<2009/05/22>
5月21日(木)10時より、厚生労働省 省議室(東京都千代田区)において、標記検討会が開催されました。事務局より資料として、「身体合併症への対応・総合病院精神科のあり方について」「認知症について」の2点が、また、佐藤構成員(有限責任中間法人 日本総合病院精神医学会)より参考資料として、「身体合併症医療と総合病院精神科」が示されました。今回、認知症についての検討がなされることから、厚生労働省老健局井内認知症・虐待防止対策推進室長同席のもと、議論が行われました。
まず、事務局より、資料に基づき説明がなされました。続いて、佐藤構成員より参考資料の内容について説明があり、その後、説明内容等について、主に「一般救急と精神科救急の連携」「精神病床における身体合併症に関する診療報酬等の課題」の2点について構成員より意見が出されました。
前提として、精神病床入院者の高齢化は大きな問題であり、身体合併症を有する精神科患者への対応は家族や患者本人の負担が大きく、急を要する課題であるという声が上がりました。例として、精神疾患症状の影響で必要な手術をあきらめざるをえないケースや、一般科治療のために入院する際に、精神症状に対応するため家族の負担が大きいケース等が示されました。また、資料における身体合併症に関する数字がどれだけ実情を示しているのか、疑問があるという声も上がりました。
最初に、精神科(救急)と一般(救急)の連携が十分とれていないという点については、体制や人材の問題が大きいのではないかという意見があがりました。一般科の看護師が精神科についての知識が不足していること等もあり、研修の充実等について、国にも支援をお願いしたいとの要望が看護関連団体より出されました。
一方、 医師不足、看護師不足の課題に加えて、双方の連携を阻む一番大きな要因は、一般科病床関係者側の精神障害者に対する偏見なのではないか、との指摘がなされました。生命の危険があり、一般救急の必要性が高い場合でも、精神疾患のある方ということを理由に、一般科側が受け入れを拒むケース等もあり、そのような点が改善されない限り、スムーズな連携は進まないのではないか、という医師側からの意見が出されました。
その点については、医師・看護師共、精神科での研修を経験すると偏見がなくなっていく場合が多く、そのような方向性に活路を見いだせるのではないか、との声が上がりました。また、医師不足、看護師不足も医療現場において深刻な問題だが早急な改善は望めない現状であり、まずは今ある人的資源をいかに活用していくかを検討したほうがよいのではないか、という意見が出されました。
当事者の構成員からも、同意の声が上がりました。救急医療の現場では、精神疾患のある患者を受け入れる一般救急病院が少なく、医師の偏見も含め、全ての専門職の教育段階で、正確な理解を深めるような仕組みを取り入れていくべきだ、との意見が出されました。
また、いわゆる「総合病院」において救命救急病棟と精神科病棟があることで、一般科救急や一般科病床と精神病床との間をつなぐ役割も持て、圏域において基幹型の医療機能を持ちうることになるので、そうした整備が重要だが、現状では、総合病院における精神病床が減少傾向にある点については、連携という観点からも大きな問題であり、再構築が急務である、との声が上がりました。一方、いわゆる「総合病院」において精神科の診療報酬設定により他科と比較して収益が一番低い中、新たに精神病床を設けた事例から、需要は高いことが明らかだという紹介もありました。精神科医師の不足については、診療所と精神科病院とが連携をとり医師が柔軟に治療を進めていけるような仕組み作りが大切なのではないか、との指摘がなされました。
最後に、医療法施行規則第10条第3号の規定(「精神病患者又は感染症患者をそれぞれ精神病室又は感染症病室でない病室に入院させないこと。」)については、双方の連携を阻む一つの大きな要因であり、見直しや削除の方向性も含めて、検討会としてきちんと見解を出すべきなのではないか、との意見が出されました。
まず、精神病床の入院者に関して、身体合併症について「日常的な管理を要する」割合が4割程度いることが資料から読み取れる点について、入院治療が必要な状況に至らないような予防的観点からのケアができる体制を整えるべきなのではないか、という意見が上がりました。
また、入院者の高齢化が進む現状において、看護師配置基準が低い病棟での入院等では、必要なケアが受けられない可能性もあり、機能低下が進んでしまう人の増加が懸念されるとの指摘がなされました。そのような問題を防ぐためにも、人員配置等について、一般病床と同等の基準適用を求める声が出されました。
加えて、合併症診療に対する報酬が包括扱いとなっている病棟に関しては、身体合併症への対応が十分できない状況であることから、診療報酬のあり方の再考を求める声が上がりました。また、身体合併症管理加算が7日までとされていることやリハビリテーションの診療報酬や認可基準について、現状になじまない点が多いことが指摘され、見直しが要望されました。
