2008/10/06
企画:(社)日本精神保健福祉協会 精神医療委員会
以下、各発表内容の要点を述べる。
大阪府における「社会的入院解消研究事業」(2000年度実施)は過去の調査や研究の結果から、病院と地域の間をつなぐ部分を事業化したものである。社会的入院は人権侵害であることの認識を持つことが、個人の尊厳を守り、人権を擁護することにつながる。また、社会的な条件の整備として、退院して地域で暮らす状況をつくることや地域支援力を高めることにより、社会状況を改善し、社会正義を実現することとなる。そして、社会的入院解消に向けた取り組みは、他ならぬ精神保健福祉士の価値を実現することである。
長期社会的入院者を退院させ地域での生活に向かわせるのに、なくてはならないのは「患者本人のモチベーション」と「住まい」、「サポート体制」である。それぞれの立場の専門職・担当者が日常の中で、患者さん本人の立場に立って「気づく」ことから始まり、長期・社会的入院を続ける事がどういうことなのか、現状を改善するには何が出来るかを考え、職場内だけでなく関係機関や地域の方とお互いの顔が見える関係作りから始め、少しずつ協働する仲間を見つけ、戦略化していこう。それが住宅確保や地域づくりにつながる第一歩となる。個人の熱意がやがてシステムになり、強いものになっていく。政策がそれを後押しする。「常に日常の気づきを忘れず、できることから行動すること」、これが社会的入院解消に向けての結論である。
当院では、4年間に2つの病棟閉鎖を行うという状況の中、多くの患者様の退院に向け関わってきた。「約束が違うじゃないかっ」これは突然病棟閉鎖の手紙を受け取った家族の、そして転院された患者様から聞かれた言葉である。10年を越える入院をされていた患者様に対し、退院して地域で生活していただくという考えを持たず、病院を生活の場として認めて接し続けてきた私たちにも長期入院者を多く生み出してしまった責任がある。今回限られた時間の中で、転院という選択肢しか用意することのできなかった患者様の存在を忘れず、病気が良くなったら退院して家に帰るという当たり前のことをもう一度認識し、患者様がその人らしく地域で支援していくことが、精神保健福祉士のすべきことではないだろうか。
NPO法人たま・あさお精神保健福祉をすすめる会は1995年に設立され、2008年現在、地域活動支援センター3事業所、グループホーム4ユニット27名、地域生活支援センター1事業所を抱えている。川崎市では退院後に単身生活をする人が多い。また、2006年の単身で退院した27名中、川崎市居住支援制度を利用した人が8名いる。小さな実績の積み重ねとして、サテライト型&地域夕食サービスの単身アパート生活者で囲む夕食「あんじょうやりや・ふらっと」や、補助金に頼らない共同生活をする「みかんハウス」、単身生活の難しい知的障害のある人のための「くるみの家」、ヤドカリ方式の体験宿泊事業である「丘の家」といった事業を行っている。
本自主企画が、社会的入院の解消に向けて精神保健福祉士各々が「何をすべきか」を再考察する機会となるよう願うのである。
NPO法人アンガージュマン・よこすかの滝田衛氏、横浜公共職業安定所の橋本京子氏、富士ソフト企画株式会社カウンセラーの佐織壽雄氏、地域活動サポートセンターとらいむPSW藤井要子氏によるシンポジウムを行った。コーディネーターは崎市健康福祉局障害保健福祉部精神保健課/PSW鈴木剛氏にお願いした。
シンポジスト1:橋本 京子氏(横浜公共職業安定所)
H19 年4月から精神障害者が法定雇用率に算定されるようになり、また、生活保護受給者への就労支援も積極的に行われるようになり、ハローワークにおける精神障害者の就労支援が進んでいる。ハローワークの業務の1つは、法律に基づき企業への雇用率達成指導をすることである。H19.6月現在、国の達成率1.55%、神奈川県1.45%、横浜署管内1.53%となっており、徐々に達成率はあがっているが、1.8%という法定雇用率にはまだ達していない。企業の社会的責任、法律遵守の流れから、大企業での障害者雇用は進んでおり、特例子会社の設立も増えてきている。
業務の2つ目は、障害者の就業相談、職業紹介である。特に精神障害では同じ疾病でも症状の出方や状態がそれぞれ違い、精神保健福祉士をはじめとする外部との連携も重要である。ハローワーク内にも障害者支援の各専門家が配置されており、今後、精神障害者就職サポーターの導入が予定されている。
シンポジスト2:滝田 衛氏(NPO法人アンガージュマン・よこすか)
不登校、ニート、引きこもりの人々に対し、社会参加という意味合いでの就労支援を行っている。日本には、年間26万人以上の不登校生徒が存在する。商店街の中で、書店を経営し、農業体験や商店街の活性化活動を通し、働くとはどういうことか、働くことを通し、人生をどう豊かにするのかという命題を抱えながら活動している。
シンポジスト3:藤井 要子氏(地域活動サポートセンターとらいむ/精神保健福祉士)
前進となる作業所で、利用者がいきいき働く姿を見て、働くことで人は元気になっていけるということを実感した。働くために生活習慣が整い、服薬が規則的となり、病気そのものが軽快していった。
H19年より、就労サポートセンターねくすととして、本格的に就労移行事業を始め、就労前講座プログラムで、パソコンや清掃実習、SST、グループワークなどを行っている。その中で、「病識なくして就労なし」と言えるほど、自身の病気を知らないと就労はできないと感じ、病気や自身の状態への理解に重点を置いている。中途障害である精神障害では、今までできたことではなく、現在なにができて何ができないか、どのような病気の特徴があるのかという自分の状況を現実化することがまず前提として必要である。
プログラムには半年ほどの見極め期間が必要だが、それ以上をすぎると居心地よく定着してしまうため、半年を過ぎたころには職場開拓や実習を行っている。また、就職後のフォローも行っている。
シンポジスト4:佐織 壽雄氏(富士ソフト企画株式会社/カウンセラー)
特例子会社富士ソフト企画では、2004年から、今まで65名の精神障害者保健福祉手帳所持者を雇用してきた。また、パソコンを使った事務職に就くための就業促進訓練プログラムを開発し、国の補助を受け、講座を開催している。これは精神障害者に特化した就業プログラムで、実際の就業場面を想定した作業やビジネス文書のやり取り、プレゼンテーション、対人場面のSSTなどの講義を行い、受講生の多くが終了後に就職(富士ソフト企画以外の企業も含む)している。このような職業臨床の現場を事例を通して紹介していただいた。社会とのかかわりから離れ、自己不全間が強くなっている障害者に、社会的なアイデンティティを再構築することをコンセプトとして、支援を行っている。
日本精神保健福祉士協会精神保健福祉委員会では、障害者自立支援法施行後の状況をモニタリングしていく目的で、2007年度「障害者自立支援法による構成員への影響に関する調査」第1次調査を実施しています。同法のモニタリングについては、他の団体や学会が調査を実施しておりますが、本委員会では、現場にいる精神保健福祉士の労働環境の変化や意識の変化に着目し、本調査を実施しました。そのことは間接的に、利用者へのサービスの低下等という形で影響されるものと考えています。
本自主企画では、調査の結果を踏まえ、障害者自立支援法施行後の現場の状況を参加者と話し合い、法律の影響と社会福祉実践として私たちが変えてはならないことについて議論を深め、問題及び課題を明らかにし、参加者と共有すると共に、調査研究の参考にしていきたい。