厚生労働省「令和6年度依存症民間団体支援事業」(補助金事業)
依存症にかかわる福祉人材の基盤作りのための福祉系大学生及び初任ソーシャルワーカー等を対象とした
「アディクション・オープンゼミナール2024」事業報告書(2025年3月)
公益社団法人日本精神保健福祉士協会 依存症及び関連問題対策推進委員会 編集
報告書
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はじめに
2024年、厚生労働省研究班「市販薬乱用の実態調査」の報告により、市販薬は覚せい剤依存・乱用による受診者よりもずっと多い15〜64歳で約65万人と推計されました。しかも10代の次に多いのは50代で、若者の乱用問題ともいえない状況であることが明確になりました。一方、医薬品医療機器法(薬機法)等の改正案が2025年2月に閣議決定、実現すると一定の条件を満たせば薬剤師がいないコンビニエンスストアでも市販薬が手に入るようになります。手に入りやすい環境と依存症はセットですから、手を打たなければ今後増加していく恐れがあります。違法薬物では大麻について医療化に踏み切り、一方使用罪を新設して厳罰化しています。そしてネット社会とギャンブル問題。ギャンブルは今や賭場まで行かなくても、簡単にオンラインで行える環境にあります。日本は飲めよ賭けよと誘い出し広告がある環境の緩いなか、その一部の薬物とギャンブルをした者を「ダメなものはダメ」と取り締まり、治療や支援の必要性が二の次になっています。アディクション問題とは社会の便利さによる流通と国の施策による規制というイタチの追いかけっこのなか、誰でも生じうる問題なのです。
一方社会には、依存症やアディクション問題が生じてしまう人に対し、これまで個人の性質や要因による個人的疾患であり、しかもなかなかやめようとしないという偏見が長くあります。さらに違法性のある行為は、患者である前に犯罪者としてラベリングされ、回復を阻む二重の偏見を生み出しています。
そうしたアディクションが多様化している社会状況において、10年ほど前から、依存症治療領域では「自己治療仮説」が広まっていきました。背景にある多様なトラウマ、差別、社会からの排除、病気や障害を抱えて生きるうえでの生きづらさを緩和するために薬物などが使われ、アディクションとなっているのではないかという視点です。断つことだけを第一として強いず、共感的目線をもって理解しようという支援姿勢が現場で浸透しつつあります。ソーシャルワーカーにとっては、その人の背景の問題こそ、抑圧された社会状況のなかに生じる課題という本来のソーシャルワークの社会的課題であり、個人支援に終わらず、メゾ・マクロレベルで取り組まなければならないものといえるでしょう。
今回3回目となる厚生労働省補助金事業「アディクション・オープンゼミナール『必見!ソーシャルワーカー物語 学校では教えない依存症支援』」シリーズは「自己治療仮説」を副題としております。今後この問題のキーパーソンワーカーになっている学生たちに、最初からこの視点を持って依存症やアディクションを理解してほしいと願っています。
本事業の取り組みに際しましてご協力をいただきました皆様、令和6年度依存症民間団体支援事業の実施において、格別のご配慮を賜りました厚生労働省・援護局障害保健福祉部長様及び社会・援護局障害保健福祉部精神・保健課依存症対策推進室の皆様に、心からの御礼を申しあげます。
令和7(2025)年3月
公益社団法人日本精神保健福祉士協会
目次
はじめに (山本由紀)
第1部 令和6年度依存症民間団体支援事業の概要
依存症にかかわる福祉人材の基盤作りのための福祉系大学生及び初任ソーシャルワーカー等を対象とした「アディクション・オープンゼミナール2024」事業
- 本事業の目的と取り組みの歩み(山本由紀)
- 事業の実施体制(中島宗幸)
- 事業の概要(中島宗幸)
- 事業責任者等の選任(中島宗幸)
第2部 福祉系大学生及び初任ソーシャルワーカー等を対象とした啓発イベント「アディクション・オープンゼミナール2024」
- 講義「自己治療という視点~生きづらさに耳を傾けるために~」(中島宗幸)
- 当事者物語(岡村真紀・村上幸大)
- ソーシャルワーカー物語<個別事例編>「語りに耳を傾ける」(村上幸大)
- ソーシャルワーカー物語<地域活動編>「助けてを言える社会へ」(白田幸輝)
- 座談会1「物語に添えて~皆さんの問いから考える」(中島宗幸)
- 座談会2「わかち合い・語り合い」(菰口陽明)
- 事業を実施することにより獲得された効果及び効果測定の結果(アンケートへの回答から)(村上幸大)
第3部 おわりに (山本由紀)
ウェブサイト
アディクション・オープンゼミナール2024「必見!ソーシャルワーカー物語 学校では教えない依存症支援~Episode自己治療仮説~」
講義のYouTubeによるオンデマンド配信(視聴期限:2026年3月)等はこちらからご覧いただけます。