<2009/07/10>
7月9日(木)10時より、ホテルはあといん乃木坂・健保会館(東京都港区)において、標記検討会が開催されました。事務局より資料として、「地域医療体制のあり方・入院医療体制のあり方について」が示され、前回の「入院医療における病床等の機能(総論)」の議論に引き続き、「入院医療における病床等の機能(各論)」として、主に「疾患別の入院病床等の機能について」「福祉サービスの確保について」「目標設定のあり方について」の三点について意見が出されました。
はじめに、事務局より「統合失調症」「認知症」「その他の疾患」について入院患者数の推移や退院可能性に関する調査結果、今後の検討事項等の資料が示され、説明がなされました。
構成員からは、はじめに、精神科医療における人員配置の特例措置を問題視する意見が多く出されました。現行の基準では現場の努力にも限界があることから、人員配置基準の改善が急務であり、精神科特例を廃止する時期を明確に示すべき、との指摘がなされました。また、コ・メディカルに関しても充実した配置を求めたい、との要望も出されました。
次に、認知症について、入院患者数が増加傾向にあることから、統合失調症の入院者減少により空いた病床に認知症の方の入院が進んでいくのではないか、ということを懸念する声が上がりました。特に、特別養護老人ホームをはじめとする介護保険施設や有料老人ホーム等と比較して、医療入院は経済的自己負担が安価であることが多く、そのことが一層入院を助長するのではないか、という意見が出されました。また、ご本人にとって適切な医療、介護を受けられる環境が重要であり、精神科に入院することが、適切な医療や介護につながっていない方も多いのではないか、という意見も上がりました。
加えて、認知症による精神科入院は、任意入院と医療保護入院等の区別が明確でない場合も多く、BPSDのない方については強制入院の対象にならないということを明確にしておかないと入院を助長しかねない、というと指摘もなされました。また、介護施設と医療機関の連携が不十分であり、医療が必要になって入院した場合、入所していた介護施設に戻れない等の理由で、退院する機会を逸するケースも多いのではないか、との指摘がなされました。
また、長野構成員より、医療機関において入院のあり方を見直した取り組みについて報告がなされました。その過程において見えてきた課題として、まず、介護保険施設等において、精神科入院歴のある方に対する偏見があるのではないか、ということが上げられました。偏見を取り除くために、精神科の医師や看護師が介護保険施設等に働きかけ緊密な連携を保ちつつ、介護保険施設等の対応の幅を広げていく取り組みや、精神科病院が率先してケアマネジメントを進めることで、精神科医療を地域医療の中心に位置づけること等が効果的であったこと等が報告されました。一方、緊急時においては精神科医療が最初に対応するケースが多いという現状があり、事前に課題を予測し、地域の中でサービスを受けられる体制を作ることで、入院を減らすことが可能ではないかとの見解が述べられました。
それらの実践を踏まえ、長野構成員からは、自身の活動圏域では、認知症者に対する精神科入院が必要な事例はあくまでも突発的な行動が現れる場合のみになってきているという成果が報告され、認知症による入院を生みださないための地域での仕組み作りが重要なのではないか、との意見が出されました。また、人材と資源の不足、精神科医療と介護保険施設等との連携不足等も指摘がなされ、財政的な裏付けも必要ではないか、との指摘もなされました。
まず、事務局から提示されている資料について、グループホームをはじめとする福祉サービスの数について、増加しているという調査結果が出されているが、障害者自立支援法施行前の数字については異なる数字の資料も見受けられており、この資料が正確な数字なのか、という質問が上がりました。事務局からは、障害者自立支援法施行前のデータはどうしても調査にばらつきが出てくることは否めない、との回答がなされました。
一方、別の構成員からは、障害者自立支援法施行後、グループホーム等を作りやすくなった実感がある、という声が上がりました。また、平成16年に出された「精神保健福祉施策の改革ビジョン(以下「改革ビジョン」)」における「受け入れ条件が整えば退院可能な者」という記述に関連して、社会資源が不足している中で退院を進めることの懸念が本検討会でも再三指摘されている点について、地域生活を送る精神障害者の数が増え、ニーズが見えてくれば資源は作ることができる、受け皿不足を根拠に退院に躊躇する姿勢はもうやめるべきではないか、との意見が出されました。また、地域の受け皿という点については、フォーマルなものばかりを考えるのではなく、インフォーマルな資源も含めて検討するべきではないか、という意見も出ました。
また、グループホーム等については、報酬単価等を考慮すると財政状況はかなり厳しいことが推察される状況にもかかわらず、増加している現状があり、障害者自立支援法が改正され、報酬単価の改善があれば、更に数は増えるのではないか、という見解も示されました。
一方、福祉サービスについては、数の増加に対する評価だけではなく、ニーズに対する供給が足りているかという点をしっかり把握するべきではないか、との意見や、地域格差の問題を考慮すべきではないか、ということを指摘する声が上がりました。
