厚生労働省「令和5年度依存症民間団体支援事業」(補助金事業)
依存症にかかわる福祉人材の基盤づくりのための福祉系大学生等を対象とした「アディクション・オープンゼミナール2023」事業(2024年3月)
公益社団法人日本精神保健福祉士協会 依存症及び関連問題対策委員会 編集
報告書
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はじめに
2022年度に引き続き2023年度も精神保健福祉士・社会福祉士の養成校に学ぶ学生に向けて、依存症の支援に関心を持ち、依存症の理解と支援の裾野を広げることを目的に、依存症支援の現場で働くソーシャルワーカーが講師となり「アディクション・オープンゼミナール2023『必見!ソーシャルワーカー物語 学校では教えない依存症支援~ Episode家族支援~』」を開催しました。
今年度は、依存症支援における家族支援を焦点に当事者家族の体験談とメッセージも含め、家族が依存症者とともに懸命に生きる愛情と苦悩を学び、その家族にどのように支援者は寄り添い、家族の回復を支援し、依存症者の回復支援と合わせて現場の支援者はどのようなことを考え、依存症者と家族に向き合っているか生の声を伝える機会を企画しました。
福祉系の学生は、依存症のこと深く理解し学ぶ機会は少なく、カリキュラムでも表層的な理解の範囲に留まり、依存症の回復と支援を知る機会は少ない現状があります。福祉系の学生においてもアルコール依存症は意志の問題として捉えられたり、薬物依存に関しては犯罪者としての認知が先行し、依存症者が回復し家族も支援を必要としていることに思い馳せることができないことがあります。また、治療現場では依存症の治療を行う精神科医療機関も限られ、福祉現場では依存症者を支援している機関はさらに少なく、実習で依存症者と出会い、その家族と出会うことは一部の学生に限られています。そうしたことから、依存症の支援の現場をイメージする機会も少ない状況です。
依存症は精神疾患でありながら、病気という認知・理解が進まずに自己責任論として片付けられることが多い傾向があります。アルコール依存、薬物依存においてはさまざまな健康障害により身体を蝕み、死亡することも少なくありません。依存症が疑われる人は、依存症の進行に伴って、社会破綻をきたし、うつや不安傾向が強く、自殺を考えたことや、実際に自殺をしようとした経験がある人も多い傾向があることもわかっています。しかしながら、医療・保健・福祉分野おいても、介入の難しさがあって、支援者の忌避感情は根強くあり、その状況の改善は必要です。
また、依存症は自身の心の傷を自分で治癒しようとした結果の症状であるとする説(自己治療仮説)も考え方として広がってきています。さらに、小児期のさまざまな逆境体験の重なりが不信感や被拒絶感を強め、アルコール依存や薬物依存を深刻化させるという研究もあり、不遇を背負い成長した人が、依存症者になって生活破断や人間関係の破綻をした挙句、『依存症は自己責任論』としてさらに本人や家族を追い詰める社会の構図があると考えています。依存症者がその社会の構図の渦に飲まれ依存症が本人も家族も世代を超えて負の連鎖を生んでいるのであれば、その構図から負の連鎖から抜け出すための支援は必須です。
本協会では、アルコール健康障害対策基本法、薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律、ギャンブル等依存症対策基本法等の法制度の施行に伴う依存症関連問題へ高まる関心を背景に、精神保健福祉士はもとより、すべての領域のソーシャルワーカーにとって依存症支援があたりまえのものとなることを目指し、今後も各種の事業及び活動を継続してまいります。今回のオープンゼミナールも定員を超える申し込みがあり、依存症支援の関心を集めることができました。次世代を担う若者に依存症への理解を深めてもらい、依存症者が回復し家族も回復していくために寄り添う支援ができる人材育成は、社会の要請であり使命であり責務であると考えています。
最後になりましたが、本事業の取り組みに際しまして、「アディクション・オープンゼミナール2023」の開催にご協力いただきました皆様、令和5年度依存症民間団体支援事業の実施において、格別のご配慮を賜りました厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長様及び社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課依存症対策推進室の皆様に、心からの御礼を申しあげます。
令和6(2024)年3月
公益社団法人日本精神保健福祉士協会
目次
はじめに (関口暁雄)
第1部 令和5年度依存症民間団体支援事業の概要
依存症にかかわる福祉人材の基盤づくりのための福祉系大学生等を対象とした「アディクション・オープンゼミナール2023」事業 (小関清之)
- 本事業の目的と取り組み
- 事業の実施体制
- 事業の概要
- 事業責任者等の選任
第2部 福祉系大学生等を対象とした啓発イベント「アディクション・オープンゼミナール2023」
- 趣旨説明「はじめに~アディクション・オープンゼミナール2023~」(小関清之)
- 導入小咄「最初に学ぶべき家族支援エッセンス~ソーシャルワーカー必携お道具箱CRAFT ~」(中島宗幸)
- 基調メッセージ「依存症をめぐる家族支援 キーパーソンか、ケアラーか~教科書には出てこない依存症をめぐる家族支援論~」(山本由紀)
- ソーシャルワーカー物語〈パートナー編〉「家族の勇気ある一歩と共に」(菰口陽明)
- ソーシャルワーカー物語〈子ども編〉「家族支援の大切さ~生きづらい子どもたちが一歩を踏み出すために~」(岡村真紀)
- ソーシャルワーカー物語〈親編〉「依存症を抱える家族 親編~関わり、仲間からの学び~」(白田幸輝)
- 家族の物語(中島宗幸・岡村真紀)
- 演習 参加大学生等と登壇者を含む運営委員とのグループワーク(柏木一惠)
- 事業を実施することにより獲得された効果及び効果測定の結果(アンケートへの回答から)(中島宗幸)
第3部 おわりに (小関清之)
アディクション・オープンゼミナール2023
「必見!ソーシャルワーカー物語 学校では教えない依存症支援~Episode家族支援~」ウェブサイト
https://www.jamhsw.or.jp/a/addiction_open_seminar2023/
講義のYouTubeによるオンデマンド配信(視聴期限:2025年3月)等はこちらからご覧いただけます。