<2009/09/11>
9月10日(木)10時より、全国都市会館(東京都千代田区)において、標記検討会が開催されました。今回の検討会においては事務局より提示された「精神保健医療福祉の更なる改革に向けて(報告書案)」(以下「報告書案」という)について、各構成員より意見や修正点に関する意見が出されました。
この報告書案は、平成16年に厚生労働省においてとりまとめた「精神保健医療福祉の改革ビジョン」(以下「改革ビジョン」)が、本年9月にその中間点にあたることから、後期5か年の重点施策群の策定が予定されていることに向けて、本検討会としての意見のとりまとめとして作成されるものです。
事務局より、今回提示した報告書案に対する意見や修正案は、全て今回の検討会で示していただき、その点を踏まえた最終案を9月17日(木)に予定されている第24回検討会にて確認する流れで進めることが提案されました。また、報告書の最終版を確定する次回の検討会をもって本検討会を終了とする予定であることが報告されました。
以下、報告書案について構成員より出された意見や修正案を、「報告書案全体について」および「各項目について」の2点に分け、抜粋し報告いたします。
はじめに、報告書案全体を通じて、これまでの20回以上に及ぶ検討会における各構成員からの意見を多くくみとった内容になっているという点については評価をしたい、という声が複数上がりました。また、厚生労働省に任せきりにするのではなく、今後の施策をしっかりと見守っていきたいし、実施されることについて自分達もしっかり取り組みたい、との声も上がりました。
反面、各論の記述について「検討するべき」といったようなあいまいな表現になっている文章が目立つことから、文章の結びをあいまいにせず「〜する」と明確なものに修正してほしいという意見も複数出ました。また、今後の進め方について、年次や数値をもう少し明確に示すことができないか、との発言もありました。
次に、改革ビジョン後期5か年を向かえるにあたり、「入院から地域へ」という改革ビジョンに示された方向性については、ビジョンの提示以前と比べると地域の活性化や病院関係者の意識変革に寄与していることから、大きく評価をしていいのではないか、という意見が複数上がりました。「地域生活が中心である」という考えのもとに今後も取り組んでいくべきであり、これまでの歩みを止めないためにも、「はじめに」もしくは「おわりに」の文章中にその点を盛り込み、強調すべきではないか、との発言がなされました。
並行して、「入院から地域へ」という動きを評価しつつも、あくまでそれは負の遺産の清算過程にすぎず、将来あるべき精神保健医療福祉の方向性は別に据え、携わる人々へのエネルギーを与えるような「スローガン」を設定し進めるべきである、という考え方も複数示されました。その点については、別に十分な検討を進めるべきであり、違う視点から両方の取り組みを進めていくべきとの意見が出されました。
また、8月30日に行われた第45回衆議院議員選挙の結果を受けて政権交代が為される状況を踏まえ、障害者自立支援法の廃止と障がい者制度については「障がい者制度改革推進本部」を内閣府に置くことをマニフェストに盛り込んでいる民主党をはじめ、連立3党の政策方針の中で、本検討会のまとめを是非対応願うということをまとめに記したほうがいいのではないか、という意見も出されました。
報告書案は5つの項目より成っており、はじめに、これまでの精神保健医療福祉施策の沿革や現状が示されたうえで、改革ビジョン前期5年の評価、後期5か年の重点施策群に関する提案、今後の課題が述べられています。今回の検討会においては、主に「3.改革ビジョンの後期重点施策群の策定に向けて」「4.精神保健医療福祉の改革について」「5.今後の課題」の3点について、意見や修正の提案が出されました。以下、項目ごとにまとめます。
この項目では、改革ビジョンとその評価について、目標の再確認と現段階での達成状況、また目標設定のあり方についての評価が示され、そのうえで、「今後の精神保健医療福祉改革に関する基本的考え方」が提案されています。また、これらに基づき、後期5か年は1)精神保健医療体系の再構築、2)精神医療の質の向上、3)地域生活支援体制の強化、4)普及啓発(国民の理解の深化)の重点的実施、の4点の柱に沿って、施策を講ずるべきであるとの方向性が示される内容となっています。
構成員からは「今後の精神保健医療福祉改革に関する基本的考え方」の部分について主に意見が出されました。
まず、過去の精神障害者施策について「行政をはじめ関係者は、その反省に立った上で」という記述について、関係者自らがまずは反省し贖罪をすべきである、との意見が出され、「精神保健医療福祉の専門家」の記述を加える修正を求める意見が出されました。
また、後期5か年の施策を講じるうえで、報告書案に示されている4点の柱に加え、5点目の柱として「当事者の政策決定への参画」を、また「医療情報の公開」も入れるべきなのではないか、との意見が出されました。
加えて、「精神障害者が、地域において、本人の症状に応じて、日常的な外来・在宅医療や緊急時の救急医療等の医療サービスや、地域生活の支援や就労に向けた支援などの福祉サービス等を受けることができ」(14ページ22行目より)という記述について、福祉サービス等はご本人の希望やニーズに応じて受けるべきものであることから、この点の記述の修正を求める意見が上がりました。