事務局より、「改革ビジョン」における目標値の達成および進捗状況や、目標値の設定方法の課題、医療計画における新しい基準病床算定式、今後の目標設定に関する考え方についての検討事項等が資料として示され、説明がなされました。
構成員からは、精神医療の今後の方向性についてしっかりした議論ができていない現状で、数値目標だけを掲げることの危険性について多くの意見が出され、必要に応じて今後の精神医療がどうあるべきかについて具体的に密度の濃い議論を行うべきだ、との指摘が複数の構成員から上がりました。また、障害者プラン策定の頃は数値目標の設定が政策や現場を大きく動かす機動力になったが、今は数値目標のみを立てるのではなく、具体的な目標を立て、実行に移していく時期ではないか、との指摘もなされました。
また、「改革ビジョン」にあるような数値目標は、掲げることで自然に達成されるものではなく、どのような施策を進めるのか、といったことが明確に示される必要があるのではないか、との意見が上がりました。病院経営の観点から考えると、減った後の病床や人員をどのように活用するかが見えないと病床削減は進められないのが現状であり、民間の努力だけに任せるのではなく、国が具体的な施策を通じて政策誘導をする必要もあるのではないか、という指摘がなされました。
そのうえで、「改革ビジョン」に示されていた「国民意識変革の達成目標」と「精神保健医療福祉体系の再編の達成目標」について、意見が出されました。
国民意識変革の達成目標については、一定の進捗が資料から読み取れるものの、統合失調症に対する理解等については、低い水準にとどまっている現状が示されました。
新聞社所属の構成員からは、バリアフリー宣言のようなものでは国民の意識に訴えるには不十分であり、当事者と接することが何より効果的である、との意見が出されました。そのためには、退院可能な方は退院し、地域生活の中で多くの市民と接することが大切であるとの指摘がなされました。また、障害者雇用に関しても、当事者との関わりが重要であり、一度障害者を雇用した事業主はその後の雇用に抵抗感が低くなるというデータが報告されました。
また、当事者の構成員からは、病院の空いたスペースを利用して、当事者が集うことのできる居場所を作り、入院している方と地域で生活をしている方が交流できるピアサポートの場にする、という選択肢もあるのではないか、ということが提案されました。
また、今現在、実際にボランティア等で活動をしている市民に対して評価をしていくところから始めていくことも大切なのではないか、との意見も出されました。
精神保健医療福祉体系の再編の達成目標に掲げられている「平均残存率」「退院率」についての推移が資料として示される一方、新規入院患者数が増加している現状や、データの推移に疾病構造の変化が大きく影響していること、転院や死亡による退院も「退院率」に含まれていること等、目標設定や評価のあり方の課題についても、事務局より資料に基づいた説明がなされました。
構成員からは、 達成目標に対する現状や課題を明確にしたことについて評価する声があがる一方、入退院の回転が早まっているだけなのにデータ上は退院率が上がる可能性等もあり、データからは、本来目指すべき「地域で長く定着して落ち着いた生活が送れること」が達成できているかどうかが読み取れないという課題が指摘されました。
また、「受け入れ条件が整えば退院可能な者7.6万人」の考え方が主観的なものであり、施策の根拠とするのは困難であるとする説明については、それをいかに客観的な指標にするか、その仕組み作りが必要なのではないか、という指摘がなされました。さらに、資料で示されているように、統合失調症、認知症ともに、環境さえ整えば退院が可能と考えられる方は更に多くいることが想定されることから、それらのデータに基づいた目標設定をし、その実現に向けて医療体制および特に居住系サービスの充実や整備体制を検討し進めていくべきではないか、との意見が出されました。
次に、資料に示されている医療計画における新しい基準病床算定式について、適正病床数を定めるという動きは評価するが、病床過剰地域への具体的な指導方法やペナルティを明確にしないと絵にかいたモチになるだけなのではないか、また、病床を減少させるための国の政策誘導も必要なのではないかとの指摘がなされました。また、別の構成員からは、経営の観点を除いたら、医療機関の立場の構成員はどのくらいの病床数が必要と考えているのかを率直に聞いてみたいという声が挙がりました。
最後に、当事者の構成員より、本日の検討会の議論を次回引き続き行うべきではないか、との意見と、自身では「改革ビジョン」にある数値以上に病床は減らせるのではないかと感じており、医療関係者は必要病床数をどれくらいの数と認識しているのか、ぜひ次回の検討会で見解を伺いたい、との要望が出されました。
また、複数の構成員より、国が責任をとって精神障害者に地域生活を保障するべきであり、権利を奪ってきたことについては、きちんと謝罪をすべきではないか、という指摘がなされ、そのうえで、今後目指すべきは、病床を適正数にとどめる努力とともに、充実した人材や体制の元に質の高い医療を目指すことではないか、という見解が複数の構成員から示されました。
次回(第21回)の検討会は7月30日(木)10時〜12時30分の日程で、航空会館(東京都港区)にて、開催される予定です。
傍聴記録:事務局 今井 悠子
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