当事者の構成員からは、最終的には地域で安心して暮らしていける社会を作るということが目的なのであり、そのために必要な医療とそれに見合った報酬を出せるような仕組み作りについて、厚生労働省には一貫した施策を進めていってほしいという意見が述べられました。特に、必要な施策を正確に見極め、失敗の歴史を繰り返さないように注意してほしいという指摘がなされました。
事務局より資料に基づいて説明がなされ、「精神医療における認知症患者の考え方について」および「精神医療と介護保険との連携について」の2点について主に意見が出されました。
一点目に、精神医療において、認知症患者をどのように捉えるか、という点について多くの意見が出されました。
まず、資料「症状性を含む器質性精神障害(主に認知症)による精神病床入院患者の退院可能性と要因」において、退院の可能性がないとされる場合の理由の多くに「セルフケア能力の問題」が上げられていることについては、介護サービスの関係者には違和感を覚えるところであり、他に行き場がないという理由で、精神保健福祉法の対象となる精神病床に入院している方が多い現状が読み取れることから、何らかの見直しが必要なのではないか、という声が上がりました。
一つの案として、BPSD(認知症の行動・心理症状)のない患者については精神保健福祉法上の入院を認めないという明確な記述をする等、精神医療が認知症医療において担う部分の明確化を求める声が上がりました。
加えて、認知症による精神病床入院者にも他の精神疾患による入院者と同じ問題が存在しているのではないか、との声が上がりました。BPSDについては、環境整備が有効な可能性もあるにもかかわらず、現場の人材不足から集団処遇にならざるをえず、入院していることで状態の悪化を招く等、十分なケアができていないのではないか、との指摘がなされました。また、安易に入院させないこと、長期慢性化させないことが大切であり、そのための仕組みづくりが必要だ、との意見が出されました。
まず、高齢化に伴う認知症患者の増加が予測される現状において、 医療療養病床や介護療養病床を削減するという厚生労働省の方向性について、疑問の声が複数上がりました。特に、高齢者のみの世帯や単身高齢者が今後さらに増加していくことが見込まれる中、その方々の医療介護体制をどのように整えていくかは大きな課題である、との指摘がなされました。
また、認知症患者の病院への残存率の高さは要介護者の行き場のなさのあらわれである、との指摘がなされました。そのうえで、構成員から介護保険施設の質と量の確保の重要性について複数の意見が出され、特に、現場の人手不足に起因し、個別性を尊重するケアを行うことができない現状については、疑問の声が上がりました。
介護サービスでは認知症のある人にとってグループホームやユニット型を導入し、個を尊重したケアが有効であるとされている一方で、精神科病院における集団的ケアを前提とした認知症病棟の構造そのものがBPSDを生み出すこととなっているとの指摘もありました。
そのうえで、今後高齢化が進むに伴い、医療・介護において重要と供給のバランスが崩れていくと推測される点について、厚生労働省の見解を求める声が上がりました。
まず、事務局からは、大きな課題は終末期であるという点、また、認知症の対応のあり方については、BPSDは精神医療、それ以外の部分においては介護保険制度が対応するのが理想的である、という見解が示されました。
また、老健局井内室長より、介護保険サービスについて、需給のバランスのとれた体制を目指していくことが大切なのは間違いないが、地域ニーズや地方財政の状況を元に検討していくべきであり、調査を進めている、との回答がなされました。
以上の議論を踏まえ、認知症疾患医療センターの充実、認知症対応型の地域包括支援センターの設置、 認知症患者を受け入れることを前提にしたうえでの精神病床人員配置基準、施設基準、リハビリテーション基準等の再検討を求める声が上がりました。また、認知症患者の居場所については、家族のありようや経済状況が大きく影響してくることが推測されるため、その点についての資料提示もお願いしたい、との要望が上がりました。
また、社会援護局と老健局との連携について、認知症に係る精神医療等のあり方の検討は急務であり、両局合同でプロジェクトを立ち上げる等、より一層の協力体制のもと、施策を進めてほしいとの要望が出されました。
最後に、 診断名中心の議論や、縦割りの現状を踏まえた議論では、地域の中で自分らしく生きるための仕組み作りにつながらないのではないか、という指摘がなされました。在宅医療、在宅福祉、在宅サービスは、全ての人が必要とする可能性のある支援であり、ACT―Jのモデル試行等を参考に、包括的な考え方にもっと重きを置いて議論をしてもよいのではないか、との意見が出されました。
また、当事者の構成員からは、施設や制度を整備する前に、厳しい財政状況の中でいかに人間らしく生きていける環境を整えるかを国民全体で考えていかなければならないのではないか、との指摘がなされました。国民それぞれが、地域住民としてどのような役割を果たせるのかを考え、行動に移していけるように、国としても対策をお願いしたいとの指摘がなされました。
次回の検討会は6月4日(木)15時〜17時30分の日程で、本日と同じく厚生労働省 省議室(東京都千代田区)にて開催される予定です。
傍聴記録:事務局 今井悠子
※配布資料(WAMNET090525へリンク)