなければいけない。これまでの在り方検討会などの取りまとめなどに関してその後の分析、レビューができていない。精神科が信頼されていない。
(河崎)(田尾氏に)医療法人が病床転換をして、病院の敷地外に居住施設を作ることはありだと考えるか?
(田尾氏)それはあってもよいと思う。
(田川)人権問題は、経営者だけではなく大学の医学部生や研修医といった若い人たちに対してもきちんと教えてほしい。

[次回検討会] 6月17日(火)10時~12時(その間に予備日含め作業チームは3回開催)


【所感】

 精神病床を削減しない限り長期入院の課題は解消されないこと、病床転換における敷地内・敷地外の問題などに議論が集中した。一方で地域移行を進めるための具体的な方策に関してはあまり触れられることがなかった。次回検討会には取りまとめ案が示されることとなるが、その間に開催される作業チームでどこまで話を詰めることができるのか不安を残すところとなった。

(文責:常務理事 木太直人)


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