この項目は、前段で示された4点の柱について、(1)現状、(2)改革の基本的方向性、(3)改革の具体像、の3点が示されたのち、最後に今後の目標値についての考え方と具体的数値が提案されています。以下、それぞれについて、構成員からの意見や修正の提案内容を示します。
まず、現状に関する記述の中で、精神医療従事者数に関する統計資料の引用箇所について、引用のあり方が誤解を生みかねないことから、記述方法の再検討を求める声が上がりました。また、報告書案を通じて統計資料の引用箇所に同様の点が見受けられることから、統計資料引用の在り方について、再検討をお願いしたい、という意見が出されました。
次に、認知症に関して複数の意見が出されました。特に、認知症高齢者の増加が、改革ビジョン策定当時に予測していた数をはるかに超えている現状から、後期5か年においても、十分な想定を行ったうえで、方向性を検討しないと、ビジョンそのもののあり様にも影響してくるため、この場では検討しきれなかった点も含め、慎重な検討や対応が必要だとの指摘がなされました。
また、認知症に対する医療提供体制として、精神科医療の担うべき治療を明確にすべきという観点から、「(前略)BPSDの急性期に対する医療の提供が、精神科による専門医療の重要な役割と考えられる」(18ページ20行目)という記述に関して、「顕著なBPSD」と記述すべき、との意見が出されました。また、認知症疾患医療センターに関して、医療機器や十分な人員体制の整った病院がその認可を受けるべきである、との意見があり、その点に対する記述を求める意見が上がりました。
次に、改革の具体像について、「(前略)統合失調症の入院患者数について、改革ビジョンの終期に当たる平成26年までに15万人程度にまで減少(平成17年と比べ4.6万人の減少)させることができるようにすべきである」(24ページ17行目から)との記述について、15万人という数字の根拠と妥当性について、事務局に説明を求める声が上がりました。
また、高齢精神障害者に関する記述(24ページ29行目から)について、障害福祉サービスと介護保険サービスの活用について触れられているが、高齢者にとって障害福祉サービスが使いにくい現状があることから、障害福祉サービスの拡充を進めていくことに関する記述や、医療体制の確保についても、明確な記述を加えてほしい、といった提案がなされました。
加えて、総合病院精神科に関する項目(26ページ9行目から)で、事務補助者の拡充等の従事者の負担軽減の方策に関する記述について歓迎する声とともに、精神科病院においても同様に医師の負担は増しており、同じく対策をお願いしたい、という意見が出されました。また、総合病院精神科に求められる機能等について、明確な記述を求める声が上がりました。
地域精神医療提供体制の再編と精神科医療機関の機能の強化(28ページ14行目から)の項目については、医療圏域に対する記述を求める意見や、医療機関の記述について、修正を求める声が上がりました。
まず、精神科における診療の現状に関する記述、「我が国においては、向精神薬を用いた治療において、多剤・大量投与、長期少量投与、依存性薬物の長期処方等が多く見られているが、その有効性等を懸念する指摘がある」(30ページ16行目から)に関して、現状に則しておらず、記述の修正をすべきである、との意見が上がりました。同様に、改革の具体像の項目においても現状にそぐわない記述(31ページ36行目から)が見られるため、修正をお願いしたい、という意見が出されました。その点について、投与状況やその効果について実態調査を行い、副作用などで大変な状況になっている人などの実態も踏まえ、情報公開すべきである、との意見も出されました。
また、改革の具体像において、診療ガイドラインの作成について触れられている箇所(31ページ36行目)について、1年以上の入院をさせないことを明確にしたガイドラインの作成やクリニカル・パスの作成についても検討していくべきではないか、との意見が出ました。
医療従事者の質の向上に関しては、現状、医師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士等が想定されていると考えられるが、現場では心理職の果たす役割も大きいことから、心理士の資格の整備等に関することも具体像に盛り込むべきではないか、との提案がなされました。
主に、「改革の基本的方向性」「改革の具体像」について意見が出されました。
まず、家族会の構成員より、相談支援の記述について、精神障害者本人に限らず、家族も対象に加えるような記述にしてほしい、との意見が出されました。また、未治療・治療中断者等に対する支援体制についても、本人だけでなくその家族も対象とし、本人が受療を拒否するような場合でも、家族とつながりながらねばり強い支援を続けていただけるような体制としてほしい、との意見や、訪問診療や訪問看護に加えて、例えば訪問相談や訪問リハビリといったような支援を、作業療法士や精神保健福祉士、薬剤師、といった多職種が訪問支援を行うことのできるような体制を整え、在宅の方に幅広い支援が届くようにしてほしいという意見が出され、該当箇所の記述の修正、加筆の提案がなされました。
精神保健指定医の確保については、自治体が医師の確保に大変苦慮している現状があることから、「精神保健指定医について、措置診察等の公務員としての業務や都道府県等による精神科救急医療体制の確保に協力すべきことを制度上規定すべきである」(40ページ12行目から)について、「都道府県が協力を求めることができる」との記述を加えてほしい、との意見が上がりました。
