<2013/08/29>
【傍聴レポート】第3回精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会
第3回検討会は、事務局から資料1、2についての報告説明がなされた後、6名の構成員からのヒアリング、意見交換の順で進行した。
日程:2013年8月27日(火)17:30〜20:20 場所:航空会館(7階大ホール)
<議事1>資料1「良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針に関する論点の整理」についての報告
事務局より、第2回までのヒアリング内容および過去に開催された関連検討会等の報告に基づき指針の論点案を整理した資料と、第2回検討会において構成員から要望のあった「医療・介護に係る長期推計」に関する資料の説明がなされた。
前者の資料に示されたのは現段階で考えられる論点項目であり、議論によって追加されるものである。後者の資料には、病床の推計が、改革が為されないままなら平成37年度の精神科病床は増え、改革が為されれば27万床に減る見込みと示されている。
<議事2>構成員からのヒアリング
コメディカル専門職団体や家族の立場、地域づくりと並行して病床削減を実践してきた医師、精神保健福祉センターの立場などからのヒアリングが行われた。
- 柏木一惠構成員(公益法人社団法人日本精神保健福祉士協会会長)
- 香山明美構成員(一般社団法人日本作業療法士協会常務理事)
- 田邉等構成員(全国精神保健福祉センター長会会長)
- 中板育美構成員代理和田幸恵氏(公益社団法人日本看護協会常任理事)
- 長野敏宏構成員(特定非営利活動法人ハートinハートなんぐん市場理事)
- 良田かおり構成員(公益社団法人全国精神保健福祉会連合会理事)
ヒアリング内容については厚生労働省ウェブサイトから各提出資料を参照願いたい。
<議事3>意見交換
以下のような質疑応答と意見があった。
- 論点整理にあるのは、医療のレールに乗った人への支援のことが中心だが、日本看護協会や精神保健福祉センター長会からの指摘にあったように、未治療や中断者への早期介入という入り口部分に当たる点を項目として付け加えるべきではないか。相談対応、外来、任意入院、必要によっては医療保護入院というステージの課題に対する体制整備、人材育成が必要になる。(倉橋構成員)
- 精神科医ではない立場から、皆さんに基本的なことを考えて欲しいと思う。運営する近森グループでは急性期、慢性期、在宅医療という一連の医療提供をしており、精神科単科病院である自院でも、質のいい医療提供をしていれば優秀なスタッフが集まってくれる。看護師にしても、精神科看護は面白いので集まる。就労支援などしているデイケアでは、患者の表情も生き生きとするように変わってきて、卒業していくため、利用者は50人から10人にまで減り赤字となっている。あるべき精神科医療をやればやるほど赤字になるのは当然。やるべき精神科医療を実現するために、急性期の傾斜配置をして早く出せば出すだけ高収入になるようにすべき。今の問題は診療報酬の単価が低いことだけ。そのために数をこなさないといけなくなり、粗診粗療、長期化となる。単科を上げてもらうしかない。一般科医療は医政局所管だが精神科医療は障害・保健福祉部所管であり、診療報酬の事に関して頼りない感じや不信感が構成員にあると感じる。どういう手順で報酬を上げて行く予定なのか事務局に聞きたい。(近森構成員)
⇒中間とりまとめを9月にするのは、診療報酬改定に間に合わせたいということ、医政局に遅れを取らないようにしたい。盛り込むべきことがあれば是非伺いたい。(北島課長)
- 数こなすというより、皆、いい医療をしようとして赤字になっている方向。今の診療報酬制度だと専門職を雇えない、養えない。技術料が出ない。PSWを雇っても払えない。OTだと香山構成員が言ったように50名診てもらわないといけない。看護師がプランニングとかしても検温などのルーティンと同じになってしまう。精神科の技術料がない。医師も重たい人を毎日診察しても週に1回診ればいいという構造になっている。構造的におかしいことができていて濃厚な治療をできない環境になっている。(千葉構成員)
