会長あいさつ

 

 

 本協会は、その前身である日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会の創設から数えて57年を数える専門職団体です。精神保健福祉の向上と精神障害者の社会的復権・権利擁護を目的として全国各地で活動する約12,000人の精神保健福祉士が所属しています。

 「Psychiatric Social Worker」として、多職種や利用者のみなさまからは「PSW」という略称の方が良く知られていた時代もありましたが、1997年の精神保健福祉士法制定に伴い、現在の国家資格名を冠した団体名称に変更し、その後、公的発言力の強化や社会的責任の明確化を主目的として社団法人化、公益社団法人化をして参りました。なお、私は2020年6月に柏木一惠前会長より会長職を引き継ぎました。感染拡大防止のため直接ご挨拶できず恐縮ですが、以後ご指導くださいますようよろしくお願い申し上げます。

 さて、長引くコロナ禍の影響により、人びとのメンタルヘルスの安定や増進は本邦のみならず世界的に大きな関心事となっています。おりしも本協会は、昨年の総会で本協会名の英語表記の一部について、長年親しんだ「Psychiatric」を「Mental Health」へと変更いたしました。私が大学を卒業して神奈川県の民間精神科病院に「PSW」として採用されたのは平成のバブル期で、「メンタルヘルス」を口にするのは限られた人でした。それから10年後、精神保健福祉士の国家資格創設時も、国の目標は約1万人の有資格者を生み出すこととされていました。その後、病院中心から地域生活中心へという国の政策転換や、少子高齢社会の進展と平成の大不況及び多発する大規模自然災害など社会情勢の変化に伴い、人びとのメンタルヘルス課題への対応ニーズは増幅し、また精神障害者の権利擁護や地域生活支援の充実とともに共生社会の実現が求められるようになりました。

 本協会の構成員をはじめとして精神保健福祉士の職場は、当初想定された精神医療や障害者福祉をはじめ、学校教育、司法、産業など多様な領域に拡大し、メンタルヘルス課題への対応から精神障害者の社会的復権や権利擁護まで幅広い機能の発揮が期待され、役割を与えられるに至っています。この間、本協会ではソーシャルワーカーの全国組織としての地の利を活かし、実践知の集積によるさまざまな政策提言を行い、また提言を実行できるだけの専門的資質を担保するために研修企画や研鑽ツールの開発を行って参りました。さらに、現在9万人にのぼる精神保健福祉士登録者がこうした本協会の機能を十分に活用できるよう、入会者数の増大や都道府県・近隣地区同士の連携強化などに組織的に取り組んでおります。

 そのような折に発生した新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちの心身両面に大きなインパクトを与え、人びとの「健康」に対する意識を様変わりさせつつあると考えられます。病気にならず障害を負わずに健康であり続けることは、多くの人に共通する願いであると思われます。しかし、生身の人間が病いや衰えに抗しきれるものではないこともまた事実です。そして、私たちが日々接する利用者・クラインエントのなかには、いわゆる精神科治療や障害者福祉の対象とはならないものの、心の不調や不安を抱えて生活に支障を来し、人の助けや温もりを求める方が増えています。現代社会においてメンタルヘルス対策は必須となっていますが、そのことのみを目的化せず、心の安寧や精神的健康の増進のうえで、その人が求める幸せな暮らしを実現できますよう、私たちはソーシャルワークを展開したいと考えています。

 なお、精神障害のある人びとも地域住民として包括的な支援を受けることのできるシステムの整備や、必要な方へ適切に精神医療を届けることをはじめ、長期入院者の退院促進や精神障害者の権利擁護と地域生活支援の充実は、重要かつ積年の課題として精神保健医療福祉に関連する多職種、多団体のみなさまとも共有できるものと確信します。本協会では、政策提言や資質向上のための一層の組織的な展開を目指し、今年中に本協会としての精神保健医療福祉の将来ビジョンを掲げ、中長期計画を策定する予定です。ぜひとも本協会へのご意見やご要望など、率直にお聞かせくださいますようよろしくお願いいたします。

公益社団法人日本精神保健福祉士協会
会長 田村 綾子

(2021年1月28日掲載)


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