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<2008/08/25>

「第8回今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」報告

 8月21日(木)15時より、航空会館7階大ホール(東京都港区)において、標記検討会が開催されました。

 本日の検討会では、有識者からのヒアリングということで、4名の方よりプレゼンテーションがなされました。主に、「早期発見、早期治療の必要性」「若年層および教育機関への精神保健啓発の必要性」「地域中心の生活を実現するためのケアマネジメント体制の必要性」の3点を中心に報告されました。

<発表者>
佐藤 光源氏(東北福祉大学大学院教授)
岡崎 祐士氏(東京都立松沢病院院長)
西田 淳志氏(財団法人東京都医学研究機構 東京都精神医学総合研究所)
伊藤 順一郎氏(国立精神・神経センター精神保健研究所 社会復帰相談部部長)

1)「今後の精神保健医療福祉のあり方について」:佐藤 光源氏
 佐藤氏からは、まず、「精神保健医療の改革ビジョン」に関して、前期の評価と現状が述べられ、今後の精神保健医療福祉を考える大前提として、疾患と障害が融合しており、医療と福祉の両方が必要という精神障害の特性を再確認し、それらを踏まえて施策の立案や見直しを行うことの重要性が示されました。そのうえで、再入院予防、難治例の医療の見直し、という視点からの施策が求められるとの指摘がなされました。2点目として、早期介入がその後の経過に有効であることのデータが示され、早期介入、未治療期間の短縮の必要性が挙げられました。3点目として、正しい知識・態度の普及啓発の重要性が指摘され、具体的には学校教育内の精神保健啓発、当事者参加を前提とした学校精神保健システムの構築、スクールソーシャルワーカーの養成等の必要性が挙げられました。また最後に、病床削減については前提条件を明確に規定する必要性があるのではないか、という指摘や、認知症患者の精神病床への入院の現状に関しても、検討をお願いしたい、との要望が出されました。
質疑応答においては、精神障害者を取り巻く社会環境には変化が見られており、普及啓発を行うと同時に、精神保健医療福祉に携わる従事者の意識の自己点検も必要ではないか、という意見が構成員より出されました。また、教育機関で普及啓発を行うことのリスクを指摘する意見に対しては、まずは必要な情報を教育機関に提供できる体制づくりが大切である、との回答がありました。

2)「今後の精神保健医療福祉における精神保健普及啓発および早期介入の意義」:西田 淳志氏
 西田氏からは、若年層の精神疾患によっていかに経済損失が生じるかという観点から資料が示されました。経済的観点に基づき、豪国、英国では精神障害予防施策に力を入れていることが資料を基に報告され、サービスコストだけに目を向けるのではなく、労働収益の損失も考慮にいれたトータルコストを基準に考え、長期的に持続可能な施策を考える必要性があるということが指摘されました。日本においても、労働収益の損失は大きく、経済的観点からも、早期発見、早期治療、早期介入の有効性が示されました。また、早期発見、早期治療、早期介入を実現させるためには、精神保健啓発が重要である、とのデータが資料として示され、若年層をターゲットにした各国での啓発施策が報告されました。現在、日本においては子どもの精神的不調に気づいた際の最初の相談先の多くが教育機関であることから、教育機関が精神保健啓発において大きな役割を果たしているというデータが示され、三重県や長崎県で行われている教育機関と連携したプロジェクトが報告されました。

3)「英国の精神保健改革のエッセンス」「わが国における精神保健医療改革への示唆」:岡崎 祐士氏
 岡崎氏からは、西田氏の話を踏まえて、英国の精神保健システム等の資料を元に、早期介入、予防の必要性、それらを実現するための精神保健啓発の重要性が述べられました。特に、現在の課題として、精神保健と精神科医療の連携不足や統合失調症の未受診期間の長さが挙げられ、早期治療体制の整備、学校精神保健システムの確立の必要性が指摘されました。
 西田氏、岡崎氏からの報告に対し、構成員より当事者の参加を前提としたプロジェクトの実施を求める意見が出されました。また、教育機関における普及啓発に関しては、小中学校が市区管轄であるのに対し、高校が都道府県管轄であることから、連携の難しさがあるのでは、との指摘がなされ、文部科学省の見解を求める必要があるということ、またプロジェクトの実現にあたっては、法的な財源確保の必要性が指摘されました。

4)「ACT(包括的地域生活支援プログラム)のわが国における有用性について」:伊藤 順一郎氏
 伊藤氏からは、まず、疾病的側面と障害的側面を同時に持っているという精神障害の特性から、福祉サービスと医療サービスの結合の重要性が示され、「入院医療中心から地域生活支援中心へ」というビジョンを実現するためには「地域の受け皿には『(生活の場での)医療的支援』が含まれていなければならない」との見解が示されました。また、「地域中心」のリスクとして、家族の負担の増大、孤立した人々の増大が挙げられ、「地域中心」を実現するためには、多様なニーズに応える仕組みが地域に必要であり、利用者の生活圏へのアウトリーチや、ケアマネジメント、多職種のチーム・連携関係が不可欠である、との指摘がされました。その中で、特に医療ニーズの高い人々へのアウトリーチ機能を果たすものとして、ACTの概要や実践についての報告がなされました。現状の相談支援事業については、指定相談支援事業所が他サービスとの兼務の場合が多く、また市町村からの相談の流れの中で、適切なアセスメントやケアマネジメント、相談を行える体制になっていないとの指摘があり、専従の相談支援員等を配置し、サービス利用計画書作成のみに捉われず相談を受けられる地域ケアマネジメント体制の構築が必要であるとの意見が述べられました。また、今後「地域中心」を実現し、新たな社会的入院を作りださないためには、入院直後から退院後のことを考える急性期病棟ケアマネジメント体制、デイケアにおけるケアマネジメント体制を構築し、ACT、地域ケアマネジメント・チーム、医療ケアマネジメント・チームが協力、連携することの必要性が示されました。中でもACTチームにおいては、リソースコーディネーションに長けた精神保健福祉士を配置する必要性を強調されました。

 次回の検討会では第6回、第7回検討会での論点整理に関する議論について、内容のまとめが報告されることになっています。第9回検討会は9月3日(水)に予定されています。

傍聴記録:事務局 今井悠子

※「第8回今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」の資料はWAM‐NET等に公開され次第、リンクを貼る予定です。


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