2010年12月13日(月)、14日(火)、和歌山ビッグ愛(和歌山県和歌山市)にて、「第2回生活保護と精神障害者支援」を開催しました。ここでは、修了者の中から精神保健福祉士、行政機関職員の立場で、お二人からの報告記事を掲載します。
永井講師による講義2 | 講義中の会場の様子 | 演習 | 修了証書の授与 |
新宮保健所(和歌山県)/経験年数13年 木村正雄
私が業務に携わっている間、社会保障をめぐって様々な光景に遭遇しました。以下に私のつぶやき(●部分)と、そう感じた時の出来事(・部分)を並べてみました。
●残念
・精神科を受診するのが、あと数ヶ月早ければ障害基礎年金の対象となったであろう人を見た時。
・生活保護の申請を勧めても「困ってません」と断られた時。
●報われない・・・
・障害基礎年金で暮らしている人が、週2回パートに行っても、生活保護受給者の収入の方が高かった時。
・生活保護受給者が保護費を切り詰めて貯めたお金が発覚し、保護停止となった時。
●努力しない方が報われてる?
・国民年金の掛け金を支払わない人(払えない人は除いて)が生活保護をスムーズに受給していく場面を見た時。
●生活費>薬物療法
・生活費が入ると落ち着く人を見た時。
・バブル崩壊と同時に自殺者が増えた時。
そういった、現場で思わずつぶやきたくなる経験があり、改めて社会保障というものを考えるべく、研修を受講しました。
全体を通して感じたのは、やはり世の中の仕組みに矛盾があるということです。白梅学園大学の長谷川教授がズバリ『生活保護制度が保障する「最低生活費」が障害基礎年金よりも高額であるという矛盾』を指摘されていました。
そして、生活保護に「受理」という概念が無く、申請をもって保護が開始されるという点、申請時点で必要なのは「申請の意思」だけなのも驚きました。その一方で、申請が乱発されたことを想定している研修受講者(生活保護担当者)の「負担感」オーラのようなものも漂っていたように思います。財政難で全職員は減る中、ケースは増えていくという現実は、精神保健福祉担当者も肌で感じているところです。
忙しい、財政難だから人権を軽視して良いか?それもNOだと思います。堺市の職員も『「長い間精神科病院に入っていて得るもんはなかった」この言葉を私たちは噛みしめないといけない。』と述べられていました。人生の大切な時期(20〜50代)を病院で過ごし続けてきた人たちが目の前にいます。もし自分が同じ立場なら、ずっと入院していたいか?を考えた時、忙しくても、その重みに応えていかなければならないと改めて思いました。
それら社会保障や、人権に絡む問題の解決を図るためには、年金額を大幅に上げ、職員を大幅に増やす事なんだと思います。ただ、少子高齢社会では、年金の掛け金を増やしても追いつきませんし、増税を考えざるを得ない問題です。これは政治的には不人気でしょう。ただ、課題が見えていて、それが見過ごせないなら、現場からアクションを起こさないと変わらないと思いました。
最後に、「何故このタイトル?」と首をひねられた方も多かったと思います。私もその1人でした。これは、懇親会の予約者名「ゲゲゲの地域移行ご一行様」からとったのでした。こんな遊び心を忘れないように、2011年6月、精神保健福祉士全国大会を開催します。この研修のように、現場での実践を振り返り、新たな力を生み出す機会になれば幸いです。和歌山でお待ちしています。
和歌山市福祉事務所 生活支援課/経験年数6年 武嶋 直登
今回の研修を申し込む際に重視したのが14日に行われる「グループワーク」でした。なぜかというと、私は、今まで色々な場所や検討事例でグループワークを体験し、様々な人と対話し多面的な意見を聞くことにより、自分一人では思いつかないような考え方や意見を聞くという経験を積むことができました。また、今回のグループワークでは、行政側と医療機関側に分かれており、普段聞くことができない病院側の意見を聞くことのできる良い機会となりました。今回のグループワークの中では、今後の展望や支援の方法等を話し合うポイントがあり、生活保護業務においては、この世帯をどうやって経済的に自立させるかや、入院をさせたことにより状況は落ち着いておりあまり支援をしない現実がありますが、病院側としては、今後のこの世帯に対しての支援、つまり社会的自立や日常生活自立していくためにはどうしたらよいかを考える点等、立場が違えば支援する考え方が違うということに気付かされたグループワークでした。
今回の研修で感じたこととしては、精神保健福祉士に対する研修であったためか、生活保護の内容が中心であり、精神保健福祉法等に対する内容について少なかったように感じました。また、講義1では、生活保護の現場で働いていたので現場の状況を理解した上で生活保護行政について講義をしてくださると思っていましたが、講義を聞いていると現場で行っていることをすべて否定しているような話し方であったため、現場サイドからしては受理概念がないなど考え方を直さなければならないと感じたことと自動車の保有等講師の先生の考え方に共感できない部分もありました。
今回の研修で一番考え方を変えなければならないと感じたのが、「長期入院は人権侵害」という言葉です。今は住所不定を担当しており10年以上精神科病院に入院している被保護者が20人以上おり、こうした被保護者に対しては退院指導も行わず、ずっと入院生活を送らせていました。しかし、このような被保護者に対し、退院指導をするのであれば、退院先の住居確保や契約を誰が行うのかなどの行政としては対応できない問題が生じます。これからは、行政でできることと精神科病院側(PSW)に協力依頼しなければならないことがあることをお互いに認識し協議することにより、長期入院患者の退院を促進できるような支援をしていけるよう努力していかなければならないと感じました。