<2013/08/01>
第1回目の本日は、事務局から精神障害者に対する医療の提供の確保に関するこれまでの検討状況等の報告、4名の構成員からのヒアリング、意見交換の順で進行した。
議事に先立ち、25名で構成される本検討会の構成員紹介がなされた。本日は、構成員23名の参加で行われた。
<議事1>精神障害者に対する医療の提供の確保に関するこれまでの検討状況等
事務局より資料を元に、改正精神保健福祉法の概要及び主な検討課題、これまでの検討経緯、昨年6月28日にとりまとめられた「精神科医療の機能分化と質の向上等に関する検討会」報告の「今後の方向性に関する意見の整理」にある意見などについて確認がなされた。
<議事2>構成員からのヒアリング
精神病床の機能分化を中心にヒアリングがなされた。
1.伊藤構成員(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター社会精神保健研究部長)
地域移行の取組みを推進させるためには、既存資源活用が不可欠である。民間医療の割合が高いなかで、これらの資源を減らすことなく地域ケアに利用するために、地域が病院の仕組みをどう作るかが課題。「病院医療から地域ケアへ」が最大の論点であろう。
OECDが提唱した、統合失調症退院患者の計画されていない再入院率の指標に日本のデータがないのは、再入院率を確認しづらいためであり、退院患者のフォローアップが手薄であることを表している。地域責任性を意識できるゲートキーパー機能をいかに機能させるかが日本の制度課題である。
また、民間病院が多い我が国において変革を推進させるためには民間病院の参加を得るために病棟転換型居住施設は必須要素である。賛否あると思うが、時限的にするとか外部の目を入れるとかで課題もクリアできると考える。
2.河ア構成員(公益社団法人日本精神科病院協会副会長)
指針は精神保健医療の改革を推し進めるとともに実効性のあるものでなければ意味がないこと、精神科医療サービスの提供側がそれぞれの特性を生かせるような多彩なロードマップが必要なこと、施策は段階的行われることなどを基本的視点としている。
これからの精神医療サービスは、急性期などの医療的な対象者には密度の高い医療を展開し、福祉的な対象者は障害福祉サービスへ移行するといった入院医療の適正化が必要となってくるが、それぞれの病状に応じて違った財源が必要である。どれをとってもレベルアップのためには財源が必要であり、財源なくして改革なしと言える。
3.佐藤構成員(一般社団法人日本総合病院精神医学会監事)
徐々に総合病院精神科が不採算部門として切り捨てられる傾向にあり減少しているが、総合病院精神科が充実することで、一般救急と精神科救急の乖離の解消、切れ目のない医療の提供、質の高い精神科医療の提供が可能になる。そのためにも、総合病院では精神科病棟も一般病棟入院基本料で算定できるようにすべきである。
4.田川構成員(公益社団法人日本精神神経診療所協会理事)
300万人以上いる精神障害者の9割以上は地域に暮らしており、精神科診療所が地域で暮らす精神障害者の受け皿になっている。マンパワーの弱い精神科診療所で入院させずに地域で見ていくためには、色々な機関との連携は必須であり、この役割を臨機応変に担っているのが精神保健福祉士などのコメディカルスタッフである。自院では精神保健福祉士が就労支援も行っている。しかし、大変重要な役割であるが、十分に評価されていない。また会員のアンケートでは救急医療への協力意欲は高いものがあり地域の救急医療への協力は可能と考える。
<議事3>意見交換
以下のような質疑応答と意見があった。
○検討事項(1)の指針の内容に関する4つの事項とは別に、退院後生活環境相談員や精神科医療機関が地域に対応するための体制整備の項目等が規定されているが、これは指針と連動するのか。それとも(2)のその他精神保健医療福祉に関する事項であるのか。(岩上構成員)
→退院後生活環境相談員の具体的内容等は(2)で検討する。(事務局)
○医師、看護師が業務をすべて担うと多すぎてできないことになるので、他職種に業務をお願いすることが必要。その際はルーティン化して標準化することが必要。医療資源は有限であり、精神科病床の機能分化は地域医療連携、チーム医療がないと成り立たない。(近森構成員)
○精神科病床の機能分化で資源の少ない地方はパーツがそろわない。地方では急性期から就労支援まで全部やらないといけない状況。機能分化にだけフィーがつくと、地方は医療崩壊する危険もあり、配慮が必要。(長野構成員)
○今般の精神保健福祉法改正内容を家族会としてよしとすることは苦渋の決断であった。見直すことが大きな課題であるが、その作業はどこで行われるか。(良田構成員)
→この検討会は概要(1)の精神障害者の医療の提供を確保するための指針の策定を検討する場であり、(3)の医療保護入院の見直しについてはこの検討会とは別のかたちである。(事務局)
○厚生労働省は病院に目が向いている。発達障害者等に関して明確に策を打ち出していない。診療所を念頭に置かなければならない。(中島構成員)