次に、ショートステイに関して、現行制度がショートステイをご本人が活用しにくい現状にあることから、精神障害者本人に配慮した利用しやすい制度の促進を図るべきである、との記述に修正をしてほしい、との要望が出されました。
デイケアについては、多くの意見が出されました。まず、現状に関する記述については、一部書きぶりの訂正か削除を求める声がありました。また、改革の具体像におけるデイケアの記述(41ページ10行目から23行目まで)については、これまでにデイケアが果たしてきた役割と、これからの役割を整理して記述すべきといった意見や、治療と生活支援、いずれが目標なのかによって、利用方法を整理するべきだ、との声が上がりました。
また、報告書案を通じて、デイケアのあり様とその効果に疑問を投げかける記述が多いことから、存在意義を明確にする意味でも、効果を検証し効果が高いところには予算を講じ、場合によっては改廃を含め検討する、という記述に切り換える必要があるのではないか、そうしたスクラップアンドビルドの発想は必要ではないかとの意見も出されました。
複数の構成員より、影響力が強いのは、新聞報道以上に、テレビ番組や雑誌であり、報告書案の記述には「新聞報道」という記述が多くあるが、新聞報道に限った記述は修正した方がよいのではないか、との指摘がなされました。また、もっとテレビなどを媒体として活用すべきではないかという声も挙がりました。
また、当事者の構成員からは、国民に対する普及啓発を考える前に、まず本人や家族が状況を理解できるように十分な説明の機会を設けることや、専門家自身が自らを見直し、正しい理解と育成の環境を整えることが先決ではないか、という意見が上がりました。
加えて、これまでの精神保健医療福祉施策について、本来は行政、専門家、マスコミが国民に対して謝罪をすべきであり、そのこと自体が国民に対する啓発活動につながるのではないか、との意見が出されました。特に今後の対策には予算が必要であり、そのことを国民に理解してもらうために国の謝罪が必要と考えるという意見が上がりました。
この項目では、今後の目標設定に関する考え方と今後の目標値が示されています。報告書案に示されている今後の目標値は、「1.改革ビジョンにおける目標値(今後も引き続き掲げるもの)」「2.新たな目標値(後期5か年の重点施策群において追加するもの)」「3.施策の実施状況に関する目標」の3点から成ります。
後期5か年に向けて追加する目標値については、統合失調症による入院患者数を約15万人に、また認知症に関する目標値については平成23年度までに具体化することとなっています。疾患別の目標値が示されたことを評価する意見がありつつも、その数字の妥当性や、認知症の目標値をどのように設定するかについては、懸念の声も上がりました。
特に、認知症による精神科病院への入院については、入院が適切であり、かつ限定的なものに限ると明記すべきではないか、との意見が上がりました。また、当事者の構成員からも、認知症の社会的入院を助長するようなことがあってはならない、との意見が出されました。
また、施策の実施状況に関する目標に関しては、早期支援や成人の発達障害者への適切な医療等も加えるべきではないか、との意見が出されました。
この項目では、本検討会で議論が十分でなかった点や、今後の検討すべき重要な課題として、「1.精神保健福祉法に関する課題」と「2.改革ビジョンの検証」の2点が上げられています。
精神保健福祉法については、他法の見直しの時機との兼ね合いも考えつつ、期限を設けて、「○年までに検討に着手する」等、今後の検討の年限を明確に示すべきではないか、との意見が出されました。また、できればビジョンの終了年の26年に後期の重点施策の検証をすべきとするなら、それ以降の施策検討のためにも、後期5ヵ年の間に精神保健福祉法の見直しをすることを明記してほしいという意見が上がりました。
また、これまでの検討会でも議論がなされてきた移送制度の記述については、今回も複数の意見が出されました。まず、「(前略)措置入院制度や申請・通報制度、移送制度等が、地域間で大きな格差なく適切に運用されていくことが必要であるが、都道府県等によって、その運用状況に大きな違いがみられている」(51ページ15行目から)との記述について、措置制度の現状は格差と呼べるものではなく、法を適正に運用するか否かの問題であり、「格差」の部分は修正すべきではないか、との意見がだされました。また、「運用されていくべき」との記述に修正を求める声も上がりました。加えて、移送制度に関しては、その箇所に「警察との連携」に関する記述を求める声も上がりましたが、反対意見も示されました。
加えて、精神保健福祉法に関する本検討会の議論をまとめた箇所の「未治療、治療中断等の重度精神障害者に対し医療的支援を提供する体制、通院を促す仕組みを検討すべき等の意見があったところである」(51ページ24行目から)との記述について、重度化しないための施策や地域生活を確保するための体制づくりに関しても含めた記述にしてほしい、との意見が出されました。
最後に、当事者の構成員から、常に適切な医療を受けられる環境のもと、説明を受ける権利、治療を受ける権利、治療を拒否する権利が保障されることが大切であり、それが実現されることを強く望んでいるとの発言がなされました。
次回(第24回)の検討会は9月17日(木)、航空会館(東京都港区)にて、開催される予定です。次回の検討会が本検討会の最終回となる予定です。
資料はインターネットに掲載次第リンクを貼る予定です。
傍聴記録:事務局 今井 悠子