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<2008/07/25>

国際セミナー「カナダの精神医療保健福祉政策とソーシャルワーカー」報告−2008年7月21日(月)、日本女子大学(東京都文京区)にて−

挨拶する竹中会長(前)と
司会の木村国際委員長(後)
講演に聞き入る参加者 スティーブ・ルリー氏(右)と
逐次通訳する片岡国際委員(左)
質疑応答

 去る、7月21日(月)、日本女子大学(目白キャンパス)において、国際セミナーが催されました。参加されなかった構成員の皆様に、当日の様子などを簡単に報告いたします。

 当日は、真夏日の暑い日にもかかわらず、セミナー開始時間前には予定していた参加者全員が集うといった、定員が60人と少ないにもかかわらず、講演に対する期待感を伺わせるものでした。

 講演は、竹中会長のあいさつ後、予定どおり13時30分にスタートしました。

 講師は、既に皆様にお伝えしていますように、カナダ精神保健協会のトロント支部の管理・運営責任者である所長のスティーブ・ルリー(Steve Lurie) 氏です。講演テーマは、直前の変更で『カナダの精神保健政策とサービス〜聞きたかったけど聞けずにいたこと〜』となっておりました。

 ちなみに、この度のセミナー開催は、他団体の招きによって来日するルリー氏に、氏と親交をもつ国際委員会のメンバーが精神保健福祉士と情報交換や交流を持ちたいと伝えたところ、氏が強い興味と関心を示し実現したものです。

 当日の講演は、カナダの事情に疎い私たちのことを気遣ってくれてのことか、講演を3つに区切って話をしてくださいました。第1部は、カナダの精神保健の現状と精神保健政策について、第2部はオンタリオ州の地域精神保健の具体的取り組みについて、第3部に今後の課題と展望についてといったものです。

 第1部では、連邦制をとっているカナダでは、保健医療は州の管轄で、サービスの提供と財源の大半は州が責任を持つとのことでした。ルリー氏が活動するオンタリオ州は、半世紀近い期間をかけてゆっくりと地域精神保健サービスが変わっていった歴史がある。現在は過去11,000もあったベッドが4,000にまで減ったとか、精神科病院への平均入院期間が、10日から12日程度になったとのことです。その背景には様々な取り組みがありますが、特徴的なこととしては約20年前精神保健の予算が4,200万ドル(約42億円)であったものが現在では6億1,300万ドル(約613億)にまで増加しているとか、2006年5月から10年間かけて57,000のサポート付き住宅を設置する等の取り組みがあるとのことでした。オンタリオ州の最近の動向としては2億2,000万ドル(約220億円)の予算を持って、危機対応、ACT、ケースマネジメント、早期精神病介入、司法精神保健サービスに取り組んでいるとのことでした。次に、政府関係者、および各地の家族とコンシューマーのリーダーで構成される「精神保健委員会」の紹介がありました。この委員会は心の病のある人々の生活の向上を促進することや、反スティグマ・キャンペーンの実施、2011年までにカナダ精神保健戦略を作り上げるといった積極的な活動展開をしているとのことでした。

 続いて第2部では、オンタリオ州のケースマネジメントとACTチームの紹介がありました。ケースマネジメントに関しては、2006-2007年の2年間で39,217人がサービスを受け、訪問は659,992回あった。予算は年間7,700万ドル(約77億円)、平均コストは1,705ドル(約17万円/月)とのことです。ここ最近の研究では、ケアが十分に集中的でないといった結果が出ているとのことです。ACTチームについては、精神科医、看護師、ソーシャルワーカー、ピアサポート・ワーカーからなる他職種チームを組み、24時間、週7日のサービスを展開しているとことでした。CMTサービスの利用状況は、2006-2007年の2年間で6,011人がサービスを受け、訪問は352,747回基あった。州のACTへの支出は5,200万ドル(約52億円)とのことです。ちなみに、10人のコンシューマーに対してスタッフ1人の比率で対応しているとのことです。ACTを導入したことで、また、ACT導入の効果として、精神科病院への平均入院日数が、ACT開始以前は約67日だったものが、ACT導入後1年で24日までに減少したとのことでした。ルリー氏は、入院期間短縮によるコストの節減や他に就労の定着率などをあげながらACTの有効性について述べ、フロアーに向かってACTの効果性を実証するデータを持ってわが国の精神保健政策に訴えることを勧められました。

 また、他に単身者向けのサポート向け住宅やピアサポートの紹介、今後州において制度化しようとしているセーフ・ベッドの紹介などがありました。

 第3部のオンタリオ州の今後の課題では、ピアサポートの拡大を目指しリカバリー重視のシステムの構築、地域支援とプライマリ・ケアの統合化、早期精神病、二重診断、触法の人々にといったことについて語られました。

 オンタリオ州の今後の方向性については、州をあげて入院治療を減らし地域ケアを増やすことに取り組もうとしていることや精神保健委員会が国レベルの精神保健戦略を発展させるべく発足したこと、また2008年4月1日に発足したLHINS(ローカル保健統合ネットワーク)が地域単位で行われている保健財政にとって代わり事業を展開していこうとしているといったことが語られました。

 以上、ルリー氏の講演概要ですが、わが国でもなじみの深いCMTやACTについて、最近のデータによる分かりやすい資料を用いて具体的な話だったため、国外の報告も身近に感じながら聞けました。また、ルリー氏は、わが国の精神保健事情に詳しく、話の都度、地域支援のためにもっと政策提言を行ってはどうかとフロアーに勧められたのが印象的でした。

【参考】
カナダ精神保健協会カナダ精神保健協会トロント支部)
 カナダ精神保健協会は、イギリスのマインド(精神保健協会のこと)、アメリカの精神保健協会(例えばヴィレッジは、このカリフォルニア支部が運営)と同様、脱施設化に貢献し、地域精神保健政策や当事者主導のサービス、回復等の考え方を強く支持する圧力団体としても機能しています。
オンタリオ州トロント
 トロント(Toronto)はカナダ最大の都市で、オンタリオ州の州都。

(文責:富島喜揮/国際委員)


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