<2008/08/19>
主催者挨拶 (光木副会長) |
講演する山口氏 | シンポジウムの登壇者 | 会場の様子 |
2008年8月9日(土)、午後2時より新宿区の司法書士会館地下ホールにて、自死総合対策シンポジウム「自殺予防と自死遺族支援〜いのちの現場で考える」が開催されました。日本司法書士会連合会が主催し、内閣府や本協会等が後援しています。
会場はほぼ満席で、テーマへの関心の高さがうかがわれました。
「自殺予防と自死遺族支援には、社会的な取り組みが必要であり、心理的観点からだけでなく、多重債務等の社会的要因への視点も重要である。今回のシンポジウムが、これまでも自死問題に取り組んできた各団体とのつながりを強くし、命を支えるネットワークを構築する最初の一歩としたい」との主催者挨拶(光木隆志副会長)で開会しました。
基調講演「わからない。でも、わかりたい。」
【講師】山口和浩氏(NPO法人自死遺族支援ネットワークRe代表)
山口氏は14年前にご自身も父親を自殺で亡くされた経験から、現在はNPO法人を立ち上げ自死遺族支援の活動をされています。自死遺族が抱える苦しみやつらさ、周りはどう支援ができるのかといった話を、全国の自殺実態白書(2008)のデータ等をまじえてお話しくださり、誰もが、自死遺族の支援をする側か、それとも傷つける側か。そのどちらにもなり得るということを知ってほしいと言われました。
自死遺族のキーワードとして、まず「実は……」を挙げられ、自死遺族と話をすると、多くの方が枕詞のように「実は」と言う。それは世間の自殺のタブー視がある中で、身近なところでは語ることの許されない自殺という真実を、やっとの思いで「本当はこうなんだ」と言うかのように話し始めるといいます。そしてもう1つは「まさか……」で、自分が自死遺族となるまで、やはり多くの方が自殺は自分とは遠いところ、関係のない問題として意識されていたと言います。
また、それを語るまでに自死遺族は怒り、悲しみ、否認、自責の念、自分も死んでしまいたいという思い、安堵する自分がいたことへの罪悪感など、本当にさまざまな想いを一人で抱え込みながらも、特に子どもであった場合は、周囲からは「大人になれ」ということを強要されがちである現実をご指摘されました。そんな中、やっとのことで体験を分かち合える場に来て初めて「実は……」と話せることなのだと話されました。
多重債務等の問題がからんでいた場合、まずは遺族が安定した生活を送る為の援助も、周囲がサポートできることの1つです。心の問題(つらい、苦しい)と、現実の問題(借金、生活)は切り離して整理するのが大切だということです。
いま、私たちにも自死遺族の「実は」「まさか」に周囲の人々がどれだけ寄り添うことができるか、いかに一人ひとりのレベルで考えられるかが問われているのだと、お話くださいました。
パネルディスカッション〜「いのち」をどう支えるのか
【パネリスト】加藤久喜氏、大塚俊弘氏、堺 俊明氏、大塚淳子氏、杉本脩子氏、柳澤光美氏
【コーディネーター】齋藤幸光氏
このパネルディスカッションは、「ゲートキーパー」「連携」の2つのキーワードで進めたいとコーディネーターの齋藤氏より最初にお話がありました。「ゲートキーパー」とは、医療・福祉、教育、経済・労働、地域など様々な分野において、周囲の人の顔色や態度から自殺のサインに気づき、見守りを行ったり、専門相談機関などへつないだりする人材のことをいい、ここでは、各方面からどのような取り組みを行っているかや現場でのお話等がそれぞれのお立場から出されました。(以下、発言順)
内閣府自殺対策担当参事官 加藤久喜氏:
我が国では自殺者が10年連続年間3万人を超えている。それは、1日で換算すると80人が自殺で亡くなっているということ。社会で取り組んでいくべき問題である。自殺は、追い込まれた末の行動であり、失業・倒産・多重債務など、社会的な問題。また、自殺者の4分の3は精神疾患があり、そのうち半数はうつ病であるという。そこから、治療や予防が大切であるといえる。政府での取り組みとして、9つの分野で重点施策をおく。自殺の実態解明、予防、一人ひとりの気付きの促し、ゲートキーパーの養成や、自死遺族の支援などから、今より2割以上自殺を減らしたい。