- 少し違う視点で発言。論点課題の11〜12頁に、多様な疾患とあるが、依存症やPTSD、不安障害等も重要。うつ病に対しては点数化されたが、それらに認知行動療法が効果的であることがわかってきている。双極制もうつ症状のほうが期間が長いこと多く単極性と間違われることが多いが、スペクトラムと併せると4〜5%いるとされる。その半数以上が不安障害をもつ。また難治性糖尿病でも不安障害が多いが、精神科医療として認知行動療法を提供できる体制がない。認知行動療法は日本では医師だけだが、アメリカでは高ランクは医師だが、看護師やPSW、CPなども評価対象。必ずしも医師である必要はない。研究や推進が必要。また、提供すべき良質かつ適切な医療とは何かという、診断の基準やガイドラインの作成を行い遵守していく必要がある。我が国と海外との治療薬に関するアルゴリズムの違いも重要な視点。第1選択薬が違う。そういう意味でも脳科学研究や創薬が重要で体制整備が必要。基礎研究医と臨床医の相互交流も必要。またIT活用による医療提供体制の研究や整備も必要。(伊豫構成員)
- 薬物療法、薬物以外の認知行動療法などがある中で、治療を始める早期の段階で情報が欲しいと良田構成員の意見にもあったが、多様な疾患について、論点案には依存症しか記載がないが、第1回の資料の60頁にはもう少し多様なものが記載されていたので是非書き込んでほしい。また、外来医療については、対象患者を明確化し、多職種で集中して支援する必要があるのではないか。一般医療との連携についてだが、かかりつけ医と専門医との連携に触れるべき。長野構成員のプレゼン内容に感銘した。非都市部の高齢化や人口減の中で各分野の施設資源の有効活用等大事で、資料の8〜9頁からは多くのことを学べる。(伊藤構成員)
- 未治療や中断者への早期介入に関しては保健所の重要な業務として充実してほしい。民間医療機関からの介入は悩ましいことがあり、強制介入のことについて法的整理をしないと難しい。システムについて議論を早急にしてほしい。論点案資料9頁の人材育成について、多職種もしくは初期の医師研修について重要。もう一度、医師の研修に精神科研修を必須にしてほしい。自院では近くの総合病院から研修を受けいれており、研修後には精神科疾患の患者への意識が変わると言う。認知症の方に対する精神科医療の必要性についても明記すべき。入院とかではなく、精神科治療が必要な時に認知症の方を精神科で診ることに異論がある人はいないと思うので明記すべき。柏木構成員のプレゼンにあった、各病棟にPSW配置をというのは将来的なことだと思うが、需要と供給および養成の課題も合わせて、協会としても考えていただき数字など示してもらえるといい。OTも最近定員割れの養成校があると聞くので同様。(河崎構成員)
- 一般医療との連携はまだ白紙。統合失調症が中心だが、うつと認知症が重要。例えば睡眠への着眼点による富士市のモデルも、診療報酬化が難しければ補助金等で事業化してほしい。合併症について、精神疾患と身体疾患のどちらかが救急で合併の縦列か並列があるが、双方の救急対応が必要な時や、その後双方の慢性化についてなどバリエーションを細かくして評価の仕組みを作ってほしい。
長野先生の話しにあったように病院規模の大小によって分けて考えるべき。日看協のプレゼンにあった訪問については、ステーションだけでなく精神科医療機関からの訪問も重要なので書くべき。また、市町村の保健師の役割の重要性を述べられたが、地域包括支援センターには保健師が必ずいる。所管は老健局だが、ここをワンストップで活用することが資源の有効活用となる。(三上構成員)
- 皆さんの話しを聞いていると10年前と変わらない。百花繚乱で優先順位はどこなのかわからない。私がわからないのだから国民にはもっとわからないのではないか。わからないと財務省からお金を取れない。現行法の中でやるべきことがある筈。保健師が訪問して医療に結びつけることではなく話し相手になるとか、やれることはある筈。(広田構成員)
- 入り口部分の医療アクセス、待つ医療ではなく届ける医療が大事。アウトリーチには医療型アウトリーチと保健型アウトリーチがあり、前者はpost医療とも言え、退院後や医療にかかった人の在宅医療であり、後者はpre医療と言え、医療の必要性のアセスメントや医療導入の部分で、これはやはり保健所の役割。ただし、今はしにくくなっているのではないか。そこで一つ提案だが、精神保健指定医の条件に地域保健所の嘱託医となって地域で相談にのり、レポートを書くということを条件にすると、人材確保としても育成としてもいいのではないか。医療費配分についてだが、諸悪の根源は医療法特例であり、これは当時、民間病院を増やすために必要な措置として出された53年前の医局長通知だが、今となれば精神科医療を一般科医療から隔離するために必要となっている。これをなんとかすべき。精神科医療のパイを大きくすることが必要。救急学会の要望を出してあるが、最初の2週間は1日5万円を要望している。それだけの高額は質の担保が必要なので厳しい条件をつけている内容。(平田構成員)
