お知らせ

<2023/09/12>

【ご報告】第4回メディア連携セミナー「取材・報道のやりがいと悩み」 開催レポート(2023年9月9日開催)

メディア連携委員 山田 奈緒(東京都支部)

 「取材・報道のやりがいと悩み」をテーマにしたセミナーが2023年9月9日(土)夜、Zoomを利用したオンラインで開かれました。メディア連携委員会の企画・運営で、構成員向けのセミナーであるとともに、メディア関係者にも参加を呼びかけました。メディア関係者と交流する企画としては3回目です。テレビ、新聞社、通信社の記者と構成員、計37人が参加しました。

 話題提供者は、新たにメディア連携委員に加わったNHK大阪放送局ディレクターの持丸彰子さん、東京新聞特別報道部記者の木原育子さんの2人。それぞれに取材体験を踏まえて自身のやりがいや悩みを語っていただき、その後は小部屋に分かれて参加者が感想や意見を出し合いました。精神保健福祉士として働く現場からメディア側に素朴な疑問や提案が投げかけられ、自由な雰囲気で学び合う場となりました。

現状を可視化する難しさ

 NHKの持丸さんは現在、Eテレの「バリバラ」などを手がけています。構成員の多くも驚きを持って視聴した「ドキュメント精神科病院× 新型コロナ」、滝山病院の実態を暴いた「ルポ 死亡退院」も制作しました。3年ほど精神医療の分野の取材を続けており、そのきっかけは新型コロナウイルスの流行。コロナのしわよせを受けている現場の1つとして精神科病院の取材を始めたそうです。

 取材を申し込んだ病院の多くから断られる中、「最も貧困な医療を受けている人たちが、ろくなケアを受けないまま放置されている。行政は指導するが救援はしない」という実態を知らせるべく、都立松沢病院の院長が取材を受諾。持丸さんは病院に何度も通い、番組にまとめたそうです。社会的入院、合併症治療の難しさ、本人の意思を尊重する難しさ等々、さまざまな課題が凝縮された現場を知ったことが、精神医療の取材を続ける原動力になっているようでした。

 番組を世に出すまでにぶつかる「現状を可視化して問題提起する難しさ」も具体的に紹介してくださいました。取材が入ることへの病院の拒否感や、当事者に接触するハードルの高さについての説明を聞き、自分が取材を依頼されたら、もしくは取材してほしいと思ったらどうするのか、考えを巡らせた参加者は多かったと思います。持丸さんは、専門職の守秘義務、立場の弱い雇用関係等などを踏まえ、取材協力者が安心できる環境をどう整えるかを常に考えているとのことでした。

事件と福祉は表裏一体

 東京新聞の木原さんは今年7月、日本精神科病院協会の山崎学会長のインタビューを記事にしました。山崎会長の独特の語り口とともに記された内容のインパクトは強く、大きな反響がありました。SNSでは山崎会長を擁護する意見が多かったようで、そのような意見を可視化できたことは、記事にした収穫であったと感じているそうです。

 木原さんが精神医療、福祉に関心をもったきっかけは事件取材。座間事件や目黒区の児童虐待死事件など大きく報じられた事件から、不起訴になるような注目されない事件まで、いろいろな事件に接するなかで、福祉や医療につながるべき人がつながっていれば、起きなかった事件が多いと感じたそうです。「事件と福祉は表裏一体」「福祉を知りたい」と考え、福祉の資格を取得しました。

 報道のやりがい、意義については「社会の問題や矛盾を読者と一緒に考えたい。そのきっかけを提供すること」と語りました。電通社員の過労自殺の報道が働き方改革を進めたり、高齢ドライバーが起こした池袋の母子死亡交通事故の報道で免許の自主返納が促進されたり、という具体例に、構成員は「報道の意義」を実感しやすかったと思います。

 また、持丸さん同様、個人情報の壁を悩みとして挙げました。事実に少しでも正確に迫りたい記者としての思いと、秘密保持を大切にする福祉の立場の考えの間で揺れているとのことでした。

専門職がメディアと連携するための課題は…

 全体質疑では、構成員がメディアと情報を共有して精神医療を良い方向に変えていくにあたり、個人情報の取り扱いや守秘義務を巡る悩みの声が複数あがりました。病院で長く働いた方は「病院の内情が可視化されないと変わっていかないとわかっているし、中から変えていかなければいけないと思ってはいるが、外から投げかけてもらった方が呼応しやすい」と話しました。ただ、連携の思いがある一方、情報の取り扱いについての不安もあるようです。今後のメディア連携委員会で考えていくべき課題となる声を数多く聞くことができるセミナーでした。

以上


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