長崎県長崎こども・女性・障害者支援センター所長 大塚俊弘氏:
自殺に対する専門の相談窓口が作られたとしても、個人の抱える問題は多種多様であり、多くの場合が一人で複数の問題を抱えている以上、その窓口へはごく一部の人しか訪れないだろう、特に精神科医療の窓口にはたどりつかない人の方が多いだろう、という指摘が当事者である自死遺族からあった。そこから、決まった一か所を作るというより、ハイリスク者やその周囲の人々が、必要と感じた時にタイムリーに情報を得られるような体制をとることが大切で、特化した専門家より、少しの知識のある人たちを地域社会のいたるところに網の目のように張り巡らすことが有効ではないかと考え、モデル的に「自殺総合対策 相談対応の手引き集」を作成し、取り組もうとしている。手引きの使用のインストラクターも養成し、各種機関や地域に派遣し、各相談機関の対応技能の向上と関係機関同士の連携の強化を目指す。
日本司法書士会連合会理事 堺 俊明氏:
司法書士として債務整理の観点からこの問題を見ると、実際、借金の取り立て等で精神的に疲れ、落ち込んでいる上に周囲の家族よりいろいろ問い詰められてしまったりして、心の傷を負っている人が多い。その傷は債務自体がなくなっても癒えていないため、その後に亡くなってしまう方もいる。そうしたことから、法的な手続きだけに関わるのではなく、自殺の危険を察知し、他の専門機関等へつなぐことが必要。債務問題が自殺の原因となることは多く、初期対応のゲートキーパーとして対応できるよう、司法書士全体に知識を増やしていきたい。
日本精神保健福祉士協会常務理事 大塚淳子氏:
精神保健福祉士は地域における連携のキーパーソンとして動ける人材である。かねてより精神科病院等で当事者のサポートをしていた精神保健福祉士からすると、自殺という危険性がいつも身近であったり、また、自殺を企図して初めて福祉や医療につながったという方も多く、精神障害者の支援における死のリスクは認識しつつも、“自殺対策”という捉え方でのアプローチはまだ弱いかもしれない。人間にはライフサイクルにおける危機がいくつもあり、そこここに介入の機会がある。ソーシャルワーカーとしてネットワークづくりが大切なことであり、もっと柔軟で、フォーマルなものだけでなくインフォーマルなものも包含したネットワークを広げるには、引き出しの多さが重要。本当の隠されたストーリーがわかるまでには時間がかかる。最初の出会いにおける対応のまずさがその後の支援を遠ざけないように、我々の支援力も高めないといけない。地道な「出会い」の積み重ねでご本人や周囲の「実は……」を引き出していければ、と考える。
全国自死遺族総合支援センター代表幹事 杉本脩子氏:
自死遺族の方々とお会いしていると、彼らの衝撃や慟哭、無力感、自責感等は想像を絶するもので、「人が耐えることのできる限界を超えているのでは?」と思うこともしばしば。「想いを話すこと」が内からも外からもブレーキがかかってしまう自死遺族は、ネガティブな感情を少しでも外に出していけることが大切。かれらにとっては本当は亡くなった方が戻ってくることが一番の解決法であるが、それは不可能なので、気持ちに耳を傾け、寄り添っていくことしかできない。ただ、その話を聴く側の人間も苦しく、それに耐えられず適当な返事をしてしまうことなどがあり、そのような聴く側・職員自身の問題に気付いていかなくてはいけない。
自殺対策を考える議員有志の会・参議院議員 柳澤光美氏:
政治としても自殺対策には力を入れている。自殺対策白書は内容の充実はあるが、具体的な対応についてが弱い。法案を作ることが目的になり、できると後のフォローがしっかりできていないことが多く、机上論の対策だけになりがち。目的は自殺者をどう減らしていくことができるかで、総論ではなく各論レベルで考えていかなくてはいけない。行政でやれることは大きいようでいて、実行の段階では民間の人たちに頼るしかない。連携を充実させてやっていきたい。自殺対策基本法ができ、大綱もできたので、今後は各法をつくる動きにつなげたい。
(文責:植木晴代/事務局)