平成20年度障害者保健福祉推進事業補助金事業(障害者自立支援調査研究プロジェクト)
2009年3月12日(木)、13日(金)、タイム24(東京都江東区)にて、「地域体制整備コーディネータ養成研修」を開催し、89人の方が修了されました。ここでは、修了者の中から地域体制整備コーディネーター、地域体制整備コーディネーターの業務を担う予定者、都道府県事業担当者で今後研修実施予定者の立場で、3人からの報告記事を掲載します。
開講式 | 講義を聞きいる受講者の皆さん | 武田専門官の講義 | 演習の様子 |
財団法人精神障害者社会復帰促進協会(大阪府) 田渕 誠
2000年度に大阪で産声を上げた社会的入院解消研究事業(退院促進支援事業)は、福祉施策が入院医療中心から地域生活への移行へと変遷していくにつれ、事業名もその都度変更していき、2008年度に精神障害者地域移行支援特別対策事業に組み込まれました。当協会では開始当初から大阪府・堺市より事業を受託し、保健所をはじめ病院や地域の関係機関と連携しながら事業を進めていましたが、国モデルとは異なる方法で運営しています。その中で国モデルである地域体制整備コーディネーターの役割を学び、大阪に持ち帰り、知見の幅を広げるために参加させていただきました。
研修会で印象に残ったものとしては、武田氏の言葉でした。ここでは地域体制整備コーディネーターは「地域移行のエンジンになる役割」であるということを感じました。三障害や高齢者の利用できる社会資源まで理解しておくべきだという言葉や、突き詰めると、例えば社協スタッフの誰々はこんなキャラクターだというところまで知っているべきだという言葉に、反省だらけの自分の日々の業務を振り返ることができました。
また、それぞれの講演では実際の入院患者の声を例に挙げ、地域から迎えに行く意味を伝えていただきました。圏域によっては目標数値が先行している地域もあると聞きます。しかし、大阪でこの事業が開始する当初は「Aさんの思いに寄り添うためには」という問題意識から始まっています。「退院したくない」というAさんの思いが不在のまま、事業をシステム的に進められていくことは危惧すべきことだと思います。今後も「地域のエンジンになる役割」である地域体制整備コーディネーターの研修には、「Aさんの思い」というものが不可欠であるし、また実際の業務の中でも意識し続ける必要があると感じます。
大阪は地域移行に関して先進地域と呼ばれることもありますが、初めに声を上げただけで、この事業はAさんの言葉を本当の意味で聴くことができていなかったために産まざるを得なかったものであると、事業実施主体として考えています。その中でAさんの声と病院を含めた地域を誰かがつながないといけない。そこをつなぐ役割が地域体制整備コーディネーターでは。と、重要な役目を引き受けていると、身の引き締まる思いで研修を受講させていただきました。
このような地域移行専門スタッフの研修が全国規模で開催されることは地域移行に向けての機運が高まっている証拠でもあるし、チャンスでないかと感じています。今後も本研修のように全国各地で地域移行を進めるスタッフが集い、現在の取り組みを省みて、それぞれの地域へ共通意識やノウハウを持ち帰れるような研修が継続して必要だと感じます。そして、現在も長く入院しながらもひそかに退院を夢見ているAさんへと、地域の風を届けられるような取り組みになっていけばと思います。
大変有意義な研修会でした。ありがとうございました。
財団法人済誠会 地域活動支援センター アセンドハウス(青森県) 山田 賢幸
自立支援法が施行され、事業所としての業務量が飛躍的に増加していく中で始まった地域移行支援事業に対して私が最初に思ったことは「今までも同じような業務をしているのになぜ今更?」、「各種提出書類を改めて作成することなどによって業務量が増して更に当事者と関わる時間が減るのではないだろうか、今の職員の人員配置で自分の所属する圏域のニーズに応えるだけの業務が出来るのだろうか」という利用者の利益を第一に考えることとは相反する自分自身への疑問でした。事業展開については現時点で利用者はおらず、事業の内容や必要性に疑問を抱くようになったことから研修に参加させていただきました。