○保護者規定が外れたことはよかった。精神科も他の医療並みにしてほしい。業界内での検討ではなく、今度こそ国民の精神医療にしてほしい。(広田構成員)
○法改正のときにドラスティックな改正を期待していたが、マイナーチェンジになってしまった。精神科のなかに問題を留めた指針であってはならない。一般科の医師にもう少し精神科のことをわかってもらう啓発も必要である。(千葉構成員)
○連携の重要性に絡めて、クリニックにコメディカルスタッフがいないことがほとんどであり、医師ではなく違うスタッフに見てもらいたくても難しい状況である。そのため情報ツールの共有がなかなかできない。3か月未満で退院をしてもその先どうなったかはわからない。連携のために地域を動ける人の配置をしてほしい。(柏木構成員)
○精神科病棟を居住施設へ転換することを進めない限り前に進めないとの提案は確かにしっかり議論すべきだと思う。具体的にどうするべきかここで議論すべきである。(香山構成員)
○日本の精神科医療の特異性が目立つ。1つの原因は入院医療の民間依存にある。(樋口構成員)
○この検討会のミッションは良質な医療提供体制のための指針策定。現在、医政局が所管する 「病床機能情報の報告・提供の具体的な あり方に関する検討会」が開催中だが、精神科医療は扱われていない。どうすり合わせるのか。医政局や老健局からの参加も求めたい。(三上構成員)
○医政局の検討会では、病棟機能分化を各県で報告することを医療計画に前倒しして入れて行く様子だが、精神科医療については、また、置き去りにならないか。(中嶋構成員)
○そもそも機能分化とは、病棟や病床の機能分化以前に、医療も福祉も、敢えて言えば保安施設の機能もいっしょくたに病院に持たせている現状を分化整理すること、そして各世界水準に合わせていくことであることを確認しておきたい。(平田構成員)
<議事4>今後のスケジュール
第2回は8月9日(金)9時半から12時。4団体からのヒアリングと意見交換。第3回は8月27日(火)17時半から20時。3団体からのヒアリングと中間まとめに向けた議論。第4回は9月19日(木)9時半から12時。第5回は9月30日(月)17時半から20時。中間とりまとめ予定。いずれも会場未定。
【所感】
これまでも、検討会とりまとめ等の節目には、政権交代や、人事異動などが重なるが、今回も法案成立をみた後、7月の人事異動で、検討会所管である障害保健福祉部長、庶務担当課の精神・障害保健課長、法令担当課長補佐が交替となっている。人事が新たになり、検討会での意見を前向きに受け止め、改革の実現のための布陣となることを願いたい。
検討会の構成員も、保護者制度や入院制度のあり方を検討した「新たな地域精神保健福祉医療体制の構築に向けた検討チーム」やその「ワーキングチーム」から継続の構成員と、改正法内容に関連するため参画することとなった団体や有識者等新しい顔ぶれも見える。今回は当事者が2名に増えたことは一定評価したい。
昨年6月28日にとりまとめられた「精神科医療の機能分化と質の向上等に関する検討会」報告の「今後の方向性に関する意見の整理」や「重度かつ慢性」のあり方についても意見が割れているように、急性期の人員体制を一般医療並みに手厚く、新入院患者から1年以上のニューロングステイを原則生じさせないためにも退院支援を行うコメディカルスタッフなどを配置し多職種によるチーム医療を進めることは合意されている。しかしながら、病床削減やその方法、医療資源の配分の具体的デザイインなどについては、各団体や職種の思惑もあり、合意形成をどのように図っていくのかが、検討会の焦点となるだろう。今回、民間病院依存度が高い特異性を有する我が国で変革を進めるためには、病棟転換型居住施設の検討が不可欠との提言が構成員からなされ俎上に乗ったことは様々な点で議論を呼ぶものと思われるし、議論は避けては通れない様相だ。診療報酬への提案時期を踏まえた中間とりまとめ以降には、改正精神保健福祉法の第33条に記された地域援助事業者との連携に関連する内容も検討事項に上がると思われる。
同日から開催されている「障害者の地域生活の推進に関する検討会」では、障害者総合支援法の2014年4月から施行の「ケアホームとグループホームの一元化」や「重度訪問介護の対象拡大」についての検討が始まっている。また既に再開した社会保障審議会障害者部会では、両検討会の進捗報告を受けながら、障害支援区分や地域移行支援の対象拡大、・基本指針の改正(障害福祉サービス等の提供体制の確保に係る目標に関する事項等)が検討される予定である。この半年、各検討状況を視野に、本検討会への注視が必要である。また協会としての発言や提言のための意見集約をブロック会議等で行う予定である。各現場における実践を踏まえたご意見等を各支部代表者等にお寄せいただきたい。
(文責:常務理事 大塚淳子)
★第1回精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会資料はここから入手できます。