- 要望を全部満たしたらこの国の財政がもつか心配。医師の精神科研修必須をというのはつまり体験が重要ということ。ところで、「良質かつ適性」とは重複ではないか。適性なら悪質な筈はない。今は、まあまあの中程度の質だと思う。そこに対し、今、何ができるか考えるべき。大震災の後、東北で一番頼りになるのは保健師だった。保健師については見直して全国に根付いてもらうこと大事。災害精神医療についてどこかで触れておくべき。自院を建て直す時に、災害拠点病院にしたいと申請したら、精神科病院は災害拠点病院になれないと言われた。今だと災害支援に派遣してもボランティアとなってしまう。除外しているようには読めないが、災害救助法に精神科医療のことを明確に位置付けてほしい。(中嶋構成員)
- 一般医療との連携についてだが、合併症はどこも受けてくれない現状がある。連携の範囲(圏域)を例えば市町村医師会の範囲などとして狭く設定すべき。また、実際には、医師同士の信頼関係で紹介し合い返信などを出しているが、返信への評価がないので作ってほしい。論点案の6頁にある入院したくない人へのアウトリーチについてだが、アウトリーチで全てが解決するわけではない。アウトリーチはやっていることのあくまでも一部なので、外来医療全体への評価が必要。特に連携業務の大部分はコメディカル職が行っているが、評価がない。むしろ診察をきちんとできるよう評価が欲しい。週に1回分しか評価ないが、具合が悪ければ2回とか必要に応じて来てもらえるように、また家族面接やコメディカルの相談にも評価ないので、きちんと評価をするべき。(田川構成員)
- 合併症問題の解決のために是非、総合病院の充実を。亀田総合病院が精神科病棟を作ったのが最後だが、是非、総合病院が新たに精神科を作ってもらえるとよい。精神神経学会マターかもしれないが、精神科医の後期研修を総合病院でしてくれると総合病院の人材にもつながりよい。コメディカルについて、ここでは触れられていないが、薬剤師や栄養士についても必要。一般科医療では評価がある栄養サポートチーム加算が精神科でも取れるとよい。また、災害時の心のケアの重要性を考えれば、精神科を持つ病院を災害拠点病院の指定要件にすべき。公的サービス充実のために保健師の充実が大事。(佐藤構成員)
- 論点案に外来医療のあり方や機能分化について一つ項目として設けるべき。(吉川構成員)
- 診療報酬に依らない部分について、保健所や保健福祉センターのことも出たが、福祉のことも重要だが、指針に書いただけでは実現しないので次の仕掛けを示してほしい。この検討会は医療や保健の領域の人が多く、厚労省の部内にも障害福祉課との間に現実の物理的壁があるが、その壁を取り払うための方法も考えないといけない。過去の検討会の報告に背中を押されて変革を進められたと長野先生が話したが、押されなかった人や病院もある。何故できなかったか、原因分析と対策が必要。今回の指針のモニタリングもできる仕組みを作ってほしい。(岩上構成員)
- 昨年6月28日にとりまとめられた精神科医療の機能分化と質の向上等に参加したが、とりまとめにおいて、長期入院者のいる病棟では隔離拘束はしないという方向性が書かれていた。今回は触れられていないが、権利擁護の観点から重要なので書いてほしい。(山本構成員)
<議事4>今後のスケジュール
- 第4回は、9月19日(木)9時半から12時。指針案についての議論。第5回は、9月30日(月)17時半から20時。中間とりまとめ予定。いずれも会場未定。
【所感】
前回に続き構成員のヒアリングのうえで意見交換が行われた。コメディカル職3団体と家族の立場、精神保健福祉センター長会、地域づくりと並行して病床削減を実施してきた病院の立場からの発言。本協会と作業療法士協会からは、診療報酬評価の制約等による配置の少なさ等の現状と課題、今後の地域移行支援に関する専門性の活用要望が、日本看護協会からは特に訪問看護と保健師の役割重要性について発言があった。また病床削減には痛みが伴うという実践の過程と結果をプレゼンした長野医師は、入院病棟の報酬と外来などの地域医療に関する報酬が半々に近づくまでに至ったが、これ以上病床削減するには、今の報酬構造では厳しく限界があり、ケアミックス型の報酬や、海外や介護保険のノウハウや反省を活かし、医療ケアを付設するグループホーム等新たな仕組みが必要ではないかと提言。
現状の課題の要因であり今後解決が必要な点として、精神科特例と、精神科の診療報酬の単価の低さや技術料に関する報酬項目がないことなどが共通認識課題としてテーブルに乗り、今後の改定に所管課がどのように手腕をふるうかが全体の関心と要望であったと感じた。また、論点案に外来医療と災害時精神科医療に関する項目の追加が必要であると言う意見も重要な課題認識とされたように受け止めた。今回でヒアリングは終わり、次回は指針案が示され検討となる。指針案の具体的項目と、その実現のための仕掛けやモニタリングなどについて議論されることになるだろう。
(文責:常務理事 大塚淳子)
△トップページ