<2006/10/23>
【写真/30人近い参加のあった学習会】
今年度、成年後見制度の法定後見人研修事業に関するプロジェクトが始動し、他団体の現状を学びながら、後見人としての受任システム、研修のあり方、受任後のフォーローアップ体制などの課題を確認してきました。8月には大塚常務理事、金川プロジェクト委員、岩崎(権利擁護委員会委員長)で東京家庭裁判所を訪問し、後見センターの裁判官、書記官と意見交換を行ないました。その中で、精神障害者に対する成年後見人等として、精神保健福祉士へのニーズを再確認しました。成年後見人養成に関する協力は惜しまないという姿勢を示していただいたことから、常任理事会、権利擁護委員会、機関紙編集委員会に声をかけ、10月22日(日)に拡大プロジェクト委員会の開催に至ったわけです。竹中会長、荒田副会長以下約30名が参加し、東京家庭裁判所後見センター主任書記官の小木知一さんに「成年後見に関する現状とPSWに期待すること」というテーマでお話いただきました。
小木書記官は、禁治産・準禁治産制度が「禁止」を強調したイメージであったのに対して、新しい成年後見制度は「あくまでも不足を補う」ことが主眼であり、ご本人にできない財産を中心とする判断を援助するということであるといった枠組みの確認から丁寧にお話をしてくれました。裁定がおりかたらといって、全ての人に同様の援助が必要ということではなく、判断能力の差異によって、後見、保佐、補助という3類型が設けられています。申し立ての約8割を占める「後見」は財産上のご本人の権利を後見人が代行しますが、保佐、補助の場合は、ご本人が保佐人、補助人に依頼する事柄について援助する点で異なります。また、判断能力の低下前に、今後のことを任意後見人に託す任意後見制度が新たに設けられたことについてもわかりやすく話していただきました。今後、高齢化等による申し立ての増加、サービス利用に関して、これまで以上に契約能力が問われることからも、精神保健福祉士の後見人としての活躍に期待をよせてくださっていることが伝わるお話でした。
後見制度の利用の契機としては、1)金融機関での本人の意思確認ができないため、後見を勧められた、2)遺産分割などによる必要性、3)地域でひとり暮らしをしている方の金銭管理・身上配慮の問題など、具体的な例を用いて話していただきました。また、本人はできると思っていても、周囲から見るとできない場合に、「後見」は強い権限(義務もありますが)が発揮しますが、保佐、補助についてはご本人への対応が必要であり、特に地域で生活する、あるいは今後、退院、退所する精神障害者の身上監護の難しさゆえに精神保健福祉士への期待が高いことも話されていました。金銭管理と身上監護を担当する後見人をそれぞれ、弁護士と社会福祉士というように複数で配置したり(複数後見)、不動産処分などが終わるまでの期間限定で弁護士をつけたり、法人による後見など、「そのひとにふさわしい人」を選ぶことができる点でも、新しい制度は柔軟性があることを強調されていました。インターネットの活用や、関係団体へのノウハウの提供を積極的に行っており、家庭裁判所の姿勢も随分変化してきているとのことです。
質疑応答では、1)手術における後見人の同意の問題、2)監督人の選任の現状、3)後見、保佐、補助を取り消す方法、4)後見に関する本人申し立ての可否、5)法人後見のメリット・デメリットなどについて質問が相次ぎ、有意義な学習会となりました。特に法人後見のメリットというところでは、職業を持ちながら成年後見人を行う場合や、若い方の先行き長い支援を考えた場合にメリットがあるといったご示唆をいただきました。
質疑応答後、参加者が一通り、感想を話すとすでに予定時刻でした。
感想では、社会的な貢献、社会正義という点でも後見人養成を推進することの重要性、実際に後見人となっているので早く支援体制を確立して欲しいといった意見、他職種からの期待が大きいことなど積極的に取り組むことに賛同する意見がでました。一方、クライエントの「代行」を行うことへの抵抗も語られました。日常、長期入院者に対して「本人のニーズ」から出発した支援ができているのかといった自分たちの現状への疑問、後見人への不満はあるが、それを自分たちがやるという立場になった時に果たして専門職としてどこまでできるのかといった不安なども率直な意見として出されました。また、後見人を引き受けることへの職場の理解や発生する報酬の問題、研修の質、事故の起こる可能性など、たくさんの課題が提示され、有意義な意見交換の場となりました。出されたそれらの課題に取り組むことは、「代理行為」や「自己決定」をどう捉えるのかという私たち精神保健福祉士の実践における根本的な問いに取り組むことでもあることに気づかされた学習会でもありました。
そして、こうした場が設定できたことがひとつの前進であり、地域格差もある中で、全国横並びにとはなかなかいきませんが、協会内でのコンセンサスを得ていければと感じました。
プロジェクトへの要望や意見がありましたら、ぜひ、お寄せいただければと思います。
社団法人日本精神保健福祉士協会
企画部 権利擁護委員会
委員長 岩 崎 香