研修では、「社会的入院」を解消することを目的として地域移行支援事業があると同時に「社会的入院は権利の侵害である」という意識を持って事業に取組んでいくことが大切であるということについて繰り返し説明していただきました。事業展開のメリットとして「病院に地域移行推進員が入る」→「看護師の考えが変わる」→「主治医の考えに少なからず影響する」→「家族、本人へ影響する」というように、家族は「家族だけで支えなくてもいいんだ」、本人は「自分だけがんばらなくてもいいんだ」ということなど、退院時により安心感を与えることができるほか、関係職員は「利用者をコーディネートしていくことによってより迅速で的確な対応が出来るようになり関係者のネットワークも広がる」ことなど、それぞれの認識が変化していくことを具体的に説明していただきました。
また、演習では他県の現状や課題についてまるで自分の地域であるかのように真剣に検討し合い、互いに熱い想いを感じあうことの出来る場となりました。特に地域移行推進員、地域体制整備コーディネーター、PSWといったそれぞれ違った視点から客観的に物事を捉えつつ違いを検討したり自分自身がどれだけ自分の所属する圏域のことを把握できているか振り返る機会となったことなど、内容の濃い有意義な時間であったと同時に漠然と抱えていた疑問に対して自分なりに納得の出来る答えを得ることが出来ました。
精神障害の分野はまだ歴史が浅く、今まさに自立支援法の改正など精神障害を取り巻く環境が激変しようとしている過渡期であるように感じます。「自由に暮らしたい、好きな物を買いたい、食べたい」という意欲さえも結果的に奪ってしまうことがある社会的入院や、「仕方ないよね」という援助者自ら自分を納得させようとしてきた過去を変えていくことが出来る事業だとわかった今、この研修で得たことを活かしながら病院や行政、地域にどのような働きかけをしていけるかが今後の課題であることを強く感じました。
地域移行支援事業のみならず、専門職として自分が出来ることから一つずつ着実に進め、暮らしやすい地域づくりを目指していきたいと思います。
島根県健康福祉部障害者福祉課 自立支援医療グループ 成相房枝
事業主管課担当者として今年度、地域体制整備コーディネーターを相談支援事業者等に配置するにあたり、参考とすべくこの研修会に参加させていただきました。今回の研修会のキーワードは、私にとっては「自立支援協議会」でした。
昨年度に示された精神障害者地域移行支援特別対策事業実施要綱において、「都道府県自立支援協議会や地域自立支援協議会との連携を図ること」と明記されました。また、障害者自立支援法の見直し案に、相談支援の充実として「自立支援協議会」の法律上の位置づけ等が盛り込まれています。
以上のことを踏まえ、当県においては今年度、地域体制整備コーディネーターの配置にあたり、平成19年度から取り組んできた事業の実施要綱・要領を改正し、自立支援協議会との連携強化の明文化、今後組織体制に自立支援協議会を位置づけることが課題として上がってきています。
そういう視点から、実践報告「岩手県における地域生活移行の取り組みについて:地域生活支援センター久慈 元木澤所長」の発表や講義2「地域体制整備コーディネーターの役割と課題:埼葛北障がい者生活支援センターふれんだむ 岩上洋一氏」のご講義は、先進地における取り組みとして大変参考となりました。
現在、当県における事業の取り組みは、圏域毎に保健所が中心となり、病院や退院支援事業委託事業所、市町村、関係機関とのネットワークを構築していますが、今後は地域自立支援協議会との一体的な取り組み、また地域自立支援協議会への地域移行部会(退院促進部会)の設置等を働きかけていくことの必要性を認識できた研修会でした。
また、グループワークにおいて、全国の様々な関係機関担当者の方と情報交換をすることができましたが、地域体制整備コーディネーターの配置を始め、各県において取り組み状況も様々であることが分かりました。県の状況に応じて主管課を始め、各関係機関が「今、できること」から取り組んでいくことの重要性が認識でき、実り多い研修会でした。ありがとうございました。